第17話 カナカナ山▷▷親子コカトリス退治!!
ーー魔法使い様!?
と、私は小瓶持ったまま時が止まっていた。
たたた……と、茶色のブーツを履いてる犬人の白いわんこは、飛翠の方に駆け寄った。
両耳ぴんっとしてて、尻尾もまんまる。
柴犬よりも紀州犬とかの血が、強そうだな。
大人になったらイケメンくんになりそうだ。
いやいや。違うだろ!
私はなんだか、身体が軽くなってきたので、ふと、カルデラさん達の方を向いた。
何やら苦戦をしている様子だった。
二羽もいるんだもんね。
私は、立ち上がる。
あれ? いつの間にか……手に持っていた蒼い小瓶は、消えてしまった。
え!? どうゆうこと!? ポイ捨てしてないよねっ!?
私は辺りを見回した。
だが、落ちてない。踏んづけた形跡もない。
と、そこにボリボリと、何やらいい音たてながら飛翠がふらふらとしながら、歩いてきたのだ。
どうやらあの“碧の丸薬”は、タブレットみたいに齧るタイプの様だ。
「あのさ。少し休むとかしてから、動けば?」
まだ、回復していないのは目に見えてわかる。なんだか、クマまで出来てるけど。
「親父たちがやべーんだろ。」
飛翠はそう言いながら、大剣をどうにか肩に担ぎ、ふらふらとしながら、カルデラさん達の方に、向かって歩いて行ったのだ。
「直ぐですよ。」
飛翠の事を見ながらそう笑う、白い犬人さん。
カワイイな。本当に。最初の時の声で喋ってくれないかな。ちょっと……低いな。
ん。でもこれも、個性よね。
黒いお髭が、ぴんっと三本。
私の腰元ぐらいの背の高さだ。
「あの。なんでここに?」
私はそう聞いた。だっていなかったよね? こんな子。一緒に登ってきてない。
「頂上に用事がありまして。帰ろうとしたら大変な事になっていたので……。“ロッド”を持ってると言う事は、“魔法使い様”でしょ? 僕は憧れているんです。」
つぶらな蒼い瞳が、私の銀のロッドを見つめている。
なるほど。これを持ってるから“魔法使い”なのか。そうか。飛翠とかは剣だもんね。
となると……“戦士扱い”になるのか? あの御方は。
「ありがとう。助けてくれて。あなたのお名前は?」
「僕は“シロ”です。」
あ。わかる。うんうん。とてつもなくわかる。シロっぽい。
愛着わくな。その名前。
と、とりあえず……シロくんとの、出会いはさておき、私は再び……コカトリスの戦場へと向かうのだ。
「まいったな。」
と、剣を肩に担ぐラウルさん。
その体は傷だらけだ。と言っても切り傷程度だけど。この暗めの紺の長袖シャツは、防御耐性とやらが、備わっているんだろうか。
それとも、やっぱり元騎士だから体が、丈夫なんだろうか。
カルデラさんは、銀の鎧だし、グリードさんは銅色の甲冑を着ている。頭は正直ヘルメットみたいだから、あんまり意味が無さそうなんだけど。
黒い両耳が出てるし。
「蒼華ちゃん。ワシら“魔法”は使わんのだ。」
カルデラさんは、頬に少しだけ切り傷がついていた。それにしてもこの人達は、頑丈だ。
けれど、目の前のコカトリスも何てことは無さそうだ。
「無闇に近づくと突風と、風の切り裂きで、やられるからさ。近づけないんだよ。」
と、ラウルさんはブロンドの纏めた髪を、肩から避けた。後ろに。
さらっと肩より少しながい髪は揺れる。
「あ。近づくとやるのね。そうだったんだ。」
私はそう言った。
「お前……酷い傷だな。やられたのか? ウィンドカッターに。」
グリードさんのグレーの眼が、飛翠の左腕を見ている。
「ああ。さっき傷治療薬っての貰ったから、なんちゃねー。直に治るんだろ?」
シロくんからそれを貰ったらしい。
まだ、痛々しい傷口はあるけど、血は止まってるみたいだ。
いつの間に……。
ここら辺の事も、ちゃんと聞きたい。
私としては。あんなのイヤだ。
血だらけの飛翠は……ゴメンだ。
「よく無事だったな。人間のくせに」
グリードさんは、顔はおっかないんだけど、何だかちょっとすっとぼけた人みたいだ。
飛翠の腕の傷口が、どんどん塞がっていくのを、まじまじと見つめている。
最初に会った時の顔つきと全然違う。
それに、その声すらも。太いけど怖いとはおもわない。
「コカトリスは……“風属性”だ。蒼華ちゃん。“氷属性”で、攻撃するんじゃ。」
と、カルデラさんがそう言ったのだ。
「え? そうなの?」
属性ってなに?
