第15話 衝撃!!アイスマンはエルフだった!
ーー氷ばっかの広い場所。
そこにきらきら氷の身体をしたアイスマン……。ああ。エルフだった。
樹氷の妖精。フォルスさんは、やっぱり氷みたいな剣を持っている。
しかもデカい。大剣だ。霜が纏う冷たそうな剣。夏に抱いて寝たら……気持ちよさそうだよね。
「さて。見てわかると思うが……私が、使うのはこの……“樹氷の刀剣”。だが……」
ライムカリバー??
なんかお菓子とかでありそうだな。スゴい鋭い刃を、飛翠に向けてるけど。
「君は……。ああ。名は?」
「は??」
そりゃ驚くよね。この話の流れで、名前を聞かれるとは思わないよね。
私は後ろで飛翠の声に、うんうん。と頷いていた。
「名前だ。名も知らぬ相手と剣を交えても、面白くもないだろう。」
フォルスさんは笑った。なんか……楽しんでるのが、すっごいわかる。眼も氷みたいだから、冷たい感じするけど。
「柏木飛翠だ。」
飛翠がそう答えると、フォルスさんは少しだけ目を丸くした。だが、直ぐににこり。と、笑った。
「ああ。そうか。なるほど。だから……タイミング的に……“この感じ”なのか。」
フォルスさんはぶつぶつと言ったのだ。独り言みたいだった。
「は? なんなんだ? さっさとしてくんねー?」
イラっとしてるのがわかる。飛翠の声はちょっと……キレ気味だった。短気だなぁ。もう。
「いや。すまない。では……話を戻そう。“君は樹氷の刀剣”相手に、どうやって戦う?」
フォルスさんは……とってもマイペースなんだな。くすっと微笑んだのだ。それに……我慢ならない。とってもわかりやすい飛翠は、
「あー。イラつくな。」
と、ひと声。突っ込んでいった。
でしょうね。この感じは、イラっとするでしょうね。貴方は。
私はそう思いながら飛翠が、飛び掛かるのを見ていた。だが、フォルスさんの身体はまるで霧氷。霧みたいな蒸気に、包まれていた。
あの大きな氷の大剣も。
「“樹氷の霧剣”」
斬り掛かろうとして、大剣持ち飛び上がった飛翠に、フォルスさんは氷の大剣を両手で持って、胸元に翳しただけだった。
なのに……飛翠は巻き起こる吹雪。それに吹き飛ばされていたのだ。
「な……なにあれ。」
私はたくさんの氷の粒。その吹雪だ。雪じゃない。突風みたいだった。それに吹き飛ばされた飛翠を見て……そう言っていた。
「なんだ?」
飛翠は起き上がったが、自分の腕や足。更に身体につく霧氷。それらを見て驚いていた。
ただ、氷ついてはいないのか……手を動かし、身体についた霧氷を払っていた。ぱんぱんと。
「試し。なので、加減はしました。もう少し強く撃てば、瞬間凍結させる事が出来ます。」
フォルスさんは大剣を降ろした。
「魔法か?」
飛翠はそう聞いた。すると、フォルスさんはにこり。と、微笑んだのだ。
「君達を後押ししてくれてる“方”は、とても厄介な人みたいだね。まるで……“修行の道”だ。ここに来て……ようやく“魔法剣”に、辿り着かせるとは。」
フォルスさんはそう笑ったのだ。
え? それってまさか。
「まさか……あのジジィか?」
飛翠がそう言うと、フォルスさんはこっちを見たのだ。私ーー、ではない。隣にいるネフェルさん。それにハウザーさん。その二人を見たのだ。
「偶然に出逢った仲間たちは、君達を見れば……“段階を踏んで連れて行く”。そう思ったんだろうね。いきなり、私の所には連れて来ないだろう。幾ら、“防御耐性”のある闘衣を着ていても……、万能ではないからね。」
と、フォルスさんは言うと……私を見たのだ。
「それに。イフリートの様に“心優しくない”んだ。ここの“支配者”は。君は……“凍死でジ・エンド”だったと思うよ。」
え!? なにそのまさかの衝撃的発言!? 殺害予告!?
しかもめちゃくちゃ微笑んでるけど!!
飛翠が私をチラ見した。
「あー……何とかしそうだけどな。アイツなら。」
と、そう言ったのだ。
え!? 今のは褒めてますか!? それ! 絶対にバカにしてるよね!?
