第12話 クタンの村▷▷それなりの格好
ーー自由領土ケネトスの台地。
獣人と呼ばれる人たちと、人間とが“自由”に共存する冒険者と戦士たちの為の土地。
私達は、一泊。させて貰って翌日ーー。
この“猫人族”の住む村。
“クタンの村”を出発することになったのだ。
私としてはこの不思議な世界を、もう少し探索したり、村の人達の生活。なんてのも覗いてみたかったのだが、ここは“イレーネ領”から近い。
昨夜の様に“王の手先”が、追ってくるとも限らない。そうなると……“辺境の町アレス”の、マリーさんの様に……ご迷惑をかけることになる。
何しろ……“罪名が王妃殺害と窃盗”だ。
日本で言うところの、“皇后陛下”を殺害したことになるのだろう。
王妃だの王様だのは、物語の世界でしか見てないから、漠然としている。
“国宝”……日本で言えば“工芸品”や、“刀”、“建造物”などになるのだろうが……。
まぁ。ハッキリ言って“大泥棒”だよね。
日本だったら“毎日の様にメディアがうるさそう”だ。
それは……“懸賞金”掛けられますよね。
「わぁ。スゴい軽い!」
と、悲観している私はーー、只今。
ファッションチェック中。
“猫人族”の族長のカレンさん。
黒いヤマネコなのだけど、両耳がシルバーの人間で言うと……“おばあさま”になるのだろうか。
失礼かも? だけど。
「うむ。似合ってる。」
黒い毛の顔は、相変わらずヤマネコの怖い感じだけど、両頬に生える黒いひげがぴん。と、たってネコなんだなぁ。と思う。
私が着る“ネイル“とは、“魔法衣”の意味があるらしい。
白いワンピースみたいな服の上に紅の布地のノースリーブのエプロンみたいなものをつけ、両肩を金のブローチみたいので留める。
けれど前後同じスタイル。
エプロンは前がけだけど、後ろも同じ。
腰元にベルト。それも真ん中に真紅の宝石がついていて、カチッとはめられるようになっていた。
膝下までのワンピースはふわふわしていて、フレアスカート。
足首より少し高めのブーツ。
グレーのブーツがとても軽い。
革製なのかな?
全身コーディネートしてもらい、その身軽さに驚いている所である。
「あら。お似合いですわ。さっきの格好より断然、素敵です。」
と、赤紫色の袈裟懸けみたいな布を纏ったアラビアンな格好をしてる女性猫は、そう言った。
グレーの毛をしたヤマネコさんだ。
男性と女性の区別。
それは、身体的なものだった。顔はみな、似たりよったりだけど、身体的な部分が違う。
つまり、女の人は胸がある。
それに、何故かみんな睫毛が長い。
ぱっちりしたお目めだ。
アイシャドーもばっちり。
「ありがとう御座います。」
ふと、テントの膜をあける気配。
振り返ると飛翠がいた。
黒いノースリーブなシャツに、グレーの胸当てを左胸につけている。
両腕には、黒のサポーターみたいな革製のもの。
腰にはブラウンのベルト。
その真ん中には同じ様な真紅の宝石。
ズボンはやっぱりだぼっとしてる。
こっちも黒だ。なんか全身黒ずくめだな。
まー。黒が好きなのは知ってるけど。
両耳にピアスつけてるんだった。そういえば。
丸い石みたいなやつ。ブルームーンストーンだっけ?
なんか光の加減で、青く光ったりするんだよね。お気に入りなのかいつもそれつけてる。
黒髪から覗いて、けっこうキレイなんだよなー。
足元は足首までのブラウンのブーツ。
背も高く、伊達にケンカばっかしてないから筋肉とか、すごいのが良くわかる。
なんだか……“野性的な飛翠”がいた。
とても都内の高校生には思えない。
しっかりと大剣を背負うベルトまで、胸元につけている。固定しているのだろう。
「終わったか? さっさと出たいみてーだぞ。」
と、サラサラの黒髪から覗くライトブラウンの瞳が、少し強めに私を見つめた。
「わかってるよ〜……。でもさ。準備! ってのが大切なんだよ? わかる? 備えあれば憂いなし!」
私としてはこの先の旅に必要であるものを、備えておきたい。
いつ、村や町で落ち着けるかわからないのだから。
「ああ。それなら“親父”と“ラウル”ってのが、とっとと終わらせたみてーだぞ。」
飛翠は、このテントの中に入ってくるとそう言った。
ん? 腕組んでまじまじと見られてる気がするけど……。
「どうですか? お嬢様。お綺麗になったでしょう?」
と、グレーの毛のヤマネコのお姉さんが、すかさずそう微笑んだ。
私のこの服を選び、着方を教えてくれた“ミラ”さんだ。カレンさんの娘さんらしい。
「ん? ああ。相変わらず“胸”ねーな。」
と、飛翠はそう言ったのだ。
「お前っ!!」
私はとりあえず飛翠の脛を蹴っ飛ばした。
「イテーな。素直な意見だ。」
と、顔を顰めているが……反省とやらはしていない。
全く! 素直に褒めるってことを知らんのか!
