第23話 罠っ!?大蜘蛛??▷▷遺跡の出会い
ーー遺跡と言う概念は、本日を持ちましてカンペキに消え去りました。
こんなの知らない!!
「ちょっと! どーにかしてよ! 飛翠っ!!」
私は只今……天井から吊り下がっております。どうやら歩いていたら、何かを踏んづけてしまったらしく、それに足を取られ……逆さ吊りの刑に処しました。
ぶらんぶらん。してます。
「あー。わかったから待ってろ。」
「なにそれ! 助けてよ!」
天井はかなり高い。
下を見れば……なんで、私だけなのよ。皆何ともないし。
そうなのだ。私だけが天井から逆さ吊りなのだ。この蔦なのか何なのかわからないけど、それに足を取られてぶら下がっているのだ。
飛翠は大剣持ちながら、見上げている。
「高っ。ムリだろ。」
「ムリ言うな! 何とかしてよ!」
高さあるのはわかってるけど! このままだと頭に血がのぼる!
「飛翠。下で受け止めてやれ。」
「了解」
飛翠は大剣を背中にしまった。
ん? そう言ったのはハウザーさんだ。え? ちょっと待って! 刀構えてるけど!?
まさか! ぶった切るとかしないよね!?
「ハウザー。助けるなら早い方がいい。何か来ますよ。」
下の通路でネフェルさんが、神導書持ちながらそう言った。
え? その戦闘モードってことは、敵!?
と、私が思っているとハウザーさんが、飛び上がって私の足に絡む蔦を切り裂いてくれた。
勿論。そのまま私は落下だ。
「わ! きゃー!」
結構な高さなんだけど!?
ですが……
どさっ。と。
「お前って罠にも好かれるのな。」
飛翠が受け止めてくれた。
「心配してくれます?? 少しは。」
「五人いて引っ掛かるのがお前だけ。ってのが、笑える。」
お姫様抱っこ状態なんだけど、全然! うれしくない!
「何か来るぞ」
そう言って海竜刀を構えたのは、ライアさんだ。
私は飛翠から降ろされた。
「何かってなに?」
当然の如く……私は、飛翠の後ろに立った。
ネフェルさんも皆……通路の奥を見つめていた。物音が聞こえるからだ。
カサカサ……と、何やらいや〜な足音が聞こえる。
天井を這う様な影。更に紅く光る眼。それが向かって来ていた。
でも……私は気が付かなかった。
「え? きゃーっ!!」
そうなのだ。大きな蜘蛛が真上にいたのだ。しかも、私に白い蜘蛛の糸を噴いた。
私はまるで蚕のように糸に包まれてしまった。
「蒼華!」
飛翠の声が聞こえるけど、身体は動かない。そうなのだ。今、天井から降ろされたばかりなのに、私はまた天井に逆戻り。
しかも蜘蛛の口元まで引き揚げられた。それはもう、一本釣りの魚の様に。
「やだ! なにこれ! 飛翠!」
しかも大きな蜘蛛は私を、糸に包んだまま天井を猛スピードで、這うのだ。
飛翠たちから離されたのは、言うまでもなく。天井には彼らの方に向かう大蜘蛛がいた。
その脇を私は蜘蛛の口元に張り付いたまま、素通りしたのだ。
「どこ行く気!? 離してよ!」
とりあえず足は動くんだけど、肩から腰元まではぐるぐる巻きだ。包帯ミイラか? 私は。
どうでもいいけど! めっちゃ速い!! 何このスピード! 蜘蛛ってこんな速く天井這うの!?
巨大蜘蛛だから??
見た事ない蜘蛛の大きさなんだけど、見れません。間近で見れないので気配だけは、とりあえず背中に感じています。
足八本。それが天井を這い、私は広い場所に連れて来られた。
更にそこから落とされたのだ。
「ちょっと!! なんなのよ!」
意外にも……落とされた場所は柔らかかった。
え? なにここ?
