第3話 アトモス公国▷▷みんな!!会いたかったよ〜〜!!
ーー海列車はアトモス公国の港に、停まった。乗るときもそうだったけど、普通の港に横付け。
船みたいだ。
あ。そうそう。“海列車”って言うらしい。港について私と飛翠は、車輪が無い底面。気になったので見てみたが……。
何と驚き!!
底滑り!! 真っ平ら! まるで磁石の列車だ。海面とぴったりくっついて走っていたのだ。
底面から蒸気みたいに凍気。それがぶわぁっと出て、走りながら凍らせるんだとか。
運転手のおじさんに聞いちゃったよ。
海列車にも管理塔と言うのがあり、それで管理されてるから運転手の仕事は安全な海路横断。
監視役らしい。
来た。
ついに!!
アトモス公国!!
長かった。ここまで。かれこれ国をあっちこっちと。最初の目的地が、ここだったはず。
イレーネの城を逃げ出して、そこからここに来る!
地図で見たけどめっちゃ近い!!
随分な遠回りをしましたね。やっと目的地に着きましたよ。こんな旅行を、計画する彼氏がいたら、即別れるでしょう!!
間違いない!!
アトモス公国は貴族の国。と言うだけあって、とても綺麗な世界だった。
そう! まさしく! 私の思い描く国!
メルへ〜ンな世界! お姫様と王子様の世界です!
「わ〜……薔薇! 薔薇がすごい!」
何ということ!! 大きな薔薇の花壇! それが出迎えてくれる。
そしてこの開かれた門!!
港から入るにもやっぱり門はあるんだね。大きな港から、銀色の開かれた門。その先に薔薇の花壇! 円形で花時計みたいなやつ。
赤や青。黄色に白! ピンク〜〜! あーここにばさっと行きたい! そして私は待つのだ。あの先にある王城からやってくる白馬の王子様を!! ああ。そしてサラサラのブロンドの髪が、私を見下ろす!!
ばしんっ!!
思いっきり頭を引っ叩かれた。後ろから。
「痛い!!」
「痛くしてやった。いい加減にしろ。怯えてる」
えっ!?
私は目の前にいる皆様ーー、御一行の青ざめた顔を見て固まった。
何ということっ!? 正に舞台の様に演じてしまった!! グフグフと笑う妄想変態野郎を!!
きゃーっ!!
「大丈夫なの? あれ。」
「癖。みたいです。」
お願いっ!! 引かないで!! もうやめます! こっちの世界で始めて出来た友達と、おねーさまっ!! どん引きしないで!!
げしっ!
尻を蹴られた。勿論。飛翠だ。
「だから。やめろって言ってる。バカ女。」
とてつもない冷たい声が、聞こえてきた。
私は頭から地面に突っ込みました。
無意識に……おいてかないで!! ポーズをやっていたらしい。
「痛い……」
「目が覚めたか?」
「はい……。すみません。」
私はおでこを擦って起き上がった。
痛い。もー。
アトモス公国は、洋館ばかりだった。もうそれはそれは、西洋系です。お美しい世界です。この少し古めかしい感じや、基本が白で屋根は青。金や銀色も使って、街並みは美しく染まっている。
「色んな店がありそうだな」
飛翠は広い大通りみたいなこの場所。そこを歩きながらそう言った。
そうなのだ。洋館ばかりなのだが、その中に木の看板がかたかたと揺れるお店がある。
街灯に着けられていて、カタカタしてる。なんか信号機の標識みたいだ。交差点の名前とか書いてあるやつ。
正方形だけど。日本は長方形だよね。確か。
「と言うか……あんまり人がいなくない?」
そう。私は余りの美しい世界に目を奪われていたが、街中には人がそこそこしかいなかった。
こんなに広い通りなのに。しかもたぶん。ここは首都みたいなものだよね?
「静かすぎるね。」
そう言ったのはローズさんだった。
美しい水色の髪。アースカラー。長い髪をふわぁさっ。と、避けた。
うーん。香りもローズなのかな?
