章の終わり 次はどちらへ?▷▷魔法??それとも??
ーー遺跡は、長く深い通路を通る。
通路は相変わらず明るく照らされていて、とても歩きやすい。
ん? この通路は壁画がスゴい。これ全部……壁画だ。それもなんか……歴史??
魚の頭をした魚人みたいな人達が、何やら物を掘ったり、叩いたり運んだり。
作業している姿などが、描かれている。
尾がちゃんと魚だ。でも足は人間。それに手も。
壁画だから水かきがあるのかどうかは、わからない。
「あ! 飛翠! シロくん!」
私はその壁画の中に魚人たちと、作業をする“コボルト族”の姿を、見つけたのだ。
「コボルト? なんでアイツらが?」
飛翠は建築する壁画を見ながら、そう言った。
「深海族に“建築技術”や“鍛冶”を教えたのは、コボルト族だと言われてんだ。壁画の通りだ。この遺跡……つまり、城を築き上げる時にコボルト族も、手伝ってんだ。」
そう言ったのは、ライアさんだ。身体が蒼くなければ、とても竜族とは思えない。
顔は人間そのものだ。それもかなりワイルドでカッコいい。クラスのサッカー部とかにいそうなタイプ。
だけど、喋ると……残念。
「コボルト族ってそう言えば……鳶職人みたいな格好してたよね? グリードさんも村長さんのこと、親分とか呼んでたし。」
コボルトの村には若い衆みたいな、男の人たちがいた。村長さんもナガイさんだったし。
法被にニッカポッカ。そんな格好してたよね。あの人たち。
グリードさんみたいに戦士っぽい人もいたけど。
「確かにな。武器も造るとか言ってたな。グリードが。」
飛翠は何だか懐かしそうだ。仲良かったもんね。
タイプは似てると思うけど……なんで、ライアさんとはうまくいかないんだか。
「何でコボルト族が深海族と繋がってたのかは、わかんねぇけどな。でもそのお陰で深海族は、陸地での生活が出来たそうだ。」
ライアさんはそう言った。
私は壁画に描かれる犬族と深海族を見つめた。
不思議だ。魚と犬。
ーー壁画の通路を通ると、大広間に出た。
「うわ。なにここ。水しかない。」
ここが最下層なのかな?
大広間には流れる滝の様な水。それから大きな泉。それしか無かった。
でも水はさっきまでの、水色ではない。
蒼く光る水だ。
「原石か。」
飛翠は四方囲まれた広間の、目の前に広がる滝と泉を見て、そう言った。
「ここがこの遺跡の動力の源だ。水流の原石。それが、これだ。」
ライアさんはやはりドヤ顔だ。
腕組んでそう言った。
「浮上していた時は、動いていたそうですよ。この遺跡は。海の上を。」
ネフェルさんがそう言った。
「え? そうなの?」
こんなデカイ船あるの?? スゴいんだけど。
ちょっと想像つかない。遺跡の外観を知らないってのもあるけど、建物が動く船??
わからない。
「最下層ってことは……地上にはどうやって出るの?」
そう言ったのはミリアさんだ。
ミリアさんの両脇には、まるでお供みたいにスフィトさんと、クライブさんがいる。
がっちり固めてるあたりが……微笑ましいんだけど。
「ここから出るんですよ。」
ん?? この声は!!
泉の前に現れたのは、黒いローブを羽織ったカーミラさんだった。
「あ。“番人“」
ミリアさんがカーミラさんを見ると、そう言った。
え? 番人?? それって支配者のことじゃないの? あ。でもミリアさんは、支配者と番人に見守られて結晶に触れる。……って、言ってたっけ。
私はカーミラさんは、ただのナビゲーターなのかと、思ってた。
「ここから出るってのは……どーゆうことだ?」
飛翠がそう聞いたのだ。
カーミラさんは、フードを相変わらず被ったまま、真っ黒なローブ姿。
「言葉の通りです。その前に。一つご報告が。」
カーミラさんの声が少しだけ強くなった。
「な……何ですか?」
私がそう聞き返すと、カーミラさんはふぅ。と、息を吐いた。
「伝えるかどうするかは、迷いましたが……、私自身も見てみたい。貴女たちの運命を。」
え? どーゆうこと?? なんかすっごいイヤな予感しかしないんだけど!?
