章の終わり 境界線が崩れたとき〜幼馴染みの結末〜
ーーはぁ。
なんだか肩こっちゃったな。疲れたな。あのライムスの相手は。
回復魔法で身体は元気なんだけど……メンタルにくるよね。
「蒼華姉様。大丈夫ですか?」
シロくんがとても心配そうに顔をあげた。
「大丈夫。だーいじょーぶ。」
私は、シロくんの頭を撫でた。うわ〜ふわもふっ! これが癒やされる! たまらん!
「雷鳴の神殿でしたね?」
「ここからだと……船に乗り“ラナティア大陸”。そこを目指す事になる。」
ネフェルさんとフォルスさんは並んで、そんな話をしていた。
「ラナティア大陸……。アズール魔導館があるんですよね?」
「ええ。よく覚えてましたね。蒼華ちゃん。」
ネフェルさんは振り返ると笑った。
「うん。ミリアと約束した場所だから。」
私はそこでミリアと会う約束をした。友達との約束なんて……久し振りだ。こっちではそんなのないもんね〜。
まぁ。アッチでも舞子ぐらいだったけど。私は飛翠のせいで嫌われていたので。女子はみんな寄ってたかって飛翠を紹介して! だった。
最初こそは紹介してたけど……面倒になってしまったし、何よりも飛翠にキレられた。ので。私はあまり女子とは、関わらないようにしてたんだよね。
いじめはなかったからまだ良かったけど。
「どうかしましたか? 蒼華姉様? 顔がコワいです。」
「あ。ちょっと……昔の事を思い出してました。ごめんね。」
いかん。いかん。シロくんを心配させては。私はぺちぺち。と、両頬叩いた。
私達はーー、その後。フォルスさんに見送られ船で樹氷の島を後にした。
ここからラナティア大陸に向かうのだ。
「雷の神獣か。どんなヤツだろうな?」
樹氷の島を出たのでもこもこのコートやブーツを、脱ぐ私達。
飛翠はブーツを脱ぎながらそう言った。
「どうかなぁ? 雷オヤジとかだったらイヤだよね?」
「は? 面白くねーぞ。それ。」
冷たいなぁ。そんなにバカなのか? みたいな顔しなくてもいいじゃん! べつに笑わせようともしてないし。
「蒼華。」
「ん?」
私は丸めてぽんっと椅子の上に置いた、飛翠の毛皮のコートを畳んだ。
いっつも脱ぎっぱなんだよね。
「返事。」
「え……?」
私はその声に顔をあげた。飛翠はとても真剣な顔を……と言うか……コワいんですけど。
なんで睨んでるのかな??
「の前に……お前。俺が聞いた時に誤魔化して逃げたよな? かなり前のハナシだけど。」
え?? 前??
飛翠はとてつもなく睨んでる……。
「覚えてねーの?」
「……ごめん。」
はぁ。
飛翠は大きなため息ついた。
え? 聞かれたっけ? 逃げた?? ん〜……。あったかな??
「俺は聞いたよな? お前がオンナばっか連れて来て俺に紹介した時に。“お前は平気なのか?”って。」
飛翠の顔は相変わらずおっかない。でも……声は怒ってるワケじゃないみたいだ。
あったかな? あ!!
「え? アレってそーゆう意味だったの?? 私はてっきり。“女子に頼まれてウザくねーか?”の意味だと思ったんだけど!」
「どこでそーなる? まじお前の思考回路がイラつく。」
そ……そんな事言われても……。
「だって……わかんないし。」
「その後だよな? 俺の事を避け始めた。しかもオンナが出来てもなんも言って来なかったよな? で? 何で今更“告ってんだ?” お前……頭沸いてんのか?」
と、とてつもないキレ顔で言われた。告ってキレられるってどーなの??
「迷惑だったんならごめん。もういいよ。忘れてよ。」
私はーー、飛翠に腕を掴まれた。
「この世界に来て……気分がそうなったとかじゃねーんだよな? 流されてんじゃねーよな?」
そうーー言った飛翠の顔は……とても真剣だった。なんか……すごく……カッコよかった。
見た事ないぐらい……カッコよかった。
「……やっと……二人だけになって……色々と……わかったと言うか……。飛翠がいなきゃヤダ。って思えたから……、言ったんだけど。」
私は腕を掴まれたまま……そう言った。それはホントだ。いつもは……女子とかいて、それに飛翠は彼女いたし。常に。
だから……素直になれなかった。でもここには誰もいない。私と飛翠しかいない。だから……本当に、素直になれるんだけど……。
「ソレ。帰ってからも変わらねー? お前の事だから……元に戻ったら、また誤魔化して逃げるんじゃねーの?」
飛翠は私を……すごく……真っ直ぐと見ていた。さっきまでの強い目じゃなくて……なんか……、不安? そんな目だ。
「そ……そんな事ない。異常な環境だからとかそうゆうのじゃないもん。ホントの気持ち……」
「ウソじゃねーよな?」
え? なんでこんな……疑ってるんだ? この人は。ちょっと……コッチまで不安になるんですけど。
「な……なんでそんなこと聞くの? ウソで告りますか??」
飛翠は私の首筋を掴んだ。がしっと。
え? 手……強いんですけど!! 首が動かせないんですけど!
「どんだけ待ってやったと思ってる? お前がいつも誤魔化して逃げるから……俺は、幼馴染みのままでいたいのかと思ってた。俺との間に境界線つくったのはお前だ。蒼華。これが最後だ。もう待たねー。」
飛翠は……真剣な顔と眼に戻ってた。とゆーかキレてた。怖いぐらいに。
でも……今。わかった。飛翠も私と同じだ。あまりにも近くにいて……好きだ。と伝えて……拒否されたら……幼馴染みにすら戻れない。
それがイヤで……私は……飛翠に傍にいて欲しかったから、気持ちをずっと言えなかった。微妙になるのがイヤだったから……。言えなかった。ずっと。
「……好きだよ。飛翠。ウソじゃないし……もう、誤魔化さない。」
私はすんなりと言っていた。ここで言わないと……もう二度と……彼は、聞いてもくれないだろうし、応えてもくれないだろうから。
待たない。そう言ったのは……気持ちの整理をしようとしたんだろうから。
「!!」
飛翠の顔が近づいたと思ったら……唇に……当たった。
え?? な……不意打ちかい!!
飛翠の唇はちょっと冷たかった。でも……やっと、私は……ファーストなキスをして貰えたのだ。
凄く長く感じた。目を閉じたから飛翠の顔は見えなかったけど……。離れた唇に私はゆっくりと目を開けた。
フッ……と笑う飛翠がいた。
「俺も好きだ。蒼華。」
や……やばい。どきどきしてしまった。しかも……今になってものすごくハズかしくなった。
うわ! な……キスしちゃったし! 好きだと言われてしまった!! どーしましょー!!
「大丈夫か? お前。」
「放置してください! お願いだから!」
私はーー、顔を両手で覆った。きっと噴火しそうになってるに違いない。
熱くてたまらない! 樹氷の島でしてほしかった! そしたら一気に冷めるのに!!
ラナティア大陸に向かうまでーー、私はドキドキと格闘することになってしまった。