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ミュゼリット王国の転生者

異世界転生騎士と逆行転生聖女のボランティア活動

作者: 美都さほ

ミュゼリット王国の転生者シリーズ 

《漆黒の闇に囚われし者よ、我が呼びかけにこたえよ。蘇れ、フェニックス!》


………中二病?


次の瞬間、暖かな光に包まれ俺の身体が熱を帯びる。切り裂かれた傷は癒え失われた血液が全身に巡っていく感覚に驚く。痛みは消え呼吸が楽になる。


「これで大丈夫かな」


呟かれた声に微かに目を開ける。亜麻色の髪の少女が青く透き通った目で俺の腹部を見ていた。此処は天国か?俺はまた死んだのか?

天使が居るとするならばきっと彼女だろう。死んだ俺を迎えに来たのかな?


「天使様…」


俺の声に身を震わせた少女が立ち上がり逃げて行く。

そう言えば、一度目は迎えに来てくれなかったな…ぼんやりとした思考で起き上がり逃げ出した少女の後ろ姿を目で追う。


「待って下さい、天使様!俺はこの後どうしたら…」


振り返った少女は怯えたような顔で言葉を投げかけた…いや、違う。

投げつけたのだ。


《ひれ伏せ愚民!我に近寄るな!》


身体を圧し潰されそうな突然の圧力に……ひれ伏しました。



俺の名前はバートン。アティテル侯爵家の三男坊だ。ミュゼリット王国の王都シュバンで産声をあげ末っ子として甘やかされて育った。

そして、十歳になったある日…長い廊下を走っていたら使用人とぶつかり転倒、頭を強打…その衝撃で前世の記憶が俺の頭に流れ込んできた。

あーこれ知ってる!所謂、異世界転生だな。おそらく死因は交通事故…覚えて無いけど異世界転生者の八割は交通事故だから間違いないだろう。

俺はどんなチートスキルを持って生まれてきたんだと当時は喜んだものだ。


この世界には魔物が存在する。千年に一度、何処からともなく禍々しい瘴気が発生し動物達をのみ込んで魔物に変えてしまうのだ。偶に人も魔人化する。それが五年前の出来事。よくあるパターンで瘴気発生と共に生まれる勇者と聖女。全国民対象の魔力検査で魔力量が多い者が選ばれる。勇者は魔物を討伐、聖女は瘴気を浄化し世界の平和を守るのだ。うんうん。ファンタジーの王道だね。その他一般人は剣の腕を磨くか、詠唱魔法を覚えるかの二択で魔物と対峙するんだ。


そしてこの俺!転生者特有のチートな能力…は全く無く、有り余る魔力…も無く、ごく普通の男です。はい。剣を持たせても普通です。つえーーく無いです。


三男坊として全く期待されず育った俺でも一応プライドは有ります!これでも末端の騎士です。騎士として手柄をたて勲章が欲しいです。いっそ爵位が欲しい。

そんな俺にチャンスが訪れました。


『東の森に凶暴な魔人と魔物出現。討伐した者には褒美が出る』


騎士団長から発せられた言葉に団員達が吠えています。勿論俺も、ウオー!

褒美を貰って愛しのミアンナ嬢とデートを…いや、求婚したい!

ミアンナ嬢はドーウィン伯爵の一人娘で金髪碧眼美少女!婿になりたい。

黒髪黒目の元日本人の俺にとって永遠の憧れ。あっ今の俺は一応プラチナブロンドの髪と翡翠色の目を持っていますけど…何か?


実はミアンナ嬢…聖女に選ばれたんだよね~。それまでは『バートンさま~』って頻繁に話し掛けられていたけど…くそ勇者の出現でそっちにベッタリ。俺より平凡な顔だし、俺より身長低いし、愛想無いし…。でも、めちゃ強いし優しそうだし、おまけにこの討伐が終わると領地と爵位が与えられるんだって!

悔しいが負けは認める。


討伐には勇者、ミアンナ嬢、俺の所属する王都第二騎士団が赴く。勇者は王宮より聖剣が貸与され鬼に金棒状態。ミアンナ嬢は詠唱浄化魔法…これがあまり得意じゃないようだ。何で選ばれた?顔だな。騎士団の連中は剣と詠唱魔法。俺は詠唱魔法が嫌で剣のみ。魔法少女みたいな台詞言えません。

東の森まで馬車で三日。討伐が終わるまで近くの町に滞在予定だ。


「勇者さま~、ディナーでもご一緒しませんこと?」

「俺、金持って無い」

「大丈夫ですわ。バートンさまが出してくださいます」


おっと、財布認定されました。喜んで!

