第8話 自由の街アムズ▷▷冒険者
ーー私達は地下のお店から宿に向かった。
さあ。お腹もいっぱい。
あとは、お部屋の中をこそこそっと拝見して、ゆっくりとしますか!
と、私は食欲を満たされたからか、気分が向上。階段を軽快に上がっていた。
「なんだと! 今! なんて言った!?」
「もういっぺんい言ってみろ!」
ん? なんだかチンピラみたいな怒鳴り声が聞こえる。この感じは……
「お。ケンカか?」
あー……隣の飛翠くんは嬉しそうな顔をしちゃったよ。
「いやいや。だから。親切に言ってあげただけでしょ? そんな軽装備で“ササライ鉱山”行くなんて、自殺行為だって。」
宿の入口付近。談話室みたいになってるところだ。そこで何やら揉め事の気配。
人が、集まってる。
けれど、遠目で何人かが見ていて、その渦中の人物たちは……どうやら三人の男たち。
それも三人とも剣とか弓矢とか持ってる。
「うるせぇな! お前に関係ねぇだろ!」
「そうだ! 俺達はこれでも少しは名が知れた“冒険者”なんだ。ケンカ売ってんのか!?」
おやおや。かなりのヒートアップ状態みたいだ。言いながら剣に手を掛けてる。
「お……お客さん。困るよ。外でやってくれるか?」
あらら……フロントの人が困り果ててる。
出ては来てないけど、フロントからそう言ってる。
「冒険者だって言うなら、“人の忠告”は聞いておくもんだよ。何も否定してる訳じゃない。親切心で、言ってるだけだ。」
引く気の無いこの金髪の男の人に、どうやら二人の男が、文句をつけているらしい。
金髪の男の人も剣を腰に提げてる。
軽装備……。鎧を着てない事を言うのかな?
三人とも確かに……胸当てとか肘あて? とかを、つけてるだけみたいだけど。
「“ラウル”殿?」
ん? カルデラさんが動いた。
知り合い?
談話室でのその光景の中に、カルデラさんが入り込んだ。
「どうされた。ラウル殿。」
ラウル? あ。やっぱり知り合いなんだ。
あの金髪の人。
「カルデラさん? あれ? 明日の約束だよね? なんでこんなとこにいんの?」
え? もしかしてーー、私達に会わせたい。とやらは、この人??
「ワシらは今夜はここに世話になるんだが……。お主は相変わらずじゃのう。また“いざこざ”か?」
ん〜……なんか場がとても落ち着きそうな雰囲気。カルデラさんが、出て行ったら男二人も様子が変った。
「……カルデラって……“蒼騎士団”の?」
「なんでこんなとこにいるんだ? “今夜は討伐”に出てるんじゃないのか?」
ん? 討伐? なんだか余り聞きたくなさそうなお話が、聞こえてきたけど。
魔物狩りでもするんでしょうか?
「そちらの。ワシに免じてここは退いて下さらんか? この者にはワシからも言うておくから。」
やっぱりあの“風貌”と言うか……年月生きてきた風格が物を言うのかな?
カルデラさんがそう言ったら、男の二人は渋々とではあるけど、引き下がった。
にしても……金髪の人は、全く気にしてないみたいだけど。この感じだと……ケンカを吹っ掛けたのは、この“ラウル”と言う人っぽい。
ブツブツと言いながら、宿から出て行ったけど。男の人二人は。
「ありがとう。カルデラさん。さすがだね。やっぱ“王国騎士団”は違うよ。迫力が。」
はっはっはっ!
と、笑ってるけど。
なんだろう? とても……軽そうだ。
「“蒼騎士団”じゃ。全く。ラウル殿はいい加減すぎて困る。」
カルデラさんは深いため息をついている。
こうして見てみると、ラウルさんと言う人は、カルデラさんより、少し背が低い。
だけど、その身体つきは鍛えられているのがわかる。
「あれ? カルデラさんって息子いたっけ? 娘は知ってるけど。」
すごくキレイな碧色の眼だ。
コッチを見てる。それになんて綺麗な顔。
かなりのイケメンだ。
ハーフっぽい顔だけど、日本人の顔立ちとは全然違う。金髪は肩よりちょっと長いのかな。
後ろで纏めて結んでるけど。
「預かり子達だ。丁度いい。ラウル殿。お時間あるか?」
カルデラさんのその一言で、私達は部屋に向かうことになった。
談話室の人たちは、騒ぎがおさまったのを眺めてたけど。ホッとした様な顔をしてた。
ん? 飛翠? どうしたんだろ。さっきからずっとどっか見てる……
「飛翠? どうかしたの? カルデラさんとか部屋にいくみたいだよ?」
カルデラさんとラウルさんは、階段に向かった。飛翠は、談話室から動かない。
「いや……」
飛翠はそう言うと、私の腕を掴んだ。
「え? なに?」
「なんでもねー」
なんで? 引っ張るんだ?