「それ。」
だが、フォルスさんは急にとても強い口調になった。まるで、突き刺す様な言い方だ。
「あ?」
「“何とかなる”。そんな世界じゃないんですよ。魔法と剣の世界は。君達は確かに……“光るモノ”は、持ってる。天性的なものかもしれないが、だが……ここからは、そうはいかない。その為に、今までの概念は捨て……イシュタリアの世界の力。それを認めること。」
フォルスさんの声に……飛翠は、何も言わなかった。私も何も言えなかった。
「“恐ろしい世界”だと認めることです。」
私は……無意識だった。ロッドを握っていた。たしかに、今までは何とかなる。そう思ってた。だって、魔法の世界だから。夢の世界だと、どこかで思ってた。
でも……イレーネ王の力。闇魔石のあの“視えないのに恐怖を感じる力”。あれを見てから、私も……飛翠も、感じている。
ここは……“とんでもない世界”だと。私も飛翠も、ヘタしたら……“死ぬ”。
それは……昨日。話したばっかりだ。だから、フォルスさんに言われて……ちょっと、恐くなった。他人から言われると……それも、イシュタリアの人に言われると……現実なのか。と、思えるからだ。
「そんな事はわかってんだよ。だからこうして……強くなろうとしてる。俺もアイツも。」
飛翠……。
彼は昨日もそう言った。
『変わらねー。強くなるしかない。それは……来た時と同じだ。』
そう言ってた。だから私も……そう思ってる。
私は前を向いた。フォルスさんと飛翠を見つめた。
「君達を見守る“この世界の大人たち”は、強くなって貰う為に……、行動を共にし、更に敢えて……“肝心な助言”はしない。君達が強くなるには、“己の心が強くならなくてはならない”から。この世界の恐ろしさを知っているからだ。」
フォルスさんの声に、私はネフェルさんとハウザーさんを見た。
二人は私を見ていた。とても優しい目で。
そうか。何も言ってくれない。教えてくれないんじゃなくて……、見守ってくれてたんだ。私や飛翠が……、気づくのを。
飛翠はちょいちょい、気づいて……強さを出してるけど。私は……やっと。だ。勢いだけで乗り越えてきたけど、何となくわかってきた。魔法ってものが。それに……戦うってことも。
飛翠じゃないな。私の為だ。私はきっと言われても、理解できない。経験しないと納得しない。属性だ。魔力だ。と、あれやこれやと説明されても……理解できない。
そうか。だから……みんな。言葉を濁してたんだ。言ってもわからない。経験すればわかる。その時に、サポート出来る事はするよ。そんな感じだったんだ。
私が……飛翠が……この世界の人間じゃないから。
そう。私が……“弱くてアマちゃん”だから。頼りっぱなしで、逃げ出す気100%のガキだから。私は。
でも……考えること。どうすればいいのか……答えを、自分で見つけること。探すこと。
「私達は逃げない! そう決めたから。だから、ここをさっさと出て、樹氷の支配者とやらも倒して……あのバカ親父を倒すの! そう決めたの!」
私はーー、フォルスさんにそう叫んでいた。無意識に。
フォルスさんは微笑んだ。
「なるほど。それでは……力を貸しましょう。飛翠くん。君に”魔法“の恐ろしさ。それを教えてあげよう。」
剣を構えフォルスさんは、そう笑った。優しい笑いなのだが
「ヤバいですね。」
ネフェルさんは隣でそう言ったのだ。
え!? このヤバい。は……ホントのヤバいだよね?
私がそう思っていると
「“樹氷の塔”」
フォルスさんは飛翠に向けて氷の大剣を、突き出し構えたままそう言った。
だけど……フォルスさんの身体からとてつもない、冷気。冷たい風が飛翠に向かっていった。
光とその冷たい風に包まれた飛翠は、一瞬だった。氷柱。まるで氷の岩石。それに包まれてしまったのだ。
「飛翠!!」
私は目の前で氷漬けにされた飛翠に、頭が真っ白になった。当たり前だけど……氷の岩石の中で、大剣を構えたまま動かない。
凍結してしまった。
「飛翠……」
グリードさんが、背中からアックスを取り構えた。だが
「手出しは無用。これは彼の勝負。さて、どうするかな?」
フォルスさんがそう言ったのだ。
「どうする。ってなによ! 氷漬けじゃなにも出来ないでしょ!?」
と、私がそう言った時だった。
ゴッ!!
物凄い音がした。それは氷の岩石が割れる音だった。それも紅炎。それが氷の岩石を壊したのだ。
バラバラ……と、崩れていく氷の岩石。飛翠は地面にしゃがんでいた。
「飛翠!!」
私は駆け出していた。
「あぶねー。魔石の事を忘れてたら……終わってたな。」
飛翠はそんな事を言いながら立ち上がった。
「え? 平気なの? ねぇ? なんで?」
「知るか。アレじゃねーの? 武器が進化したから、魔石の力を“強く”してくれてんじゃねーの? なんかもー……ワケわかんねー。」
飛翠は大剣を構えながらそう言った。
「いや。そーじゃなくて! 身体! 氷ったでしょ!?」
ソッチ! 私が言いたいのは! 魔法とか魔石なんてどーでもいい! 飛翠の身体! ソッチが心配!
「さぁな。ま。死なねー。いつもそう思ってるからじゃねーの? つーか邪魔。どけ。」
飛翠はフッと笑った。
最後はいつもの口調で強めだったけど。でも、フォルスさんの方に、少し近寄った。
「……そ……そんなんで……誤魔化してばっか! 私は、心配してるんだけど!!」
と……なんでだろうか。今……言う事じゃないのに。言ってしまった。
飛翠は振り返りはしなかったけど
「わかってねーな。“お前を残して死なねー”。そう言ってんだけど?」
少し……優しい声だけが聞こえた。
あ……。飛翠が強いのは……死ねないと……思ってるのは、私がいるから……?
でも、フォルスさんと飛翠の戦いははじまってしまった。




