第1話 雷鳴の神殿
ーーラナティア大陸は本当に大きな大陸だった。船で見たけど全景がよくわからなかった。
とにかく広い大陸。それはよくわかった。船の上からでも見てるだけで、ほけ〜っとしてしまった。
それにしてもこのイシュタリアは、自然が凄い。緑ばっかり。四季と言うのはないから常に、緑に囲まれているらしい。
あ。雪は降るみたいだね。北の方とか。そこら辺は、私達の世界と変わらないのかな。南は暖かく……、北は寒い。だそうだ。
「蒼華。行くぞ。」
「あ。うん。」
私は飛翠に呼ばれ、船を降りた。
ラナティア大陸に上陸。ここに雷鳴の神殿と不屈の迷宮があるそうだ。
何だか……名前だけでもおっかない。
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雷鳴の神殿ーーは、その名の通りだった。
大きな神殿と言うか……遺跡だ。写真とかでしか観たことないけど……ローマ時代の神殿みたいな建物だった。
けど……それよりもこの
ピカッ! と光りゴロゴロと鳴る雷がとてつもない。ひやっとするほど大きな音だし、絶対にどっかに落ちてる。
空も稲光がずっと走ってて、雷が鳴り止まない。薄暗い空は黒と灰色。大陸の中にある深い森。そこを抜けた所に、この神殿はあったのだ。
「ねぇ? なんで森の中に雷の神殿があるの? フツーに落ちるでしょ。」
私は余りにも轟音なので恐ろしくて、飛翠の腕を離せないでいた。いつもの事なので飛翠は、何も言わないけど。
「落ちねーの? ネフェル。」
「ええ。大丈夫ですよ。この雷は“支配者”がいる証です。威嚇みたいなものですね。」
飛翠の声に前を平然と歩くネフェルさんは、そう言った。
「だと。」
「威嚇ってなに? 雷オヤジなの? もしかして。」
ピカッ!! と、光った。それも真後ろで。直ぐにゴロゴロと鳴った。
「ひゃあ! ちょっと! 怒ってんの!?」
ぎゅうっと。私は飛翠の腕にしがみついた。
「かもな。」
飛翠はそんな私を見ながら笑っていた。
神殿の中に入ると少しは雷の音と光が、弱まった。気がする。
でも……広間みたいな所に出るとそこにはすでに、大きな男の人がいた。
「え? 人間??」
私は驚いてしまった。今まではどっちかって言うと獣系。それに鳥系の神獣だったからだ。
この人は浅黒い肌をした男の人だ。それに流れる様な紫の髪。凄くキレイな顔をした大柄な人だった。服装も布を巻いたもの。ズボンも履いてるし、足は裸足だけど。
「おお。来たな。待っていたぞ。我が名は“グローム”。お前か? 救世主。」
ノースリーブみたいな布の服。それを全身に巻きつけている身体はとてもゴツい。
筋肉むきむき。格闘とかやってそう。
「はい。」
私はみんなから離れた。いつものごとく……。
「蒼華。」
飛翠の声に私は振り向いた。
「無茶苦茶すんな。」
心配そうな顔をしていた。珍しく。いつもは行って来い! みたいな顔をしてたんだけどな。
「うん。大丈夫。」
でも……きっと……敵わないから、無茶苦茶するしかなくなるよね。
ふぅ。
この瞬間はやっぱり緊張する。試合前みたいで。と言っても……体育の授業でやるバスケとか、バレーとかしか経験ないけど。
「雷の継承者。手合わせは簡単だ。わかっていると思うが、どちらかが倒れれば勝負あり。いいな?」
グロームさんは仁王立ちだ。それだけでも威圧感がハンパない。
「はい。宜しくお願いします。」
私はロッドを持ちそう言った。
すると……グロームさんは右手をあげた。
え? なに?
バチバチ……と、右手が紫色と青白い光に包まれた。まるで稲光りだ。それは私とグロームさんを、ドーム。包むように広がった。
「な……なんですか!?」
紫色のドームはまるで円形状に、私達を包んだのだ。
「傍観者に言っておく。これは結界だ。邪魔はするな。」
グロームさんはそう言ったのだ。
「……結界!?」
ちょっと待って! こんなのははじめてですけど!? 紫色と青白い稲光の様な光のドーム。なんだか電撃みたいにバチバチと、流れてますけど??