▷▷▷
王城ーー。ここにはスレイヤ大公が住んでいる。街中から坂を登ったところ。
あの花壇から見えていた三角の塔が建ち並ぶお城だ。西洋の城。正にそのままだった。
門は開かれていた。大きな噴水のある通り道。そこを通り、私達はお城に入った。
誰もいなかった。
門番も。玄関の所にも。普通はいるよね? 門番とか玄関で待つ執事とか。
なのでーー、ハウザーさんが大きな扉を開けたのだ。
するとその広い玄関の間。そこに
「蒼華ちゃん! 飛翠くん!」
オレンジの温かな眼をしたーー、カルデラさんがいたのだ。
「カルデラさん!!」
私は迷わず飛び込んでいた。銀色の鎧を着たお父さんみたいな人に。
「良かった。本当に良かった。無事だとは聞いていたが。良かった。」
カルデラさんは私を、ぎゅっ。と抱きしめてくれたのだ。
銀の硬い鎧のはずのなのに、なんだかあったかい。胸元で受け止めてくれている。そんな温もりがあった。
「カルデラさん!」
私はーー、何を言えばいいのかわからなかった。ただ、会いたかった。それに会えたこと。この逞しく優しい腕に抱きしめて貰えたこと。
それが何よりも嬉しかった。
お父さん。そう。お父さんにやっと会えた。そんな気持ちだった。
カルデラさんは私の頭を撫でてくれていた。あったかい大きな手だ。
「すまぬな。守ってやれんで。だが……」
カルデラさんの声が止まった。
私は顔をあげた。カルデラさんは真っ直ぐと一点を、見つめていた。
「飛翠くん。さすがだ。恐れ入った。良かった。無事で。顔を見せてくれ。」
カルデラさんは私の後ろにいる飛翠に、そう言ったのだ。
私はそれを聞くと離れた。
カルデラさんが少し手を緩めていた。飛翠はとても照れ臭そうにしながらも、歩み寄ってきた。
がしっ!
飛翠の頭。それを鷲掴み。カルデラさんは乱暴にぐりぐりと撫でていた。
「イテーな。」
「我慢せい! 父子の再会じゃ!!」
私はそれを聞いて、嬉しかった。
飛翠には父親がいるが、誰なのかはわからない。お母さん……“柏木 舞桜”さんは、占い師をしていて……ちょっと変わっているのだ。
スピリチュアルなコメンテーターや、エッセイストとして、テレビとかにも出ちゃう人で、有名な人なのだが、それも本名で。
離婚歴が……五回。子供は飛翠の他に一人。それでいて……三十八歳。一週間離婚もあった。
他にも子供がいるんじゃないか。と、飛翠は思っているらしい。私もそれは思っている。
ただ、飛翠は舞桜さんを恨んでも憎んでもいない。父親の事も何も聞かないらしい。私が、舞桜さんから相談されるぐらいだ。
だから……カルデラさんに、頭を撫でられちょい恥ずかしそうな飛翠を見て……私は、嬉しかったのだ。
本当の父親と息子みたいだった。その荒い再会の仕方とか。
「蒼華姉様!!」
きゃーっ!! この声は!!
とたとたと駆け寄ってくるのは、シロくん!!
紀州犬に似た真っ白な白いわんこ! 犬人族の子だ。成犬だけど。
「シロくん!!」
私は彼をーー、しゃがんで受け止めた。愛くるしい顔で駆けてくるその姿! もう可愛くてたまらない!
「姉様っ!! 良かったです! どうしようかと思いました!」
この可愛い顔のワリには、大人な声は未だに慣れないけど。でも!
そんなのはどーでもいい! ああ。良かった。会えた。また会えた。
私はシロくんをぎゅっと抱いていた。
子供みたいな背格好の彼を。
「ごめんね。心配かけて。会いたかったよ〜〜」
あーごめんなさいっ!! 感無量!! シロくんのやわらかな毛を感じたら、涙が出てしまった。あったかい。
「僕もです!! ……が。苦しいです。蒼華姉様。」
シロくんは、私にぎゅうっとされているので、胸元でそう言った。
申し訳なさそうに。
「ごめんっ!!」
私はシロくんを離した。ちょこんと立ったまま、シロくんの蒼いつぶらな眼は、私を見ていた。
「会えて良かったです。」
ムリ!!