またなんか良くわからない感じに、なってきたけど。あ。そう言えば……あの“大蛇”。
ヘッドスネークを倒した時も、そんな事言ってたな。それに。あの妖精の時も。
聞かなきゃいけない事がいっぱいで、忘れてた。そうか。“属性”ってのがあるのか。
闇雲に魔法を使えばいい。って事じゃないんだね。
「わかった。」
私はすっかり、魔力とやらが回復したっぽいので、ロッドを向けた。
「まずは“親”だ。子供を攻撃しても、親が護る。」
カルデラさんはそう教えてくれた。
「わかった。」
なるほど。親鳥だから。
親鳥は、子供よりも少し前にいる。
その時点で、子供を護っている様に見える。
私は、ちょっと躊躇いつつも……ロッドの先を親鳥に向けた。
『この親を……子供の前で殺すの……?』
え!? なに? 今の……。
私の声だよね?
「蒼華!」
飛翠の声が、聞こえた。
「う……うん。」
す~は〜……
私は、深呼吸をした。
聞き間違い。聞き間違い。
私、おかしくなってるんだ。
「“樹氷”!!」
私は、白氷石の魔法を叫んだ。
親コカトリスの身体は、樹氷で覆われる。
それは真っ白な結晶の様になった。
キェッ!! キエッ!!
後ろで子供コカトリスの鳴き声が、響いた。
『本当に……殺すの? 子供の前で。親を。』
カルデラさんと、ラウルさんは、一気に突っ込んだ。親コカトリスは、微動だにしない。
目の前には、飛翠。
カルデラさん、ラウルさんがいる。
ここまで一緒に来た人たちだ。
そしてーー、巻き込んでしまった人達だ。
私はーー、答える。
倒す。私はーー、“傷つくのを見たくない”から、倒す。
自問自答なんだろうか。これは。
属性が、樹氷に弱いと聞いたので、カルデラさんとラウルさんが、斬撃を繰り広げたあとで、
再度ーー、
「“樹氷”!!」
後押しの追加魔法を放った。
ラウルさんの斬撃と、カルデラさんの斬撃のあとだ。私の白氷石の魔法は、親コカトリスに向かって放たれた。
ギェーッ!!
親コカトリスは、一気に叩きのめされるカタチになった。
その為か、その身体は、樹氷のままで弾け飛んだのだ。まるで、粉砕であった。
子供のコカトリスは、親コカトリスが消えてしまったことで、突進してくる。
向かってくるのは飛翠とグリードさんにだ。
その姿は、怒りそのものであった。
それでも、私と飛翠は、
「「“樹氷”!!」」
同時にそう叫んでいた。
タイミングは同時。
二つの白氷石の魔法が、子供コカトリスに放たれる。まるで……氷の彫刻の様に凍てついた子供コカトリスに、大きな斧を振り回しながらグリードさんが、旋回しながら突っ込んだ。
「“両斧粉砕牙”!!」
まるでコマの様に旋回しながら、氷漬けの子供コカトリスを粉砕したのだ。
円舞の様であった。
「すげーな。」
飛翠は、閃光放ちながら粉砕する子供コカトリスを、見ながらそう呟く。
ポウ……
「え?」
「ん?」
私と飛翠は、同時だった。
自分たちが持つロッドと、大剣が、光始めたからだ。
それは白い光だった。
「え? なに?」
私はその光の中でロッドが、変形していくのを見つめた。
銀色のロッドは、持ち手は蒼い石の棍棒の様に変化した。それは、宝石の様に煌めく。
先端も槍の様に尖りその周りを、円形の輪が囲む。
なんだかウチワみたいに見えるが、輪っかになっているところには、魔石を嵌め込める様になっていた。丸い石を嵌める所だ。
蒼い輪は、リングみたいな物をぶら下げていた。錫杖。私はそれを思い出した。
6つの銀のリングが、円形の輪にぶら下がっていたのだ。
「凄い……。なにこれ。」
私は、ロッドを見つめていた。
飛翠もまた“勇敢な心”と、名を持つ大剣が、カタチを変えていた。
大剣の刃は更に太くなっていたが、柄の部分は黒ではなく銀。そこに蒼いラインが入ってるが、これも宝石の様だ。
埋め込められているみたいだ。
銀の柄は、やはり握りやすいグリップ式。
柄と刃の間には、獣の爪の様な装飾が施されていた。そこに丸い魔石を嵌め込める様に、三つの穴。
私も飛翠も、今は嵌め込んでいるから変わりなくついている。
魔石ってカタチも変わらないんだね。
あ。そっか。原石を削ったりとかして使うんだっけ。まだ、ランプしか見てないけど。
「すげーな。これが“進化”か?」
と、飛翠はそう言ったのだ。
私と飛翠の武器は、どうやらここにきて進化した様だ。つまり、レベルアップと言うところだろうか。