第9話 アトモス公国▷▷行ってきます!!
ーー猫族の人たちとコボルトさん達に、お礼を言った。
カレンさんにも宜しく。と、お伝えしておいた。
シロくんはコボルトさん達から、がんばれよー! 未来の魔法使い! などと、茶化されていた。
うんうん。いいねー。そうゆうの!
と、私は思いつつ、あったかく見守った。
そしてーー、私と飛翠は旅に出る前に街のアイテムショップ。更に武器屋に立ち寄った。
本日のイベント!! それは、シロくんのロッド買わないと! である。
そうなのだ。シロくんにロッドを持って貰わないといけないのだ。
アドリア大公妃から……旅に必要な物を買いなさい。と、私達は2万コアも貰ったのだ!
なんていい人!! お陰様でマジックメイトいっぱい買えました!!
私と飛翠。そしてシロくんで、街中の武器屋に入ったのだ。
シロくんは大はしゃぎで、ショップの中を見回している。
飛翠は……放置で。
壁に立て掛けてある剣を、見ていた。
ショップの中はけっこう広い。色んな武器が、置いてある。カウンターにはおじさん。
「いらっしゃーい」
にこやかな顔をしていた。
私とシロくんは、ロッドが並ぶ所。その前に立つ。長いのもあるし、短いのもある。
「どれにする?」
「でも……僕。あんまり金貨ないです。」
シロくんは悲しそうな顔をしていた。
私はうふふ。と、笑ってみた。
シロくんの前にしゃがむ。
「おまかせあれ! ここはおねーさまがプレゼントします! シロくんにはコカトリスの時に、助けて貰ったからね。そのお礼。」
私がそう言うと、シロくんは蒼い瞳をまんまるくさせた。
「え? いいんですか!?」
はい! 待ってましたー! そのリアクション! この嬉しそうな顔!
うんうん。これよ! このカワイイ顔が見たかったのよ! おねーさんは。
なんかおばーちゃんが、孫にプレゼントする気持ちがわかる。
「いいに決まってるじゃーん!」
「でも……」
シロくんはカワイイ! あらあら。やっぱり。渋った。そうなの! このリアクションもわかってます!
俯いちゃった。
私は飛翠をチラ見した。
だが、飛翠は真剣に剣を見ている。全くコチラに無関心。
おい!! 打ち合わせしたろーが!!
「飛翠く〜ん。」
顔が引き攣りつつも、そう呼んだ。ちょっと優しく呼んでみた。
「あー……」
飛翠は頭を掻いた。
ちょっと気まずそうにしつつも、やって来たのだ。
早よ! 来いや!!
シロくんはきょとん。としているが、
「シロ。この女が買ってやる。なんてのは二度とねーぞ。ケチだからな。」
「違うだろ!!」
私は思わず立ち上がってしまった。
「……うるせーな。わかってるっつーの。」
飛翠は少々……不機嫌になりつつも、しゃがんだ。シロくんの前に。
「礼だ。助けて貰ったからな。俺達の気持ちだ。」
と、渋々ではあったが言った。
よし! 打ち合わせどーり! そうそう。優しい感じでナイスです! でもそこでちょっと微笑むとかしてほしいな。
「ですが……」
シロくんは頑固であった。頑なだ。だが……
「うるせーな。礼だ。って言ってる。ウダウダしてねーで、選べ。買え。」
飛翠は思いっきり睨みつけたのだ。
あちゃ〜〜。逆効果だよ。も〜〜。短気だな。
私は頭を抑えた。
「わかりました。」
え!? 納得しちゃった!? シロくんって押しに弱いの!?
私はシロくんが、ロッドを選び始めたのを見ると、驚いてしまった。
たくさん並んでるロッドから、私とシロくんで選んだ。私の好きな色。蒼。シロくんは、それを選んだのだった。
選んでるときも、お金を払うときもロッドを持ってずっとにこにこしてた。
嬉しそうだった。
それは、店を出てからも変わらなかった。私達の前を歩きながら、ロッドを眺めている。
「長くね? 短いのもあったよな?」
飛翠はシロくんのロッドを見て、そう言った。シロくんより高い。
でも、シロくんは
「いいんです! これがいいんです!」
両手で持ってやっぱりにこにこしながら、言ったのだ。
蒼いロッドの先は、十字架の様な槍になっていた。その下に、魔石をつける所がある。
シロくんは“紅炎石”。“碧風石”。“白氷石”を選んだのだ。使ってみたい魔法だそうだ。
どうやらこの世界のロッドには、武器として使うものが多いみたいだ。
さっきの武器屋にはまるで曲刀みたいなカタチの刃。それが先端についていたのもあった。
「ありがとう御座います!! 蒼華姉様! 飛翠さん!」
シロくんはくるり。と振り返るとそう言った。
とてもにこやかなのだが、私と飛翠は避けた。
「アブねーな。」
「シロくん。いきなりはやめようか?」
そうなのだ。ロッドを持っていない。その感じで振り返ったので、ぶんっと振り回す様になってしまったのだ。
「あ……ごめんなさい。」
シロくんはてへっと笑っていた。
あ〜カワイイ! なんてカワイイんでしょう! この生き物!!