私はがしっ!! と抱きしめた。なんてカワイイ!! はにかむその顔なんてもう!! 帰って来るのを待ってたわんこそのもの!! ふわもふ最強!! けもみみ恐るべしっ!
「わ〜〜! 苦しいです!!」
「ムリっ!!」
私はぎゅうっと抱いて、シロくんの胸元ですりすりした。
ぬいぐるみではないが、それ相当の抱擁を与えたのだった。
▷▷▷
再会は、落ち着き、私達は何やら広い会議室みたいな部屋に通された。
そこにはスレイヤ大公と大公妃。更に、公妃さんがいた。
スレイヤ大公と公妃は、血統なのかブロンドの髪に、蒼い瞳。ただ、大公妃は黒い髪に碧の眼だった。顔立ちも大公と公妃の西洋風ではなく、アジアンだった。
なんだかとても異質に思えてしまった。
「歓迎して差し上げたいが、然程。猶予は残されておらぬ。ローズ」
翠色の羽織。それに扇子。どう見ても……その格好は、和と中が交じっていた。
公妃は長い髪をふわっとさせていて、大きな宝石のついたサークレット?? それをつけていて、ピンク色のドレスみたいな格好だ。
なのに、お母さんは中華な服装。楊貴妃とか着てそうな服。翠の羽織の下は銀色の着物。きらびやかだけど……。
ローブを着てる大公とドレスの公妃。その前では、なんだかちょっと……変。
ちょんまげ刀の武士と、ドレスアップした王女様。それぐらい差がある。異質だった。
金色の扇子をひらひらとさせながら、纏め上げた黒い髪。アップだ。完全な。その美しい顔は、ローズさんに向けられていた。
「はい。」
「聞いておろうな? ゼクセン殿から」
ローズさんは大公妃の声に、とてつもなく改まった。
ここで全てが語られた。
この部屋の中ではこの方。つまり、大公妃がトップ! 何故なら! その脇の真っ赤な王座に腰掛けている大公は、とても物静かな面持ち。
そしてその隣。大公妃とは反対側にいる公妃は、とても不機嫌だ。
どうやら。この家族は……“仮面家族”!!
母と娘は血みどろなのだ! そしてそれに挟まれる父親!
それがこの空間で一瞬でわかった!!
「はい。イレーネ王国。その数五千。小手試し程度でしょうが、明日には到着予定。」
ローズさんは、跪きはしないが改まっていた。
「そんなにいるの?」
あれ?? ラウルさん?? いつの間に!!
グリードさんまで。
この部屋には私達の一行と、シロくん。カルデラさんしかいなかった。会えると思っていたラウルさん。グリードさんはいなかった。
でもドアの側にいたのだ。
ブロンドの髪と碧の眼をした長身イケメン。ラウルさん。それに蒼い毛に覆われた額に三日月の傷のあるコボルト。グリードさん。
二人はいたのだ。
私と飛翠の顔を見ると、二人とも笑ってくれた。
思わず私と飛翠は、顔を見合わせていた。
「焦っているな。ヤヌスは。」
ローズさんは、ラウルさんにそう言ったのだ。
焦ってる??
「やはり。“マーべルス”か。あの土地は、イレーネ国王の唯一の土地じゃったからな。」
カルデラさんはそう言ったのだ。
「いや? それだけじゃないさ。ゼクセン殿の話だと、“輝石”が絡んでいるんだろう?」
ローズさんはカルデラさんに、目を向けた。
「クリュスは破滅の秘宝。同時に力の象徴だ。今までイレーネ国に従ってきた国も、クリュスを恐れなくてすむ。更に……“王女の王妃殺害”。直ぐにでも、王女の首を世界に掲げ……秘宝奪還。」
ローズさん声は広い部屋に、澄み渡る。
「あ。そうか。だから……私達……」
私は飛翠を見つめた。
「だとしても。秘宝とやらが手元にねーのは、バレるんじゃねーの?」
と、飛翠はそう言ったのだ。
すると扇子をひらひらとさせた大公妃が、口を開いた。
えっと。“アドリア大公妃”。だった。
「フレア王妃殺害。本当はーー、イレーネ国王。その説もある。お前達を殺されれば、さすがのティア王女も観念するであろう。」
え??
