第1話 コボルト村▷▷ササライ鉱山!国境を越えろ!
ーー水流の指輪について。
カルデラさんやグリードさん。
ラウルさんの答えはーー「NO!!」だった。
断固お断り。と、拒絶された。
なので、私と飛翠。シロくんが装備する事になったのだ。
「気をつけてな。」
「ありがとう御座いました!」
コボルト村の村長さん。ナガイさんを始めとするコボルトさん達に、見送られ私達は村を出たのだ。
グリードさんは、自分用の馬を持っているらしくトーマスくんよりも濃い茶の毛をした馬に、跨っていた。
シロくんは、カルデラさんと一緒に乗った。グリードさんが声を掛けたのだが、困惑気味に言葉を濁し、カルデラさんが“道案内”をして欲しいと、機転を利かせていた。
グリードさんはちぇ。っと諦めていた。
何だか……素直になれないタイプなのかもしれない。気に入ってる人をイジメてしまう厄介な、性格の持ち主みたいだ。
いじけるグリードさんが、なんか可愛く見えてしまった。
「国境を越えるでな。」
ケネトスの台地を走りながら、カルデラさんはそう叫んだ。
少し先を走ってくれている。黒馬の“ブラッド”くんと。因みにラウルさんを乗せてる白馬は“ジーク”。グリードさんの馬は“ホースト”と言うらしい。
「ようやく“クソ王国”とはおさらばか。」
と、飛翠が後ろでそう言った。
「そうだね。でも……大丈夫なのかな? アトモス公国に逃げ込んで……。仲悪いんでしょ? 私達は、イレーネ国の罪人になってるんだから、匿うみたいな事をしたら……問題になると思うけど……」
そうなのだ。
カルデラさんもラウルさんも、ナガイさんもカレンさんも“心配無用”とは言っていたけど……。
どう考えても心配だ。
「俺達が考えた所でどーにもなんねぇよ。この世界の事を、まともに知らねーんだからな。」
飛翠は相変わらず……強気だ。
それに思い切りがいい。
「そうだけど……」
私はそんな飛翠の様にすぱっとは、切り捨てられない。考えてしまう。
「その時になって“後悔”しねー選択をすればいいだけだ。今考えても疲れるだけだ。」
飛翠はやっぱり強い口調だ。
「……そうだね。」
考えても仕方ない。
たしかに。何にもわからないんだから。
大きな川を右手に、草原を馬四頭は駆け抜ける。
青空には白い太陽が昇っていた。
太陽が白い。その光さえも白い。
暑くもなく寒くもない。
太陽の光は暖かい。
こうして風を切っているけど、日本で言う春の気候みたいで、心地よい。
不思議な世界だ。
国境を越えるにも、やはりケネトスの台地から峠とやらを越えるしかないらしい。
ーー。
“ササライ鉱山”……ここが、国境前の難関だとラウルさんは教えてくれた。
険しい鉱山道。幾つもの穴が空いたその山は、洞窟の様になっていて、“魔石の原石採掘”に使用されているらしい。
鉱山の入口には、まるで門番の様に男の人が二人。立っていた。
簡単な“管理所”みたいな施設もあった。
その人達の向こう側……暗い洞窟が、まるで私達の侵入を待っているかの様に、大きな口をぽっかりと開けていた。
私達は、馬を降りた。
呼び止められたからだ。
「鉱山巡りか? それとも“国境”か?」
そこに立っていたのは、大柄な紅い髪の男。
髪型はツンツンとしている。
何だか怖そうな人だな。
武器とかは持ってないけど、筋肉が……。
かなりマッチョ。
それに飛翠ぐらい大きい。
胸当ては銀製だよね。それをつけてやっぱりTシャツと言うか、少し厚めのポロシャツに近い布地なのかな?
ノースリーブなんだけど、その逞しい二の腕に、目がいってしまう。
両腕には黒の革製のサポーターみたいのをつけてる。腕当てとか言うのかな?
何だろ? ズボンは黒いものなんだけど、道着? そのぐらいの厚さかな?
足首にも黒い革製のサポーターみたいのを、巻きつけてる。
あ。ブーツじゃないんだ。グレーの靴だけど、ローカットスニーカーに似てる。
その横にいる人は、銀の剣を持った戦士みたいな人だ。でも鎧は上半身だけ。
足元は、白いズボン。
でもカルデラさんと同じ様に銀製のブーツみたいのを履いてる。
膝当てつけて、脛辺りからブーツだ。
カルデラさんは、鎧だから全身銀製なんだけどね。
「国境越えじゃ。」
カルデラさんは、怖そうな男の人二人を前にしても、全然怯まない。
それを聞いてブルーの眼をした戦士みたいな、男の人は、険しい表情をした。
この人はブロンドの髪だ。
でも顔が怖いから、美形とは言い難い。
若そうにも見えるけど、しかめっ面だし目が鋭すぎる。眼ヂカラが強くてコワモテだ。
「ケネトスからの国境越えで、なんで“監視”がいるんだ? いつもはいないよね?」
と、聞いたのはラウルさんだ。
こうして見ると、同じブロンドで元騎士のラウルさんは、なんだかとてもカッコよく見える。
野武士と殿ぐらい差がある。見た目も。
失礼だけど。
「頼まれただけだ。別に“手形”寄越せとは言ってないだろ。通って構わねぇよ。」
と、顎でくいっ。と、洞窟の穴の方を指すのは、赤髪の男の人だ。
“手形”? 通行手形みたいなものかな。
あるのか。へぇ。
私は日本だけなのかと思っていた。
昔……関所を通る時に、通行手形とやらを見せていたと聞いたことがあったのを、ふと思い出したのだ。
とか言って……“時代劇”なんですけどね。
「なんだか怪しいな? 何かあったのか?」
ラウルさんは、白馬のジークくん。を、どうどうと宥めながらそう聞いた。
「“怪しい者”がいるかどうかの、監視だよ。アンタらは特に問題なさそうだな。行きな。」
と、腕を組んでその“格闘家”みたいな人は、言ったのだ。剣を腰に挿している人は、隣で何だか不機嫌そうだ。
ん? 通っていいの?