べつに褒めてもらわなくてもいいけどさ。
クスクス……
と、ミラさんに笑われた。
私達は、制服をそれぞれのカバンにしまい、“逃亡者”……いや、“冒険者スタイル”で旅に望むことになった。
飛翠の服も私の服も“猫人族”特製のもの。らしく、防御耐性があるのだとか。
言われても良くわからないけど。
でもすごいなぁ。と、思う。
「おお。蒼華ちゃん。」
カレンさんとミラさんと、紅いテントから出てくると、既にカルデラさんとラウルさん。
それに、三頭の馬たちがいたのだ。
三頭の馬にはそれぞれ、荷物が括りつけてある。
「なかなか似合うでな。見違えたぞ。」
「本当だ。そうしてると“美人”なんだね。似合うよ。」
カルデラさんとラウルさんが、私の格好を見るとそう言ってくれた。
ん? ちょっと……ラウルさんの言い方には、気になるところもあるが。まぁよしとしよう。
「のう? 飛翠くん。」
「あー。いいんじゃねーの。」
カルデラさんの声なんてお構いなし。
飛翠はさっさとトーマスくんに、跨った。
しかも、テキトーな返し。
なんなんだ? この男は! 可愛くない!
私は、カルデラさんの手を借り、飛翠に引っ張って貰いながらトーマスくんに跨がる。
「気をつけて行きな。」
カレンさんが、そう声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
私は手にロッドを持ちながらではあるが、頭を下げた。
「カレン殿。助かった。」
「いや。また来るがいいさ。ここには“奴等”も、入って来ないからな。」
カルデラさんは、黒馬に乗るとそう言ったのだ。カレンさんは、紫色の眼を煌めかせていた。
こうして、私達は“クタンの村”を後にした。
クタンの村は“アスタの森”と呼ばれる所にあった。私達はその森を抜ける。
「なんか……霧深くない?」
「ああ。前が良く見えねーな。」
トーマスくんの背中で、私は飛翠に抱えられるように乗っている。
手綱を掴むのは飛翠だ。
何とも……この体制は少し……照れる。
こんなに密着することはないからだ。
ヤバい……。変な感じだ。
とは言え……霧がとても深い。
森をまるで白い雲が覆っているみたいだ。
トーマスくんも、ラウルさんの白馬もカルデラさんの黒馬も、全然大丈夫そうなんだけど……結構。視界悪いんだよね。
「この霧を抜ければ、森を出る。」
カルデラさんは、私達の隣を走っている。
その向こう側に、ラウルさんだ。
三頭並んで深い森を走る。
「こんなに凄いの? 霧。」
「“目眩まし”も兼ねてるでのう。猫人族は、慎重なんじゃ。」
へぇ。この霧は、カレンさん達の村を護るものなのか。不思議だな。
「カルデラさん。“イヤな気配”がするね。」
と、ラウルさんはそう言った。
え? なに?
「仕方あるまい。“冒険者の地”だ。」
と、カルデラさんが強く頷いたのだ。
なんの事だろう? と、思っていると……それは、目の前に現れたのだ。
馬が……止まる。
霧のなかに大きな黒い影が、まるで行く手を遮るかの様に、現れた。
これは……魔物ですか?? またもや。
カルデラさん、ラウルさんは、早々に馬から降りた。
私と飛翠もだ。
目の前に現れたのは、巨大な二つの頭を持つ大蛇だった。
「な……なんなの!? これ!」
私は思わず……飛翠の背中の影に隠れた。
顔しか出せない。
飛翠は、大剣を構えていた。
「でけーな。」
飛翠は何だか……慣れてしまったのか、たった一言。
「“ヘッドスネーク”か……。」
カルデラさんが、剣を持ちそう言った。
なんだか……凄い険しい顔をしている。
とぐろ巻いてグレーの身体をくねらせる大蛇。
私達はーー、また新たな生命体に遭遇した。




