第16話 カナカナ山▷▷コカトリスに困ってます!!
ーー大剣を構える飛翠と、その後ろでロッドを構える私。
離れた所では、どうやらもう一羽。
子供みたいな一回り小さいコカトリス坊や? が、降り立っていた。
カルデラさん達の所に、二羽。
そしてーー、私達の前に一羽。
「わかってると思うが……俺らで何とかするしかねー。」
と、そこにトドメの一言。
飛翠からのその強めの言葉。
ぎゅっ。
もう折れるんじゃないかと、思うほど。
私は銀のロッドを握りしめた。
「わかってる。」
わかりたくないんだけど。
おっかなすぎる。
何しろ……さっきの殺人的な駆け足とか、この鋭いクチバシとか……。それに、このイカってますな、トサカとか。
私にしたら……恐怖の鳥だ。
当分……鶏の唐揚げは食べたくない。
グェーッ!!
羽を広げて鳴く。
大きな羽根だ。こんなでっかいのは見た事ない。
恐竜とかの時代に来ちゃったのかと、思う。
なんだっけ?
プテラノドン。そう。似てる。あのデカさに。
実際に見た事ないけど。
「蒼華。とりあえず……魔法だ。なんでもいい。何かやれ。」
飛翠がそう言った。
「なんでもいい。って……言われても……」
「三種類しかねーんだから、好きなのでいい。」
ちょっとキレ気味な声が、聞こえてきた。
わかってますよ。そんなにキレないでよ。これでも、ビビってんだからさ。
私は、アンタと違ってフツーの女子高生だったんだ。
私がそんな事を考えていると、バサッ!! と、コカトリスが、翼を羽ばたかせたのだ。
浮いてる!?
浮いたコカトリスは、羽ばたかせた翼から、私達に向かって何やら突風みたいのを、ぶつけてきた。
「きゃーっ!!」
吹き飛ばされた。
しかもなんか凄い勢いなんだけど。
「いた!」
地面は砂利だ。
吹き飛ばされた私は、そこに転がったのだ。
隣では、飛翠も同じだった。
「大丈夫か?」
「う……うん……」
私は、飛翠の手を借りて立ち上がる。
だが、それだけではなかった。
コカトリスは、更にバサッバサッと、翼を羽ばたかせていた。
立ち上がった私達に、追い打ちをかけるかの様に、突風をぶつけてきたのだ。
それも、突風だけではなかった。
「蒼華!」
飛翠が私の身体の前に、立ち塞がった。
吹き飛ばされながら、私は頬に、右肩に二の腕に、切りつけられた様な痛みを感じていた。
今のなに?
風がまるで……カッターみたいに切りつけてきた。
後に……“風の切り裂き”と言う風魔法だと、わかるのだが。
この時はそんな事はわからなかった。
やっぱり……砂利の地面に落ちた。
でも、今度は少し重い。
飛翠が、私の足元に身体を乗せて倒れていた。
「飛翠!」
私はーー、その左頬と右腕、左腕……。まるで刃物で切りつけられた様に、傷がついた飛翠に、叫んでいた。
血が……!
ウソでしょ!? なにこれ!?
ざっくりいったみたいだ。
二の腕の傷口から血が流れていた。
こんな切られた傷なんて、見た事ない。
ケガして帰ってくるけど、こんな深い傷口は、はじめてだ。
それに血も……。
私はーー、どこかで“夢の世界”にいる様な気持ちだったのかもしれない。
でも、飛翠のこの血を見た時に……ようやく。
ここが、現実であることを知った。
「飛翠! 飛翠!」
どーしよっ!! 目を開けないんだけど!? それに、腕の傷口から血が止まらない。
頬はなんとかかすり傷みたいだけど。
「あー……うるせーな。耳元で喚くな」
と、飛翠が目を開けたのだ。
ライトブラウンの瞳が見上げた。
左頬に、すぱっと横一文字に傷口入ってる。血もちょっと滲んでるけど。
「え!? ちょっと平気なの!?」
起き上がるの!? そのだらだらな腕で。
左の二の腕からは、血が流れている。
いやいや。有り得ないでしょ。
だって二の腕に横一文字で、ざっくりだよ!? 血が止まってないんだよ?
飛翠は、それでも地面に着地していてこちらの様子を、伺う黄色の身体をした大きな怪鳥に、向かって行ったのだ。
大剣を持ち走って向かってゆく。
だが、剣を向け
「“紅炎”!」
と、そう叫んでいた。
ボッ!!
飛翠の声で大剣の柄と刃の間に、装着されている真紅の魔石が煌めき、コカトリスの大きな黄色い身体に、発火する。
ギェーッ!!
