不可思議探偵ファイル「行方不明者の居場所は異世界だった。」
あらゆる人々が挑んだ難問をたやすく解決してしまう探偵たちがいた。
そして人々は彼らをこう呼んだ。『不可思議探偵』と
「というわけで連絡がつかないので捜索をお願いします。」
今回の依頼者はマンションのオーナーであり、3か月前から家賃の未払いがある借主の部屋を幾度も訪ねては留守だったため、マスターキーで部屋に入ったところ家具など生活用品はそのままで、夜逃げしたようにも見えず、しかし借主は肉親がいない、会社も無欠勤と全く連絡が取れず困っている。という依頼内容であった。
依頼者が帰った後、探偵社のメンバーで作戦会議というより気が抜けた井戸端会議のようなものが開かれた。
「ヒトシ、一応だが調べてもらえるか?」
とショウゴ、このメンバーのリーダーであり、依頼者との応対も担当している。
「OK!」
と軽い返事をしたヒトシが『千里眼』で借主の部屋を見る。
彼らが『不可思議探偵』と呼ばれるのには所属するメンバー全員がそれぞれ人知を超えた能力であらゆる依頼を解決していくからだ。しかしその能力のことを信じるものはごくわずかであるため『不可思議』などと言われている。
そしてヒトシが調べた結果は次の通りだ。
借主はいつも使う通勤時の持ち物、服装しか持ち出していない。
電気、水道、ガス、の口座引き落とし額の通知は借主が行方不明となる前のものは借主がきちんと保管してある。
食材や調味料は最低限しか置いていないが、賞味期限が切れたまま放置されているものがある。
「ならシンヤ、ヒトシと過去視でリンクさせて行方不明になったときの状況を把握してくれ。」
とショウゴが言うと
「わかった」
とキリっとしたシンヤが返事をするとすぐに結果を言った。
「会社帰りの交差点で消えた。」
他のメンバーもやはりといった顔をしている。
「その部署全員の残業をこの借主が行っていたようだ。だがタイムカードは定時で切るようになっている。」
シンヤからの情報に対して
「オレの『未来予知』を使わなくても仕事押し付けてきた分、その部署が機能しなくなるのも容易に想像できるな。」
『未来予知』の能力を持つリョウタがあきれた表情で言った。
「最近こういうので失踪したケースの依頼多いな…」
と言ったショウゴが次に続けた言葉に4人とも同じ言葉を口にした。
「「「「異世界転移。」」」」
この世界では千年以上も人々は魔王率いる魔族たちの脅威にさらされていた。
多くの人々が魔王に立ち向かっていったが人では勝てる相手ではなかった。
そこに現れた神の加護を得た『勇者』と呼ばれる存在が魔王を倒…
そうとしていたところに突如魔王の頭上から人のようなものが落ちてきた。
「だぁもう!!ショウゴ!空間を操る能力はコントロールが難しいからって毎回変なところに落とすなよ。取れそうで取れないクレーンゲームってか!?」
と理解不明な怒り方をしながら落ちてきたものは起き上がった。
「…えっと、どちら様ですか?」
と魔王に立ち向かっていたパーティの中で最も軽装備な若者が話しかけた。
「戦闘中のところ失礼します。探偵社の保村ケイトと申します。」
とケイトと名乗ったものは若者に名刺を渡した。
「え?探偵?」
若者は驚く。
「勇者様!離れてください。魔族の眷属かもしれません。」
と顔もいかつく、重装備の男が斧をケイトに向けた。
「というか探偵ってどういうこと?魔王倒すのって殺人事件になるの!?というか、こーぉんなにファンタジーって世界に探偵っておかしくないか!?世界観統一しろよ!!」
と若者改め勇者が叫んだ。
「こっちとて探している人がファンタジーな異世界に行ったから同じファンタジーな異世界に飛ばされただけですよ!魔王が人間なら殺人でしょうが、この世界の法律は知りませんよ!探偵=殺人事件解決ではないんです!ほとんど行方不明者の捜索や浮気調査ですからね!」
とケイトが応答する。
「俺を…探していただと?」
勇者は呆然とする。
「こちらの世界ででも後ろにいる見た目からしてキモチワルイのと戦わなきゃなんないとか大変だったとは思いますが、あなたの元いた世界でもあなたは失踪という扱いですからね、ウチみたいなみょうちくりんな探偵に捜索願が来たわけですよ。」
ケイトが説明をする。
「自分でみょうちくりんとか言っちゃうんだ。」
勇者は冷静につっこんだ。
「おのれ、勇者、隠し玉を持っていたとは不覚を取った。」
と頭にケイトがぶつかってきたため、伸びていた魔王が起き上がった。
「あ、ちょうど3分間たった。お湯入れとけばカップ麺できてたな。」
「ラーメンタイマーかよ!」
ケイトに勇者がツッコミを入れる。
