第12話 碧風の支配者を求めて
ーー飛翠は鉱山の洞窟で、ガルパトスさん。彼に剣技を、伝授されていた。
またもや形態模写。完全なるガルパトスさんのコピーを、隣で真剣な顔でやっている。
私は少し笑ってしまった。
今回はガルパトスさんが二刀流なので、これまた丁寧に、剣を一本だけ持ち教えていた。
それを見て……、私は戦う男の人たちとは、熱く優しいのだな。と、思った。
なので……“飛翠の指導者”は、これで二人になったのだ。
「えっと……ガルパトスさん。着いて来ちゃっていいんですか? 他の人……困りません?」
私は洞窟を一緒に歩いているガルパトスさんに、そう聞いた。
だが、彼は二本の剣を背中に☓の様に背負い……
「ああ。ヒマだからな。」
と、言ったのだ。
暗めのブラウンの髪。オールバックでやっぱりなんかおっかない。
それに左頬の傷。斜めにざっくり。これも戦いの勲章とやらなのかな?
それに紅茶色の眼。
「ヒマ? 剣技伝授の為にこんなところにいんだろ? 人間は来ねぇのか?」
グリードさんが、そう聞いた。
蒼いハスキー犬に似たコボルトさん。両耳は黒。ぴんっとしてる。額についてる三日月の傷が、気になるんだよねー。
「来る訳がない。支配者に会う魔導士見習い。それと一緒について回る戦士見習い。ソイツらが居た頃は、流行ったが……。殆ど廃業だ。修行と遺跡警護。その為にいる様なもんだ。」
ガルパトスさんは、ため息ついた。なんか……切実だな。でもなー。どっちもおっかないから、人も寄り付かないんじゃないんでしょうか?
痛い思いしなくても……いい時代になった。って事なのかなぁ?
「参っちゃうよな〜。今回の件で廃業だよな。完全に。支配者いねぇし。居る意味がない。」
ハウザーさんの声に、私は
「すみませんね。」
と、言っておいた。
「嬢ちゃんのせいじゃないだろ。ヤヌスだ。ヤヌスが悪い!」
ハウザーさんは慌てた様にそう言ったのだ。隣では、うんうん。と、ガルパトスさんも頷いてくれていた。
なんだかなぁ〜……。
「さて。そろそろ次の目的地について、話してもいいですか?」
鉱山の出口。
そこで、ネフェルさんは振り返った。
あらら。銀色のおめめが恐いですけど?
「はい。お願いします。」
私は……頷いた。
▷▷▷
鉱山を歩き……入口とは逆。そこから出ると、ガトーの大河が広がっていた。
キラキラ光る水面。しかし広い。イシュタリア。
ここから、海列車に乗って、フィランデル王国方面へ。
更に大陸を渡る。カンダカン大陸。そこに、風臥の砦。更に白氷の支配者のいる“シエラ雪原”が、あるらしい。
ここからだと、先に風臥の砦。そこに行くのが早いそうで、私達はガトーの大河の最北端。
大河の終わり。“サウス”と言う港街から海へ向かうのだった。
「うわぁ〜〜。めっちゃ速い!!」
まぁまるで、豪華な船旅!
とっても大きな船だ。今まで乗っていた船よりも大きい。ちょっとフェリーみたいだ。
あそこまでどーん。って感じじゃないけど。
「これが……紅炎石と大地の原石で動いてるんだよな? スゴくね?」
「スゴいよね〜。溶岩みたいになってるんだよ。きっと。」
私と飛翠は手すりに捕まりながら、大海原!!
波を切り走る船の上で、そんな話をしたのだ。
「ヤッホ~〜〜〜!!」
私は両手全開。風を受けながら叫んでいた。
「山じゃねーだろ。」
「他に思い浮かばなかった。」
と言う訳で、向かうは風臥の砦!!
▷▷▷
砦……。
森の奥地。なんだかとってもいや〜な感じのする薄気味悪いところだった。
しかも、今にも後ろとかから何かが出てきそうだ。
あんなに晴れてたのに、この森に入ったら薄暗くなってしまった。更に目の前に聳える緑色の山。
砦と言うか山だ。これは。
それにさっきから凄い風の音。ここは風に吹かれてないけど、まるで山が鳴いてるみたいだ。
「行きましょう」
ネフェルさんの声で、私達は風臥の砦と呼ばれる山。そこを登ることになった。
とは言っても、山の中の洞窟。そこを登っていくみたいだ。
「風が吹いてる……」
洞窟の中は空洞だ。天井まで突き抜けている。私達は、その周りをぐるっと囲む様な道。それを登っている。
竜巻。そんな渦の風が、空洞で吹いていた。
私達に当たるのはそよそよだけど、この螺旋階段みたいな中心。そこの風は竜巻で強そうだった。
「何処にいるんですか?」
私がそう聞くと先頭を歩くネフェルさんは、
「頂上にいますよ。」
そう言ったのだ。
風の支配者ってことだよね。なんだろ? 鳥? 獣? 神獣って言うんだから……動物系かな?
とか、考えているうちに頂上についたのだった。
「え……??」
う……ウソでしょ!?
そうなのだ。頂上は、洞窟を抜けると崖!
そこにカーミラさんと結晶。碧の大きな石の塊があったのだ。
辺りはとっても広い山岳地帯が望める。それに森。
「なにここ? 崖の上!? こんなとこで戦うの!?」
囲いなんてない。風の吹く崖。
足場は広いし草とかも生えてるけど、ほとんど東○タワーの展望台だよね!? この高さ!!