「あら。貴女も?」
そんな声が聞こえたのだが、私は白い綿の様なもの。その上に寝っ転がっていた。
顔を動かすとそこには同じ様に、白い糸でぐるぐる巻かれた女の人がいた。
「え? なんなんですか? これ。」
「さあ? 連れて来られて結構経つけど……。何なのかしらね?」
綿の様なものは弾力性があった。だから私は反動を利用して、身体を起こす事ができた。
どうやら白い糸が張り巡らされた、カゴみたいな場所。そこに落とされたみたいだ。
天井はそこまで高くないけど、下は……かなり、高い。やばい。落ちたらアウトだ。これは。
「ちょっと待って! コレって蜘蛛の糸!?」
ようやくであった。私は大きな柱二本。その間に張り巡らされた蜘蛛の糸。それに気がついたのだ。
そう柱の間にまるでハンモック。それみたいに蜘蛛の糸が張られている。私達はそこにいたのだ。
「そう。さっきの蜘蛛の巣なんじゃない? でも来たのは貴女だけよ。」
きれいな人だった。アッシュピンクの髪。それにマリーゴールドの眼。ミント色のローブ。
あ。ロッド持ってる。
糸に包まれてるから私と同じ。ロッドだけは、抱える様に持っている。
この人のロッドはピンクメタリックだ。スゴいキレイな色してる。
「あのー。魔法使いですか?」
見ればわかるだろ! と、飛翠にツッコまれそうだが、聞いてみよう。
色々いるからね。
「ええ。そうよ。魔導士見習いってところかな。」
笑うと若い。大人っぽいからかなり年上かと思ったけど、もしかして同じぐらいかも。
「あ。私……蒼華です。」
「ソーカ? あたしは“ミリア”。貴女も魔導士?」
ミリアさんか。やっぱりキレイな人だ。
「見習いです。」
「一緒ね。遺跡の入口にいたわよね? なんか美形ばっかり連れてたけど。みんなお供?」
え?? お供!? あーよかった。飛翠がいなくて。問答無用でブチっとしてた。
「違いますよ! 仲間です。ミリアさんも一緒にいましたよね? 男の人たち。」
ミリアさんは背もたれみたいになってる、蜘蛛の糸のハンモックに寄り掛かって座っている。
何だかくつろいでる様にも見えてしまう。
「うん。あの人達は“雇い冒険者”。着いて来て貰ったのよ。」
と、そう言った時だった。
「ミリア! 大丈夫か!?」
「ミリア姉さーん! 大丈夫っすかー?」
いやいや。雇い冒険者じゃないでしょ。どう考えても。めっちゃフレンドリーじゃん!
私は覗きこんだ。
下には男の人が二人いる。
「あ! あなたも捕まったんですか? ミリア姉さんいます!?」
何だか軽いなー。
「いますよー。ここからどうにか出たいんですけど! 何とかなりません!?」
とりあえず聞いておこう。飛翠たちはきっと大蜘蛛退治をしているだろう。
なので、私もどうにかして脱出して戻らなくては!
まー……私がいなくても大丈夫なんでしょうけど。ツワモノばっかだし。ネフェルさんも神導の術使える人だし。
「この柱を降りて来る。ってのはどうですかねー?」
と、男の人が叫んだ時だった。
「はぁ?? 降りられる訳ねーだろ! なめてんのか!? とっとと何か探してこいや!」
えぇっ!?
ミリアさんの怒鳴り声に、私は驚いてしまった。
キャラ違いすぎでしょ!!
「すんませーん!」
二人はばたばたといなくなってしまった。
「まったく! いつまでたっても使えないね。」
ミリアさんは身体を起こすと、そう言った。
「ミリアさん……あの二人とは?」
「“幼なじみ”なの。うちら。」
あ。そうなんだ。幼なじみなんだ。へー。
不思議と私はそれを聞いて……ホッとしていた。始めて……この世界で女性。しかもこんなに親近感沸く人に、出会えたからだ。
カレンさん達はちょっと……年上すぎなので。失礼だけど。
「二人ともダメなの。ホントに! さっきからああやって来るんだけど、助ける方法を見つけては来ないんだよね。まーったく困ったものだ。」
ミリアさんはそう言いつつも、何だか嬉しそうだ。きっとここにいる間に、何度も彼等は来たのだろう。
ここから助ける方法は見つけられなくても……心配で、声を掛けに来てるんだろうな。
「にしても……あの蜘蛛の巣って事ですよね? ここにいたらヤバくないですか?」
「でしょうね。でも、降りるにしてもこの糸……切れないし。」
ミリアさんは身体を捩りながら、糸を何とか解こうとした。
何度か試してるのかな? 少ししたら止まった。
「すごいキツいのよね。」
と、ため息ついたのだ。
私も身体を捩ってはみたが、どうにもなりそうもない。手も糸の中だし。
「あ! この糸! クッションとかになりませんかね? 硬そうだし。」
私は揺らした。座りながら。
「え? これで落ちようとしてんの? 穴開いたら落ちるでしょ。」
あ……。そっか。だよねー。
ミリアさんの呆れた顔に、私はとても深く反省した。バカ女だな。私は。
「あ。蒼華ちゃん。来た」
ミリアさんがそう言ったのだ。
「え??」
私はその声に振り返った。大蜘蛛だ。天井から柱を伝い降りて来たのだ。
速すぎる! それに全身がメタリックな紫で気持ち悪い!!
