章の終わり コボルトの村▷▷強い意志と新たな仲間
ーー大きなコボルト達に、笑われている子犬並みのシロくん。
その“表情”は、“強い意志”を滲ませていた。
だが……
ぶわっはっはっはっ!!
大爆笑が起こってしまう。
腹を抱えて笑うーー、と言うのはこうゆうことであろうか。コボルト達は、仰け反りながら笑ったのだ。
「魔法使いだと? また言ってるよ!」
「ムリムリ。お前になれる訳ねぇさ。」
「“魔導書”買い漁ってもムダだっての。」
え? 魔導書?
そんなのがあるんだ。
そうか。シロくんは……それが欲しいから、あんなコカトリスに襲われるかもしれない山に、登ってお金になる“カナカナの実”を、取りに行ってるってこと?
「おいおい。やーめとけ。って。いいか? シロ。魔法使いってのは、単独じゃ不利だし。増して、お前みたいに“ひ弱”じゃ死に戦だ。戦士に護って貰いながら、うろちょろするしかねぇんだぞ?」
グサッ!!
う……。なんだろ?
グリードさんの言葉が、とても強く私に突き刺さった。それはそれは“イタい話”だ。
イタすぎる。
「僕は……“蒼華様”のようになりたい。この方は、とても“強い”。憧れます。だから、お傍にいたいのです。」
えっ!?
ウソ!? 私っ!?
私はーー、驚いてしまった。
シロくんを見つめてしまった。とても。
でも、シロくんはつぶらな蒼い眼で、私を見上げていた。
「僕は“貴女のようになりたい”。そして……いつか貴女をお助け出来る“魔法使い”になりたい。」
ここにきて……ついに……ついに!!
“異世界ファン一号”!! 蒼華のファンクラブ創立決定!!
いやいや。そうじゃないだろ。
「シロくん……。どの辺でそう思ったのか……わからないんだけど。私……ダメな感じよ? ホントに。飛翠いないとムリだし。」
あ〜……絶対。ドヤ顔して頷いてるよな。
言いたくはないが、現に……私が何とかなってるのは、飛翠やカルデラさん。ラウルさんのお陰だからね。あと。トーマスくん。
ここは、ハッキリとお伝えせねば。
間違った認識は良くない。
でも、シロくんは“私を強く見つめた”んだ。
「いえ。“強さ”は“力”ではないと思ってます。“大魔道士ゼクセン様の書”にも、記されてました。“本当の強者とは心の強い者”だと。」
え? 黒崎さんが?
なんだか、いい事言うな〜……。胡散臭いのに。
「蒼華様は、皆さんをお助けする為に……怯みませんでした。僕は“その姿”を見て、思ったんです。この人の様な魔法使いになりたい。」
シロくんは、強くそう言ったのだ。
この子供みたいな背格好で、愛らしいわんこが、今は……逞しく見えた。
強い気持ちを持つ人は、それだけで“大きく”見えるのだ。人間もコボルトも関係ない。
私はーー、しゃがんでいた。
いつの間にか。
シロくんのその小さな手を掴んでいた。
「シロくん。危ない旅だけど、大丈夫?」
そう。これは言っておかないとね。
何しろいつ狙われるか、わからないので。
「はい。心得ております。」
ブレない。この人は……“意志が強い”。
こんな小柄で守ってあげないといけない様な感じなのに、一人で……あの山に登るだけある。
シロくんは、“強い”のだ。
「お願いします。」
私はそう言っていた。
知りたい。と思った。
この“ブレない強さの秘訣”が。
甘ちゃんな私は……シロくんに、追いつきたいと思ったのだ。
「こちらこそです。蒼華様。」
と、シロくんが嬉しそうに笑ったところで、水を差す者がいる。
「いいのか? お前と……シロ。他のメンバーの“負担”が増すぞ?」
グリードさんだ。
私とシロくんを覗き込むそのグレーの眼。
あ!!
私はその声に後ろを振り返った。
飛翠は腕くんで呆れ顔。
カルデラさんとラウルさんは、何故か。
とても優しい笑みを浮かべていた。
だが、
「別に。蒼華みてーのが一人や二人いても、構わねーけど? 鍛錬になるからな。」
と、腕を組む飛翠がそう言ったのだ。
うぬぬ。なんで上から目線!?
それじゃー、私が“足を引っ張るダメ人間”みたいじゃないか!!
実際はそうだけど。
「ワシは“お主の意見を尊重”するでの。したいようにしたらよい。元より……“自由の利かぬ旅”だ。少しでも“蒼華ちゃんが笑顔”になるならそれでよい。」
カ……カルデラさんっ!?
今……なんとおっしゃいました!?
えっ!? 神! 神なんですけど!!
私は泣いてしまいそうになった。
でも、ラウルさんも
「いいと思うよ。“魔法”の事はわからないからさ。俺は。切磋琢磨にもなるだろうし、博識っぽいもんね? 安心しなよ。付き合うよ。とことん。」
と、笑ってくれたのだ。
ああ。なんて神々しいイケメンスマイル。
くらくらしてしまいそうだ。
そしてなんていい人なんだ。
軽いとか思ってたけど……撤回します。
「良いのか?」
と、ナガイさんが暫く……様子を伺っていたのだろう。口を挟むことは無かった。
だが、そう聞いたのだ。
「ナガイ殿。シロくんを連れて行っても良いか? 蒼華殿を手助けする“仲間”として、迎え入れたい。」
カルデラさん!
やばい。涙が。
優しい“お父さん”の様な眼差しが、私に向けられていた。この暖かな人を私は……“大切”だと、思い始めていた。
かけがえのない人だと……そう。思っていた。
「こちらこそ宜しく頼む。シロ。支度をしなさい。」
「はい! 村長さん!」
こうしてーー、私達に新たな仲間が出来たのだ。
博識の魔法使い見習いシロくん。
護衛にぴったり荒くれ者のグリードさん。
コボルトの村で、私と飛翠に“力強い味方”となる人達に出逢えたのだ。
それは、ここに来てから“巻き込まれ型”ではない、始めての“仲間”であった。
私達は、“アトモス公国”へ向かう事になったのだ。