有り得ないんですけど。
「救世主。心の準備はいいか? 本日二度目だが。」
カーミラさんは、碧の結晶に手を翳したのだ。
私はロッドを握り、とりあえず足元見ながら前に……進んだ。
あんまりそっちには行けない。
てかよく立ってられますね!? そこ! 崖の端だけど!? 風に煽られて吹き飛ばされません!?
そうなのだ。カーミラさんの黒いローブ。それが、足元でひらひら揺れてるのだ。
全身……また被ってるけど。
「出でよ! “碧風の支配者”!! “アトモーネス”!!」
カーミラさんの声で、碧い結晶は光り輝く。魔石と同じ。碧だ。
ブワッと竜巻に包まれて現れたのは、巨大な鳥。
碧の翼を広げ竜巻の中から現れたのだ。
「きゃっ!」
風ーーに、私は煽られた。
な……なんでこう……ド派手な演出で、出てくるの!? これはお決まり!?
全身……碧かと思いきやお腹は白い。なんか顔はペンギンに似てる。それにしても大きな足! ニワトリみたいな足だ。
ゆらゆらと頭の上で揺れるエメラルドグリーンの、羽根の様なトサカ。なのかな?
羽根にしか見えないんだけど。年末の歌番に出る歌手がつけてるやつ。
でも、顔はペンギン。だけど……眼は、深い緑だ。
デカい……。本当に。カーミラさんが、小人みたい。
のしのしと、私の方に近づくと頭を振った。エメラルドグリーンの羽根のトサカが、ゆらゆら揺れる。
「お前か? 救世主。」
うわ! 声高っ!! えっ!? メス!?
女性みたいな声だった。
「そ……そうです。」
じろっと見られて……思わず声が裏返ってしまった。
恐いってば!! なんでそんなに睨むの!? カラスか!?
「宜しい。来なさい。お前の力を見せてみよ。」
あら? 優しい。
頭を上げるアトモーネス。しかも翼まで折り畳んで、行儀よく立っていた。
なんですかね? 王者の余裕??
えっと……碧風の支配者だから、風。それに強いのは、氷。
ん?? あーまた!! 私って……どうしてこう運がないの!?
魔石の氷魔法しか使えない!!
私は頭を抱えてしまった。
「どうした? 救世主。お前の力を見せてみよ。我の力を借りたいのだろ?」
早くしろよ! と、飛翠に言われてる様な気分だ。アトモーネスはそんな顔をしていた。
「はい。」
私はロッドを握る。
しょうがない! いつものことだ!
「“樹氷”!!」
私のロッドの先で、白氷石は光る。青白い光だ。
氷の結晶。それは大きなアトモーネスの身体を、覆った。
パキーンと凍りつかせる様に。
威力は強くなってそうだけど……。何しろアトモーネスの身体は、氷の塊。そんな風になったのだ。
でも、パリーンと粉々に砕け散った。
ガラスみたいに。
ふるふると、頭を振るアトモーネス。羽根が揺れる。
「有り得ない。」
え!?
私はそのドスの効いた声。それに驚いた。
ブワッ!!
大きな翼を広げアトモーネスは、浮かんだ。
「有り得ない! 魔石で我と戦うつもりか!? 小娘!! 吹き飛ばしてくれる!!」
うわぁ!! キレた!! 眼が光った! 緑の眼が!!
口を開けたアトモーネス。
「“碧風の嵐”!!」
アトモーネスから放たれたのは、私の身体の下から巻き起こる風の竜巻。
「きゃあっ!!」
私は竜巻に巻き込まれその中で、切り刻まれていた。
身体が浮いているのがわかる。渦の中でぐるぐると、回転させられてるのも。
更に
「“碧風の旋空”!!」
竜巻が消えたかと思うと、私はまるでねずみ花火! ぐるぐる回る風の円。
それに身体が包まれていた。
身体が回転しながら、斬りつけられていく。
この円陣みたいのが、もう風の刃!!
痛くて堪らない! それに吹き飛ばされていた。
「蒼華!」
飛翠の声が聴こえた時には、私は地面に倒れていた。
うぅ……。痛いんですけど。全身から血が流れてませんか? これ。
腕とかくっついてるから、切断! まではいかないんだけど……でも、それに近いと思う。
もうどこが痛いのかわからない。とにかく痛い。涙が出てきた。
動けない。
どうしよう。手とか動かない。
回復薬とか……。
あ!!
私は思いついてしまった!
地面には私の手。そして右手。ロッドを握ってる。あら。血だらけ。だらっだらだ。
ホラー映画の死体みたいだ。
「……“水流の雫”……」
私はそう呟く様に言っていたのだ。
ポゥ。
ロッドが蒼く煌めく。温かな光。私はそれに包まれたのだ。
そうだった! 私は……回復魔法を使えるんだった!! リヴァイアサン!! この時ばかりは、ありがとう!! そして思い出した私はエラい!!
褒めてあげよう! あとで、チョコミントアイス奢ってもらおう。飛翠に。
あ。ないや。ここには。
私は光に包まれ身体から、痛いのが消えてゆくのを感じながら、しばしそんな事を思っていた。
「なるほど。水流は継承しているのか。」
アトモーネスの声が聞こえる。
私は……立ち上がっていた。
今の攻撃はちょっと……イラっとした。
私はロッドをアトモーネスに向けた。彼女は、地に降り立っていた。
「あんたね! 支配者なんでしょ!? 大人気ない! コッチは初心者! 見てわかるでしょ! この羽根アタマ!!」
頭にきたので、怒鳴っていた。
アトモーネスは目を丸くしたが、
「ほぉ? いい度胸だね。小娘」
頭を低くしたのだ。
「うっさい! 派手ペンギン!!」
ここから……私の反撃は始まるのだ。
はぁ。良かった。アミナス覚えてて。