翼を羽ばたかせてうめき声を上げる、コカトリスに、飛翠はそのまま大剣を握り、向かっていく。
飛翠の剣は、コカトリスの胴体を斬りつけていた。炎に包まれるその胴体を。
だが、バサッ!
翼を広げてコカトリスは浮く。
バサッ! バサッ!
両翼を羽ばたかせたのだ。
また……。
私は駆け出していた。
さっきの技みたいのが、来たら……困る!!
そう。あの“切り裂き魔”みたいのだけは、もうゴメンだ!
「“樹氷”!!」
私はーー、お気に入りの氷の魔法を叫んだ。
飛び上がったコカトリスの身体に、樹氷が覆う。凍り付く様に真っ白にその身体を、覆ったのだ。
ギェッッ!!
苦しそうなその鳴き声と同時に、コカトリスは地面に落ちた。
でも、倒れない。
鳥脚でしっかりと地面に着地したのだ。
樹氷に覆われながら。
飛翠は、駆け出していた。
大剣を握りジャンプする。
振り上げたその剣を
「“黒の鉄槌”!!」
コカトリスめがけ振り下ろした。
剣技とは不思議なものだ。
まるで“波動”の様に、大きすぎるコカトリスの頭部には、剣の刃が届かなくてもその斬撃は、頭上から落ちるのだ。
不思議な力だ。
それに飛翠の斬撃は、閃光を放ちながら落ちる。
切り裂くのだ。頭部から真っ二つに。
ギェーッ!!
ぐらっとよろめくコカトリス。
でも、パンっ! とは、消滅しない。
ここは、更に魔法を。
私はロッドを向けた。
「“雷鳴”!!」
稲光を上げながら稲妻が落ちる。
電流の様にコカトリスの頭上から、蒼紫色の閃光放ち、雷は落ちるのだ。
「わ!!」
私は、それを放った時にぐらついた。
思わず地面にしゃがみこんでしまった。
でも、稲妻で砕かれたコカトリスの身体が、消えてゆくのを見つめていた。
な……なんだろ。身体が……しんどい。
だるいと言うより……しんどい。
見れば、飛翠も剣を地面に突き刺し息を荒く吐き、しゃがみこんでいた。
まるで剣を支えにしてようやく……と、言う感じだ。
「飛翠……。大丈夫?」
「やべーな……。一晩中ヤッたみてーな感覚だ。」
と、はぁ……はぁ……。
荒く息をしながらそんな声が、返ってきたのだ。
は?? なんだと?? なんか今のは聞き捨てならないけど!?
このド変態がっ!! 元気だったら雷鳴落としてやるのに!! その頭に!
「あの……大丈夫ですか?」
と、そこになんだか可愛らしい声が聞こえたのだ。
ふと、振り向くとそこには白いわんこ。
まーカワイイ!
子供かな? 子犬ではないけど、蒼い毛の狼犬みたいなグリードさんよりこじんまりとした、柴犬みたいな顔をしたわんこがいたのだ。
と言っても……人間でいうと、小学生ぐらいかな。
そんな背格好の犬人さんだ。
真っ白な毛がまた、ツヤッツヤ。
それにキレイな蒼い眼だ。
まるまるだけど、ブルーダイヤみたいに煌めいてる。
サスペンダーとかしちゃってかわいいな。
「お二人は“魔力”と“技力”を使い果たしたんです。どうぞ。」
と、白いポロシャツみたいなだぼっとした、長袖シャツを腕まくりして、ブラウンのズボンから少しだらんと、出しちゃってる感じとか、なんとも可愛らしい。
その白い毛のお手てで、差し出してくれたのは、蒼い小瓶と、もう一つは“碧色の丸薬”みたいなものだった。
「この蒼いのが、魔力回復薬です。」
魔力回復薬?? ん〜……。顔はカワイイんだけど、声は青年だな。
私はその蒼い小瓶を手にとった。
ダイヤ型のフタに、菱形の長い小瓶だ。
指で摘めるほどで、コンタクトレンズとかに使う保存液のスポイトみたいな大きさだ。
なんかキラキラしてて、宝石みたいだ。
見ると透けてる。ガラスなのかな?
中には蒼い液体が入ってるけど。
しかもなんか発光してる。
だから、キラキラしてるのか。
私はとにかく、小瓶を開けてひと口。
「ぐいっとお願いします。」
ん〜……バレたか。ちびちびいこうと思ったのに。
飲んだフリもバレたらしい。
え〜い! 私は魔物の肉を喰った女だ!
このぐらい!
ぐいっといった。
ん? あ。甘い! トロピカルジュースみたい。ちょっと酸味もあって美味しい。
「少し経つと、回復します。お連れ様をお助け下さい。“魔法使い様”」
は?? 魔法使い様!?
私はごっくん。と、飲みこんだ。