第16話 氷の決闘! 飛翠! 君は熱い!!
ーー氷の大剣。それと飛翠の大剣がぶつかる音。どっちも押して引いては、離れる。
何だか……飛翠の動きはぎこちない。いつもみたいに、積極的に前にいかない。
引いたと思ったら直ぐに離れる。
いつもならここで! 必殺のーーと、いくところなんだけど。はーはー。と、少し息もあがってる。珍しい。
やっぱり……あの氷の魔法みたいな力。魔法なのかな? でも大剣から放たれてたよね? あれは魔法剣なのかな?
わからない! 私達の使った魔法剣は、アレはノリみたいなものだし。何が正解なんてわからない。
「押されてんな。飛翠」
そんな事を考えてるとグリードさんが、言ったのだ。するといつもならとってもおっかなそうな顔しながら、少し引いて見てるシロくんが
「でも。狙ってます。飛翠さんは。あんな魔法みたいな剣に、負けませんよ」
と、そう言ったのだ。
すごい真剣な顔だ。
「シロくんは魔法剣が嫌いなの?」
「嫌いではないですが。剣と剣の勝負です! アレは卑怯です! 凍らせるなんて!」
くわっ!! と、まぁるいお目々が広がった。鼻息まで荒い。
「そ……そっか。」
私がそう言った時だ。
「飛翠くん!」
ネフェルさんの声が響いた。と、同時に
「飛翠!」
ハウザーさんの声までも。どっちも緊迫した声だ。私もハッとして視線を向けた。
飛翠の身体が吹き飛んできた。コッチまで。
「飛翠!!」
全身だった。まるで乱撃でも受けたみたいにズタズタに斬りつけられてた。血だらけだった。
はぁ……はぁ……
息が荒い。それに呼吸も苦しそうだ。何よりも身体が冷たい。まるで……氷みたいだ。
「冷気の斬撃です。魔法で言えばウィンドカッターの様な……乱発された氷の刃。それで斬りつけられたんですね。」
ネフェルさんは青白い顔をしている飛翠の脇に、しゃがみこんだ。
「え? なにそれ。剣技なの?」
私はぐったりしてまるで……凍えている飛翠の、身体を抱いていた。
起こしたけど……目を開けてくれない。
「魔法剣ですよ。貴女たちが使ったのは、僕にもわかりませんが……見た事ない魔法剣でした。本来はこうして魔法と剣技が一体化して、相手を攻撃するものです。」
え? それはどうゆうこと?? 私達のは……ニセモノ!? ってこと??
「ネフェル。大丈夫なのか? 飛翠は。」
「なぁ? 姉ちゃん! さっさと魔法で治してやってくれよ! 死んじまうよ!」
ハウザーさんとグリードさんは、もう顔面蒼白だ。こんな血だらけでしかもぐったりしてるのは、始めて見るからだろう。
私はこの前見たので……。さすがに少しは……慣れたけど、でも心配は心配。
「飛翠さん!」
シロくんも隣で泣きそうになっていた。
「魔法……」
私がロッドを掴むと
「少し待ってください。」
ネフェルさんが私の右手を掴んだ。その顔はとても恐いほど、厳しいものだった。でも、直ぐにフォルスさんの方を見たのだ。
「治療はしてもいいのか?」
ネフェルさんの声は……とても冷たかった。怒ってる? こんな冷たい声は聞いたことない。
「どうぞ。“試練”ですから。」
フォルスさんは微笑んだ。でも、ネフェルさんは……私の手を掴む手に少し力を入れていた。強く掴まれていた。
振り返ると
「蒼華ちゃん。魔法を」
そう言った。
「は……はい!」
