第18話 フォルスさんの想い
ーー目を開けると……ぼんやりと、灯り。高い天井……。それに暖かい。
え……? なに? なんで天井っ!?
私は木の天井が見えたのでびっくりだ。それに背中には、柔らかな感触。しかも身体の上にも何やら暖かなものが、掛けられてる感触。
何よりも私の隣。そこにあったかい何かの気配。
「……シロくん……?」
隣ですーすーと寝息たてるシロくんがいた。毛布みたいのにくるまって、私の隣で寝ていた。
添い寝されてた?? ってこと??
「気がついたみたいだね。」
その声は聞き覚えあった。私はシロくんを起こさない様に気をつけながら、体を起こした。
どうやらベッドの上にいる様だ。それに近寄ってくるのは……
「あ。フォルスさん? え? すみません。休ませてくれたってこと??」
「やり過ぎましたね。今回は。君のお連れ……ネフェルくんだったかな? 怒られてしまいましたよ。」
ベッドの脇に立ったのはフォルスさんだった。とっても優しい顔で、見おろしていた。何だか……飛翠と戦っていた時と……雰囲気が違う。
ギスギス! ってのがない。
「ネフェルさん?」
「ちょっとムキになってしまいました。」
フォルスさんはにっこりと笑った。
「え? どうゆうことですか? 人間を嫌ってるんでしたっけ?」
あ! 言ってからちょっと後悔した。寝起きでぼーっとしてたからか、すんなりと言ってしまったのだ。フォルスさんは少しだけ、苦い顔をした。
「そう思わせる事が出来たのなら、私は天才ですね。そう思わせようとしていたのは、事実だから。」
「え? それって……わざと?」
どうゆうことなんだろう? でも今、ここにいるフォルスさんはさっきまでと違う。そうウソっぽい笑い方じゃない。
「殺意を持って望む。そうじゃないとただの手合わせになってしまうでしょう? 私が教えたかったのは……“魔法剣を使う敵”なのだから。」
フォルスさんはベッド脇にあるイスに腰掛けた。
「それって……イレーネ王のこと?」
「いえ。それだけじゃありません。この世界には、魔法剣を使う者はたくさんいます。君達が出会うかどうかは、わかりませんが。」
わざと……飛翠を……キレさせたってこと??
「剣を交えれば……相手の性質が見える。飛翠くんは……私の殺意を感じ取っていたんでしょうね。」
フォルスさんはそう言った。
飛翠がブチッとしてしまったのは、ソレだ。そう。戦う気マンマンなのに、フォルスさんが優しさを見せてたから、余計にハラがたったのだろう。
ウソついてる。それがわかったからだ。
「なんで……そんな事。ハッキリ言ってすごいイヤなヤツにしか、見えませんでしたよ?」
「悪役を演じるのも大変だ。それは良くわかりました。」
にこっと笑うフォルスさん。はぁ。なんだかなぁ。今はイヤミっぽくもないし、とってもいい人。そう見える微笑みだ。
「ですが……それが“目的”です。より強い臨場感を与えること。本物の戦いの中にいる。飛翠くんにはそう思って貰わないと意味がない。敵だと認識して貰う事で、はじめて……“本気”になるし、恐怖も感じ取る。死ぬかもしれない。そう思える」
フォルスさんは笑ってなかった。戦いの時は、本音や本心を隠す為に……微笑えんでたんだろうな。と、私にもわかったのだ。
「そっか。いつもは……“試練”みたいなものだから、油断はしてないけど……死ぬかも。とは思ってないって事ですよね?」
と、言いつつもこれは飛翠だけだろう。と、思ったのだ。私は常に死ぬかもしれないからだ。支配者って……とてもじゃないけど、試練。って感じじゃないんだもん。
みんな本気だったよね? 私はひやひやですよ。毎度。
「ええ。彼に剣技を伝授すること。それが目的ですからね。ああして、支えようと付いてくるぐらいです。お優しいのでしょう。」
と、フォルスさんはベッドの脇の窓を見つめたのだ。私も思わず見た。
窓の向こうには氷の洞窟があった。どうやらこのお家は、洞窟の中にあるみたいだ。
そこでガルパトスさんと手合わせしてる飛翠がいた。それを見て声を掛けてるのか。笑うハウザーさんと、ネフェルさんもいる。
