第13話 アスタの森▷▷ヘッドスネーク登場!!
ーーグレーの身体。
長いその胴体をくねくねとさせ、頭は二つ。
シャーっと長い真っ赤な舌を出すその顔は、恐ろしいとしか言えない。
なんか食われて飲み込まれそうだ。
それにこの眼! 霧のなかで光る黄色い眼。蛍光ライトみたいだ。
「なんであんなデカいの? アナコンダが一番じゃないの?」
「ここは“違う”だろ。」
私の声に、飛翠はため息ついていた。
怪獣ーー、私の頭にその言葉が浮かぶ。
森の木よりもデカい。
見下ろす頭が私よりも大きいんじゃないだろうか。
「これはなかなかの“大物”だね。あんまり出会さないんだけどな。君達……“魔物寄せ”とか特技あんの?」
と、ラウルさんが私達を見ると、そう言ったのだ。
その碧い眼は本当に、驚いている様だ。
「え!? なにそれ!? 飛翠、持ってるの?」
「は? んなワケねーだろ。」
魔物寄せなんて特技あってたまるか!
「蒼華ちゃん。“紫雷石”は持っておるか?」
カルデラさんが、ふと私の方を向いたのだ。やっぱり、なんか“不安”と言うか……厳しい表情だ。
いつも堂々としてるイカついお父さんなんだけど。心做しか顎の下の赤ひげも弱々しい。
「あ。持ってる。」
“紫雷石”は、雷の魔石だ。
ロッドについている。
「ヘッドスネークは、“雷”に弱い。」
カルデラさんがそう言った。
「そうなんだ。」
私は銀のロッドを持ち、飛翠の少し横に立つ。あんまり、離れられない。
いやいや。幾ら魔法を使えるとは言ってもね……こんなバカでかい双頭の大蛇を前に、堂々とは立てない。
くねくねしてて……あの太い尾で殴られたりしたら、死ぬでしょ。間違いなく。
「えっと……なんだっけ?」
「“雷鳴”」
私がそう言うと、飛翠が答えてくれた。
「よく覚えてるね。」
「気に入ってる」
あーそうなんだ。 雷好きなんだ。
お気に入りなのに淡々と言うんだな。
「雷鳴!!」
私はロッドを、向けるとそう叫んだ。
紫色の魔石が煌めく。
バチッバチッ!
と、音がしながらヘッドスネークの頭上から、稲妻が落ちる。
まるで電流みたいに大蛇の身体を、貫かんと落ちるのだ。
この魔法の光景は、やっぱり見とれてしまう。
何しろ……雷が落ちるところなんか、滅多に見ない。
くねくねと、ヘッドスネークは身体をくねらせた。
「一気に叩くぞ!」
カルデラさんの声で、ラウルさん、飛翠が、剣を手に駆け出した。
男三人ーー、ヘッドスネークに向かってゆくのだ。
にしても、飛翠は“度胸ありすぎ”でしょ。
怖いという感情はないのかな?
大蛇を前にしても、勇敢に大剣を奮う。
カルデラさんが、双頭の頭の一つを引きつけてる間に、飛翠が胴体を斬りつけるのだ。
その斬撃でゆらゆらと、揺れる大きな身体。
ヘッドスネークの尾が動く。
「あぶない!!」
私はそう叫んだ。
ヘッドスネークの尾が、胴体を斬りつけられたことで、怒りに満ちたのか三人を、薙ぎ払おうとしたのだ。
私はロッドを向けた。
「“雷鳴”!!」
私の放つ雷魔法は、ヘッドスネークの頭から稲妻を落とす。
閃光が走るヘッドスネークの身体は、ぐらっと横倒れしそうになる。
「“皇伽連撃”!!」
ラウルさんだ。
剣の二連撃。ヘッドスネークが左に倒れそうになったところを、まるで十字の様に斬撃を繰り出した。
くねるグレーの身体を斬り裂いたのだ。
「“黒の鉄槌”!!」
飛翠だ。
ヘッドスネークの頭の上から、閃光走る斬撃が、振り下ろされる。
正に……鉄槌!!
「親父!」
飛翠がそう叫ぶと、カルデラさんがすかさず剣を振り下ろす!
「“蒼の鉄槌”!!」
おお! 親子連撃!!❨親子じゃないけど❩
カルデラさんの蒼光りする斬撃が、ヘッドスネークの双頭の左側を、斬り裂いたのだ。
これがトリプル連撃!!
