序章 トープの村▷▷ネフェルさんの知り合いですか!?
ーーフィランデル王国から船でぶらぶらと。
やって来たのは小さな漁村だった。海が本当に近い。私が想像していた漁村とは、ちょっと違う。
海の近くの村って、少しこう……防波堤とかあって、高台になっててちょっと海から離れた所に、ぽつんとある。
みたいなのを想像していたんだけど。
ここは直ぐ砂浜。浜辺。そして雄大なエメラルドグリーン!! ではなく、青と紺が混じった綺麗な海だった。
真っ青! 遠い所は紺。砂浜は白と灰色の砂が混じってる。
浜辺に打ち付ける波ですら、蒼い。それに凄く澄んでいて、きらきらしてる。
なんて綺麗な蒼! そしてなんて綺麗なんでしょう!? 透明感ある波しか見たことない。
やっぱり違うんだね。
「こんなブルーの海。観たことあるか?」
「ない。私……蒼好きだから、ちょっと嬉しい。」
隣で飛翠は伸びとかしてる。何気にこの人。自然とか好きなんだよね。こんなだけど。
「名前にも入ってるしな。お前……ライアみたいに、肌も蒼く焼けよ。」
飛翠は気分がいいのか、スゴい笑ってる。
「あのね。人をどうしたいんですか?」
機嫌がいいならもっとこー、良い感じの言葉を言ってみろ! 全く!
「蒼華〜。飛翠〜。行くって!」
砂浜の向こうから、ミリアさんが呼んでいた。あ。ミリアって呼んで。って言われたんだっけ?
聞いたら同い年だった。! 17! とても見えない。大人っぽい。
私はまだ16なんですけどね。数えで17なんです!
そうなんです! 花の17! って昔は言われてたらしいですね。
スフィトさんも、クライブさんも同い年。私達にしたら、初めてだ。みんな年上だったから。
シロくんはわからないけど、コボルトだから、やっぱり……歳上なんだろうな。
あんなにかわいいわんこなのに。
トープの村は石の家だ。白い壁の石。箱型って言うのかな? なんか……コンビニのカタチに似てる。
「お待たせしました。」
砂浜から村の中に入ると、ネフェルさんがそう言った。ここに来るなり、ハウザーさんとどっか行っちゃったんだよね。
それで……私と飛翠は、海を見てたんだけど。ミリア達は、町中うろつく〜とか言って、ぶらぶらしてたらしい。
そこにちゃんとお供みたいに、くっついて行くクライブさんと、スフィトさんがなんとも可愛らしい。仲いいのが良くわかる。
「何処に行くんですか?」
私がそう聞くと
「あの丘です。そこにいるらしいので。」
ネフェルさんは村の裏。ちょっと高台になってるところを指した。
茶色の家がある。 あれ? 木造っぽいけど。木の家だ。それも……なんか日本の昔話に出てきそうな家。さすがに藁葺き屋根じゃないけど。
丸太だね。あれは。
その家の周りには木がたくさん。裏側は森みたいに、なってるのかな?
丘とは言え、ここは海のそば。周囲に高い建物ないし、視界はばっちり。だからとても良く見える。それに高いから目立つ。
「十年ぶりか?」
「そうですね。ハウザーもまだ、勢いだけ。の頃です。」
私達の前で、ハウザーさんとネフェルさんは歩きながら、話をしている。
こうして見てるとハウザーさんの、ガタイの良さが丸わかり。
背も高い。対称的なんだよね。この二人。ネフェルさんは、さらっとした碧の長い髪だし、ハウザーさんは赤茶混じりのぼさっとした髪。それを纏めてるんだけど……どうにもワイルド。
生徒会長とやんちゃ坊主みたい。
「ネフェルさんとハウザーさんって、知りあいなんですか?」
ここらで聞いておこう。
「あ? 言ってなかったか?」
ハウザーさんは振り向いた。サイドに垂らした髪が、揺れる。
「聞いてなかった。」
私は首を振った。
「俺とネフェルは、“ノクトワール戦争”で同じ軍にいたんだ。その時からの付き合いだな。」
ハウザーさんは大剣“ハルシオン”を、肩に担ぎながら坂を登る。
ノクトワール?? あらまた、新しい名前が。
「結構……大きな戦争でしてね。最後の戦いは、一年を費やしました。色々と合わせると……三年は、掛かりましたね。」
え? ウソ? 三年も戦争??
「七聖戦争が余りにもデカく……有名だからな。どうしても……皆そっちに目を向けるが、“ノクトワール戦争”も、それなりにこの世界では有名なんだぞ。」
ハウザーさんはちょっと得意気に、見えた。でも、直ぐにネフェルさんからお叱りを、受けたのだ。
「自慢する話ではない。多くの犠牲がその下にはあったんですよ。」
「わかってますよ。はいはい。」
ハウザーさんは……叱られた生徒みたいだ。
しゅん。としてしまった。
「そんなデケー戦争やってんのか? あんたら。」
飛翠がネフェルさんの後ろから、そう言ったのだ。
「これでも少しは長く生きてますからね。」
ネフェルさんは振り返りはしないが、きっと微笑んでるでしょう。
いつもの優しい感じで。
「戦争なんて語られないだけで、幾らでもあった。オレ達、竜族と人間。それに人間と異種族。この世界は、たくさん血を流してきた。」
飛翠の隣にいるのは、ライアさんだ。
彼は背中に海竜刀を背負っている。
ん? いつの間に?? 手で持ってなかった??