それにグリードさんも。
元気だね。本当に。
「薄情だと思いますか?」
「えっ!?」
私はビックリしてフォルスさんを見たのだ。
そんな事は思わなかったけど……。心配して傍にいてくれるシロくんを、見てしまった。
「飛翠くんが言い出したんです。“動いてねーと、イラつく”だそうですよ。貴女に無理をさせた事。それに気が付かなかったこと。色んな想いが、彼の中で渦巻いてたんでしょうね。貴女の寝てる顔を見ているのが、しんどそうでした。」
フォルスさんの声に私は……ぎゅっ。と、フワフワの毛布を掴んでいた。
そうなんだ……。飛翠。
「絆の強さが良くわかりました。魔法剣は絆です。お互いの力を認め合い、高め合い信頼し合うこと。そうでなければ……持続と継続は勿論。強力な力にはなりません。」
「信頼……」
私はフォルスさんを見つめた。フォルスさんは微笑んでいた。
「貴女たちの魔法剣はどうやら……“特別”なもの。の様だ。それには貴女方の武器も関係しているでしょう。不思議なロッドです。見させて貰いました。」
ベッド脇の壁に立てかけてある私のロッド。フォルスさんはそれを見つめたのだ。紫に煌めくロッドだ。
「そうなんですか? 何がなんなのかわからないんですけど。」
「魔法とは想いです。それは時に“想像を超えた力”を発揮します。まるで命を持ってる様なロッドと、貴女たちの絆。」
フォルスさんは、私を見たのだ。
「それが貴女たちの魔法剣を生み出したんでしょうね。大切にしてください。それは貴女たちの力だ。特別なものだ。」
絆……特別。私達にしか出来ないこと。
私はフォルスさんの言葉を心の中で、繰り返していた。フォルスさんは立ち上がったのだ。
「今夜はここで泊まって……明日。支配者の所へ案内しましょう。」
「あの……有難う御座いました! それに何か……ごめんなさい! 色々と言ってしまって!」
フォルスさんはくすっと微笑んでいた。
「貴女は何も。あそこで剣を振ってる飛翠くん。だと思いますけどね。」
と、そう言ったのだ。
ま。たしかに。毒を吐いたのは飛翠だ。いつもの事だけど。私はこうして……飛翠の代わりに、謝る事も多いのだ。何しろあの方は俺様なので。
本当に困ったちゃんだよ。
「いつもの事ですから。」
「そうですか。純愛ですね。聞いてて羨ましくなりましたよ。」
フォルスさんのその声に、私はぎくっとしてしまった。あーそうだった。私はみんなの前で大胆にも告ったのだった。
ど……どうしましょ?? 飛翠に会わせる顔がないなぁ。言っちゃったのは私なんだけど。
忘れていた……。
「それに……“仲間”と言うより、家族の様だ。貴女たちは。それもとても羨ましいことです。」
フォルスさんはシロくんを見ていた。微笑ましそうに。私は……隣で疲れてしまったのか、ぐっすりと眠るシロくんの、ふわふわの頭を撫でた。
ムニャ……と口が動く。なので、手を離した。起こしちゃ可哀想だよね。
「ありがとう。シロくん」
私はそう言ってから窓の外を見つめた。楽しそうに剣を振る飛翠たちを。
▷▷▷
「ごめんなさい!! 寝てしまいました!!」
翌朝だ。と言ってもよくわからない。洞窟の中にある小屋だから。太陽とか見えないし、でもフォルスさんが起こしに来てくれたのだ。
で……ベッドの上で必死に謝るシロくん。
「ぜーんぜん! お陰でぐっすりです。私も。ありがとう。」
そうなのだ。シロくんをぎゅっとして寝たので、とっても寝れた。爆睡ですよ。お陰ですっきり。
「それなら……良いのですが……」
私とシロくんは、ベッドから降りる。フォルスさんは、くすくすと笑っていた。
「ご気分は良さそうだ。」
「はい。ありがとう御座います!」
ふかふかベットだったし。すっごい寝心地良かった。
「では。参りましょうか。皆さんお待ちですよ。」
フォルスさんの声に、私とシロくんは
「「はい!!」」
と、元気良く返事した。
今日は……樹氷の支配者に会うのだ。私が……戦う番だ。
私はロッドをぎゅっと握りしめた。