俺達は近くの酒場にディナー?を食べに入った。


「バートンは何歳なんだ?」

「十八ですよ?勇者様はおいくつなんです?」

「俺は十七だ」


年下かよ!落ち着いてるな!これからは『さん』付けしろ!敬語で喋れ!


「勇者さま~わたくし酔ったみたいです~」

「果実水しか飲んでないだろ?」

「わたくしの部屋まで連れて行ってくださいまし~」

「バートンに任せるよ」

「酔いが醒めました~」


おい!色々突っ込みたいが此処は大人な対応で…必殺、苦笑い。


夜が明け、俺達は森へ入った。

鬱蒼と生い茂った草木、薄く霧がかかり見通しが悪い。彼方此方から聞こえる鳥や動物の鳴き声が不気味な雰囲気を醸し出していた。所々黒い瘴気も発生しているようだ。ミアンナ嬢出番です。

情報によると狼系の魔物が数匹とブッファロー系の魔物が一匹、そして妖艶な女の魔人が目撃されたそうだ。妖艶な魔人…会ってみたい。


「何だか怖いですわ。勇者さま~わたくしを守って下さいましね」

「バートンが守ってくれる」


勇者…丸投げですか?喜んで!未だに『さん』付け無しの敬語無しです。近頃の若い奴はこれだから…。


「勇者様、此方に何かが通った跡があります。あっ、此処に毛が…」

「狼の毛みたいだな」

「魔物の物でしょうか?」


警戒しながら慎重に前に進む。暫くすると血の匂いがした。バリバリと咀嚼音が聞こえる。居た、狼の魔物だ。馬より大きな身体、むき出した牙、鋭い爪、眉間には一本の角が生えていた。

すぐさま魔物を囲む陣形を取り、音をたてないように進む。


「今だ!」


聖剣を握り締めた勇者が魔物に切りかかる。

ザシュッ!聖剣が魔物の首を切り落とす。カッケー!


「お見事です」

「流石ですわ、勇者さま~!」

「油断するな!仲間が近くに居るかもしれない」


勇者の言葉は正しかった。五匹の狼の魔物が一斉に襲い掛かってきたのだ。

騎士団の一部が詠唱魔法で反撃している。


《トワイライト・ミラージュ・ラビリンス》

《サクリファイス・インフェルノ・ジャッジメント》


聞こえましたか?詠唱アレですよ?恥ずかしくて唱えられません。そんなこんなで三匹の魔物は討伐出来ました。


「いやーー!!勇者さま~怖い~!!」

「おい、離れろ!戦えないだろ!」


ミアンナ嬢が勇者にしがみ付いている。くそ羨ましい!そこへ一匹の魔物が!

俺は咄嗟にミアンナ嬢と勇者の前に飛び出した。魔物の牙が俺の脇腹を食いちぎる。うん、痛い。俺はお返しとばかりに魔物の脇腹に剣をグサリ!

マズい…仕留め損ねた。魔物がお怒りになってます。

身を屈めて突進して来た魔物の角が俺の腹に食い込み、そのまま連れ去られました。意識が朦朧とする中、必死に魔物の背に剣を突き刺しとどめを刺す。

倒れた拍子に角が腹から外れた。ドクドクと流れる血を見て、死を覚悟し俺の意識は失われた。

そして冒頭へと戻る。



「苦しい…です。魔法…止めて下さい」


涙目で懇願すると、ハッとした少女が手を下ろす。途端、俺に掛かっていた圧力が無くなった。ふう…圧死するかと思った。だが、次の瞬間…。


《愚かなる人間よ、我が聖地を汚した罰だ!混沌たる地で彷徨うがよい》


気付けば其処は森の入り口でした。……瞬間移動?



「バートンが生きて戻ってホッとしたよ~」


コイツは騎士仲間のトニー、脳筋野郎だ。コイツも何気にミアンナ嬢を狙っている。ホッとした…だと?白々しい、ライバルが減らずに残念だったな!


「魔物にやられた傷はどうした?奇麗に治っているな」

「ああ…傷はたいした事が無かったから回復魔法で何とかな」

「腹を角で突き刺されたのにか?」


勇者が疑いの目で声を掛けてきた。侮れない奴め!