これは後で思い出して泣きたくなるパターンだ!
「ど……どうしましょ!」
あー。なんかアリみたいな口開いて、降りてくるよ!
ミリアさんが……ふぅ。と、息を吐いた。
「なる様になるでしょう。」
そう言ったのだ。
えぇっ!? それは諦めると言うことっ!?
と、私が思っているのもつかの間。大蜘蛛は這いおりて来たのだ。
カサカサと音をたてながら。柱を降りてきた。
ブーッ!!
噴き出されたのは白い蜘蛛の糸だ。
私とミリアさんはハンモックの上で、とりあえずそれを避けた。
柱に引っ掛かる蜘蛛の糸。ぴたっと張り付いた。なんかテーブルとかに置くレースのやつみたい。
「ちょ……まさかの!?」
「完全に糸人間にされそうね。」
えぇっ!? なんと言うこと!!
ミリアさんのとても……冷静な声に私は驚いてしまったが、コッチはとにかく手が動かない。
動けばここはばしっとロッド向けて、魔法を、使うんだけど。
とにかく糸人間だけはイヤだ!
私とミリアさんは柱に止まり、糸を噴く蜘蛛からとにかく避けた。
ハンモックは大きいからじたばただけど、とにかく糸から逃げるしかない。
大蜘蛛は柱に止まったままハンモックの上で、倒れたりしながら避ける私達に、糸を噴いてくる。
あぶなっ!! 頭にかかるかと思った。
倒れた頭の上に蜘蛛の糸が、びしゃっと広がった。
「ミリア!」
あ! なんか下で声が聞こえる。
「ライア!」
あれ? この声って飛翠??
「“海神天昇破”っ!!」
この声は……。ライアさん??
技だよね??
「ミリアさん!!」
私は何となくだけど、ライアさんがこのハンモックを突き破ろうと、あの“海竜”の頭を波動にした剣技を放ったのだと、思った。
だからミリアさんの身体に体当たりした。
二人揃って中心からズレた。ハンモックの上に倒れ込んだ。
その直後だ。
ハンモックは真ん中からぶった斬られたのだ。そう。海竜の頭がまるで喰い破るかの様に、大口開けて飛んできたのだ。
「え? きゃーっ!!」
ミリアさんの一瞬の間の声。その後に悲鳴。
気持ちはわかります。
落ちてますからね。真っ逆さまに。
蜘蛛の糸で出来たハンモックが、破れた事で、私とミリアさんは落ちたのだ。
更に柱にいたはずの大蜘蛛。それも何かに攻撃されて落下した。
大蜘蛛と私とミリアさんは、高速で床一直線。
「浮遊する心」
その声が聞こえた時だ。私とミリアさんの身体は、何かふわっとしたもの。それに乗っかっていた。
まるで柔らかなクッション。その上に身体が乗っかり浮きながら下に降りたのだ。
大蜘蛛は隣で真っ逆さまに落ちていた。
「ネフェルさん??」
私とミリアさんの下。この透明な金色の丸い物体。光なのだろうけど、クッションみたいな感触がある。
その下では神導書を開いたネフェルさんがいた。
「本来は“空中遊泳”の術なんですがね。改良版です。」
とっても涼しい顔でそう言われてますが、そんな術までお持ちで!
何なんだ? この人たちは! スゴすぎでしょ!
