第7話 大魔導師ゼクセン
私達は、銀色の長い髪。
腰元まで揺らし白いローブを着た老師の後を歩いていた。
“イシュタリア”と言う世界に始めて来た時に、投げ出された森だ。不思議だ。あれから時は流れてるのに、新緑の木々も小鳥の囀りも穏やかな陽射しすらも変わらない。
私の住む世界では季節が変われば自然も変わる。太陽の照らし具合も、木々の葉の色も変化する。でもここは、あの日、訪れた時から何ら変わらない。爽やかな5月ぐらいの気候だ。
「俺らはここにいるけど……“ガルパトス”とかどうなったんだ? それに、あの“グローム”ってやつは?」
蒼い毛をした狼みたいな顔をした犬獣人族のグリードさんは、隣を歩く飛翠に聞いた。私はシロくんと手を繋ぎながら、その後ろを歩いていたが、気になってしまった。
紫の流れる髪をした……“ザ格闘技”な筋肉マッチョな男の人だった。
でも、雷の支配者、それになんか格闘技チックな技と雷魔法を混合させて戦う人だった。
武闘派と魔法が混じったなんか、、、会ったこと無い人だなぁ?
と、思ったが
いやいや、人じゃない! あれは神獣だ。
「入りなさい。」
ぞろぞろと辿り着いたのは丸太小屋。
そう、私と飛翠がこの世界に来た時に連れて来られた小屋だ。
私は小屋の前の空き地みたいな場所を見つめた。
そう、ここで、審判の心って名前の鉄パイプみたいなロッドを貰った。
飛翠は、“勇敢な心”って言う大剣を貰ったんだ。
それに、“魔石”も。
懐かしかった。まるで、自分の家に帰って来たみたいに。あの頃が遠く感じる。
▷▷▷
「ゼクセン殿……、“ティア王女“は……何があったのです? それに……」
明るい陽射しの入る小屋だ。
こじんまりとした小屋だけど、相変わらず暖炉とかある。こうやって大人数で来ても狭いと思わない。ネフェルさんと私と飛翠は、ゼクセンさん、シロくんと対面で6人掛けのダイニングテーブルに腰掛けてる。私達の後ろには柔らかなファーの敷いてあるソファー。
そこに、グリードさんとハウザーさんは座っていた。
ネフェルさんは私と飛翠を見たのだ。
「申し訳ないが……“似てない”。」
ネフェルさんは目を閉じてそう言ったのだ。
「は??」
私はネフェルさんに目を向けた。
だが、ネフェルさんは涼し気な顔で私を見るとハッキリと言った。
「高貴な風格をしてる飛翠くんは似ている、“シェイド様”と何ら変わりがない。手配書が回るのも納得がいく。だが………」
ネフェルさんはそう言うと、私をじろじろと見たのだ。座ってる私の頭の先からその視える範囲の、胸元まで。
そして、唸った。
う〜ん。と。
「似てない。全くの別人だ。」
と、そう言ったのだった。
「は?? なんかすっごいイラッとするんですけど??」
似てないと言われればそれまでだ。だがどうだ!! これはまるで
“お前なんかが足元にも及ばねーよ。”と、言われている様な気分になったのだ。
「でも、似てませんよ? ゼクセン様。」
そう言ったのはシロくんだった。
私の対面にいるシロくんは、真っ直ぐと私を見つめた。
「蒼華姉様は優しい顔をしています。あの手配書の綺麗な人は……、キツそうです。雰囲気とかは似てますがあれは蒼華姉様ではありません。」
そう言ったのだ。
「つーか、お前あんなに美人じゃねーだろ。」
そう言ったのは飛翠だった。
「は??」
私はーー、流石にブチッときた。なので、横の飛翠を睨んだ。
「お前はコロコロ変わる。あんな澄まして何考えてんのかわかんねー女じゃねー。」
飛翠は軽く頭を掻きながらそう言った。
えっと……褒められてます??
え?? それともブサイク言われてます??
私がそんな事を思っていた時だ。
銀色の髪をしたゼクセンさんは、
「最初に……、“身代わり”を仕立てよ。と、申して来たのはイレーネ王だ。」
と、重い口を開いた。
「え??」
私とーー、飛翠は目を丸くした。うん。きっと彼もそうだろう。
「ワシが……、お主らの世界に行っていたのは、イレーネ王からの命令だ。ワシは追放されたのでも何でもない。」
ゼクセンさんはーー、私と飛翠を真っ直ぐと見つめた。
「“イレーネ王”が、王妃“フレア様”を殺してしまったのが全てのーー、始まりだったのだ。」
ゼクセンさんはハッキリとそう言った。
「え? 待って……、ちょっと待って……、だって王女様が殺したことになってて、私達は似てるから追われてるんだよね??」
私はゼクセンさんを見つめた。
「前に……言ったと思うが、あの“手配書”は、イシュタリアの“魔導師”が作ったものだ。お前さんらの容姿を写すのは簡単だ。ワシの“投影”で可能だ。」
ゼクセンさんの声に……、私は目を見開く。
「え?? どーゆうこと??」
「ワシの記憶にあるお前さんらを映写する。更に、セピアの手配書にしたのは、ティア王女はあの様に光り輝く金色の髪だからだ。それに、あの瞳の色も、美しい金色だ。」
ゼクセンさんは更に続けた。
口を挟む人がいなかった。
「そなたと被ればバレてしまう。本当は……、この世界にお主らが来た時点で、都合良く罪を被せ殺すつもりだった。だが、ワシはそなたらのお陰で力が戻ったのも本当だ。」
ゼクセンさんは私と飛翠を見据えた。
「更に……“カルデラ”だ。本来ならカルデラはあの時、飛翠くんを“殺す”役目だった。だが、イレーネ王とお前達の会話を聞き、彼は飛翠くんを殺さずに気絶させた。」
あ!
確かに!
イレーネ王の所で、私達は捕まった。
でも助けてくれたのは、ゼクセンさんとカルデラさんだ!
「逃亡生活を虐げられても、あの者はお主らから離れなかった。ラウルもそうだ。更に、ここにいる誰もが。」
ゼクセンさんは私達を強く見据えた。
「ワシは……賭けてみようと思ったのだ。罪を被せ罪人身代わりにする筈の人間たちの……“底知れぬ力”に。」
私達はーー、老師の声をただ聞いていた。