▷▷▷
私達は、ひとまずアドリア大公妃のいる館に、戻った。公邸と言うそうだ。
「カルデラさんは? あれ? ローズさんは?」
戻ってくると、そこにはアドリア大公妃。それに、ミリア達。更にグリードさんとハウザーさん。ネフェルさん。
「ローズさんと一緒にフィランデル王国に行ったよ。だから、旅のメンツには入ってなかったんだ。」
教えてくれたのはラウルさんだった。
「フィランデル王国? あ。さっきの人たちと?」
私達は王城のエントランスにいる。
「そう。ちょっと……話があるんだって。」
ラウルさん……う〜ん?? なんか隠してるな? この顔は。なんかとっても目を反らしてるけど? わかりやすいんだよね。この人は。
ウソがつけないのだ。絶対。浮気がバレるタイプ。
「ラウルさん。もしかして戦争になるの?」
私がそう聞くと、ラウルさんの美し〜い顔は、ビクッ! と引き攣った。
物の見事に引き攣った。
「そ……それはどうかな? 何とも言えないけど……」
ピクピクしてるけど? 顔! ほっぺた!
「輝石か。アレが欲しいんだろ? あのちょび髭オヤジは。」
と、飛翠はそう言ったのだ。
すると黒髪に碧の瞳をしたちょっと、キツそうな美人。アドリア大公妃は真っ赤な扇子を揺らした。
「それはそうだろう。強力な力と言うのは、誰でも喉から手が出るほど欲しい。フィランデルにしてみれば、イレーネ王国を叩き潰すいい“武器”になるからな。」
何とも……毒々しい言い方だ。イメージでそう聞こえるだけかな? 元愛人とか聞いちゃったから、余計かも。
いかん。偏見じゃ!
「武器って……。それは元々……竜族のでしょう? 返さないといけないんじゃないの?」
ファイアードラゴンは、言ってた。使わないのは、イシュタリアを傷つけたくないから。なのに……人間は……、奪っただけじゃなくて……戦争の、兵器にしようとしてる。
そうゆう事だよね?
「戦争で勝ち取ったモノだ。返す気などないさ。イレーネ王は。それに奪えるモノなら奪いたい。フィランデルだけじゃない。他の国も思っている。脅威になるからね。」
アドリア大公妃は笑っていた。その笑みは、どうゆう意味なのかわからないけど、何だか……イヤな感じがした。
「ま。とりあえず行かね? ここにいてもラチあかねー。」
飛翠は隣でそう言った。
「そうですね。行きましょう。」
ネフェルさんだ。微笑んでいた。
「蒼華! アズール魔導館で逢いましょ! 魔導士になる為に!」
ミリアはアッシュピンク。その長い髪を揺らしながら、私の前に来るとそう言った。
マリーゴールドの眼が、とてもきらっとしていた。
「うん! 魔導館で!」
私とミリアは握手した。
ちらっと……“王子様”を見てしまった。蒼いセミロングの髪をしたワインレッドの眼。
セレストさん……魔導士の。ゆるふわなローブが何ともお美しい!
にこっと微笑んでくれた。
あかん!! それダメ! その微笑みは罪!!
「え!? ちょっと蒼華!!」
私はふらっと立ちくらみがしたのだ。へなへな〜と、しゃがみこんだ私に、ミリアは声をかけたのだった。
げし!
私は後ろから蹴り飛ばされた。
背中を。
「まじ。殺すぞ。お前」
「痛い……」
飛翠くん……手加減して。私はオンナです。
私は床に倒れながら思った。この人……浮気したら、まじおっかなそう。と。
✣
「行ってきまーす!!」
そんなこんなで、私達は旅に出発です! 見送ってくれたアドリア大公妃に、大きくぶんぶんと手を振った。
扇子ひらひら返してくれた。
「ネフェルさん。どこ行くんですか?」
「この近くに“ウラヌス鉱山”があります。そこに、“大地の支配者タイラント”がいます。」
と、ネフェルさんはアトモス公国から出ながら、そう言ったのだ。
「大地……」
タイラント? 何だか強そうだな。
「飛翠は“ガルパトス”。剣豪がいる。」
そう言ったのはハウザーさんだ。
「剣豪?」
飛翠はハウザーさんを見た。横目だが、とてもやる気満々。
イレーネ王との一戦は、彼に火をつけた。元々ついてたんだけど……さらに、ついてしまった。
ゴウゴウ燃えてるのだ。その胸中は。悔しさで。
「ああ。そうだ。鉱山の中にいる。」
ハウザーさんはにやっと笑った。またコッチも強そうだ。ハウザーさんのこの悪意っぽい、笑い方。なんとなくわかる。
「飛翠。ちょっと会わねーうちに、なんかカッコよくなったな? 筋肉ついたんじゃねぇか?」
蒼いコボルトのグリードさんは、飛翠の隣で二の腕をにぎにぎと、握っている。
「そうか?」
「ああ。すげぇぞ。筋肉。がっちがち!」
なんなんだろう? やっぱり。グリードさんとは合うんだな。触られても怒らないし。それに、カッコいいと言われて、ちょっと嬉しそうだし。
ハスキーに似てるから……“隼人くん”には、似てないけど、感じが似てるのかな?
「いいな。グリード。俺が触るとうるせぇぞ。コイツ。触るな! ってなもんだ。師匠なのによー。」
あらまー。ハウザーさんまで。飛翠の脇で二の腕を、触りだした。
「触るな」
「ほらな?」
それを振りほどく飛翠。
へへ。特権だな。 と、グリードさんは笑っていた。
何か不思議だ。こんなふうに飛翠にちょっかい出す人なんて、いなかった。
でも楽しそうだ。飛翠も。
と! 言う訳で、私達はウラヌス鉱山に向かって突き進むのであった!
心機一転! 魔法集めに奔走します!