聞きたくないな。でも気になるな。
と、私が思っていると
「何の話だ?」
飛翠が食いついたのだ。
「“貴女方の仲間”を匿っている“アトモス公国”。どうやら“イレーネ王国”が、攻め入る様ですよ。」
カーミラさんはそう言った。
え?
「それってどーゆうこと!? まさか! カルデラさんたち!? 飛翠! どーしよ!」
「落ち着け。」
私が飛翠の腕を掴むと、そう言った。
「バレたのか?」
「“内通者”がいた様ですね。」
飛翠の声にカーミラさんは、そう答えたのだ。
するとネフェルさんが、
「アトモス公国ですか……。気になりますね。」
と、そう言った。
「貴族の国だったよな?」
「ああ。内輪揉めしているのは、聞いてる。」
ライアさんの声に、ハウザーさんがそう言った。
そうだ。前にそんな話を聞いた。たしか……
『次の君主を狙ってるのは“スレイヤ大公”の弟君だ。表向きは”大公の右腕“みたいだけど、とんでもない。”元老院“を抱き抱えて、スレイヤ大公の失脚を、待ってるからね。』
って、ラウルさんが言ってたよね。
てことは……。あんまり仲良くないイレーネ王国に、カルデラさん達がいると、密告したのは、その弟ってこと!?
「飛翠! ヤバいよ! 絶対! 行こうよ!」
「ああ。」
私と飛翠の声に待った。をかけたのは、ネフェルさんだった。
「蒼華ちゃん。アトモス公国に行くとなると……魔法は、中断する事になりますよ。次にいこうと考えていたのは、“風臥の砦”。“碧風の支配者”がいる地です。」
そう言ったのだ。
「それって……アトモス公国からは遠いの?」
場所がわからない。
ネフェルさんはう〜ん。と、考え込む様に顎に手をあてた。
「遠回りにはなりますね。この大陸から西に行くんですが……。一つ山を越えて別の大陸に行くんですよ。アトモス公国とは反対側です。」
別の大陸……。山越えってことは……距離あるよね。何度か……山越えたから、わかる。
ああ。なんて広いんだ! イシュタリア!!
遺跡だかなんだかは、ごろっと集まっててくれないかな??
「嬢ちゃん。」
ハウザーさんが、私を呼んだ。
私はハウザーさんに視線を向けた。左目の金色の眼が、優しい輝きをしていた。
「嬢ちゃんが決めるんだ。俺達はついて行く。この旅は、嬢ちゃんと飛翠の旅だ。ここにいるのは、お前達に付き合うと決めた奴らだ。」
ハウザーさんはハルシオン。大剣の上に肘を乗せていた。
でも私を見つめる眼は、とても強い眼差しだ。あったかい。
「俺はなんでもいーぞ。お前らについて行けば、暴れられる気がする。」
ライアさん……。貴方もソッチですか。
「蒼華。お前が決めろ。」
え? 飛翠だった。
私は飛翠を見上げた。
何だかとっても優しいな。今日の飛翠は。瞳すらも優しく見える。
「……飛翠だって……剣技。」
「あー。それな。」
飛翠はそう言うと、腕を組んだ。
「遅いか早いか。だけだ。」
としか……言ってくれなかった。黙ってしまった。何かを考えている……と言うよりも、黙ってしまった。言いたそうだけど……言わない。みたいな。
何だろう? 何を考えてるのか、わからない。
前は顔を見ればなんとなくわかったのに。今はわからない。
カルデラさん。ラウルさん。シロくん。グリードさん。
私の答えなんて決まってる。
魔法を使いたいと思ったのは、彼等の役に立ちたいから。助けたいから。
だから。
「アトモス公国に行く。カルデラさん達を、助けたい。お願いします!」
私はロッドを握って、頭を下げていた。
みんなに。
「行こう! 蒼華ちゃん!」
ぽんっと肩を叩いてくれたのは、ミリアさんだった。私は肩を掴まれて、身体を起こされたのだ。
「ミリアさん……。でも……魔導士……」
「言ったでしょ? 一緒に行く。って。魔導士になるのも一緒よ。だから行こう!」
ミリアさんはやっぱりもう一度、肩を叩いてくれた。ぽんっと。
「うん。」
こうして、私達は“アトモス公国”に向かう事にしたのだ。
カーミラさんの案内で、私達は泉の前に集まる。
総勢八人……。随分と増えた。不思議だ。最初は、私と飛翠しかいなかったのに。
「では道中お気をつけて」
スッ……と、ローブから差し出された右手。
あ。出た! 真っ黒な魔女ネイル!
