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君と剣と魔法を紡ぐ物語〜私達がお尋ね者っ!?〜  作者: 高見 燈
第2章  私達の逃亡生活は、波乱万丈!
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第19話 カナカナ山▷▷コボルト村

 ーーカナカナ山からの帰り道。


 下り坂は本当に恐かった……。


 私はほとんど……飛翠(ひすい)とカルデラさんに、両脇抱えられ運ばれていた。


 いつぞやの状態を思い出した。

 イレーネ国に入った時だ。あの時も黒崎さんと、飛翠に抱えられていたのだ。私は。


 そんな状態でも、私はおっかないので口だけは動かしていた。


 気を紛らわせないと、この坂道を転げ落ちるんじゃないか? と、嫌な予感しかしない。


 砂利で滑りそうだし結構……急斜面に見えてしまう。


「シロくん。頂上には何があるの?」


 担がれる様な私を見つめるシロくんの、蒼い目は何とも“可哀相な人”に向けられる視線では、あったが、そこは気にしないでおこう。


 転がるよりはマシだ。


「あの山の頂上には、“カナカナの実”があるんです。」


 と、シロくんは言うとごそっ。と、ズボンのポケットから、黄色い巾着袋を取り出した。


 かなり厚みあるからたくさん、入っていそうだ。それにシロくんの手より大きい。

 テニスボールぐらいはある。


 あのポケットは何でも入るんだな。

 左側にはコカトリスの黄色い羽根が、たくさん突き刺さっている。


「カナカナの実?」


 私は殆ど足を浮かせている。

 何しろ飛翠もカルデラさんも、大きいので。

 完全な“カゴ持ち化”している。


「カナカナ酒の“原料”じゃよ。蒼華(そうか)ちゃん。」


 と、教えてくれたのはカルデラさんだった。


 カナカナ酒??


