第2話 超えろ!! 強者に勝つ為に!
ーーこ……こんな事が……今まで……あったでしょうか。ええ。イシュタリア。この世界にひょい。と、来てからかなり経ちます……。
今までも……死ぬかも? とは、何度か思いました。ですが……。
今回ばかりはまじでヤバいです!!
桜木蒼華! 17歳!(数え)
死の恐怖をはじめて感じております!!
「魔法防御を……最初に教えてくれなかった秩序の大魔導士とやらを、恨むんだな。」
え??
「つ……使えるの??」
そうなんだ。知らなかった。
流れる様な紫色の髪。更に……紫色の眼。なかなか渋い男の人だけど、もう既にその右手には雷の電撃を走らせる光が漂う。
バチッ……バチッ……
と、スタンガン。その電流によく似てる。って、飛翠の悪友が持ってるので……見せて貰っただけなんだけど。それを思い出した。
「“風魔法”だ。風の精霊に会えば最初に必ず教えてくれる。」
グロームさんは、そう言うとフッと笑った。
「お前の先導者は……“精霊”に会わせたくなかったんだな。初めから“我等……支配者狙い”。それもヤヌスの事を考えての判断だろうな。」
と、そう言ったのだ。
私達はーー、イレーネ王を倒す為にこの世界に連れて来られた。今までの事も……全部が、ゼクセンさんの……修行の道。みたいなものだ。
もうそれはわかった。私も飛翠も納得した。
精霊に頼るんじゃなく……グロームさん達……神獣。彼らを頼る様に差し向けてたんだ。
う〜ん。ゼクセンさん……と言うか、黒崎さん。二年近くつき合ってきたけど、構想練ってたのかな?
もう……救世主育成方法みたいな感じだよね。
「あーもう! わかってます! でも。とりあえず、この結界から出るにはアンタを倒さなきゃなんないのよね?」
いつものことだ。
とにかく目の前にいる……支配者を倒して、力を継承する。それはもう変わらない。
私がやるべきことは、この雷オヤジを倒すこと!
「そうだ。俺を倒せるか? 救世主。」
「やってやるわよ! 日本の女子高生なめんなよ!」
とにかく。魔法防御されるんだし、蹴りだのなんだの来そうだ。
ココは……属性なんか気にしないで……乱発! 乱射! 連射!
この手で行くしかない!
私はロッドを握りしめた。
「大地の怒り!!」
放ったのは大地の魔法。大きな岩石がボールの様に飛んでいく魔法だ。それも5連発。
けど、グロームさんは笑った。
「雷には地。基本は大事だな。」
そう言うと右手を飛んで行く岩石に向けた。雷で撃ち落とすのかな?
なんかできそうだよね。あの稲妻みたいなのを使って。
属性云々の前に、私はこの人たちより弱いんだろうから、どう考えても魔法だって通用しない。
それなら……強力にするだけ!
「ファイアーストーム!!」
これはーー、大地の支配者。タイラントの時にも思いついたやつだ。
あの岩石を溶岩に変える。
私はその為に飛んで行く岩石に、炎の熱風を放った。
これでーー、岩を覆ってさえくれれば!
そんな願いみたいな事を考えながら、放ったのだ。
「ほぉ? わかってないのに……“上級魔法”か。なるほどな。お前に力を貸そうと思った連中の……意味がわかった。」
グロームさんは熱風に包まれた溶岩を前に、そう言った。
上級魔法?? そんな事考えてませんけど! 魔法の基準なんて私にはどうでもいい!
ホント正直、数学の問題と同じぐらいどうでもいい!
「雷鳴の裁き!」
グロームさんは熱風に包まれた溶岩。それをまるで、切断するかの様に稲妻の電流を放った。
上下に挟む様に電流は溶岩を打ち砕く。
それも溶岩を残さず流動して打ち砕いた。
まるで……噴水。それも上からも下からもあがる噴水だ。その電流が溶岩を打ち砕いたのだ。
光と水のイリュージョン。そんな世界の様だった。
「そうやって……通用しないのはわかってるのよ!」
私は呑気な事を考えているだけではない。どうせ通用しないのはわかってる。
「“水流の渦”! ついでに、“碧風の竜巻”!!」
私はーー、水の放流。竜巻みたいな放水だ。それと、風の竜巻。これもグロームさんに直進で向かって行く魔法だ。
この二つを同時に放った。
私の頭にあったのは、台風で土砂を流す水の力だ。大雨に風の力。重なればとっても凄い力になる。そう思ったのだ。
「むぅ。」
まるで嵐。水と風の竜巻はグロームさんに向かっていった。
それを見て唸ると
「シェルミナ!」
そう叫んだ。
白い光に包まれたグロームさんの身体。水と風の竜巻が、直撃した。
物凄い光と風。私は吹き飛ばされるかと思った。でも、目の前のグロームさんは吹き飛ばされていた。
更に……
バチバチッ! と、まるで全身に静電気が流れたかのように、光った。
ドームの壁。そこに吹き飛ばされて体当たりしたのだ。そのときに……それは起きた。
「……結界ってそうゆうこと?」
私はドームを見上げた。
頭上まで覆っている。電流の様に稲妻が駆け巡る紫色のドームだ。
「そうだ。俺は何とも無いが……お前が、直撃すれば……感電だな。」
グロームさんはプッ! と、地面にツバを吐いた。口元からは少しの血。
どうやら私の竜巻はそれなりに、ダメージを与えたみたいだった。
でも、私はドームの電流攻撃を知って……正直。ビビった。
「ズルすぎ!」
「自分の特性を利用して何が悪い? 敵を倒すと言う事は、そうゆうことだ。」
グロームさんはそう言いながら、首をコキコキと、左右に倒した。
「ちょうどいい。俺はもと人間だ。だが、転生して神獣になった。お前に元人間の神獣のチカラを見せてやろう。」
グロームさんはそう言うと、全身に稲妻を纏った。
「雷獣と呼ばれるチカラだ。」
と、そう言うと地面を蹴り向かって来たのだ。
突進……。
私はロッドを向けた。
「ファイアーボール!! 樹氷の弾丸!!」
紅炎の弾丸と樹氷の弾丸。それを放った。
でもそれらをまるでバスケのディフェンスみたいに、避けながらグロームさんはジャンプした。
「“雷鳴の轟き”!!」
私の頭上ーー、そこから稲妻の雨を放ってきたのだ。
さっきは食らったけど……雷は電熱!
