第16話 アズール魔導館
アズール魔導館に行けば……何とかなると思ってた。イフリート、リヴァイアサン……そして、雷の神獣さん、剣聖ガルパトスさん……、私はそれがどんだけ甘いか現実で知る事になったんだ。
森を抜けると業炎が目の前に広がっていた、もう、異変とかのレベルではなく“災害”だ、良くニュースでやる大きな工場とかの火災現場、その倍以上に目の前は炎に包まれてて……私は産まれて初めて大火災を目の当たりにしたんだ。
圧倒されて言葉も出なくて……只……燃え滾る炎を見つめていた。何を燃やしてるのかも解らないぐらい炎だけが目の前にあったんだ。
でも、ギェェッ! と、気味悪い鳴き声が空の上でアチラコチラから聞こえた。真っ暗な空の上で飛び回る黒い影たち……、私はそれらが炎を放つのを見たーー。
もう大火災の地上に口から黒い炎の火炎放射を放ったんだ。
「飛翠っ!!」
私は隣の飛翠の手を掴んだ。 あ? と、振り向く彼に言った。
「見て! アイツら私を橋から突き飛ばした奴に似てる! あの黒い“龍”みたいなやつ!!」
そう、私は地上に黒い火炎放射放ってる怪鳥を見て思い出したのだ。ササライ鉱山の吊橋からバンジージャンプさせられた事を。 あ。と、飛翠が目を見開く。
「似てんな。」
ボソッと言った。私はそれを聞いて滅茶苦茶思考回路がフル回転! 名探偵コナ○君ビックリぐらいに。
(待って。てことは………私達はずっと狙われていて……でもそれは……ティア王女とかではなくて……、シーラさんの言う……“闇魔石”が絡んでたりするの? じゃあ……私達が倒さなきゃいけないのは……イレーネ王だけじゃない。ってこと?)
「アレは何ですか……?」
それはシロくんの声だった。けれども、直ぐに先導していてくれたシーラさんが言った。
「だから言ったじゃねーか、“闇魔石の化身”だ。」
「えっ!?」
私だけではない。皆が驚いていた。シーラさんはふぅ。と、息を吐いたんだ。
「あ〜……解りやすく言うと“闇魔石”の実体。この地に散らばってる石の生命体。」
私は最早……ア然。闇魔石≒龍みたいな怪鳥ってこと??
と、思ってるとシーラさんが
「アイツらは一部な? お前、何か顔に出やすくて助かるキャラだな。」
と、私を見て言ったんだ。
「は??」
キャラって何!?
「で。アズール魔導館……。」
シーラさんは大火災の背後をくいっ。と、親指で指し
「崩壊なんだわ。」
涼し気に言った。
「は??」
私はビックリして聞き返した。ネフェルさんですら言葉が出ないみたいだった。シーラさんはミントブルーの頭を軽く掻くと ん〜……
「間に合わなかったみたいだな、うん。まー、コレも人間の運命だし、ここから救えば? 救いたいなら。」
と……さらりと言ったんだ。え? この人って……何?? と、私が思ってると意外にも勝手に答えが解ったんだ。
シーラさんの周りにふわり、ふわりと碧の光纏った小さなお人形みたいな8等身のそれはそれは綺麗なドール達が現れた。いや、実際ドールではないんですが……、そう見えるんですよね。
「え? 何……」
ですか? と、聞こうとしたらシロくんが叫んだ。
「“精霊”です! 初めて見ました!!」
と。 え? 精霊?? 私はシーラさんに目を向けると、彼の周りに8等身のドール達が碧の光眩かせてふわり、ふわり、纏わりついてる。
「シーラ殿……貴方は……」
ネフェルさんがそう言うとシーラさんは、ふんっ。と、バカにした様に笑った。
「“風の精霊の王”シーラ。」
その言葉に………誰もが……言葉を失っていた。けれども、シーラさんは はぁ。と、溜息ついた。
「だからって俺は悪いけど何もしねーよ? ココに来たのもあのじーさんの顛末見たいだけだし、人間と関わるつもりねーんで。」
ピシャリと何か遮断された………、何も言ってないのに。
けれども……我等のチーム番長&舎弟コンビが痺れ切らし……怒鳴ったんだ。
「あぁっ!? 間に合わなかっただとっ!? お前知ってたのか!?」
