第21話 樹氷の精霊〜ライムライト〜
ーーやった!?
「やったか?」
爆風吹き荒れる中で、私がそう思った時だ。飛翠の声がした。
ふと隣を見ると
「えっ!? なんでいんのっ!?」
「……なんとなく。」
飛翠がいたのだ。ビックリだ!!
なんとなくってなに!?
だが、爆風は炎と氷。もう何だかわからない。吹雪なのか熱風なのか。それが、目の前で少しずつ晴れていった。
爆風が晴れたことで、視界は良好。白い毛に覆われたアイスタイガー。
…………。ああ。ライムスだった。それが、姿を現した。白い吹雪。未だにそれを身体に纏って、健在。
つまりーー、私の紅炎の魔法は彼を倒すことが、出来なかったってことになる。
でも、フラっとはした。右足が浮いた。けど、どーんと、氷の地面にその前足を踏ん張る様に着いたのだ。
「忌々しい小娘!!」
ライムスは怒り。すべてをその口元に集めているかの様だった。
白い吹雪纏う氷の弾丸。あれを放つんだろう。
「飛翠! どいてて!」
私はロッドを持ちそう言った。
巻き込まれるかもしれないからだ。えぇ。もう。容赦ないっすらね。この方たちは。
「どけ? 誰に言ってる。ふざけんな」
「はぁ!? ここで俺様ださないでくれますかっ!? そんな場合じゃないんですけど!?」
なんなんだこの人わっ!! いや見て! ライムスは、樹氷の弾丸を放ちます! 溜めてますから!
がしっ。と……私は右肩掴まれた。見上げれば、飛翠はライムスを睨んでいた。
「いいからさっさとブッ放せ。俺はここにいる。」
え? いや……。それは……嬉しい一言だけど。
ふぅ。
飛翠が隣にいる。それは私にとっては“力”になる。息を吐いた。
私はーー、今、なんの為に戦うのか? と、聞かれればこう答えるだろう。
好きな人を守りたい。
こんな漠然とした理由しか思い浮かびません! だって私はーー、都内の女子高生です。戦いなんて知らない……普通の人間です。
だから。今は、隣にいる“大切な人”。その人を守りたい。
「ファイアーボール!!」
「ライムボール!」
私の紅炎の弾丸と樹氷の弾丸。
それが同時に放たれた。
ぶつかる! お互いの弾丸が!
でも、ライムスはその後ろから
「“樹氷の怒り”!!」
やっぱり! 必殺技を放ってきたのだ。猛吹雪! 更にはたくさんの氷の槍だ。
「ファイアースストーム!!」
向かってくる吹雪に私は紅炎の嵐。熱風の嵐を突き返した。
でも、こんなのじゃもちろん。防げない。私の紅炎の弾丸だって、もう消えてしまった。力が弱まってる樹氷の弾丸と、強い猛吹雪が私達を襲った。
「きゃあっ!!」
私と同じように、飛翠もふっ飛ばされていた。
「これで終わりだ。」
ライムスは地面に吹き飛ばされ、倒れた私達の前で、更に白い光を口元に集めていた。
低い声が響いた。
私は吹き飛ばされ身体から血を流していた。それはわかる。傷だらけだ。飛翠も隣で全身、傷だらけ。
回復魔法……。でも、くる。
ライムスからの攻撃がくる気配。どうしたら。
回復魔法を放ってもライムスからの攻撃魔法は、防げない。そんな時間ない。けど、飛翠……。
地面に倒れて私と同じ様に動けないでいる。
「アミナス!!」
迷うことなんてない。私が下した決断は、傷だらけの飛翠を救うこと。だから水流の回復魔法を放った。
でも
「樹氷の槍!!」
ライムスのその声が聞こえた。あれは……串刺しにする氷の槍だ!!
でも……
「もうやめて! このままでは死んでしまうわ!!」
そんな悲鳴に似た声が、聞こえたのだ。
と……思ったら……その人は、私達の前に現れた。
「“樹氷の怒号”!!」
さっきまでの可憐?? な声とは違う。え? 怒ってる??
女性の声なんだけど、怒鳴るような声。そこにはたまた、唸る様な風の音。
うわ!! トルネードだ!
氷と吹雪の合体した様な勢いのいいトルネード!
それは女性の両手から放たれていた。それも巨大な渦を巻いて、ライムスの吹雪を弾き飛ばしたのだ。
下から上に突き上げる竜巻じゃない。前方に向かって行く消防の放水。そんな感じのトルネードだ。
そしてそれは、ライムスを吹き飛ばした。
「え……ウソでしょ?」
私は……白い毛に覆われた巨体のアイスタイガーが、氷の壁にぶち当たったのを見た。
な……なんなの? え? あのライムスがカンタンに吹き飛ばされましたけど!?
キラキラと光る身体は霧氷に覆われていた。目の前にいたのは、白いワンピースドレスを着た女性。
しかも……白銀の長い髪。それを漂わせながらちょっと、大きな女性はそこにいた。
「ダメよ。ライちゃん。お痛がすぎるわ。」
へ………………???
ラ……ライちゃんっ!?
