苦の次が楽とは限らない
人生というのうまくいかないものだとスラヴは思っていた。
しかし、これほどまでとは思っていなかった。
「Gruuu,Gruu」
(くそ、なんで魔物が道をふさいでるんだよ)
スラヴが行こうとする道を大きな狼のような魔物が遮るように寝そべっていた。
気持ちよさそうに寝ている魔物にスラヴは悪態をつく。
祝福を受けた人たちなら襲われても問題ないが、エンダのスラヴにとっては大きな脅威となるため避けるしかない。
しかし、魔物を避けようと通ろうとするなら大きく道を迂回しなければならない。
迂回すると言ことは違う魔物に会う可能性が高くなる。
(立ち止まっていてもしょうがねぇ、迂回するしかねぇな)
思い立ったらすぐに行動する。それが彼が路地裏生活で学んだ数少ないことだ。
念のためナイフを片手に道から外れ慎重に歩き始める。
違う魔物が出てきたら終わりの状態にスラヴ心臓はバクバクと激しく鳴り、全身から嫌な汗があふれ出る。
(大丈夫、今は夜だアイツみたく寝ているやつのほうが多いはず)
自分に言い聞かせるように何度も同じことを考える。
そんな張り詰めた状態がしばらく続き、半分も過ぎあと少しといったところまできた。
(あと少しだ、あと少し)
終わりが見え少し気を抜いてしまったことが大きなあだとなった。
「うわっ」
足元にあった石に気づかずつまづき転んでしまった。
全身に痛みが広がるがそんなことを気にしている余裕はなかった。
スラヴはすぐに魔物ほう見ると魔物がスラヴに気づき戦闘態勢に入っていた。
「Gruuuuuu」
先ほどまでの寝顔をとは違い牙をむき出しにし恐ろしい表情を見せていた。
スラヴは心の中で自分に悪態をつきながら逃げるために走り出した。
しかし、相手は魔物はだエンダであるスラヴが逃げ切れるはずはなく最後の悪あがきでしかない。
「GAaaaa」
「くそくそくそくそくそなんで俺がこんな目に合うんだよ」
必死に逃げるがすぐに追いつかれ、魔物に体当たりをくらいスラヴは飛ばされた。
さらに追い打ちで前足でスラヴは魔物に押さえつけられた。
「ぐあぅ」
魔物の体重が乗り情けない声が自然と出る。
(くそ、こんなところで終わりかよ)
抵抗するが魔物の足は微動だにしない。
魔物が口をあけてスラヴを食べようとしたとき、
「Gyan」
目の前でいきなり魔物が吹き飛ばされた。
何が起こったかわからないがとりあえず起き上がるとそこには横たわる魔物と大きな斧を持った女が立っていた。
女は斧を振りかざすと魔物の首を両断した。
女は魔物の血しぶきを浴びたが気にしていない様子だった。
「大丈夫?」
こちらを見ないまま女が聞いてきた。
しかし、スラヴは今起こったことが処理できず呆然としていた。
返事がないことに変に思ったのか振り返りスラヴに近づいてきた。
「ねぇ、聞いている?大丈夫?怪我無い?」
「大丈夫」
「そう、それならよかった。それしても大変だったねー。ほら手を貸すよ」
女は笑顔で手を差し出してスラヴは素直につかみ引っ張られるように立ち上がった。
女は一言で表すなら白だった。長い白髪に白い目をしており服装も白を基調としていた。
ただ、服や肌には先ほどの魔物の血がべったりくっついている。
年齢は20歳ほどだろうか。
「ねぇ君?名前なんて言うの?」
女が名前を聞いてきた。
助けてもらったこともありスラヴは素直に答えた。
「…スラヴ」
「そっかースラヴ君かよろしくねー。あ、私の名前はクラシーだよ」
血がついた笑顔でクラシーは言い、左手を差し出し握手を求めてきた。
スラヴはそれを無視して質問した。
「あんた誰?俺を助けてくれたけど」
「んー?クラシーだよ。さっき言ったじゃん」
「そうじゃなくてナニモンだって聞いてんだよ。こんな夜中に普通外を出歩かないだろ」
「それはお互い様でしょスラヴ君だって出歩いてじゃん。それに君みたいな私よりも君ほうがよっぽど不自然だ。見たところほかに仲間がいるわけでもなさそうだし、襲われていたところを見ると力に自信があるわけでもない。年齢だって12,3歳ほどにしか見えない。そんな子供がいたら私よりよっぽど不自然でしょ」
「それは、」
何か言い返そうとしたがスラヴは何も言い返せかった。
「まぁ、深堀りはしないよ。人にはいろんな事情があるってものさ。ところでスラヴ君はどこに行く途中だったの?」
「…ノーサス」
拗ねたようにスラヴは言った。
「んー、ごめんねー少し意地悪だったかなー。そうかそうか、それにしてもノーサスかー。いやー奇遇だなー私もノーサスに向かっている最中なんだよなー。よかったらさ一緒に行かない?どう?」
「は?いきなりなんだよ。どうしてそうなるんだよ」
いきなりの提案にスラヴは悪態をつく。
スラヴにとっては助かる提案だが、クラシーにとってメリットが一つもなく怪しく感じる。
「えー君にとってもそっちのほうがよくなーい?だってまた魔物に襲われるかもしれないんだよ?君一人で大丈夫?」
「ぐっ」
「別にお金は目的じゃいよ。ただ君を見殺しにしたらさ目覚めが悪いし、何より私の信念がそんなこと許さない。だからさ一緒に行こ?」
スラヴはクラシーのぐいぐいと迫る態度と自分へのメリットを考えたクラシーの案に乗ることにした。
「わかった、ノーサスまで一緒に行ってやるよ」
「ありがと、それじゃよろしくねスラヴ君」
またくらしーは笑顔で握手を求め左手を差し出してきた。
「……」
スラヴは仕方なくその握手に応じた。
クラシーはさらに嬉しそうな顔をした。
おねショタもつけるべきか?