「あー。カルデラさんが飲んでたお酒ね。アワのあったビールみたいなヤツでしょ?」


 私は、アムズの宿屋のお店でカルデラさんが、口元を白い泡だらけにしていた事を、思い出したのだ。


「ビール?? はて? なんだね?」


 と、カルデラさんはオレンジの瞳を丸くした。右腕で軽々と、私の脇を抱えながら。


「あー。お酒。“麦酒”って言えばいいのかな? 泡があるんだ。」


 私は当然のことながら、お酒は飲まない。けれど、父親が飲んでいた事を思い出した。


「ほぉ? 麦酒とな。どんなものなのだ。」


 カルデラさんは意外にも、興味ありそうだ。あ。お酒が好きなのかな? なんだかとってもにこにことしている。


「苦味がある酒だ。」


 と、飛翠が答えた。


 この方も軽々と、左腕で私を運んでいる。文句を言いたそうな顔はしているが、これは諦めている様子だ。


 ほぉほぉ。と、カルデラさんは頷く。赤みはあるがオレンジ色に、近い顎の髭が揺れる。


「“カナカナの実”はお金になるんです。お酒の原料ですから。これを僕は“アムズ”に行って売ってお金にするんです。」


 と、白い巾着袋を開けるシロくん。

 真っ白な紀州犬に近い顔をした犬だ。背格好は、小学生ぐらいだけど。私の腰元ぐらいの背だった。


 今は……私が浮いているので、正確には測れない。


「これです。」


 と、顔はとっても可愛いし、男の子みたいなんだけど、声は青年。

 その手で摘んだ実を、見せてくれた。


「大きいんだね? どんぐりみたい。」


 どんぐりのサイズぐらいある楕円形の緑色の実だ。なんかそら豆の色に似てる。


「どんぐり?」


 と、私にその実を渡しながらシロくんは、首を傾げた。


 あれ? クルミとヘーゼルがあるから……どんぐりもあるのかと、思ってたけど……。


「木の実だよ。どんぐりって言う。ないの?」


 私は緑色の実を掴むと、鼻に近づけた。

 柔らかかった。ちょっと力をいれたら潰れてしまいそうだ。


 ぶにぶにしてる。


 匂いもなんか香ばしい。

 ポップコーンの豆を炒ったみたいな匂いだ。


「“バラノス”の事ですかね? 木の実と言うと……」


 シロくんはそう言った。


「バラノス??」


 蜂の巣? それ。


「バラノスはもう少し大きいじゃろ。それにカタチも三日月みたいだしな。」


 カルデラさんが、そう言った。


 ん〜……わからないけど、この世界の木の実も、私の知ってる木の実とは、やっぱり違うんだろうな。クルミとは言ってたけど、渋かったし。


「ああ。そうでしたね。それなら“フィトニ”ですかね? あれは丸いか。」


 と、シロくんは私が渡した“カナカナの実”を、しまいながらぶつぶつとそう言ったのだ。


 フィトニ?? なんだかパスタの名前でありそうだな。




 ▷▷▷


 そんな感じで、運ばれつつ……“コボルト村”に帰ってきたのだ。


 コボルトの村に入ると、ナガイさん。

 つまりこの一族の族長と、若い衆たちが待っていた。


 ナガイさんは銀色の眼をした白い犬だ。

 シロくんとは、違いやっぱり狼犬みたいに見える。つまり、顔がおっかない。


「ほぉほぉ。帰ってきおった。」


 鼻に乗せてある丸いメガネはレンズが、小さい。まるでルーペみたいだ。

 大きなこの眼には、サイズが合ってない様に見えるけど。


「村長。」


 と、前に出たのはシロくんだ。


「ん? シロ。お主はまた“カナカナ山”に行っておったのか? 危ないから行くな。と、申したはずじゃ。」


 シロくんとナガイさんは、あまりにも体格の差がありすぎる。子供と大人……と言うより、リスとクマ? だね。


「これを。“コカトリスの羽根”です。この人たちは、ちゃんと“退治”しました。僕は見てました。」


 と、シロくんは左のポケットから、コカトリスの羽根を取り出した。


 束になってるその羽根をナガイさんに、見せたのだ。


 お〜……


 どよめくのは、若い衆たちだ。

 蒼い法被姿のコボルトたちだ。彼等も、色んな犬の顔をしているが、獣感がやや強め。


 ハスキー犬や、狼に似ている。


「本当に倒したのか?」

「あの風を操るコカトリスを?」

「凄いな。」


 などと、ガヤガヤ。

 ナガイさんの周りは、にぎやかだ。

 皆……目を丸くして、私達を見ている。


 ナガイさんは、シロくんの持つ羽根を一本。

 取ると眺めた。太い毛むくじゃらの指でで掴むと、羽根の先が爪楊枝みたいだ。


「そうか。倒してくれたか。」


 と、途端ににこぉっと笑ったのだ。

 その目はとても丸くなり、顔もにこやか。


 ここの人達は、キャラ変更が得意なのだろうか?


 皆ーー、おっかない“野犬”から、一気にホーム犬の様に愛らしい顔になっていた。


 つまり……顔がとてもにこやかだ。

 しかも、拍手喝采。


「やるな〜」

「これで、カナカナ山に登れるぞ!」

「ああ。あそこは珍しく“風の魔石”が、落ちるからな。」

「カナカナの実も採れる!」

「原石採取も再開出来るな!」


 などと、歓喜の声があがったのだ。


 以前……魔石を持ってるのは、妖精(エルフ)が多い。と、カルデラさんは言っていたよね。

 そういえば。


 でも、魔物も持ってるんだっけ? この人達の喜び方だと、“希少”なのがわかる。


「ふむ。認めよう。お主たちは“罪人”ではない。」


 ナガイさんはそう言って強く頷いたのだ。


「初めっからそう言ってるだろ。じじぃ。」


 だが、隣の飛翠はすかさずそう言ったのだ。

 とても不機嫌な顔をしていた。


 気持ちはわかるんだけどね。


「カルデラ殿。我等“コボルト族”は、お主達の力になろうぞ。“アトモス公国”スレイヤ大公宛に、我からも書状をつかわす。罪人ではないと、申し伝える一文を、書こうではないか。」


 と、ナガイさんはそう笑ったのだ。


 すると、鎧騎士であるカルデラさんは、とても安堵した様子。

 朗らかな顔になった。


「それは有り難い。“後押し”になるでの。ナガイ殿! とても助かる。」


 良かった〜……。この世界で、私達が“偽物”だと言う事を、わかってくれる“理解者と賛同者”がいてくれるのは、かなり嬉しい。


「ありがとう御座います!」


 私は余りにも嬉しくてナガイさんの、手を掴んでいた。にぎにぎと掴み、ぶんぶんと振った。


 いきなりの事で、ナガイさんはギョッとしていた。だが、微笑んでくれたのだ。


「良い良い。グリード。お供せい。無事にアトモス公国まで、連れて行くのだ。」


 と、ナガイさんはそう言ったのだ。

 すると


「あの。村長さん。“僕も行きたい”です。」


 と、シロくんがそう言ったのだ。

 すると、わっはっはっは!!


 と、若い衆はじめ……グリードさんまで、大笑いをしたのだ。


 私はーー、その感じに少し“イヤな気持ち”になった。


 それは、シロくんが“バカにされている”気がしたからだ。


「やめとけ。お前なんか行っても役に立たねぇよ。」

「そうそう。グリードならわかるけどなぁ?」

「番犬にもなりゃしねぇ。真っ先に魔物に殺される“盾”にでもなる気か?」


 やっぱり!! 完全に“集団批判”を始めた!!こんな可愛くて“物知りくん”に、なんてこと!!


 私はナガイさんから手を離した。


「シロ〜……。“おつかい”に行くんじゃねぇんだぞ? わかるか? “護衛”だ。」


 グリードさんが、大きな斧を担ぎシロくんの横に立った。


 可愛いシロくんを見下ろして、にやにやとしている。


 う〜ん。さっきまではわりといい奴とか思ってたけど、悪人面が復活だ。


「わかってます。ですが……」


 でも、シロくんは真っ直ぐとナガイさんを、見つめた。しかもハッキリとした口調で言ったのだ。


「“魔法使い様”を見たいのです。僕は“魔法使い”になりたいから。」


 そう……言ったのだ。


「シロ……」


 ナガイさんの銀色の眼が、鋭くなった。

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