こんなのがたくさんいるの?? この世界は。
グシャッ! と、音がした。
うわ。大蜘蛛が潰れてしまった。
これはちょっと見れない……。
私とミリアさんはネフェルさんの術。そのクッションみたいな光の上に、乗っかりながら無事に地面に到着した。
ポンッ。と、消えてしまったのは、私達が地面に足が着く頃だった。
その時にはネフェルさんは、神導書を閉じていた。
「ミリア!」
「ミリア姉さん!」
着地するとミリアさんの所には、二人の男の人が、駆けつけていた。
「ケガしてねーか?」
私は飛翠の剣で、糸から解放される。
「うん。大丈夫。あの蜘蛛を倒したのは飛翠?」
「ハウザーだ。」
ブチっと切られてようやく糸は、身体から解けた。ミリアさんも幼なじみの男の人に、剣で縛られていた糸を、解かれていた。
「ハウザーさん?」
え? どんな技使ったんだろ? でも。助かった。
「ありがとうございます」
私がハウザーさんに言うと、剣を肩に乗せながらハウザーさんは、にやにやとしていた。
「いやー。参った。飛翠がおっかねぇんだ。これがまた。嬢ちゃん。愛されてんなー。」
は?? え??
私はそんな言葉を言われて思わず……びっくり。
「ええ。本当に。全く。参りました。」
ネフェルさんは神導書をフッと消した。だが、とても疲れた様な顔をしていた。
あら? 消えるのね。
いやいや。え? どーゆうこと??
「うるせーな。余計な事言うな」
ん? 飛翠は全くもってフツーみたいだけど。今もとてもキレてるし。
「よく言うよ。さっきまでキレまくってたよな? 人のハナシ聞かねぇし、突っ込むし。お陰で“スパイダー”は、かる〜く退治出来たけどよ。」
と、海竜刀を持ちため息つくのはライアさんだった。
「まじで殺すぞ」
「なんだよ! ホントのことだろ。その姉ちゃんの顔見たら、ホッとしてたよな?」
えっと……それはとても……心配してくれてた。って事だよね?
私はライアさんと睨み合う飛翠に、視線を向けた。
いつものキレた飛翠の顔だ。ムキになって怒る。
どうなんだろ? 私達……。“あの頃”より……少しは……近くなってるのかな?
それとも……こんな世界に来ちゃって……二人しかいないから……、大切。って言葉だけが、先に突っ走ってるのかな?
幼なじみだから……ずっと一緒だったから……それだけ。の事なんだよね?
私達の“境界線”は……消えてないんだよね。
「助かったわ。ありがとう。」
その声に……私は、現実に引き戻された。
いやいや。ここは変な事を考えてる場合ではない。そうだ。ここはまだ遺跡なのだ。
「ミリアさん。ケガしてません? 私……体当たりしちゃったんで。」
頭突きした様な気がするんだけど。どこかに。
「大丈夫よ。ありがと。にしても……やっぱ羨ましいメンツね。美形ばっかり。」
ミリアさんは飛翠たちを見ると、にこっと笑った。
「……」
私は後ろで何だか……とても、心配そうにしてる男の人に、目を向けた。
綺麗なブロンドの髪をした、優しそうな人だ。それにかっこいい。優しくて包んでくれそうだ。
それに、何よりも……ミリアさんの事を、とても大切そうに見つめてる。
「そうですか? 私は……ミリアさんの方が羨ましいです。」
私の言葉にミリアさんは驚いていた。
でも、ブロンドの髪の人の横にいる……ちょっと、やんちゃっぽい人。紅い髪のバンダナ巻いた人も、ミリアさんの事を、とても心配そうに見ていた。
やっぱり……大切な幼なじみなんだ。でも、それだけじゃなさそうだけど。
何だかこの三人の関係が気になる所だ。ミリアさんを巡って……恋の旋風巻き起こってそうだ。ドラマっぽい展開が、想像出来てしまう。
「オイ。やめとけ。」
私は頭をひっぱたかれた。
「え??」
ハッとすると、目の前のミリアさんがとても怯えていた。
と言うよりも……ドン引きの顔だった。
「あ!!」
やってしまった!! 私のフル妄想癖!!これはまた、ぐふふと笑いヨダレ垂らしてたんだ! あーもうっ!! そりゃひかれるわ!!
「ちょっと……恐いけど? 大丈夫なんだよね?」
「あーはい! 大丈夫です! クセなんです!」
アハハ! と、私は笑って誤魔化した。
隣では飛翠がとても呆れていた。
ちょっと……自嘲しよっかな。妄想。