ハウザーさんです。
「だったら最初っから魔導館に飛ばせやっ! 何でこんな外れた森に連れて来たんだ!?」
グリードさんです。
シーラさんは銀色のロッド右肩に乗せて溜息ついた。
「あ〜……じーさんとの“最後の約束”なんで。」
彼はそう言うと私を見たんだ。更にすっ。と、その銀色のロッドを向けた。
「お前。」
「え?」
私はビックリした、ロッドで指名されたので。
「あのじーさん、ティアも大事だけど、お前も大事なんだと。良かったな? モテモテじゃん。貧相な胸してんのに。」
「あ"!?」
思わず睨んでいた。ぷっ。と、隣で飛翠が吹き出した。
「オイ!」
ぎろり。と、睨むと さーせん。と、笑いながら飛翠は言った。ま。と、シーラさんはロッドを右肩に乗せて私を見た。
「どーするよ? 行く? 崩壊したアズール魔導館。」
淡々と言う彼に私は即辺だった。
「行きますよ! 行くでしょ!」
応えるとシーラさんは あっそ。と、溜息ついた。
「行っても絶望だけどな。俺には関係ないけど。」
そう言うとくるり。と、前を向きすたすたと碧色の風の精霊を纏わせながら歩き出したんだ。
(な……なんなの?? この圧倒的他人事な感じ、初めてなんですけど………。)
この世界で初めて出逢った人格で私は驚くしかなかった。
▷▷▷
森を抜けた先に“アズール魔導館”はある、いや、あった。と言う表現が正解かも。今は只……炎に囲まれた災害地でしかなかった。建物と言う建物は、崩壊していて黒炎と紅炎に包まれてしまっていてどんな建築物だったのかすら解らない。ただ、炎に包まれた街でその上空を黒い大きな怪鳥が飛び交い キエェッ! と、気味悪い鳴き声が響く。でも、奴等はその口から黒炎を吐きまくってこれでもかと、炎に囲まれた街を燃やしていた。
逃げ惑う人達の悲鳴がアッチコッチから聞こえていて、大混乱の中に私達は踏み入ってしまったんだ。
「な……なんなの? ねぇ? コレ……何かの撮影??」
私は隣の飛翠の腕を掴んだ。
「あ? リアルだろ。」
「は? こんな……大火災の街なんか映画しか観たことないよ!」
現実とは到底思えない世界に私はフィクションの世界に入り込んだと思っていた。でも、解ってた。現実だって。燃える建物の側で真っ黒焦げの人間が転がっていたから。それも1人、2人じゃなくて……沢山……でも、言うしかなかった……恐くて。
「ネフェル、アズール魔導館はこの先だったよな?」
ハウザーさんの声に私は振り返った。え? と。私と飛翠の後ろに彼は居る。
「ええ、アレですよ。アズール魔導館。」
ネフェルさんは炎に包まれた街の高台を指差したんだ。高いタワーみたいな建物は紅炎と黒炎に包まれていた。私達の居る場所から離れているけど、周りが平坦だからハッキリとその塔は見える。でも……倒壊したんだ。
「ちょ………! 崩れたけど!?」
私は塔が炎に焼かれ倒壊するのを見て思わず声にしていた、こんな……建物倒壊とかリアルで観たことない。そりゃ……動画とかテレビとかでは観たことあるけど……実際に目の前でタワー倒壊って……見ないでしょ!
でも、その倒壊した塔の下辺りから眩い光が放たれたんだ。それはその塔に向かって飛んでいった真っ黒な怪鳥達に向けられたものだった。
黒い怪鳥達はその光にぶつかると身体を仰け反らしてひっくり返り地面に落下したんだ。
「今の何??」
私はその光景に思わず叫んだ。ふん。と、少し前に居るシーラさんが、ロッド右肩に乗せて トントンとしながら鼻で笑った。
「死に損ないのじーさんだろ、腐っても“大魔導師ゼクセン”だからな。」
私はその言葉を聞いてぎゅっ。と、ロッド握った。ここ迄……あの詐欺師ゼクセンさんにはガチで騙されまくってきた。でも。
「飛翠! 行こう! 助けなきゃ!」
私は飛翠に言ってたんだ。彼はとても驚いていたけど、フッ……と、優しげに笑ってくれた。
「お前……胸も成長すればいーのにな?」
「大きなお世話じゃっ!!」
私達は……崩壊した魔導館に向かったんだ。