「あたし達は、話しか聞いたことない世代だけど、昔は多かった。って言うのは聞いてるわ。でも、余りにも長く続く戦争は……大魔導士ゼクセンが、終わらせる。って聞いたけど。」
え?? ゼクセンさん。改め黒崎さん??
な……なんなのあの人は。
ミリアの言葉に私はびっくりだ。思わず
「そうなの??」
と、聞いていた。
「ゼクセン殿は……凄いんだ。“秩序の大魔導士”と呼ばれているのは、そこだ。」
そう言ったのはハウザーさんだった。
「俺達の戦争の時も、終わらせたのはゼクセン殿だ。魔導士達と“神獣”引き連れて何処からともなくやって来てな。“両軍に怒りの魔法攻撃”だ。それも、神獣も暴れ放題。」
うわ。それはちょっとスゴそうだ。ハウザーさんの顔見ればわかる。
思い出したくなさそうだ。
「アレは参りましたね。恐れ入ったと言うか……。滅茶苦茶でしたね。」
ネフェルさんも黒歴史。とでも言わんばかりの顔をしていた。
「ま。お陰で戦争は終わったがな。それはもう疾風の如く。」
ハウザーさんは思い返してるのかな? なんだかとってもにが〜い顔になってしまった。
「あのジジィ。ただの老いぼれじゃねーな。」
「とてもじゃないけど……あの古くさ〜いお店の人とは、思えないよね。」
飛翠の声に私も頷いた。
ホント。潰れないのが不思議な店だった。お客もいっつもいないし。
「でも……いつも止めに来る訳じゃねぇんだよな? その線引きはなんなんだ?」
ライアさんはふとそう言ったのだ。
「余りにも“私情”が絡むと出てくるみたいですよ。」
ネフェルさんはそう言った。
なんだかなー。なんか法律家みたいだな。その立ち位置。中立!
「秩序の大魔導士……会ってみたいなー。あたしは、まだ会ったことないんだよね。」
ミリアだ。そう言ったのは。
会ってみたい?? 黒崎さんに?? 私からしたらただのおっさんですよ。はい。古臭い書店のおっさん。
言えないけど。こっちではどうにも偉大な人らしいので。
あ。でもシロくんも憧れみたいな顔してたなー。今のミリアみたいに。
「あ。見えて来ましたね」
ようやく。目的地が近づいた様だ。
丘の上にある木造の家だ。と言うか……屋敷??
デカくない?? 本当に武家屋敷とかみたいなんだけど。
「でけーな。」
飛翠は門の前にいるその“大きな金色の鳥”を見ると、そう言った。
「門番?」
としか、見えなかった。金色の神々しい像が二つ。玄関脇に建っていたのだ。
どちらも翼を折り畳み、まるでこの家を守るみたいに、建っている。
なんか孔雀みたい。あのコカトリスとは違う。尾が長い! なに? なんか昔のお金みたいなくるくるっと丸いカタチで、繋がった尾だ。
「“金色の鳳凰”。」
そう言ったのはネフェルさんだった。
「え?? フェニックス?? あの伝説の不死鳥??」
私は思わずそう言っていた。名前ぐらいは知ってる。聞いたことある。伝説上の生物だけど。
私達が家に近づくと、二体の鳥の像の眼がギロリ。と、動いた。
それも紅い眼だ。ルビーみたいな眼なのに、めちゃくちゃぎろっと睨んできた。
「動いた??」
「像じゃねーのか?」
私と飛翠がそう言った時だ。
鳥ーーは、光った。ええ。もうそれはそれは、マッキン金な光を出したのだ。
「な……なに??」
余りの光の強さに目を瞑ってしまった。
もー眩しい!! なんなの!? この強力フラッシュライトみたいなのは!
キェェェェッ!!
とても嫌な予感がしたので、目を開けた。
わっ!! 広げてる! 翼全開! しかも二羽になった! 像じゃなくなった!
そうなのだ。金色の大きな鳥は、私達の前で像ではなく生き物になった。
それも両翼広げ鳴いたのだ。
「マジか……」
「ねぇ? どーゆうこと?? なんで像が生きてるのよ!」
「俺に聞くな」
呆れる飛翠の声にも負けず……私は
「ネフェルさん! どーゆうこと!? まさか! 知り合いですかっ!?」
と、ネフェルさんに聞いてみた。飛翠に聞いてもわからないからね。
「この家の守り神。みたいなものですかね。」
ええっ!? なに?? そのさらっと流した感じ! 爽やかスマイルもいい加減にして!
ネフェルさんは手を広げて涼しい顔で、そう返してきたのだった。
そしてまた、私はとても嫌な予感がしたので、聞いてみた。
「まさかと思うけど……戦います??」
「そうですね。そうなりますね。必然的に。」
と、言うネフェルさんの手には既に……“神導書”が開かれていたのだ。
その隣にいるハウザーさんも、ハルシオンを握っていた。
「歓迎されてねぇな。こりゃ。」
と、そう言った顔はなんだかとっても苦い。
なんなの?? こんな所で伝説上のフェニックスとやらと、なんで戦うの!?
どーなってるのよ! この世界わっ!!
そしてなんでこんなのしか出てこないのだ!! もっとカワイイ弱そうな魔物とかで、いいんですけど!? 私は。見習いなので!
そして……私達はフェニックスの洗礼を、浴びる事になったのだ。