しかし此処で本当の事を言う訳にはいかない。何故ならあの少女はおそらく妖艶の魔人。手柄を横取りされて堪るか!


「はい。実は咄嗟に角を手で握ったので深くは刺さらなかったのですよ」


本当は背中まで貫通してたけどね。棒読み?何の事かな?


「しかし、多少血を流し過ぎたせいで貧血気味なので暫く休暇を頂きたいのですが…」


団長の許可を得、宿に戻る。さてさて、どうやってあのクソ強い魔人を倒すか?

あそこまでレベルの高い魔法を掛けられたのは初めてだった。

中二病炸裂の詠唱魔法…まさか魔族⁉魔王降臨か⁉

いやいやいや!この世界に魔王はいない筈。騎士学校の歴史でそう習った。


何で俺を助けてくれたんだろう?傷は深かった。放置していたら死んでいた。


魔人とは意思疎通が出来ない。瘴気にのみ込まれた時点でソイツは死んだと思って間違いない。現に魔人は人間を襲い殺戮を繰り返す。

『愚かなる人間よ』

少女はそう言った…だから魔人と思ったのだが…。


いずれにせよ、もう一度少女に会う必要がある。じっくり観察して答えを見付けよう。俺は何故かワクワクした気持ちで床に就いたのだった。



翌朝、一行が森に入るのを見届けて深いフードで顔を隠し宿を出た。

森に入ると昨日より瘴気が少なくなっていた。ミアンナ嬢、頑張ったんだね。

俺は昨日倒れていた場所を探し森の奥へと入って行った。


「腹減ったなぁ」


空腹を覚え切り株に腰を下ろし飯屋で購入した弁当を広げた。視線の先にある小川が太陽の光でキラキラと反射して眩しい。目を細め弁当に視線を戻すと豚肉のソテーに大きな虫が噛り付いていた。


「うわ~気持ち悪い虫だな…魔物か~?」


俺は虫の羽をむんずと掴み持ち上げた。

…顔が有る。手足が有る。肉掴んでる。ムシャムシャ食ってる。俺固まる。


「止めて!殺さないで!」


悲痛な叫び声で正気を取り戻した俺は、目の前で涙ぐむ少女を見て目を見開いた。


「昨日の…」

「その子を殺しては駄目!」

「はい。殺しませんけど」

「……本当に?」

「貴女に呪われそうですから」

「呪いませんよ!」


俺は奇妙な虫を放すと少女を観察した。少し癖のあるフワフワの髪、潤んだ大きな瞳、頬を膨らませキュッと口を結んでいる。手足は細く長く白く、緑のワンピースに茶色のブーツを履いていた。迷彩色か?

数匹の奇妙な虫が少女のまわりを飛んでいる。俺はバツが悪そうに頭を掻き少女に話し掛けた。


「昨日は助けて頂きありがとうございました」

「えっ?ああ、昨日の…元気になったみたいですね」


驚いた顔がパッと笑顔になる。矢張りこの少女は天使だ。魔人なんかじゃ無い!


「貴女は天使様なんでしょう?」

「……?人間ですけど」

「……?あり得ません」

「……?昨日、頭打ちました?」

『エアリは人間だよ。聖女だよ』


虫が喋った!つか、今なんつった⁉


『僕達は精霊だよ』

『エアリは一人で浄化してるんだよ』

『僕達はエアリを守っているんだよ』

『エアリは転生者だよ』

『僕達が時を巻き戻したんだよ』


最後、ぶっこんで来た!


「貴女は転生者なのですか?」

「どうして…それを…?」

「この精霊達が言ってますよね?」

「この子達が言ってる言葉が分かるんですか⁉」

「貴女が聖女だって言ってますよ」

「キャ――!忘れて下さい!!!」

「……何故?」


エアリの話によると、彼女以外には精霊の姿が蝶に見えるらしい。勿論、言葉も聞こえない。此処に来て転生者特典が発揮されたのか?俺。

エアリは一回目の人生で聖女に選ばれ討伐の途中で命を落とした。可哀想に思った精霊達が時間を戻し、死んだ魂を幼いエアリと統合させたらしい。

再びエアリとなったエアリは混乱した。『もう、聖女にはなりたくない!』その日の内に家を飛び出し西の森の魔法使いの弟子になったとか。


「聖女になりたくないのに浄化しているのは何故?」

「聖女として王家に目を付けられるのが嫌なんです」

「えっ?名誉な事じゃ無いの?褒美たくさん貰えるし」

「前世は貰う前に死にました」

「あっ…すまない」


どうやらエアリは過労死だったみたいだ。昼は休む暇も無く討伐に駆り出され、夜は夜で男に迫られ逃げるのに必死で眠る余裕がなかったらしい。精霊が同情するのも分かるな。


「精霊たちの余計なお世話で同じ人生を歩まなければいけなくなったんですけど、浄化する事自体は苦では無いので、のんびりと浄化の旅をしています。都合よく偽聖女もいますし」