「戦闘中で悪いけど勇者さんの今後にかかわることだから正座して待っといて。」
とケイトが言うと魔王は正座した。
「何!?動けない!キサマ何をした!!?」
魔王が叫ぶ。
「話聞くときは、お口はチャック、手はおひざ。」
とまたケイトが言うと魔王の口が閉じ、手は膝に動いた。魔王は自分の意思で動かそうと、もがいているようだがビクともしなかった。
「俺は物体の位置を移動させたり、固定させたりできる能力、念力とか念動力とか言われる能力を持っていてな。それ使っただけだよ。」
ケイトは今いる世界最大の脅威の存在の前にして何事でもないように説明した。
「魔王に通じる能力が勇者様以外にいるとは…」
勇者のパーティにいたいかにも賢者といった風貌の男が口にした。
「誤解しないでください。あのキモチワルイのを倒せるのは『勇者』さんだけです。俺は鳥もちみたいにねばぁ~っと張り付けて動けなくしたようなものって言って若い方に理解していただけますかね?」
ケイトは説明に悩んでた。
「あの…要するに……簡易的な…封印であり……解かれるのも容易………ということで…しょうか………」
大きい杖を持った気が弱そうな女が言った。
「そのように理解していただければこちらとてありがたいです。本題に移らせていただきますと『勇者』様は元の世界では行方不明ということになっていますが、実際はこちらの世界であのキモチワルイを倒すために呼ばれました。そうですね。」
とケイトがいう。
「(魔王をただのキモチワルイで話進めるのか!)」
と勇者は声には出さないツッコミをした。
「はい、魔王は千年以上も(略)倒すべく(略)賢者たちが(略)勇者様をお呼びし、(略)たのです。」
略した部分の賢者の話はほぼ自慢話だったのでケイトは要点だけ聞いた。
「ではキモチワルイを倒した後『勇者』様の処遇はどうなのですか?」
ケイトは勇者の仲間に問いただした。
「それは魔王を倒せるかにもよるのではないか、処遇は国王陛下のお考えが重要である。」
と斧を持ったいかつい男が言った。
「異世界から勝手に呼び出しときながら、さらにこのキモチワルイを倒せる状況の今『勇者』様がキモチワルイを倒せない場合があるというのですね。」
ケイトは冷ややかに言う。
「何が言いたいんだ!貴様!」
いかつい男の叫びが響く。
「『勇者』とあがめときながらキモチワルイ退治用の便利道具扱いだということだ!」
ケイトはつられて叫んだ。
「便利、道具…」
勇者は愕然とし、地にへたれこんでしまった。
「いけません。私のような優秀な賢者をもってしてでも異世界と繋げることは難しいのです。たやすく異世界から来たとか嘘抜かす輩の言葉など耳を貸す必要などありません。」
と賢者の男が言った。
「ケイトです。ごめんなさいばあ様。怒り狂ったショウゴは俺たちでも収めるのがやっとで俺まだそちらに行けそうにないためにああごめんなさいありがとうございます。」
異世界に来たのはケイトだけだが、ケイトが耳に着けていた通信機によってこの異世界のことは他のメンバーにも聞こえるようになっていた。つまりケイトを異世界に送るのに苦労した空間を操る能力のショウゴを賢者の男は間接的ながら罵ったこととなる。そして
「たやすくやってねえ!!自身を優秀とか言っておきながら魔王への攻撃は全て外れてて自分への回復にしか技使ってねえじゃねえか!パーティの回復に対しても仲間には安価な回復薬をいくつも使って自分だけ無駄に高級回復薬使ったり装備品も効果が高いものより値段が高いもの選んでいたりしていることはシンヤの過去視でわかってんだ!パーティに入った理由だって―――」
と能力の反動で体は動かせないが口が回りに回って止まらないショウゴを探偵社の最高責任者である通称「ばあ様」が止めに来てくれた。という通信をケイトは行っていた。
「昔からだ。父さん、母さん、兄ちゃんを助けられなかったから。頼もしいとか、頼りになるとか言われるのが嬉しかったんだ。けど面倒事を押し付けるのに便利に扱われるだけで、自分を認めてくれるわけじゃなかった。どこにも居場所はなかった。この世界に来て、強い力を持って本当に認めてくれて、居場所が見つかったと思ったけど、結局便利だったから。」
勇者と呼ばれた若者は言った。
「そんなことありません!」
いきなり魔法使いの女が大声で叫んだ。
「わ、私は、強い魔法使いの血筋の生まれなのに、簡単な魔法も使えなくて、弟や妹たちに先越されて、村でもひとりぼっちだったけど、勇者様が励ましてくれたから、応援してくれたから、どんどん魔法が使えるようになって、魔法を好きになれました。だから勇者様に恩返しをしようって、怖かったけど魔王退治のパーティに入ったんです。私に勇気をくれた勇者様はあなたです。」