「闇魔石を相手にするんだろう?」
グロームさんは手を下ろしたけど、既に右手と左手は、紫色の円の光に包まれていた。
電流の様に青白い光も流れてる。雷の力だ。
「……そうです。」
ドームの結界に閉じ込められてしまった事で、私はかなり。動揺していた。
「ならば……本物の戦い。そのつもりで来い。」
グロームさんの濃い紫色の眼が、凄く鋭くなった。
えっと……雷には、地。大地。私はタイラントから継承しているから……大地の魔法を使えばいいんだね。
私はグロームさんにロッドを向けた。
「行きます! “大地の怒り”!!」
タイラントから受け継いだ魔法だ。岩石の連射魔法だ。大きな岩石は5連発。グロームさんに向かって行く。
まるで落石する岩の塊。それが飛んで行くのだ。
こう見るととてつもなくデカい。
「“雷鳴の轟き”!」
グロームさんから放たれたのは、雷の稲妻だった。でもそれはとてつもなく広範囲で、頭上から降り注ぐ。
グロームさんは私の放った岩石ではなく、私に向けてその稲妻を放ったのだ。
バチバチと音を立てながらまるで雨。稲妻が幾つも、私の頭の上から電流の様に落ちてきたのだ。
「え? ちょっと! どうすればいいのこれ!?」
最早……私には避けることなんて出来なかった。
「きゃあっっ!!」
痛いーーを、通り越した。熱い。身体がビリビリとまるで何十回も同じ所を、突き刺された様な痛み。それに熱だ。
焼ける様な熱が全身を覆った。
グロームさんが岩石連射をどうしたかなんて、見てる余裕はなかった。
やばい……。
私はそのまま地面に倒れたのだ。ビクビクと全身が、痙攣してるのがわかる。
静電気でバチっとなったあの痛さ。あれが数十倍。全身を駆け巡った。それも一瞬で。
右手が黒く煤みたいになってる。
「蒼華ちゃん! シロくん! 回復魔法を!」
ネフェルさんの声が聴こえた。
「手出しはするな。そう言った。これが闇魔石を持つ“ヤヌス”との戦いだと思え。救世主。回復はして構わん。それも戦いの基本の一つ。己の力で向かって来い。」
グロームさんの声が聞こえる……。てことは、私の魔法は消されたってこと?
回復……
「……水流の雫……」
呟く様な声がでた。でも、ロッドは光る。蒼い光が私を包むのがわかる。
暖かな流れ。回復魔法がかかったんだ。
「そこのガキ。俺を睨んでもヤヌスは倒せない。憎むなら“非力な救世主”を、憎むんだな。」
ガキ? あ。飛翠ですかね?
回復魔法が効いてきたので、グロームさんの声もはっきりと聞こえるし、私の身体の感覚もすぅっと、元に戻っていた。
相変わらず……スゴいな。回復魔法は。
さっきまでの痛みなんてどこかへいった。私は立ち上がる。
「いきなり全開なんですね?」
「当然だ。何度も言わせるな。ヤヌスだと思え。」
グロームさんは私に右手を向けた。
私も構えた。と……思ったら、グロームさんは向かって来たのだ。
えっ!? ウソでしょっ!? まさかの殴り合いですかっ!? ムリ!!
向かって来たと思ったらバッ!! と、ジャンプした。
「“アーススラッグ”!!」
私はロッドを向けて大地の魔法を放った。でも、岩石の連射。それを前にヒュッ!! と、グロームさんの姿が消えた。
えっ!? ちょっと!!
岩石は相手のいない空中で飛び、そのまま地面に落下して粉々になっていく。なんてこと!!
「相手が魔法で攻撃してくるとは、限らない。」
そんな声が後ろから聴こえた。
と、思った時には私は背中にとてつもない痛みを感じた。そのまま前にふっ飛ばされた。
蹴り!? 蹴られたーー、それはわかった。でもその衝撃は、受けたことないぐらい。
ボーリングの玉でも投げつけられたみたいな……そんな、重くて痛い衝撃。
「蒼華! クソが! 手出しすんなら俺が相手だ。さっさと妙なモンを解け。ブチ殺す。」
「見てられないなら目を瞑っているんだな。」
飛翠とグロームさんの声が聴こえた。
飛翠……。待って。これは私の戦い。
痛くて聞こえてはきても……動けない。
これが……戦い。あのイレーネ王なら……こんなもんじゃすまないよね。きっと。
「……アミナス……」
絶対……背骨折れた。と思ったので、回復魔法を呟いていた。痛みが尋常じゃない。
動けないってことは骨が折れたんだ。でも……、生きてるから大丈夫だ。
「気絶しなかったのは褒めてやろう。」
「……お陰様で。」
はぁ。この軽口がまだ出てくるあたり。自分でもスゴいと思う。成長したな。自分。
逃げようと思わないんだから。前なら逃げたくて堪らなかった。
私は立ち上がる。
「飛翠。大丈夫だから。」
そう……とりあえず、言っておいた。飛翠はドームの外で……おっかない顔をしているけど。
グロームさんは両手を私に向けた。
これは何かくる。どんな魔法なのか知らないし、使ったことないけど、
「“大地の揺らぎ”!!」
そう。もう一つ。貰ったんだ。
ズズッ……と、グロームさんの立つ地面が揺れた。そこから岩の槍がにょきにょきと生えたのだ。それはもう、グロームさんを突き刺さんとする様に、幾つも。
「“魔法防御”!!」
私の方に手を向けていた筈のグロームさんは、咄嗟だったのかそう叫んだ。
白い光に包まれたグロームさん。それは円球の光。岩石の槍がそれに当たり砕けていく。
「なにそれ……」
さっきの魔法もこれで……ふせいだってこと??
あ。イレーネ王が使ってた。魔法を防ぐ力。鉄壁の護りみたいなやつ。あれと同じ?
グロームさんは私の魔法が消えると、笑った。
「まだシェルミナは覚えてない様だな。」
ぎゅっ。
私はロッドを握りしめた。
目の前のグロームさんの顔から笑みが消えた。
「救世主。魔法防御を使えんと死ぬぞ。ここで。」
私はーー、今までに無いぐらい……やばい。と、本当に思った。
どうなる?? 私!!