なら……
「ファイアーストーム!!」
私は頭上から降り注ぐ稲妻に、紅炎の熱風を放った。
熱を与えれば大爆発するはず!
そう。跳ね返すにはこれしかない! などと、カンタンな発想だけど、とにかく広範囲の稲妻を防げるのは熱風しかない。
それも……相殺とやらを出来そうな魔法。
私はーー、それしか考えてなかった。
ドォォン……
と、吹っ飛ばされるほど、爆風が巻き起こった。同時に大爆発したのがわかった。
何がどうなったのかはわからなかった。
でも、私はさっきみたいに稲妻で身体を、攻撃されなくてすんだ。
「やるな。」
爆風の向こうでグロームさんの声が聞こえた。硝煙。その向こうで、まったくもって無傷。
グロームさんは笑っていた。
ぐらっ……と、私はいつもの感じに襲われた。
これは……魔力喪失。ゼロではないんだね。フラついてるだけだから。
ロッドを杖代わりに私はよろけてしまった。
「とっとと回復薬を使え。敵は待ってはくれない。」
「わかってます!」
あーもう!! 腕組んで待ってくれる気配なのはわかるけどさ!
なんかハラたつな〜。
とは思いつつ、私はマジックメイトを飲み干した。
よし!
魔力回復! 準備オケ!!
「どうも……緊張感に欠ける女だな。」
バチバチ……と、グロームさんの右手が雷で光った。
え?
私がロッドを握り……グロームさんを見た時だ。
フッ……と、グロームさんは消えた。
え?? どこ??
私は辺りを見回したが、
「“紫電の攻手”」
声がーー、聴こえた。
目の前にグロームさんはいたのだ。それも右手から雷の掌打。それを私の腹に放ったのだ。
「きゃぁっ!!」
なにこれ!? ふっ飛ばされた。
それもドームの壁に体当たり。
バチバチと全身に電流が流れた。拷問だ!!
腹に受けた雷の掌打。それも一緒になって私はーー、気を失いそうになった。
余りの痛さに。
「それまで!!」
そんな声が聴こえた。
この声ーー。
ずるっと。私はドームの壁から落ちた。
離れたから電流は流れなくなったけど、身体は痺れてる。地面に落ちて倒れたのがわかる。
でも、自分の身体の感覚はない。まるで……麻痺。そんな感じだ。
「カーミラ。お前がそうやって情けをかけるのは、良くないぞ。」
グロームさんの声は聞こえる。やっぱり。カーミラさん。私は顔をあげられない。
前を見れない。
「殺されてはかなわない。私やお前では闇魔石には勝てない。ティアでさえ光魔石の継承に失敗している。救世主に頼るしかない。わかっているだろう?」
「……甘いんだよ。お前たちは。そいつらが救世主? 悪いが……ただのガキだ。この世界を救う器じゃない。」
勝手なことばっかり。
なんか……ハラたってきた。
「アミナス……」
私は回復魔法を呟いた。身体に巡る暖かな流れ。
「蒼華?」
カーミラさんの顔。少し驚いていた。
「アースフリッカー!!」
私はーー、立つと直ぐにグロームさんに向けて大地の魔法を放った。
グロームさんの立つ足元の地面は揺らぐ。地震のように。そこから大きな岩石の槍が突き出した。
震動しながらグロームさんを、突き刺そうと突き上がったのだ。
グロームさんは不意打ちだったのか、シェルミナを放つこともなく、岩石に突き刺され身体が吹っ飛んだ。
「勝手なことばっか言わないでよね! 痛い思いしてるのは、私達なんだから! エラソーに言うなら、お前がヤヌスを倒してみろ!」
私はーー、岩石の槍に突き刺され血を流し倒れたグロームさんに、怒鳴っていたのだ。
その後だった。
私達を覆っていたドームは消えたのだ。
カーミラさんはグロームさんの方に駆け寄ると、右手を翳した。
白い光。それがグロームさんの身体を覆った。
「蒼華!」
「蒼華姉様!」
「嬢ちゃん!」
みんなーーが、駆けつけてくれたのもその後だった。
「……力を貸してやる。残念だが……俺では、ヤヌスは倒せない。」
グロームさんの声が聴こえたのも……その後だった。




