第20話 私は負けない!!〜蒼華のチカラ〜
ーー目の前にいるのは支配者と言う名前の、魔物だ。私はそう思うことにした。
えげつない! 本気で殺しそうだし!
樹氷の弾丸を、ライムスは更にもう一発! 撃ってきたのだ。コッチは二発連射でどうにかしようと、思ったのに!!
えぇいっ!! こうなりゃヤケじゃい!!
「くらえ! ファイアーボール2連発!!」
ええもう。撃ってやりますよ! こうなったらブッ倒れるまで撃ってやろうじゃないの!!
と、半分はヤケ。そして半分は……“負けたくない” これだったのだ。私にしては珍しく強く思った。
ドドーンと樹氷の弾丸と紅炎の弾丸は、ぶつかる。私のファイアーボールはあいつのライムボールに、ぶつかって煙みたいに消えてしまう。
でもその後にもう一発が追いつく。
それが少しは体当たりを頑張ってくれるんだけど、ライムスも追い撃ちみたいに撃ってきたから、結局消えてしまった。
氷の弾丸は吹雪を巻き起こし、炎を消してしまう。普通なら溶けるんでしょうね!
でも。負けてません! 私は更に
「ファイアーボール!!」
2連発を撃ったのだ。
「無茶だ! 蒼華ちゃん!」
誰かが叫んでる。でもそんな事を考えてる余裕はない。
目の前では樹氷の弾丸を貫かんと、私の紅炎の弾丸は吹っ飛んでいったのだから。そりゃ。威力は負けてます。ええもう。大きさだって一回り小さいですよ。
でも! 倍撃ちしてるんだ。コッチは! 足せば同じだけの大きさになる!
と、そんな事がありえるのかどうかはさておき。なんの確証もないのに、私は信じ切っていた。
自分のチカラを。ゼクセンさんに貰ったこのロッドのチカラを。
だって。
『貴女たちのものだ。特別なものだ。大切にしてください』
フォルスさんはそう……言ってくれたんだ。特別だって。そう。こんな世界にきていっちょ前に、ロッドなんか持って……魔法使って……。
昔、憧れたあのふりふりの魔法少女とまでは、いかないけど。私は“魔法使い”なんだから!
「小娘! 面倒だ!!」
樹氷の弾丸が破裂したのだ。私の二発の紅炎の弾丸に、ぶつかって。そうか。威力はないけど、ぶつかった事でちょっとは、アイツの力を削ったんだ。
でも、ライムスは怒り狂ったように怒鳴ると、浮かんだ。
カッ!! と真っ青な眼が光る。
真っ白な身体が吹雪に包まれた。
「“樹氷の怒り”!!」
なっ!? なによ! それ!! 本気だしたってこと!?
ライムスが放ってきたのは、猛吹雪。それだけじゃない氷の槍だ。それも殆ど岩みたいなやつ。槍投げの選手が投げたみたいに、吹雪に包まれながら、吹っ飛んでくる。
それも数も多ければ太いしデカい!!
この突風!! 氷つくみたいに冷たい!!
「ホント! イヤなやつ!! もうちょい優しくしなさいよね!! ファイアーストーム!! 豪華版!!」
私はファイアーストームを連射した。
「蒼華ちゃん!!」
吹雪と炎の嵐。その中でまた……誰かが、私を呼んだ。でも、目の前で紅炎の嵐と吹雪。更に氷の槍たちはぶつかった。
冷たいんだか熱いんだかわからない突風が、私を襲った。
氷の槍は飛んでこない! 消えたんだ。私の紅炎の嵐で。でも……猛吹雪は止まない!
ギュッ。
私はロッドを両手で握りしめた。
もういい! ここで終わっちゃったとしても! 私はこの性格悪いアイスタイガーだけは、倒してやる。
「ファイアーストーム!! ファイアーボール!!」
叫んでた。猛吹雪の前に、私は今。自分のなかの必殺魔法を叫んでいたのだ。
「蒼華!!」
え? 飛翠??
