第1話 トープの村▷▷今度はフェニックスですかっ!?
ーー大きな日本家屋。と言うか武家屋敷みたいな家の前。
門前。
まるで私達は門破りの悪党みたいだ。その前に立ちはだかるのは、マッキン金。
あー眩い。
フェニックスが二羽。孔雀みたいな姿だけど、どうにも!
デカい……。デカすぎる。
それに羽根を広げると後光が射す! 金ピカすぎて、もう私には何がなにやら。
極楽浄土にでも案内してくれるんですかね?
と言うか! つがい?? 夫婦?? 片方はトサカないんだよね。それだけじゃオスかメスかわからん!
でも二羽! 仲良く二羽!
なので勝手にそう思った。
う〜ん。ハリネズミみたいなトサカ。
あ。そこだけちょっと碧だ。へー。フェニックスってなんか、炎ってイメージあったけど。
「蒼華! いい? フェニックスは“風属性”なの。“氷”よ!」
初対面のフェニックス観察。それをしている私に、声を張り上げたのはミリアだった。
見れば、メタリックピンクのロッドを、握っていた。
完全に戦闘モードですね。
「氷……」
私はそう呟き……あ!! と、思いたってしまった。
「ごめん。ミリア。私……“魔石”しか使えない。」
そうなのだ。氷の支配者には会ってない。なので、初歩的で誰でも使えます。お試し魔法。
“白氷石の魔法”しか使えないのだ。
「ええっ!? ウソでしょっ!? 水流の魔法を継承しに来てたから、てっきり“三大魔法”は受けてるのかと思った。」
ミリアは……とても目を丸くした。
「え? 三大魔法?? なにそれ?」
私がそう聞くと、はぁぁ。と、大きなため息をついたのだ。
ミリアは項垂れた。長いアッシュピンクの髪が、垂れ下がった。
黒髪じゃないからオバケみたいに見えないのが、うらやましい。
とか、思ってるとつかつかと、ミリアは向かってきたのだ。
え?? なに? すっごいキレてない!?
わかりやすい! 見てわかる。歩き方! そして膨れた顔。
あらまー。カワイイ顔が台無しですよ。姉さん。
「お前な! 三大魔法も知らねぇで、魔導士めざしてんのっ!? なめてんのかっ!?」
ひえぇっ!!
私は思わず……身を引いた。
おっかない! マリーゴールド色の眼が、キラッとしてるから余計におっかない!
口調が変わった……。いえ。この口調は前にも聞きました。蜘蛛の巣で怒鳴った時に、こんなでした。
まじか……。コワすぎっ!! ガン飛ばされてるし!!
「えっと……なんでしたっけ?」
私はとりあえず聞いた。
くわっとミリアの美しいお華の様な顔は、鬼オンナみたいになった。
まじ……どっかのヤンキーみたいな顔つきになってしまった。
髪の色も鮮やかなので、ちょいパンク??
「火! 氷! 雷!!」
わっ!! 怒鳴られたのだ。思いっきり。それも顔が近い!!
「わかる?? これ基本だから! 始めはここから使い始めるでしょう?? 魔石で!」
ミリアはちょっと落ち着いたのか、口調が戻った。
あ!! 黒崎……ゼクセンさんが、そんな事言ってた! 基本的な初歩的な魔法だとかなんとか。
「あー! わかった! うん。貰った!」
うんうん。 と、私は頷いたのだ。
はぁぁ。ミリアはため息ついておでこ、抑えた。
「ちょっとヤバめ? な娘とは思ってたけど……ここまでとは。」
ミリアは目の前で大きくため息ついたのだ。
ん?? ヤバめ?? 何が?
