第18話 カナカナ山▷▷武器談義と風の魔石
ーー親子コカトリスを倒したあとの、岩山に囲まれた“巣”では、暫しの武器談義が行われようとしていた。
「“進化”系の武器? もしかしてゼクセンさん?」
ラウルさんは、剣をしまいながらそう言った。
「そうみたいじゃな。ワシも始めて見たわ。なるほどな。こうして進化するんじゃな。」
と、カルデラさんはそう言ったのだ。
オレンジ色の髪を、オールバックみたいにしていて、後ろで流してるんだけど。
今日はいつもよりも纏まってる。
「え? カルデラさん達のは違うの?」
と、私はそう聞いた。
「ワシらのは“鍛冶屋”で、鍛えて貰うんじゃ。それにも“魔石”の原石が使われる。強度や耐久性なんかを、鍛える時に使うんじゃが……。まぁ。それを“進化”や、“強化”などと言うたりするが、お主たちのは、“本当の進化武器”じゃな。こりゃ、驚いたわい。」
と、カルデラさんは、私のロッドや飛翠の大剣を見ながらそう言ったのだ。
「防具や装飾品と言われる物には、“魔石”が使われるんだ。それが“属性耐性”を産み出したりするんだ。」
ラウルさんは、その碧い眼を少し輝かせた。
にしてもーー、ちょっと待って。
みんな、キラキラしすぎ。
男どもは……“飛翠の大剣”に、目を輝かせている。
「なあなあ。名前あんのか? 俺様もつけてるんだぞ。“スーパーアックス”って言うんだ。」
と、グリードさんはそう言った。
え!? ちょっとキャラ変わってない??
グリードさんなんか、尻尾まで振ってるよ。
「“勇敢な心”だ。」
飛翠は新しい大剣を、ぶんぶんと振り回し始めた。
「かっけー。なにそれ? どんな意味なんだ??」
いやいや。キャラ変わりすぎだってば!
『ソイツらよこしな!』
は、どこ行った!?
最初に登場したグリードさんの、悪人面はもう少年の様になってしまった。
「勇敢な心……だったか? 蒼華。お前のはたしか……“審判の心”だったな。」
と、飛翠は大剣を地面に突き刺した。
その前で腕を組む。
「うん。そう言ってた。」
ラウルさんとグリードさんは、キラキラした目で、大剣を眺めている。
「鍛えたみたいな刃だ。強靭だな。」
「それに綺麗だな。」
と、ラウルさんの声にグリードさんは、うんうん。と、頷いている。
「お主らの……武器の“進化”とは、どんな“線引きが、あるんだろうな? ワシらのは強化と改造なんだが。」
と、カルデラさんはそう言って、私のロッドの銀色のリングを見つめた。蒼い円形の輪が、とても眩しく煌めく。
アパタイト……。青の洞窟みたいな煌めきだ。
「ん〜……よくわからない。私は言葉を濁されたけど、飛翠のは“心と力”で進化する。って言ってた。」
と、私は武器をそれぞれ貰った時の事を思い出した。確かに“黒崎さん”は、そう言ったのだ。
あの頃は黒崎さんだと信じていたが、今はゼクセンさんだ。
「ふむ。なるほどのう。ゼクセン様が授ける武器らしいな。蒼華ちゃんは……“審判の心”であったな?」
私はカルデラさんと、話をしつつもシロくん。まで、交え“武器談義”に、話を咲かせる男どもに、少しイラッとしていた。
好きなコレクションをひけらかす“子供”の様であった。
「うん。どうゆう意味なのかな? 審判の心……って。でも、“進化”したんだよね。」
私は蒼いアパタイトの様な、ロッドの持ち手を、見つめた。見ればみるほど美しい。
「ジャッジメント……。“審判”。言い換えると……“判断”とも言えるな。」
カルデラさんは、私をそのオレンジの瞳で見つめた。真っ直ぐと。
「……判断……」
あ。もしかして……
『本当に殺すの? 子の前で……親を。』
あの声? あれが……もしかして……“審判の心”?
あんな……戦いの最中とかに、いきなり来るの!?それも自分の声で!?
いや。ちょっと待って。と言う事は……。
てことは……試される!?
この先もーー、私は試されるってこと!?
ウソでしょっ!?
「大丈夫か? 蒼華ちゃん。」
カルデラさんが、とても優しい声を掛けてくれた。
「大丈夫………」
いやだ。私の心の声と語り合うなんて。
そんなの耐えられない。
おかしいでしょう? 黒崎さん!!
