友達。
「…なんだ、夢か。」
俺は自分の手に目をやり、納得していた。
そう、あれは夢。でなければ、説明がつかない。
だが、とても鮮明…いや、リアルすぎた。なぜなら、今日は---
「…しちがつ、にじゅういちにち…」
俺が見ていた夢は、七月二十日。つまり、昨日の夢を見ていた。しかも、夢を見ていた時は混乱していたのと、状況把握で必死になって気づかなかったが、こうして落ち着いて思い出してみると。ガキの頃の記憶とめちゃくちゃデジャヴがある。
まあ、リアルな夢なんて珍しくない。昔の思い出の夢も珍しくないはずだ。そんな話もよく耳にするもんな。それより、俺がガキの頃にタイムスリップするなんて方が説明がつかないし、意味不明すぎる。
「あっ!やべっ!バイト!」
俺は慌てて飛び起き、充電中のスマホを操作する。
「…あ、今日、休みじゃん…。」
安心したと共に、寝汗で身体がベタベタしている事に気付く。現在pm12:30。俺はシャワーを浴びて、近くのコンビニに足を運ぶ事にした。
今日は夏日だ。少し外を歩くだけで、フライパンの上で焼かれているウィンナーの気持ちになる。
「さっきシャワー浴びたのに。気持ち悪りぃな。」
ボソッと誰にも聞こえないような声量で文句を言う。暑さにイライラしながら足を進め、コンビニで昼食を購入し、家のポストの前まで着いた。
ポストを開けると、中からドサドサッ、と、チラシやらなんやら落ちてきた。
「…入れすぎだ、馬鹿。」
入れすぎ、というよりかは、俺が確認しなさすぎである。中から出てきたものから、要らないものは近くにあるゴミ箱に捨て、軽い断捨離をしていた。
「…ん?有川…?」
そこには、幼馴染みの、有川瑞樹から送られてきた封筒がある。そして、瑞樹の名前の隣に、見覚えのない女の名前があった。
まさか、と思い、俺は部屋にも戻らず、その場で中身を見る。
「うぇでぃんぐ…。けっこん、します…。」
俺の嫌な予感は的中した。それは、結婚式の招待状だった。
同級生や昔の友達が何人か結婚しているのは知っていたが、まさか、お前までもか。
瑞樹は顔も整っており、某有名私立大卒のエリートでモテていたが、浮いた話もなく、俺はそんな瑞樹に、いつのまにか変な仲間意識を持っていた。俺がこの歳で彼女がいなくっても、結婚していなくても、俺に非があるわけじゃない。俺は瑞樹と一緒で、"選ぶ立場だから"と。
決して、28歳で結婚していないことは遅いことではないが、周りがどんどん結婚をしていく中、高校を卒業してから、一度も彼女が出来ない焦る自分にそう言い聞かせていた。
俺は、勝手に自分に言い聞かせ、瑞樹に仲間意識を抱いていたくせに、瑞樹に裏切られたような気がして、腹が立ち、その場で招待状を破り捨てた。
「どうせ、すぐ離婚すんだろ。離婚する奴にくれてやる金なんてねーよ。」
俺はポスト付近にあるゴミ箱を蹴飛ばし、一階の自分の部屋に帰った。
飯を食ったり、動画を見たりしていると、あっという間に夜になった。俺はいつものように有名人の粗探しに必死だ。
「いんすた◯らむ?あー、今流行りのね。こいつもしょうもねぇミーハーだなぁ。みんなと同じことしてないと死んじゃいますぅ>_<ってか。」
俺はインスタ◯ラムやツ◯ッターというものは一切使っていない。高校の時は使っていた。当時、俺の仲良しグループの何人かが、俺たちを誘いもせず、同じクラスの女子と遊んでいる写真を投稿しているのを見てから、毛嫌いするようになった。
「今日も何もしなかったな。…休みの日は何にもしないに限るよな!あーあ、明日からのバイト、だっる。行きたくねぇなー。」
俺は布団の上で大の字にのびながら、かすれた声で言った。
「…俺、何のために上京してきたんだっけ。ってか、何のために生きてるんだ…。死んでも、親に迷惑かかんなきゃ、とっくのとうに死んでるよなぁ。」
天井に向かって呟く。
「っと、目覚ましセット。」
スマホの目覚ましをオンにした俺は、電気を消して眠りに落ちた。
---ぱちっ。
珍しく俺は、目覚ましに頼ることなく自分で起きた。目の前の光景はなんと、…俺の実家だった。
「はぁ。またかよ。」
二度目となると、もう流石に驚かない。しっかり声も戻ってやがる。にしても、本当にリアルだな、この夢。ガキの頃に本当にタイムスリップしてるみたいだ。
夢ってことは、また思い出か?なんで二度もこんな思い出の夢ばかり見るんだ?
その日の俺は何故だか、少し心を躍らせていた。まるで、友達との約束がある日のように。