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夏のシリウス  作者: 捺嬉
7/7

夏の大三角と、シリウス。

「おせぇぞー!」


しゅんちゃんが俺に向かって手を振る。球場には、もうみんな揃っていた。


「ごっ、ごめん。」


俺は近くに自転車を停めて、小走りでみんなのもとへ向かった。急いできたため、汗でじめじめするし、息がきれている。


「よし、みんな揃ったし、入るとするか!」

「でもしゅんちゃん、入り口、鍵が掛かっとるよ。」

「あーん?んなもん、関係ねぇよ。登りゃいい!」


不安そうな有川瑞樹を、しゅんちゃんはお構いなしに、封鎖された入り口の門を登って見せる。


「ほら、入れただろ!」

「…不法侵入だな。」


宙が言うと、有川瑞樹の顔が青ざめた。


「や、やっぱりよくないんじゃ…」


なんだ、こいつ。ビビってんのか?


「ふほーしんにゅーってなんだ?そんなことより、お前らも早く来いや!」


しゅんちゃんに続き、俺と宙も門をよじ登り、中へ侵入する。


「えっ、ちょ。みんな」


有川瑞樹が泣きそうな声を出す。そういや、こいつ、ガキの頃は小心者だったっけ。


「待ってよ…。はる〜…」


なんで俺なんだよ。できればあんまり関わりたくないんだが。

だが、うるうるとした目で見つめられた俺には拒否権がない。


「ん。」


俺は右手を差し出した。有川瑞樹は、俺の腕ごと掴んで、俺はそれを引っ張る。思ったより、ひょいっと軽くいけた。こいつ、ガキの頃華奢だったんだな…。今では細マッチョのくせに。


「ありがとう、はる。」


少し安心したような笑顔で言ってくる。なんとなく気まずい俺は、目を逸らした。




俺たちは、球場の客席の1番上の座席に座った。今日、俺たちがここですることは-



「「「「すごい」」」」


上を見上げると、幾千の星がキラキラ輝いている。そう、星の観察に俺たちはここまでやってきた。今日は快晴なのと、田舎の山の中なのもあり、天の川もはっきり見ることができる。東京には無い空だ。


「おお、晴れてて良かったな!バナナも濡れずに済んだし。」

「なんでバナナの心配…天気の心配して」


呆れた顔で宙が言う。


「お、そうやな!今日星を見に来たんやよな!」

「僕、双眼鏡持ってきたよ。」

「流石、瑞樹!やるやんけ!」


しゅんちゃんに褒められて嬉しかったのか、有川瑞樹は俺の方を向いて、にへっと笑った顔を見せた。俺はガキの頃、よくこいつに懐かれていた。幼稚園から一緒だったせいかもしれないが、何をするにしても、俺のことを真似してきたり、機嫌をうかがってきたり、俺についてきたり。当時は俺もまんざらでもなかったが、今は違う。どうせ、お前も俺を裏切る。結婚もそうだし、"あのこと"だって-。



「瑞樹、星、詳しい?」


宙の声でハッと我に帰った。


「え。うん、少しは。」

「なら、名前教えてや。星とか、星座とか。」


宙にそう言われ、少し得意そうな顔を浮かべた。有川瑞樹は、立ち上がりながら双眼鏡を覗く。


「あの、星の川みたいな天の川のところに、よく光ってる星が三つあるやん。一つがデネブって言って、その星も含めて、十字架っぽい形になっとるのがはくちょう座。それで、あっちの星はアルタイル。そこにあるのがわし座。」


宙としゅんちゃんは、へぇー、とかって、頷きながら、有川瑞樹の指す方を見つめている。

双眼鏡は、3人で交代しながら使っていた。


「はるも、見なよ。」


はい。と、有川瑞樹に渡されたが、断った。そう…。と、少ししょんぼりしている。…ちょっと、悪かったかな。



「それで、最後の星は…」


饒舌だった口がぴたっと止まった。


「忘れちゃった。あの、繋がっとる星座はこと座って言うんやけど…」


頭をぽりぽりかきながら、苦笑いを浮かべる。


「俺、知っとるぞ。シリウス。シリウスや。」


しゅんちゃんが目を輝かせ、鼻の穴を膨らませながら叫んだ。


「なんでお前が知っとるん」


宙が聞く。


「理科の教科書に書いてあったんや。今のって、夏の大三角ってやつやろ?なら、間違いない。俺、この目で見た。」

「そう言われてみれば、シリウスやった気がしてきた。」

「やろ!?でも、シリウスって変な名前やな。尻が薄いみたいな。半透明のけつってことか?」


しゅんちゃんはそう言いながら、けつをプリプリと振って見せた。俺たちはそれを見て爆笑した。


「お腹痛い。」


ヒーッと腹を抱える宙。


「半透明のお尻って。涙出てきた。」


笑い泣きをする有川瑞樹。


「だって、変な名前やん。」


俺たちを見て、しゅんちゃんも嬉しそうにガハハと笑う。


…こんなに心から、たわいもないことで笑ったのはいつぶりだろう。俺は、大人であることをすっかり忘れて、心地よい感情に身を委ねていた。


ずっと、夏休みが続けばいいのに。



幾千の星の輝きをみんなで見ていると、怖いものや、敵わないものなんか無いと思えた。

俺たちになにがあっても、この星空は変わらないんだ。そして、俺たちも変わることがない。

星が輝く夜空に包まれながら、なんの根拠もないのに、本気でそんなことを思っていた-。





☆.。.:*・゜


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