叫びたかったが、やめておこう。
頭が沸いたのかと思われる。
私にとっては、この程度の認識でしかなかった。
✣
私達は、とりあえずコカトリスの居た辺りを、探索。ヘッドスネークの時はそんな事、忘れてしまったけど、“魔物退治”と言うのは、この世界にしてみれば、“お金を稼ぐ”と言う事でもある様だ。
ラウルさんは、“冒険者”として“紹介屋”と言う所から、仕事を依頼されたりするらしい。
多くは警護や、魔物退治だったりするそうだ。
王族の警護は、とてもお金になるんだとか。
「あ。あった!」
私が手に取ったのは、コカトリスの巣の側に落ちていた“魔石”だった。
碧のサファイアみたいな美しい宝石の様な石だ。
丸いその石の中は?
綺麗な黄色の三日月みたいなカタチをした、“原石”が入っていた。
これが“魔力の源”。つまり元素だ。
“火、氷、雷、風”しか魔石での魔法は、使えない。と言う事はこれは“風”じゃ!!
他の三つと違う!!
「飛翠〜。二つあったよ〜」
綺麗だな〜。
近くでしゃがみ込む飛翠に、私はそう声を掛けた。すると、飛翠はその手に“黄色の羽”を持っていたのだ。
「なんで羽根なんか……」
大きな羽根だ。でも綺麗な色をしている。
羽根の右側には、ピンクとオレンジと紫のラインが入っていてグラデーションを作っていた。
まるでコカトリスの翼の色。そのものだった。
「何かに使えるかもしんねーだろ。」
と、飛翠が傍に来るとしゃがむ。
羽根をつまみくるくると回す。
「見てるだけでも綺麗だね。」
「は? そーゆう事じゃねーんだよ。」
直ぐにため息を突き返された。
「コカトリスの羽根は、“アクセサリー”なんかを強化する時に、使用されますよ。」
シロくんも手に羽根を持っていた。
あら。たくさん。まるで野草摘みみたいに持ってる。
「アクセサリー?」
飛翠がそう聞くと
「飛翠さんが、つけてる様な“ピアス”なんかもあります。“魔除け”など様々な意味のあるアクセサリーが、あるんですよ。」
と、シロくんはくりくりとした蒼い目で、飛翠のブルームーンストーンのピアスを、見つめている。
ん〜……やっぱりこの可愛らしい犬の顔に青年の声は、ちょっと。
成犬なんだけど、目がくりくりで鼻も黒くてカワイイんだよね。
身体も小さいからなおさら。
190近いーー、蒼い狼犬みたいなグリードさんとは、全然違う。
「面白そうだな。作成とかも出来るのか?」
お? 興味がおありで。
飛翠が珍しくそう聞いた。
「ええ。出来ますよ。街や村には“工房”があります。そこで“アクセサリー作成や改造”も、出来ます。勿論、強化なんかも出来ますよ。ただ、魔石が、必要です。」
と、シロくんはそう言ったのだ。
羽根をサスペンダーのついたブラウンのズボンに、しまう。ハーフパンツみたいだ。
「その魔石ってのは“魔物”からしか取れねーのか?」
飛翠が、更に聞いた。
お。やる気だな。アクセサリー作成。
私も興味あるなー。
「いえ。“魔石ショップ”と言うのがあります。そこで、売買出来ますよ。ただ、高価なので街によってはかなり値段もバラつきます。」
シロくんは丁寧に教えてくれた。
ああ。一緒に来てくれないかな?
始めてなんだけど、こんなに丁寧に教えてくれるの。言葉を濁さないで。
私は感動してしまった。
あ。カルデラさん。ごめんなさい。教えてくれてましたね。
「買うより奪えか。了解」
と、飛翠は立ち上がった。
「えっ!? なんでそーなるの!?」
私は振り返った。
さっさとカルデラさんの方に、行こうとしてるからだ。
「高けーんだろ。それなら“魔物”から奪えば、タダだ。」
と、飛翠はそう言ったのだ。
くすくす。と、手を口元に添えてシロくんは笑う。
「“勇敢な人”ですね。」
「暴れん坊なだけです。」
私は苦笑いしか出来なかった。
「蒼華ちゃん。帰るでな。」
カルデラさんの声だ。
「は〜い。」
と、私が立ち上がった時だ。
視界に何かが入り込んだのだ。
ん? このキラッとしたのは!!
石の隙間に何やら金ピカのモノを発見した!!
私は覗く。
「やった〜〜!!」
落ちてました。金貨です。
金貨!! 金貨二枚発見っ!!
これで所持金! 三万コアじゃっ!!
私は夢中で飛び跳ねた。
ぴょんぴょんと。
それをーー、とても冷めた目で見ている男達がいたことなど、私には知る由もない。