すると……
「ソイツは“バカ女”なんだ。しかも超ド級のな。まじで手かかるぞ。つき合うなら。」
飛翠の声だった。
「ちょっと!!」
私は振り返った。
だが、
「あ〜。やっぱり?? アブないとは思ってたのよね〜。まぁ。だから放っておけなかったんだけど。まーいいわ。面倒みますよ。ちゃんと。」
ミリアからの呆れた様な声に、私は振り返る。すると、ミリアはとてもあったかい目をしていた。
あれ?? この表情……この目……。
私はその時……“カルデラさん”を思い出していた。あのあったかいオレンジ色の眼と、優しげな笑み。ヒゲの生えたおじさんで、ちょっとコワモテなのに……お父さんみたいな……優しい表情をする人。
「蒼華? 聞いてるの?」
ハッとした。ミリアが私を覗きこんでいたからだ。
「え? うん。ごめん。」
「聞いてないよね?」
ぎろりと睨まれた。
「ごめん。」
はぁ。と、深いため息ついたミリアは、
「いい? あたしがサポートするから……」
と、そう言ったのだが
「大丈夫だ。嬢ちゃんには必殺技があるからな。」
遮ったのはハウザーさんだった。見れば肩に大剣担いで笑っていた。
バカにしてる顔だ。あれは。にやついてる。
「必殺技?」
ミリアがきょとんとしていた。
「「「ブッ倒れるまでぶっ放せ。」」」
飛翠、ネフェルさん、ハウザーさんが、ハモったのだった。
「え? なにそれ。」
ミリアはやっぱりきょとんとしている。
はぁぁ。だから必殺技じゃないんだってば!!
と、ひと騒動あったが、とうとうフェニックスとの戦いだ。
フェニックスは本当に金色。
光を放っていた。大きな身体に美しい翼。孔雀によく似た姿だ。でも、顔はどちらかと言うと鶴。
首も長い。それにあの尾。キラキラした一文銭みたいな尾だ。
時代劇だと小判だけど、教育番組系の歴史特集だと、ちゃんと一文銭に四文銭も出てくるんだよね。
好きだから見ちゃうんだけど。
両翼広げたフェニックスは、二羽揃い私達の前で鳴いた。大きな吠える様なその鳴き声。
威嚇されてるのがわかる。さー来い! どーだ!? このデカい身体が目に入らぬかっ!? と、言わんばかりだ。
トサカを持たないフェニックスは、その紅い眼を私達に向けて、金色の翼をバサッバサッと、仰ぐ様に動かした。
これはまさしくーー、風が来る!
コカトリスでわかっているのだ。風属性の鳥は、翼動かし攻撃してくるのだ。
これまたあの突風系ですかね??
私はいちお経験からそう考えていたが、想像はかる〜く超えられてしまった。
ゴォォォ!!
舞ったのは炎。それも真紅の熱風が渦を巻いて向かってきたのだ。
「えぇっ!? 炎なのっ!?」
私は咄嗟だった。
炎には風魔法だ。
「風の切り裂き!!」
蒼いロッド。円形の環。その根元についている、碧風石。それが煌めく。
何度もお世話になってる碧風の魔法だ。
「聖なる壁!」
ネフェルさんだった。
風の手裏剣を放った私の後に、金色の光だった。私達全員をまるで津波の様に、その光が壁となって下から湧き出たのだ。
え!? なにこれ。スゴいんですけど。
シャットダウン! フェニックスの炎の渦を、津波の様な金色の壁が、遮ったのだ。
シャッター!? 放火シャッターですか!?
そんなシンプルなものじゃないんだけど、それに似ていた。
「番で、炎と風を使います。因みに炎は奥さん。」
パラパラと神導書が、手元で捲られている。ネフェルさんは、相変わらずの涼しい顔でそう言ったのだ。
「鬼嫁か。」
は??
私は隣の飛翠の余りにも、素っ頓狂な反応に驚いてしまった。
なんなんだ? このクール対応合戦は!
「それ。知らなかった。風属性かと思ってたわ。」
ミリアは炎を防いだ壁が、消えるとそう言った。
「普段は奥さんは、出てきませんからね。」
ネフェルさんはさらっとそう言ったのだ。
えっ? ちょっと待って。フェニックスって魔物なの??
出て来ないってどーゆうこと??
私の風の切り裂きは相変わらず……、たいして役に立たなかったらしい。
ただ、“旦那様の怒り”を買ってしまった。
嫁さんをちょっとでも傷つけられた事で、碧のトサカを突き立てた旦那フェニックス。
彼は怒りを向けた。
グェェ!!!
それはもう物凄い雄叫びだった。大きな翼を広げ、輪の金色の光。
彼の身体の前にそれは煌めいた。
まるで曼荼羅だ。
ブワッ!!
