第5話 神獣バハムート
「イフリート!?」
私は眼の前でまるで粉屑の様に跡形もなく消えてしまった、あの野獣を見ていた。
いや、何されても死なない……、そんな風に見えていた奴だ。
そう、私は紅炎の神獣から魔法を伝承する為に、とてつもない死闘を繰り広げたのだ。
それなのに、それなのにーー。
「所詮……“下等神獣”などそんなもの、貴女には何もわかってない、この世界は力が全てなのよ。」
ティア王女様とご対面したのは、初だ。けれど私は、“メンヘラ”ですか?? と、ツッコミたくなった。今も金色のロッドを、天に掲げ、彼女は叫んだ。
「“バハムート”!!」
と。
その声にネフェルさんと、ハウザーさん、そしてグリードさん、シロくんは、私の周りに集まった。
「え?? なんなの??」
余りにも仰々しいその様子に、私は驚いてしまった。だが、彼女が掲げたロッドの先、天空が暗雲込め円描き……雲間から、その巨大な神獣は姿を現したのだ。
え?? ここ室内だよね?? なんで空??
神獣とはーー、その力で空間も変えてしまうの!?
「蒼華姉様!! 僕の後ろにいてください! あの人たちはおかしい! 僕にもわかります!」
シロくんは、小柄な子供の様な背格好のわんこだ。二足歩行だから何となく人間と思ってしまうが、彼は普通ならわんこだ。
守ってあげなきゃならない存在だ。
なのに、私の前で長いロッド握り、震えてるのにそう言ったのだ。
「シロくん……。」
私はただ、彼のふわふわの白い毛を見つめていた。柔らかくて触るだけで、癒やされる。これまで、私は彼から癒やしを与えて貰っていた。でも、今は……彼は、私を守ろうとしてくれていた。
「来るぞ!!」
叫んだのは、蒼い毛並みのコボルト、グリードさんだ。空から真っ黒な神獣は降り立つ。
降り立つなり、その口から波動を放つ。
「小娘! 下がってろ! お前は死なせる訳にはいかない!!」
リヴァイアサンだった。
蒼い竜は私にそう叫んだのだ。
ぐいっ。と、私は肩を掴まれた。
見ればーー、飛翠がいた。
「お前しかいねーんだろーな、あのメンヘラ女と、変態野郎を倒せんのは。」
「え??」
私は驚いたが、飛翠は大剣構えバハムートに向かっていったのだ。
そう、皆と一緒に。
でも、バハムートの咆哮はリヴァイアサンを消した。
「リヴァイアサン!?」
イフリートと同じだ。
波動に当たり、粉々にその大きな蒼い竜は消えたのだ。
ネフェルさんが、金色の壁を放ち、みんなを守っていたけど、それでもみんなはリヴァイアサンが消えてしまった波動で、吹き飛んだ。
「ヤバい! 神獣は殺られる!」
そう叫んたのはグリードさんだった。
「打ち消されるんです! ここは!」
シロくんだった。
ロッドを持ち彼はーー、向かってくるバハムートの前で何やら唱え始めた。
「シロくん!」
私はーー、叫んでいた。
「守るんです!! 蒼華姉様を!!」
シロくんはーー、ロッドを地面にまるで突き刺す様にしながら叫んだ。
金色の風が彼を纏った。
「助けてください!! ゼクセン様っ!!」
私にはハッキリと聞こえた。
シロくんは、そう叫んだのだ。
バハムートはその大きな口を開き、金色の光に包まれるシロくんに、咆哮を放った。
それは蒼光の弾丸。
シロくんは、ロッドを握り
「“女神の微笑み”!!」
そうーー、叫んだのだった。