「おのれ! 小娘!!」
ライムスの声が唸るようだった。私が放った紅炎の嵐と、紅炎の弾丸。それに猛吹雪は包まれ打ち砕かれたからだ。
紅炎の弾丸がびっくりするぐらいに、ライムスに向かって飛んで行っていた。
ウソ?? 生き残った! 消滅するかと思ったのに。私は吹雪に消されるんじゃないかと、思っていたのだ。
でも、吹雪を突き破り紅炎の弾丸は、ライムスに向かって飛んで行っていた。
「ライムボール!!」
ライムスが樹氷の弾丸を放った。私のファイアーボールと、ライムボールが衝突した。
それは物凄い爆撃だった。
「きゃあ!!」
今までで一番の爆風。爆音。私はふっ飛ばされていた。
「蒼華!!」
「蒼華ちゃん!」
氷の地面に叩きつけられる様に、落ちていた。だけど、直ぐに誰かに抱き起こされた。
やがて……爆風は消えた。
「小娘……。舐め腐りやがって。」
ライムスの氷の牙がきらっと光った。ふるふると口が震えて歪む。
ああもう。完全にキレてるわ。あれは。眼がイッちゃってるし。どっかの……○ク中みたいだ。
「蒼華ちゃん。今のうちです。魔力の回復を。いいですか? 魔力が無くなれば……“死にます”。今までは瀕死でセーブ出来ていたんです。今の貴女は、きっと“ゼロまで使い切る”」
私は飛翠に抱き起こされていた。でも、隣でしゃがんでそう言ったのは、ネフェルさんだった。
そう言って……差し出したのは、マジックメイトだった。
「でもまだ……フラついてないよ?」
「それは魔力が多少なりとも……増えているからです。そのロッドのお陰とも言えます。それから……“貴女の精神力が強くなったこと”。」
ネフェルさんはそうは言ってるけど、何処か……心配。そんな顔をしていた。
「小娘。第二ラウンドだ。待っててやる。さっさとしろ!!」
まるで……地鳴り。
そんな怒鳴り声が響いたのだ。ライムスは氷の針みたいなトサカを突き立て、吠えた。
吠えた様に喋った。とにかく恐ろしい声だった。私はネフェルさんからマジックメイトを受け取り、飲み干した。
「蒼華。なりふり構わねーのは俺も同じだ。でも、お前はやるな。」
私は肩を支える飛翠の声を聞いた。ごっくん。と、甘いトロピカルジュースみたいな魔力回復薬を、飲み干した。
飲み干すと消えてくれる。ゴミになったのが、わかるかのように。
「……なにそれ。」
私は飛翠から離れた。ちょっと……ムカついた。
「あ? わかんねーの?」
ムッとした様な飛翠の声が聞こえた。
「勝手だよ! 飛翠は。私だって……心配だし、おんなじ。負けたくないし、いなくなって欲しくない。おんなじ!!」
ムカついたからそれだけ言って、
「ネフェルさん。有難う御座います」
私はライムスの方に戻ったのだ。
もう。これは意地だ。負けたくないだけだ。
ライムスの白い毛に覆われた身体は、吹雪に包まれていた。虎に似た氷の獣。
私はぎゅっ。と、ロッドを握りしめた。
さっきの魔法……。ブリザードだっけ? アレって支配者が使う魔法なのかな?
イフリートが使う“メルトストリーム”。それみたいなやつだよね? 必殺魔法みたいな。
ん?
私はロッドを見つめ……右腕につけてる金色のバングル。それを見た。
そして……思いついてしまったのだ。
わからないけど。やってみよう。
ライムスにロッドを向ける。思いついたら直ぐ実践!!
「“紅炎の熱風”!!」
とりあえず叫んでみた。
あれ??
だが、ロッドもバングルについてる真紅の継承石も、なんの反応もない。
「あ。やっぱダメなのか。」
「何をしてるんだ?」
「うるさいな! 初心者だから色々と試したいの! そーゆうモンでしょ!?」
呆れたようなライムスの声。バカにした様な顔に、私はそう怒鳴っておいた。
やっぱり……魔法のコトバを知ってるだけじゃ、使えないのもあるのか。
魔法の呪文みたいなやつ。“コトバ”って勝手に言ってるけど。叫べば使えるのかと思ってた。なんか発動条件みたいのが、あるんですかね??
「蒼華ちゃん。“上級魔法”は魔導士にならないと、使えませんよ。」
と、そこへ救いの神が!
ネフェルさんの声が響いたのだ。
「あ。そうなの?? やっぱり条件があるんだね。」
私はロッドを見つめながらそう言った。上級魔法。そうか。そうゆうのもあるんだった。
と言うことは……魔石の魔法は、初心者魔法だから……ファイアーボールとかは、魔法ってことでいいのかな??
う〜ん。良くわかんないや。もう。
あ!!
そして私は思いついた!
「行くぞ。小娘!」
「かかってきなさい!!」
と、大口たたいてみた。試してみたいからだ。
「“樹氷の怒り”!!」
思ったとーり! ライムスはあの氷の槍だらけの猛吹雪の魔法を、使ってきたのだ。
なので、私は
「ファイアーストーム!! ファイアーボール2連発!!」
どどーんと紅炎の魔法を撃ちつけたのだ。
イフリートのメルトストリームは、熱風纏った紅炎の弾丸。私のファイアーボールやファイアーストームじゃ、威力なんて小さいけど。でも。似たような魔法なら使える!!
同じじゃなくても……ものまねぐらいなら、私だって出来るんだ!
紅炎の嵐と紅炎の弾丸二発。それは大きな炎を纏いブリザードめがけて、飛んで行った。さすがにイフリートみたいに、どかん! と大きな球にはなってくれないけど。
でも……猛吹雪と私の紅炎の魔法はぶつかった。
熱風なのか吹雪なのかわからない風。それを受けながら、私は炎と吹雪の競り合いを見つめていた。
燃える紅炎の弾丸が吹雪を弾いたのは、そんな時だった。
それはーー、私がライムスに勝った証だったのだ。