成る程、転生したらスローライフのパターンか。それにしても…可愛い顔して辛辣だな。


「ところで…何故貴方は精霊の姿が見えるのですか?」

「恐らくですけど…転生者特典じゃ無いですかね?」

「転生者特典?」

「俺も転生者なんですよ。違う世界からの」

「私もそっちが良かった」


止めてあげて!精霊泣きそうだよ?


その後三日程で森の浄化を終わった。その間俺はエアリと精霊の弁当を持って浄化の手伝いをした。途中、バッファロー系魔物に遭遇して二人で倒した。

俺は剣でエアリは…。


《終焉の時が来た、その魂ごと地獄の業火で焼かれるがいい》


炎系の攻撃魔法でした。


「待ってください。俺も浄化の旅に連れて行ってください。これでも騎士です、貴女を魔物から守って差し上げます」

「かえって足手まといです」

「同じ転生者じゃないですか、一緒に旅しましょう」

「お断りです」

「何故です?」

「貴方のその目…夜な夜な襲ってきた男達と同じ目をしています」


バレてた~!

そうなんです。すっかり惚れてしまってます。容姿もさることながら命の恩人で頑張り屋で本音を隠さず言ってのける潔さ。惚れるに決まっている!断られたって諦めません!ミアンナ?既に過去の人!


「気の所為です」

『バートンから欲望が感じられる』

「精霊、お口チャック」

『バートンから一途な感情が感じられる』

「それは愛です」

「それでは、お元気で」


立ち去ろうとするエアリの手首を掴み引き寄せる。顔を近付け真正面から見据える。これでもイケメンの部類にギリ入る、君も俺に惚れなさい。


《ひれ伏せ愚民、我に近寄るな》

「グァハッ!」


ひれ伏している間にエアリの姿は消えていた。



それから俺は騎士を辞め家を出て西の森の魔法使いの弟子になった。

師匠曰く…『アンタ魔力がダダ洩れしているわよ?』どうやら特典は精霊が見えるだけじゃ無かったみたいだ。前世を思い出したあの日、魔力を留める膜が破けていたらしい。師匠の見解では勇者以上の魔力だそうだ。俺、つえーーかった。


「師匠って日本人でしょう?」

「もしかして君も?」

「あの詠唱はナイわ~」

「言うな…私の黒歴史」


魔法を行使する詠唱は本来不要なもの。要はイメージ出来れば発動するのだ。元日本人の俺はオタクでなくてもアニメやゲームに慣れ親しんでいた。イメージがわきやすいのだ。


「エアリによろしく~」

「エアリとの子供が出来たら連れてくるよ」

「それ、今世の話よね?」



そして半年、俺は冒険者になりエアリを探して瘴気が立ち込める場所を旅していた。


「聖女様、お供いたしますよ」

「ゲッ!」

「ゲッて…酷くないか?」


その嫌そうな顔…可愛いから許す。


《ひれ伏せ愚民…》

《惚れたんだ、エアリ》


エアリの攻撃魔法が俺の防御魔法で霧散する。


《愚かなる人間よ…》

《愛しているよ、エアリ》


何回やっても同じだよ?もう逃がさない。


『バートンから強い魔力を感じるよ』

『エアリより強いよ』

「うそ…」

「俺をお供にしてくれるよね?」


はぁ~と深い溜息を吐いたエアリが俺を睨んでくる。その顔も可愛い。


「私と居ても褒美は貰えませんよ?」

「必要無い。貴女と二人、一生食べていける金は有る」

「分かりました…お弁当係に任命します」

「喜んで!」


それから俺達は無償で浄化と討伐の旅を続けた。


「この森で終わりですね」

「もっとエアリと旅がしたかった」

「子育てが終われば…お供してください」

「………えっ?えっ!えーー!!」

「そこは喜んで!でしょう?」


「幸せにします…俺だけの聖女様」


スローライフでボランティア活動。その活動ももう直ぐ終わりそうです。


読んで頂きありがとうございます。

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