私は思わず拍手した。
パチパチと。
ヘッドスネークは、身体をくねらせながら倒れたのだ。
素晴らしい!! ビューティふぉー。
三人のトリプルな攻撃の前に、ヘッドスネークは、消滅したのだ。
その体を弾けさせながら。
「やるね。飛翠くん。」
ラウルさんが、ふぅ。と、息を吐いた。
「アンタもな。」
大剣を右肩に担ぎ、ドヤ顔な飛翠。
いやいや。どんだけだよ。
相手は元騎士だっつーの。アンタはただの荒くれ者。それも、ケンカ大好き人間でしょ。
「……ヘッドスネークが出て来おるとはな。」
カルデラさんは、渋い表情をしながら剣をしまった。
「どうゆうこと?」
私はやっぱり気になった。
カルデラさんは、腕を組む。
「ヘッドスネークは、“水辺”を好む魔物だ。まさかこんな森の中で遭遇するとは、思わなんだ。確かに、冒険者の地だ。魔物生息率は高い。だが……」
と、何やら考えこんでしまったのだ。
ラウルさんが腰に剣をしまいながら、
「深く考えても仕方ないでしょ。カルデラさん。今はとにかく……この二人を、“アトモス公国”に連れて行くだけだよ。」
と、そう言ったのだ。
へ? アトモス公国?? 連れて行く??
「ちょっとどうゆうこと?」
何だかイヤな予感しかしないんだけど。
ラウルさんのブロンドの纏め髪が、揺れる。
コッチを振り向いたからだ。
「アトモス公国は……“イレーネ王国”と、ちょっと“不仲気味”でね。君達の“盾”になってくれる筈だ。」
と、ラウルさんはそう言ったのだ。
すると、カルデラさんが私を見つめる。
オレンジ色の瞳は、暖かな色をしている。
「ワシやラウル殿だけでは、“イレーネ王”からお主らを守れんでな。昨夜の“討伐命令”からしても、お主らが“偽物”だろうと本気で殺しにくるだろう。」
と、そう言ったのだ。
ちょっと待って……それって……
「そんな事したら、“ケンカ”になるんじゃねーの? 国同士の。」
飛翠だ。
そう。良く言った! そうだよ。
「大丈夫だよ。“アトモス公国”の“スレイヤ大公”は、気さくな方なんだ。“ヤヌス”とは違う。」
よっぽど……イレーネ国王の事が嫌いなのだろうか。ラウルさんはしかめっ面だ。
「安心せい。何があってもワシは、お主らと共に行く。それに“情報”を知るにも、“大公”のお力は必要だ。イレーネ国とは近隣でもあるしな。」
と、カルデラさんはそう言って笑ったのだ。
飛翠は大剣を下ろす。
握った。
「親父……。“何かいるぞ”」
と、辺りを見回したのだ。
は?? なにセンサーなの!?
私は近くにいるトーマスくんに、近寄った。
何かの傍にいないと落ち着かない!
トーマスくんは、優しい。私を見てくれる。
つぶらなお目々で。
「囲まれてるね。蒼華ちゃん。もう一戦イケる?」
と、ラウルさんが剣を抜いた。
は?? ウソでしょ!?
と、私が思った時だ。
霧の森の中から何かが飛び出してきたのだ。
それは、私達をあっとゆうまに囲んだ。
向けられるのは弓。
周りを囲むのは“犬”だった。
犬の顔をした人間……。
ずらっと弓矢を私達に向けて取り囲んだのだ。
猫人族の次は……犬人ですか??
「“犬人”族か。」
カルデラさんは、目の前にもいる犬人たちに向けてそう言った。
「懸賞金掛かってるって、聞いたんだ。ソイツらよこしな。」
と、蒼い毛をしたとてつもなく凶悪そうな顔をした犬が、現れたのだ。
完全に悪人面をした狼みたいな人……なのか?
犬なのか……。
銅みたいな色の甲冑を着ていて、その右手には斧? なんだけど、私の知ってる斧とは違う。
両刃のハンマーみたいなカタチをした、大きな斧だ。
兜はつけていないから、その黒い両耳がしっかりと見える。額には三日月型の傷。
カルデラさん並みに大きい。
190ぐらいあるのかな?
カルデラさん、なにげに大きいのよね。
飛翠よりデカいし。
「このお方達は違う。」
カルデラさんは怯む様子もなく、そう言ってくれた。
「なに? 似てるけどな。」
蒼い顔をした犬は、顔を顰めた。
「似てるだけ。だよ。」
ラウルさんもため息ついた。
大きな斧を、右肩に担ぐ。
その肩にも銀のパッドみたいなのが、ついている。
しかもなんかトゲみたいなのがついてるけど。
痛そうだな。当たったら。
「まあいい。“親分”に会わせる。ついて来い」
牙の見えるその口で、そう言ったのだ。
その蒼い狼みたいな犬人は。
はぁ。これは……無限に広がる逃亡者の予感。
何処に行ってもこんな感じなのかな。
こうしてーー、私達は弓矢に囲まれながら、蒼い犬人に連れられ“コボルトの村”に案内されることに、なったのだ。