と、私達は全員、金色の風に包まれ浮いたのだ。
宙高く。
そこから一気に叩き落された。
「きゃーっ!!」
それだけではなかった。
風の切り裂き。それが全身を切りつけてきた。
「“浮遊する心”!!」
私達はネフェルさんの、空中遊泳とやらの術で、地面に叩きつけられるのだけは、回避できたのだ。
全員を金色の円盤みたいな光が、クッションになったのだ。
「凄いな。」
はぁ。と、浮きながら息を吐いたのはクライブくんだ。
同じ歳なので、さんではなく“くん”にした。
手には剣。ミリアさんの隣でクッションに乗っかりながら、そう言ったのだ。
ターコイズの色をした瞳が、とても印象的な優しそうなイケメン。クラスにいるよね。こーゆうタイプ。
頭良くて、優しくてそんでもって、イケメン! しかもさらっさらのブロンドの髪。
モデルっぽい。ハーフタレントにいそうな顔!
ちょっと前なら“王子様”扱いだよね。飛翠とは真逆。絶対、優しい。うん。この人は優しい。
「スフィト。大丈夫?」
ミリアはクライブくんの隣にいる、スフィトくんに、そう言った。
紅い髪……。染めた感じじゃない綺麗な色。それにミリアと同じ眼の色。
マリーゴールドのバンダナ巻いたやんちゃっぽい人。
クッションの上で、アグラかいてる。ヨユーですね。
「大丈夫っすよ! 姉さん! ケガしてねーっすか?」
すっごい愛嬌ある顔で笑うんだよね。なんか……弟みたい。ミリアもそう思ってるのかな?
すごくホッとしていた。
「良かった。」
お姉ちゃんの顔だ。なんか。
んー。だけれども! クライブくんの顔が怖い。意外と……嫉妬深いんだな。
爽やかなイケメンっぽいのに。
私達は、フェニックスの前に降り立つ。
クェェ!!
キェェ!!
フェニックス達は、顔を見合わせて鳴いた。
なんか話してるのかな? わからない。鳥語はさすがに、ゼクセンさんの腕輪してても聞こえない。
と、そんな時だった。
ピシッ!!
と、地面を叩く何やらとてつもなく痛そうな音がした。
あーこれは……“鞭”の音だ。
「うるさいね! 敵わないならとっとと諦めな! 酒がマズくなるよ!」
ハスキーな声。更にピシッ!! と、地面を叩く鞭の音が響く。
勇ましいフェニックス達は、頭を下げてしゅん。としてしまった。
そう。
いつの間にやら門前にいたのは、水色強めのアースブルーのゆるっとした髪をした、……ちょっと待って。
グラマラスバディ!!
ヤバい。これは同じ女として負けました! ええっ!?
なんであんなにおっきいの!?
なに食べてるの!? しかも! キュッとしてるんだけど! 腰!!
うそぉ!! 脚ながっ!!
服装はチャイナドレス!? それに近いんだけど、スリットから除くその脚!!
細くて長い!!
鮮やかな翠と金色のチャイナ風ドレスが、これまた大人の魅力満載!!
ヤバい。これは……
私は飛翠を見た。
「やべーな。」
案の定!! このドSな女王様みたいなグラマラスな人に釘付け!!
しかもはち切れんばかりのあの胸元に!!
あー……目がいってしまっている。
これは……何も言えない。
「“ローズ”。」
そう言ったのはハウザーさんだ。
えっ!? 薔薇!? なんですって!? 似合いすぎでしょう!?
この鞭とナイスなバディ! 女王様!! 毒々しい真っ赤な薔薇が、目に浮かびますよ!
正に夜の女王様!!
はぁ。
ため息つきつつギロッと睨む眼は、コスモスでとても綺麗なんだけど……。
て言うか、美しすぎでしょ!
この人。マンガ!?
そう。八頭身さながらで、小顔。しかも美人。
それにチャイナ風ドレスにナイスなバディ!