私達はアミナスのお陰で、完全復活だ。ずずずっと、氷の壁を背中で引きずりながら落ちてくるライムスを、見上げていた。
「“樹氷の精霊”」
そう聞こえた。
振り返るとフォルスさんが、
「精霊です」
と、再度。言ったのだ。
「えっ!? 精霊!?」
「まじか。強ぇーのか。」
飛翠もビックリだ。そりゃそーだ。あのアイスタイガーが、今もなお、地面からよろよろとしながら、立ち上がっているのだ。
あんなに強いあの! アイスタイガーが!
この美しくナイスなバディな女の人にやられてしまったのだ。
「ライム……邪魔をするな。」
「もういいでしょ? 勝負はついてます。これ以上やると……」
ゴゴゴ……と、ライムライトさんの全身が氷の塊に覆われた。ピキピキーんと、それはもう鋭く尖る氷の槍みたいに。
「お仕置きよ?」
それに声が……ワンオクターブ低い。キレた女の声だった。
ひらひらと白いワンピースドレスを揺らしながら、そう言ったのだ。
顔はきっと般若みたいなんだろうな。血管ビキビキなんだろうな。
「なんなの?」
私がそう言うと
「嫁だ。」
ライムスは頭をふるふると振りながら、そう言った。
「えぇっ!? 奥様は精霊ですかっ!?」
「鬼嫁か。ガチで。」
私と飛翠はビックリだ。
「大変でしたね。救世主。本来なら口を挟まないつもりでしたが……やりすぎです。」
ふわっと、その人は振り向いた。綺麗な人だった。肌は真っ白で、まるで雪。
それに眼がキラキラとやっぱり、宝石みたいに青く光ってる。ちょっと……雪女チックだなぁ。と、思った。
「救世主だとは思えん。」
「それでも救世主ですよ。ライちゃん。」
夫婦なのはわかるけど……ライちゃんって。
ぷっ。
不貞腐れた様な顔をしたライムスに、私は吹き出していた。
なんだか可愛かったので、大笑いしてしまった。
「笑うな! 小娘!」
「ライちゃん!」
もーやだぁ。この人たち! なんなの? 笑えるんですけど!
さっきまでの勢いなんてなくなってしまった。今はただ、叱られたペットの仔猫みたいになってしまった。
しゅん。と、頭を項垂れさせていたのだ。
▷▷▷
「やっぱり来ちゃいましたか。」
「貴方も止めなさい」
ライムライトさんは、カーミラさんが現れるとそう言ったのだ。
おかしなことにライムスは大人しく、おすわりしてしまった。
ライムライトさんはカーミラさんより、少し大きい。2メートルぐらいかな?
「私は中立です。ですが、今回はいささか支配者の私情が見えましたね」
カーミラさんの鋭い視線は、おすわりするライムスに向けられた。
ライムスはふんっ。と、鼻息ふくと地面にフセた。寝転がった。
「とてもじゃないが……ティアとは別物すぎる。」
ライムスはそう言ったのだ。
「どーゆう意味よ!」
「ティアは聡明で美しい。お前はがちゃがちゃだ。」
はぁっ!? 人をがちゃがちゃ!? なにそれ!
意味わかんないし!!
「あー。ウマいな。“ガラクタ”か。」
「おい!!」
私は飛翠を睨んでおいた。
「ティア王女は……“アズール魔導館”。そこから少し先にある“不屈の迷宮”。そこに向かったそうですよ。」
ライムライトさんがそう言ったのだ。
「不屈の迷宮?? なんですか? それ。」
と、私が聞くとカーミラさんは、飛翠を見た。
「これから救世主の蒼華は、“雷鳴の神殿”にて、グロームに会う。その先で飛翠。お前が会うハズの“戦士”。“バルクーザ”。シェイドはその者に会いに行ったのだ。」
カーミラさんはそう言った。
「え? それってシェイドさんが……その人の力を求めてるってこと?」
私がそう聞くと
「そんな訳ないだろう。シェイドはイレーネの騎士だ。素人じゃない。」
後ろからライムスが馬鹿にした様な声で、そう言ったのだ。
ちょっとかちん。とくるね。
「救世主。ティア王女とシェイド殿は、逃げ回ってる訳ではない。彼女らは“力”を集めている。イレーネに歯向かう為に」
ライムライトさんは、そう言ったのだ。
「ティア王女は、“光魔石”の継承に失敗したと聞いています。お父上の“闇魔石”。その力に対抗する力です。それを継承出来なかったことで、支配者たちに会い、力を集めている。対抗する為に。」
と、ライムライトさんは続けたのだ。
「なるほどな。で? その不屈の先とやらを仲間にしようとしてる。そう言いたいのか?」
飛翠がそう言うと
「ええ。彼は正真正銘の戦神。ハウザー氏やガルパトス氏とはまた……異なる強さを持っています。何故なら……“剣の支配者”だから。」
と、ライムライトさんはそう言ったのだ。
「え? それって……神獣ってこと??」
私がそう聞くと、
「そう。この先……お前達は、最後の試練に向かってもらう。バルクーザがどうなっているかはわからない。それを確かめる為にも“不屈の迷宮”を、目指しなさい!」
びしっ!!
と、カーミラさんは黒い長い爪。その右手を向けた。私達は指さされたのだ。
目指しなさい……って。いきなり命令ですか??
とにもかくにも、次なる目的地は、不屈の迷宮と雷鳴の神殿。
最後の試練が待っている!! 私達、破天荒コンビを!!