びっくりするほど……恐い顔だった。こんなネフェルさんのおっかない顔は見たことない。
でも
「どいつもこいつも……やり過ぎだ」
ボソッとそう聞こえた。
私は飛翠にロッドを向けた。
「“水流の雫”」
回復魔法。それを使えばこの傷は治る。飛翠は……きっと立ち上がって大剣持って……突っ込むよね。
私は蒼い光に包まれる飛翠を見ながら、何とも言えない気持ちになってた。哀しいのか切ないのかわからなかった。
飛翠は傷が消えてゆくと目を開けた。顔も赤み増して、身体の冷たさもなくなった。
「ああ。助かった。やべーかと思った」
私を見上げ……少し笑った。
「大丈夫?」
飛翠は起き上がる。大剣を握った。やっぱり。
「ああ。ネフェル。あれは何だ? アイツが剣を振り下ろしたら身体が、動かなくなった。かと思えば……斬られてた。」
飛翠はもう立ち上がってネフェルさんに、話掛けていた。なんてスイッチ入るのが早いんだ。みんな、声を掛けられないでいる。
きっと大丈夫か? と言いたかったのだろう。
「魔法剣です。飛翠くん。覚えてますか? ライア……“海神ネプチューン”の、海竜刀。」
ネフェルさんは飛翠を見上げた。あ。海竜刀……。あれも、龍みたいになったりしたよね? 水が。
「ああ。」
飛翠は肩に大剣を乗せた。
「水の力を操り剣技を繰り出す刀。それに近いんです。魔法剣は。ただ、威力が魔法同様。そこに斬撃がつくと思ってください。」
ネフェルさんはそう言った。
「あーなるほどな。だから凍ったのか。アレは……蒼華が使う魔法に似てたな。」
飛翠は私を見たのだ。
「“樹氷”?」
「ああ。」
私の声に飛翠は頷いていた。
「海竜刀ってのは“斬撃そのものが海竜の力”を放つ剣技だ。剣技で返せる。だが、魔法剣は魔法だ。いつもみたいに跳ね返せない。わかるな?」
ハウザーさんがいつにも増して真剣だ。そうか。相手は魔法使い。そう思った方がいいんだ。きっと。
「はね返そうとしたら……その上から、吹雪みたいので攻撃された。それにアイツが剣を振るだけで、氷の風みてーので攻撃される。そうか。そう言う事か。」
飛翠は大剣を振り下ろした。
「魔法には魔法で。剣技には剣技で。これはルールだ。曲げられない。飛翠。諦めろ。魔法剣を使えないお前じゃ……」
ハウザーさんの声に
「使える! 大丈夫!」
私は立ち上がっていたのだ。彼の言葉を遮った。
「は?? いつの間にだ? まだアズール魔導館に行ってないよな? 鍛錬するんじゃなかったか? ネフェル。」
ハウザーさんはとってもとっても驚いていた。だが、ネフェルさんは
「破天荒コンビなので……、僕にも良くわからないのですが……。確かに魔法剣もどき。は使える様です。」
ため息つきつつも立ち上がっていた。
「もどきって!」
私は思わずそう言っていた。
「僕も見ました! 飛翠さんが炎の“鳥”みたいになったんです! 飛んで行ったんです!」
シロくんは目を輝かせ興奮した様に言ってくれたのだが……。
いや。あれは火だるまで吹っ飛んだだけです。火の鳥は言い過ぎ。
「へぇ? 飛翠。そんな事もできんのか? なんだ。心配してソンしちゃったな〜」
「心配したのか?」
「するだろ。そりゃ。親友なんだからな。オレらは。そう言うことなんだろ? ダチって。」
え??
私は驚いてしまった。親友?? あの飛翠が!? グリードさんにそう言ったの??