こんな人芸能人しか、知らない。
「なんなの? 揃いもそろって。どうでもいいけど、酒は?」
酒ーー、ああ。酒やけなのね。そのハスキーな声。
カラオケ行ったら高音でなそう。
失礼だけど。
「頼みたい事があるんですよ。ローズ。」
ネフェルさんの神導書はいつの間にか、消えていた。
▷▷▷
私達は、ローズさんの部屋とやらに案内された。
とても広い部屋だ。
外は武家屋敷だったのに、中華風な室内だった。
ただ、円卓。そこには瓶が転がっている。
その脇にある椅子に腰かけると、美しい酔っぱらいは、長い脚を組んだ。
その脇でとぽとぽと、細長いグラスにポットの様なもので水を注ぐ人。
ヤバい。凄い綺麗な人。
と言うか、なにこのイケメン比率! イシュタリアってイケメンしかいないの!?
どちらかと言えば、執事。そんな雰囲気だす人だけど……ローズさんよりは年下。っぽい。
ジャ○○ズ系の、イケメンだ。それに……ブラウンの髪だから、とっても親近感わく!
チャイナ系の衣装だけど。
「ローズさん。飲みすぎです」
「うるいよ。“カイル"」
そうは言いつつも、カイルさんの淹れた水を飲むローズさん。
不思議な雰囲気が漂う。
なんだろう? 恋人未満??
「ローズ。頼む。手を貸してくれ」
ふと、そう言ったのはハウザーさんだった。
「わかってるよ。ここに来た。ってことは、そうゆう事なんだろう?」
美しく煌めくヴァイオレットのクリスタルのグラス。
それを円卓に置くとそう言ったのだ。
「あの……」
私はコスモスの眼をしたローズさんを、見つめた。
「なに?」
ローズさんは視線だけ向けた。
「巻き込んでしまう事になるんです。私……ずっと、この世界に来て、巻き込まれた悲劇のヒロインみたいな気持ちでした。」
知らない人ーー、その人を巻き込む。私にしてみたら、ちょっと考えられない。
だって、ネフェルさんも巡礼の旅あるのに、私達に付き合ってくれてる。
それはとても気を遣ってくれてるんだろうし、ミリアだって。
私に話を聞いてしまったから、きっと、今更いや。とは言えない。
カルデラさんだって、ラウルさんだって。
ハウザーさんだって。私……。
いつもそうだ。何かを人に頼んだり、投げかけたり提案したり……。
わからなかった私の代わりに、この世界の人達が頭を下げてる。
でも、それは全部。私達のこと。
たしかに、ゼクセンさんの事もあるし、皆頼まれていたのかもしれない。
カルデラさんやラウルさんは、そうだった。
でも! ネフェルさんもハウザーさんも、ミリアも、シロくんもグリードさんも。
そして、ここにいる人達は……違う。
私達に出会い……少なからず手を貸してくれようとしてくれている。
だから! ここは私が言わなくちゃ!
巻き込むのほ私なんだから!
あ。ついでに飛翠。
飛翠も巻き込まれたみたいなものだ。私に。
「ローズさん! 貴女がどんな人なのか存じません! 鞭持ってる調教師?? かも? だけど! 力を貸してください!」
私はそう叫んでいた。
すると、あっはっーはっ!!
高らかな笑い声が聞こえた。
はい。ローズさんです。
「調教師はよかったね。違うよ。あたしはコイツらの元“上官"。困るとこうやって泣きついてくるんだよ。」
は??
私は頭をあげた。
上官?? 上司っ!? 正に!! ムチ持ったドSな女王様上司!?
ウソでしょっ!? 完全なマンガの世界じゃん!!
私の妄想に火がつかない訳がない。こうしている間にも、変態的な能力。妄想癖は、働くのだ。勝手に。
「蒼華ちゃん。気にしなくていいですよ。この人は、元軍官ですが、今は……“情報屋"ですから。」
と、ネフェルさんはそう言ったのだ。
え?? 軍官!? それって凄いんじゃないの!?
「ただの酔っぱらいじゃねーんだな。」
そう言ったのは飛翠だった。
あーっはっは!
大声あげて笑うローズさん。
「そ。これでもね。昔は何千って言う軍隊率いてたんだよ。今は隠居して、情報屋。」
がたっ。
ローズさんは立ち上がった。
椅子の背もたれに手を乗せて、私と飛翠を見たのだ。
「宜しく。お尋ね者さん。」
そう笑ったのだ。
こうして、アトモス公国に行く前に、私達は新たな仲間に、出逢えたのだった。