何度見ても……おっかない。長い爪が。
ポウッと、私達の身体を包んだのは、蒼いバルーンだった。でも薄い膜みたい。
包まれたと思ったら浮いた。
「えっ!? 巨大バルーン!?」
八人ですよ!? ウソでしょ!?
そうなのだ。全員を包みバルーンは浮いた。それも天井。
「ええっ!? 天井!? ぶつかるけど!?」
私は押し迫ってくる天井を見上げて、飛翠の腕を掴んでいた。
「お前な……。いい加減慣れろ。この世界に。」
飛翠は深くため息ついた。
「なにがよ!? 慣れるわけないでしょーが!」
そうこう言ってるうちに、バルーンは天井にぶつかった。
へ?? ウソ!!
すり抜けたー!! なっなんなの!? どうなってんの!?
そうなのだ。まるでエレベーターだ。
天井すり抜けて上がって行く。しかも徐々にスピードは増した。
「な……なんでこう大型どっきりなのよ!」
「知るか」
まるで“スカイハイ”だ。
あ。アトラクションです。テーマパークの。絶叫系マシーンです。
ミリアさんもキャーキャー言ってる。
本当に絶叫系なのだ。風は感じないけど、早い!!
あっという間だった。
入口についたのだ。そしてーー、これまたお決まり。私達は着いたと同時に放り出された。
「あーもう! 痛い!!」
お尻を打ちましたよ。またもや。
バルーン……。どうせならネフェルさんの術みたいに、優しくふわっと降ろしてよね!
とっとと消えちゃったし。
「入口か。」
私は飛翠に引っ張られながら、立ち上がる。
遺跡の入口だ。私がファイァーボールを撃った石版がある。
「ミリアさん達も、ここから落とされたの?」
「ええ。そうよ。リヴァイアサンの試練を受けて、うろうろしてたらあのスパイダーとやらに、捕まったの。」
遺跡を出ながら、私はミリアさんと話す。
「なんで、来なかったんだ? お前ら。番人に案内されなかったのか?」
そう聞いたのはライアさんだ。クレイブさんとスフィトさんに、話かけている。
「いや。オレたちは付き添いなんで。」
そう言ったのはスフィトさんだった。
「まったく。ダメダメなんだから。」
ミリアさんはふんっと、鼻で笑った。
あらら。クレイブさんがとっても落ち込んでしまった。
海底遺跡クランヒル。
不思議な場所だった。水流石の原石の溜まり場。更に深海族の住んでいた場所。
いつかーー、会ってみたい。
▷▷▷
フィランデル王国からアトモス公国。
そこに行ける船に乗る。
定期便とやらはまだ出ていた。私達はガトーの大河を越える船に乗り込んだ。
大きな船だ。遊覧船とは全然違う。甲板にはちゃんと、ベンチとかもあって座って行ける。
それに船室もあるらしい。中には食堂みたいな場所もあった。
とりあえず私達は、腹ごしらえをする事になったのだ。
飛翠はそこで地図を広げた。
「ここら辺でちゃんとしとかねーとな。そろそろ訳わかんなくなってきたな。」
と、丸いテーブルの上で地図を広げた。ネフェルさんから買ったものだ。
「今いるのは、“フィランデル王国”です。これから向かうのは“アトモス公国”。見てわかる通り、大陸の中心にガトーの大河。これが区分けです。」
私達のいる大陸はとても大きく、“パーシアン大陸”と言うらしい。大陸が別れていないので、国と国の境に国境がある。
私達のいたイレーネ王国。とこのフィランデル王国は、ガトーの大河で分断されている。