孤高で俺様で男子からは……恐いから、言う事聞く。みたいな態度されてる飛翠がっ!? 直ぐに拳と蹴りがでるからね。
隼人くんしか親友なんていない……あの飛翠がっ!? ウソでしょっ!? スゴいんだけど! イシュタリア!! なにこの世界! 飛翠を変えた……。
私はフラつきそうになってしまった。でも、少しテレた様に笑う飛翠に、嬉しくも思った。なんのしがらみも無いから……素直になれるのかも。
「それならやってみるだけの価値はあるな。」
ハウザーさんがふとそう言った。
「蒼華ちゃん。いけますか?」
ネフェルさんが私の肩に手をぽんっと乗せた。
「はい」
私が頷くと
「僕は……確かに偶然。君たちに出会った。でもそれはきっと……“死んだ恋人”が引き合わせた。そう思ってます。」
真っ直ぐと見つめられ、ネフェルさんは真剣な顔でそう言った。
「これでも心配してるんですよ。でも……優しくするだけが……“見守り”ではない。力になると言うことは、優しさだけでは通らない。蒼華ちゃん。僕は飛翠くんも好きだが、貴女のその破天荒な強さと、素直さは大好きですよ。」
え??
驚いてしまった。
始めてそんな事を言われたからだ。ネフェルさんは優しいけど……冷たい。とか思ってた私が……恥ずかしくなってしまった。
「いえ。有難う御座います。」
嬉しかった。ダメダメじゃなかった。私。褒められた。
飛翠は大剣を握りフォルスさんと向き合う。
「復活ですね。それは良かった。」
「力を貸してーだと? ウソだな。お前……ホントは、ブッつぶしてーだけだろ。人間を。」
にっこりと微笑んむフォルスさんに、飛翠はそうふっかけた。でも、フォルスさんは変わらない。微笑んだままだ。
「本当ですよ。私は気にいってます。人間を。だから、こうして付き合ってます。嫌いだったら殺してますよ。最初に。」
フォルスさんは微笑みながらそう言った。なんだかゾッとした。微笑んでるけど……ウソなんじゃないかと思った。
「胡散臭せーんだよ。お前。俺は元々そうやって何がおもしれーのかわかんねーが、微笑んでれば何とかなるみてーなのが、一番イラつく。」
飛翠のその言葉に、少しだけフォルスさんが止まった気がした。微笑んでるけど。
「その癖……見えねーとこで他人批判。微笑んで隠してるよーに見えてもな、出てるんだよ。心の汚さってのは。顔に。仕草に目に。雰囲気に。バカにしてるのがミエミエだ。」
飛翠はフォルスさんの表情が固まっても、やめなかった。
「嫌いなら嫌いと言えるヤツが本当は強い。誤魔化すなら一生誤魔化す覚悟で、仏様みてーな顔して他人に気づかれねーヤツが最強だ。こうやってバレたら何の意味もねーし、途中で心折れるなら最初っから勝負しろよ。中途半端が一番ダセーんだよ。」
言い切った〜………。あ。皆さんびっくりしますよね? これ。ウチの学校の男子のハナシ。それにケンカふっかけたときそのまんま。の、テンプレです。
カブったんだろーなぁ。フォルスさんの微笑みが。イジメに遭ってたクラスの男子。いっつも微笑んでて、本当に普通の子。可哀想だったのは確か。えげつなかった。
でも、彼は裏でネット批判してて、イジメに加担してたクラスの女子を自殺に追い込んだ。もう誹謗中傷の嵐。彼女の見た事ない裸の写真まで、SNSでバラまいた。
報復であり……当然の報い。彼女を選んだのは、目立っていたし、いつもイジメてきたから。
男相手ではなく……女を選んだ。飛翠はそれを知って……ケンカふっかけたんです。熱いんです!! 彼は。とっても。
すみません。脱線しました。
「君は……思っていた以上に、真っ直ぐだね。そうか。そんなに殺されたいか?」
おや? フォルスさんの顔色が変わりましたね。これは、本性だしますかね?
「殺れるモンなら殺ってみろ。俺は……お前みたいなヤツはクソだと思ってるからな。簡単に殺られねー。」
と、言うことは、私の出番だ!
私は飛翠にロッドを向けた。
「“紅炎の剣”!!」
紅炎の弾丸が飛翠に向かって吹っ飛んだ。真っ赤な炎の塊。それに身体を包まれ飛翠は、フォルスさんに向かって吹っ飛んでいった。
フォルスさんはそれを見て剣を構えた。
紅炎VS氷!
ようやく決着がつきそうだった。