え? 私達の顔を見て……“驚かない”んだけど?? どうゆうこと??
ここまで、“お尋ね者”扱いばかりなので、本当に不思議だった。
だって、二人とも私と飛翠の顔をちゃんと見てる。じっくりと。
でも、何も言われなかったんだ。
鉱山……は、茶色と黄土色。それに少し赤土混じった洞窟だった。
何だか不思議な岩壁だ。グラデーションされてて、絵に描いたみたいだ。
そこに“魔石”の原石だろう。
青白い光や、オレンジっぽい光。それに……ちょっと緑っぽい光まで、岩壁の中から光っていた。
これがまた……綺麗なのだ。
幻想的な空間で、いちお洞窟の岩壁には、ランプがついているが、いらないぐらい光っている。
「カルデラさん。私達……何も言われなかったけど……なんでかな?」
トーマスくんを引いてくれてるのは、飛翠だ。
シロくんは、私の隣を歩いてくれている。
なんだか、散歩中みたいだ。
「あの者達は、恐らく……“アトモス公国”の君主。“スレイヤ大公”か、もしくは“貴族”に頼まれた者達であろうな。」
カルデラさんは歩くと銀鎧の音がする。
「え? 貴族?」
あ。そっか。“公国”って、王様じゃないんだっけ。貴族の国なんだっけ。
確か……“公爵”だか、“伯爵”……だっけ?
「左様。アトモス公国は“貴族”が君主でな。スレイヤ大公が、今は統治しておるが……住んでおる者達も殆どが、貴族だ。故に……“イレーネ国”とは、反りが合わんのだ。」
と、カルデラさんは唸りながらそう言ったのだ。
後ろ姿だから表情は見えないが、きっととっても眉間にシワが寄っているであろう。
「へぇ。なんか派閥とかありそう。」
率直な意見である。
貴族や華族と聞くと、どろっどろのいがみ合いがありそうだ。
イメージだけど。
「あるよ。次の君主を狙ってるのは“スレイヤ大公”の弟君だ。表向きは”大公の右腕“みたいだけど、とんでもない。”元老院“を抱き抱えて、スレイヤ大公の失脚を、待ってるからね。」
でた。骨肉の争い。そして“血の兄弟対決”。
正に……どんぴしゃだ。イメージ通り。
きっとその嫁たちも、嫉妬と妬みで戦いを繰り広げているんだ。
それも陰湿などろっどろの戦いだ。
正に! 女の戦い。
私はちょっと興奮してしまった。
これだけで、ご飯三杯はいけます。この妄想で。
「蒼華様……。顔が恐いです。」
「ほっとけ。いつもの“妄想癖”稼働中だ。当分、帰ってこねー。」
グフフ……。
シロくんと飛翠が、そんな事を言ってるとは露知らず。私は妄想の世界にいたのだ。
「“セルディン卿”の依頼ですかね?」
「どうだろうな。」
セルディン!? それが“兄を失脚させよう”としてる、弟か?? ふんふん。なんだか楽しそうだな〜………。テレビじゃなくリアルで、観れるんだ!
私は小さくガッツポーズした。
「蒼華様……。顔が気持ち悪いです。」
「ほっとけ。」
うへへへ。
ヨダレでちゃうよ。おねーさん。
でも、そんな私の妄想は、直ぐにふっ飛ばされる。
現実は……甘くはないのだ。
入口から少し中に入った時だ。
ここから鉱山なのだろう。
幾つもの穴が開く、開けた場所。
そこに……私達を待ち構えていたのか……。
銀の鎧を着た男たちがいたのだ。
空洞の中で、待っていたその集団。
そこまで多くはないけど、その中に……“彼”はいたのだ。
「やはり“国境越え”に、船を使わない。その考えは、正しかったみたいだな。」
蒼い鎧……。
流れる様なブロンドの髪。すらっと高いその姿。
美しい男の人なのだが、その“碧の眼”は、とても冷たく光る。
スッ……と、直ぐに銀の刃が少し長めの剣を、腰元から抜いたのだ。
カルデラさん達が持つ剣よりも、長い。
ただ、飛翠の様に刃が太い訳ではない。
細さは剣と同じ……。日本刀を思い出した。
それより少し太いぐらいで、長さもそのぐらいだろう。
木刀。そのぐらい長いかもしれない。
「サデュー殿……」
カルデラさんも剣を抜いた。
隣では、ラウルさんも抜いたのだ。
「ほぉ? 上官に向かって剣を向けるか。中々、“悪党”が板についてきたか? カルデラ」
その声を合図に、7人程度はいそうだ。
銀の鎧を着た男たちも、剣を抜いたのだ。
みんな、頑丈そうな鎧に、兜をつけている。
「おいおい。なんだ? コイツらは?」
と、斧を担ぎ呆れた声を出したのは、蒼い狼犬に似た、コボルトのグリードさんだ。
「イレーネ王国……“国王護衛軍統括騎士”である。その名も“サデュー•ナタク“殿。ワシがいた“蒼騎士団の団長”でもあった。」
ササライ鉱山の、広い空洞の中でカルデラさんの、低い声が響く。
私達は、この人から逃げられるのだろうか。