「ちょっと待って! どうゆうこと!?」
私がそう言うと
「“クリュスの力”と……“闇魔石”」
ネフェルさんはそう言った。
私は振り返った。
「闇魔石!? 何それ。」
ネフェルさんは、相変わらずの綺麗な顔で私達を、見つめた。
「この世界には……貴女たちの使う魔石の他に、光と闇。その魔石が存在します。ただそれは……“個を喪失する強大な力”」
ネフェルさんはそう強く言ったのだ。
「な……なんなんですか? それ。個を喪失? どうゆうこと?」
私が聞くと、答えたのはアドリア大公妃だった。
「言葉の通りだ。光の魔石は光の者となる。闇の魔石は闇の者となる。イレーネ国王は……“闇の魔石”。それを手に入れている。」
ちょっと……待って。
どーゆうこと!? なに? お国騒動! 父娘問題じゃなかったの!?
なにその世界を巻き込みます! みたいなお話わっ!! 聞いてない!
「落ちつけ」
「られますかっ!!」
私が悶絶の如くうなされていると、飛翠はそう言った。
落ちつけるか!! あーもう!! 帰りたい! 今すぐ!!
あ!!
私はとてつもなく重大な事を思い出した。
「ファイアードラゴン……。クリュスを取り戻せ。そう約束した。あー! しちゃった!!」
私は飛翠の腕をつかんだ。
「帰れない!!」
「はぁ? 落ちつけ。蒼華。帰り方知らねーだろ。」
とてつもなく涼しい顔で、そう言われたのだ。
あーー!! 知らない!!
私は頭を抱えしゃがみこんだ。
「知らない! なんなの! どうゆうこと!?」
私は叫んでいた。
ふわっ。と、頭の上になにか……乗っかった。
あったかい。そのぬくもり。
私は顔をあげた。
飛翠だった。しゃがみこみ、パニック状態の私の事を見ていた。
優しい眼だった。頭の上に手が乗っかっていた。
「蒼華。一人にしねーから。大丈夫だ。」
私はーー、この言葉を前にも聞いた。お父さんが亡くなった時だ。こうして、飛翠が同じ様にそう言ったのだ。
あのときもこんな優しい眼をしていた。
「……帰れるよね?」
「終われば帰れるだろ。」
飛翠の声は優しかった。
落ち着いた。
少しだけど。
「蒼華。敵は直ぐに来る。それは変わらない。」
私はローズさんの声に、顔を向けた。
ローズさんはとても悲しそうな顔をしていた。
「戦争になる。」
そう言ったのだった。
戦争……。少しだけどローズさんから、戦争の話を、パウザーで聞いた。
そうだ。大変だ。そんな事になったら……。
この国に攻めてくるんだよね? 私達の事を狙って。
「戦争………」
私は飛翠の腕をつかんだ。飛翠は私を真っ直ぐと、見ていた。とても強い眼で。
「蒼華。決めたのはお前だ。俺は傍にいてやるし、守ってやる。決めた事はやり通せ」
私はーー、その言葉を聞いて立ち上がっていた。
そうだ。決めたんだ。
私はーー、皆を助けたい。
「ローズさん。どうしたらいいんですか?」
逃げる訳にはいかない。もう。私達は、足を踏み入れている。敵がどんなでも、どんな事情になってても、私達は、変わらない。
やるべき事は一つ。
お尋ね者扱いをチャラにすること。更に自由になること。そして……戦うこと。
その後ーー、作戦は練られたのだ。
私達はイレーネ王国。ヤヌスを迎え撃つことになったのだ。