魔法使いの女は涙をぽたっぽたっと流しながら言った。
「勇者様はお強いがそれを驕ることなくどのような方にも分け隔てなく接していらっしゃった。兵士として敵を倒すことが強さと思っていた私に誰かを守るために戦う強さを教えてくださった勇者様はあなたです。」
いかつい男が少し柔らかな表情で言った。
「ご家族の交通事故については3歳児であったあなたに全員を救いだせという方が無茶です。…ああそうだったな、言いたいことがあるなら言っておいた方がいいよ。」
とケイトが言うと
「私も父の後国王の座についてから孤独であった。いつ誰に殺されるかわからない毎日で、本当は対等な認めあえる仲間が欲しかったのだ。千年以上も経ってしまって本当の自分の気持ちを忘れてしまっていた。勇者よ。独りとはあまりにも寂しく、虚しい。自分を大切にしてくれる仲間がいることを忘れるな。」
魔王と呼ばれていたものはキモチワルイ見た目ではなく、凛とした佇まいの者へと変わっていた。
「わだかまりから解放されてよかったな、三代目国王。」
とケイトが呼ぶ。
「三代目国王だと!?」
いかつい男が驚く。
「そんなにすごい方なのか!?」
と勇者はたずねた。
「建国してからも、各地で紛争が、絶えなかった、この世界から、紛争をおわらせたとされ、『英雄王』と呼ばれた国王…」
魔法使いの女が言った。
「その呼び名も久しい、だがこれからはお前たちの力でこの国を、世界を豊かにしていってくれ。」
と言い残し、英雄王は光となり、日の光の一部となった。
「魔王は消えたけどこの世界に残るよ。生活に困っている地域の支援とかもしたいし、それに自分を大切に思ってくれる人がいるから。」
と勇者と呼ばれていた若者は言った。
「了解。元いた世界に関しての色々な手続きは探偵社の仲間がほとんどやっておいてくれたから心配もいらないよ。」
ケイトは伝えた。
「ただいま。」
とケイトが探偵社の事務所に戻ると
「おかえり、あの後色んな意味で大変だったようだね。」
とリョウタが聞いてきた。
「魔王の正体が実は元国王だったと知った。現国王が
『魔王が実はあの英雄王ってマジ?え~だったらチョー会ってみたかったしー、ていうか英雄王マジリスペクト的ななんスけど』
とかいっていつもは厳格な国王がこっちの世界の若者言葉みたいにしゃべりだして王子が目を見開いていた。昔なじみの大臣とかからするなら元々の性格がそういう方だとか。」
とケイトは話した。
「立派なひげを蓄えた口から『マジリスペクト』って言葉出るの面白すぎ。」
リョウタは口を押えながら笑った。
「なあ、あのナルシスト自称賢者は?」
とショウゴがやはり気になって聞いてきたため
「千年以上戦っていた魔族自体が、こっちで言う先祖の霊みたいなもので、実際その自称賢者の一族が供養に当たるのを手抜きしていたらしく、特に自称賢者は歴代国王の墓を掘り返しては金品を盗んでいたらしい。魔王自体があらわれたのもそいつが王の墓に埋葬されていた金で出来たお守りを溶かして延べ棒にして売り飛ばしていたから元国王の魂が魔王に変わってしまったってことだったようだよ。自称賢者は精神異常をきたして檻にいれられたって。」
ケイトは返答した。
「パーティに入った理由がそいつだけ出世目的だと過去視でわかっていたから賢者じゃないと思ったけど、それどころじゃない失礼で罰当たりな愚か者だったのか。」
とショウゴは納得した。
「そっちのほうであのマンションのオーナーや勤めていた会社はどうなったよ。」
と今度はケイトが聞いた。
「オーナーはまずギャンブルで金なくなったらマスターキーで留守の部屋から金品を盗んだ窃盗罪、家賃の割に合わない値上げとあのマンション自体建築法違反で、さらに元上司と手を組んで違法商売をやっていた。そして元上司はその売り上げで取引先にわいろとして渡して、さらに取引先も違法行為と結構簡単に証拠がどんどん出てきているようだよ。ウチらの知り合いのサツから『連絡ありがとう』って皮肉った電話が来た。」
とシンヤが淡々と説明した。
「わー、おしわよせにー。」
ケイトは口もとだけの笑いをした。
前まで荒れ果てた大地に生き生きとした緑が覆っていた。
「見て見て、こんなに採れたよ。」
小さい子どもが大人に採れたての野菜を見せる。
「お!たくさんあるな。えらいぞ。」
と大人は子どもの頭を撫でる。
「街に引っ越していった村の人たちも戻ってきてるし、今日はちょっとした収穫祭をしよう。」
「わーい!おまつり、おまつり!」
すべてを包み込むような青空からは日の光が優しく照らしていた。