この世界の国境は、曖昧な所が多いらしく、大きな国と国の間。そこに国境が存在していて、関所があるらしい。
この大河を越えて、アトモス領に入る所に関所があるそうだ。
因みに、ネフェルさんの言う“風臥の砦”は、“カンダカン大陸”にあるそうだ。
「ケネトスに入る時に国境が無かったのは、デカい国がねーからか。」
飛翠はそう言った。
「ケネトスの台地は“自由領土”ですからね。国境は必要ないんですよ。」
ネフェルさんの話を聞きながら、私は地図を見つめた。
なんて広いんだ。ガトーの大河。その先に海。
そこを中心に大陸が両端にある。どうやらこの“パーシアン大陸”が一番大きいみたいだ。
イレーネ王国、フィランデル王国、アトモス公国。とりあえず知ってる名前の国が、ある大陸だ。
その次が”ラナティア大陸“。パーシアン大陸の反対側にある大陸だ。魔導館のある場所。ネフェルさんが行こうとしていた“ターナ大聖堂”がある場所だ。
その他にも小さな大陸や、細かな島国などがある。目を引くのはこの二大陸。
「ネフェルさん。大聖堂はいいんですか?」
私は気になってしまった。恋人のアイリーンさん。彼女の弔いの為に……巡礼すると言っていたのに。
だが、ネフェルさんはクリスタルのグラスを手にした。
「これも巡礼です。それに……貴女たちの手助けも、彼女はきっと理解してくれると思いますよ。」
そう微笑むとグラスを口にしたのだ。
飛翠は何も言わず地図を片した。
ちょうど食事が運ばれて来たのだ。
「アトモス公国に行く前に……“トープ”と言う漁村に立ち寄ってもいいですか?」
ネフェルさんが、食事の最中にそう言った。
「トープ? 何しに行くんだ?」
聞いたのはハウザーさんだ。
その手にはクリスタルのジョッキ。どうやらお酒らしい。ついでにライアさんもお酒を、飲んでいる。
「ハウザー。忘れました?」
ネフェルさんの銀色の眼が、ハウザーさんに向けられる。ちょっと冷たい。
にしても……この二人。知り合いなのかな? ずっと気になってたんだけど。
「ん? ああ。」
ハウザーさんはそう言うとジョッキを口につけ、お酒を飲み干した。
「お。これウマいな。」
飛翠は隣でお肉を満喫中。
幸せそーな顔してるし。お肉好きだもんね。飛翠。
「スープちょーだい。」
「肉を食え」
私は飛翠にスープを貰おうとしたが、お肉を口に運ばれた。
ん〜……これは、美味しい。この世界の肉料理には、少しトラウマがある。だからか、ちょっと毛嫌いしてきてしまった。
「アトモス公国とイレーネ王国が、戦争になると“フィランデル王国”は、どうするんですかね?」
そう言ったのはクレイブさんだった。
「様子見でしょうね。」
ネフェルさんが答えた。
「立ち位置的には……“中立”か。フィランデルはイレーネとはいざこざあるが、アトモスとは特に絡みがねぇからな。」
ハウザーさんは骨付き肉を、齧りついていた。
そうなんだ。私達ってこの世界のお国事情とか、全く知らないんだよね。そういえば。
ちらっとしか聞いて来なかったもんな〜。
「何だかややこしくなりそうね。」
ため息ついたのは、ミリアさんだった。
そうーー、この時。予想もしてなかった。
ここから……イシュタリアは混沌の中に、包まれるのだ。
私も飛翠もそこに巻き込まれようとしていた。