ん〜……外でも見てたのかな?
視線は……宿の外っぽかったけど。窓から別に何も見えないし。
談話室に並ぶ窓からは、外が見える。街の灯りぐらいしか、わからないけど。
✣
部屋は二階。今夜も三部屋とってくれた。
カルデラさんの部屋で私達は、話をすることになった。
部屋の中はけっこう広い。
ベッドは1つだけど、普通のホテルで言うツインルームぐらいの広さはある。
ソファーとかも置いてあるし、やっぱりランプはお洒落。天井に飾られたランプは、四股になってて花が咲いてるみたい。
チューリップの花開く前みたいなカタチ。
淡いオレンジ色だ。
「ああ。やっぱり? どこかで見た顔だと思ったんだよね。」
と、ラウルさんは窓側に立ってそう言った。
カーテンみたいなのもついてるけど、纏めてある。窓からは月明かりが射し込んでいる。
ラウルさんは、ちょっとデニム素材みたいなパンツと、ブーツかな?
カウボーイが履くようなやつ。
装飾はないけど茶色。脛あたりまでのブーツだ。
あ。つま先もカルデラさんの銀の鎧ブーツみたいに、先が尖ってる。
なんかここら辺で見た格好とは違う。
シャツも紺に限りなく近い黒みたいな色で、私達の世界のTシャツみたい。
長袖だけど。
「ラウル殿。この方達は、“飛翠くん、蒼華ちゃん”じゃ。」
カルデラさんは、閉まってる窓に寄りかかるラウルさんにそう言った。
「ああ。なるほどね。それで今夜は“蒼騎士”が、うるさい訳だ。」
と、言いながら窓の外に顔を向けた。
「親父……」
と、飛翠がカルデラさんを呼んだ。
「ん? どうかしたか? 飛翠くん。」
すっかり飛翠は“親父”と呼ぶ様になった。カルデラさんも、私達のことを“殿”とつけるのを、やめてくれた。
うん。なんだか近付いた気がする。
「さっきも変なのが宿の外から、チラ見してた。たぶん。探してるんじゃねーか? 俺らのことを」
飛翠は何やらおっかない顔をしてる。
これは警戒と言うやつであろうか。
「あ! 飛翠。さっき外を見てたの?」
と、私が言うと
「“ヤヌス”はしつこいからね〜……」
ラウルさんは窓から離れた。
「ヤヌス?」
私はそう聞き返した。
「ラウル殿。“イレーネ国王”じゃ。」
ごほん。と、カルデラさんが咳払いをしたのだ。
「ああ。失礼。」
ん? あの王様のこと? へぇ。ヤヌスって言うんだ。
「“ヤヌス•イレーネ”第5代国王陛下。君達を捕まえる様に命令している人。だよ。」
ラウルさんのそう言った眼は、なんか怖かった。
なんだろう? あの王様の事を嫌いなのかな?
と、私はこの時、漠然と思っていたのだ。
「討伐と言うてたな。」
と、カルデラさんはそう言った。
「“罪人討伐”だよ。本格的に逃げちゃったでしょ? カルデラさんも因みに“捕まえろ”命令出てるけどね。ああ。あの“ゼクセン様”も。」
ラウルさんはふらふらと、ソファーに向かった。
それにしてもこの人……ノリが、軽い。
「あ。黒……ゼクセンさん。あの人はどうしたの? 無事なの?」
そうだよ。黒崎さん……どこ行っちゃったの? 逃げられたのかな?
「大丈夫だよ。あのお方は。何処にいるのかは、わからないけどね〜」
ん? なんかラウルさん。カルデラさんの事、見てない?
しかもどっかりとソファーに座ってるけど。
「ふ〜む。“討伐”ときたか。魔物並みじゃな。」
ハッハッハッ!!
え?? なんで笑うの? カルデラさん。
あ。お酒飲んでたから……酔っ払ってる??
「呑気だね〜。ま。ここは“自由領土”。幾ら王家とは言え……好き勝手に出来る地じゃない。イシュタリア“自由同盟”の元に、成立してる地だから。」
イシュタリア自由同盟??
「つまり……“王国“ってのが無意味ってことか?」
飛翠はラウルさんにそう言った。
「ぴ〜んほ〜ん。正解です。そう。ここに“政治”は持ち込めないんだ。ここは“冒険者と戦士たち”の地だから。」
ラウルさんのその言葉は、なんだか私にはとても重く感じた。
何故だろうか。