第7話 自由の街アムズ▷▷文字について
ーーところで。
「カルデラさん。このお肉ってなんの肉なの?」
たいがい食べてから言うのもなんだが……。
この少し暗くなってしまった空気を、どうにかしたかったので、聞いてみた。
私のせいで食事が、暗くなるのは嫌だ。
「ああ。それはな“タイガーベア”じゃ。」
カルデラさんが、にこにことした。
へっ!?
かたん。
私の手からフォークが落ちた。
「タイガーベア?? なにそれ? なんで虎とクマが合体するの!? 遺伝子操作!?」
私は思わず叫んでいた。
周りの人の視線が痛い。
何を騒いでるんだ? みたいな目を向けられた。
「タイガーみたいな牙を持ったベアーでな。そのうち遭うことになるじゃろ。」
カルデラさんは笑いながら、タイガーベアのステーキを、頬張った。
遭うことになる?? と、言う事はこのステーキは魔物の肉!?
え? それはどうゆうこと??
魔物を食べるの? え?
「そんなビビることじゃなくね? イノシシ鍋とかあるだろ。それに昔はウサギ鍋とか。羊も食うだろ。」
隣の飛翠はもぐもぐとお食事だ。
「食べたことあんの?」
「ワニはある。イノシシも。」
は?? ワニ!? イノシシはわかる。ウサギ……。それは大昔じゃなくて??
「なんでそう平気なの?」
「食わねーと持たねーから。それにこのジュース。ビタミンたっぷりってことだろ? すげー良い食事じゃね? タイガーなんて食えねーぞ。普通。」
なんてボジティブで逞しいの!?
スゴすぎる。この人は。
私は飛翠が……この時ばかりは羨ましくなった。
「そうじゃ。蒼華ちゃん。食べないと持たん。この先もまだ“旅”は続くでな。」
カルデラさんもばりばり食べている。
私はフォークを、手にした。
確かに。味付けも美味しいし、お肉だ。
これから先の事を考えれば、ここで“ヒビってどーする”。とは言え……先に言って。
聞かなかった私も私だけど。
気持ちの整理と準備と、心構えが……。
私はクルミのパンをとった。
お肉も食べますよ。食べますが、とりあえず。口直しで。
「あ。美味しい。それに……ジュースに合う。」
クルミのパンは少し硬め。フランスパンみたい。
それにちょっと渋い味がする。けどイヤな味じゃない。
このベリージュースがジャムみたいになって、口の中でなんか甘くなる。
不思議な味だった。
「なんでも“チャレンジ精神”だ。お前は直ぐに諦めようとする。良くねーぞ。」
飛翠のその言葉はちょっとキツいけど、でも目は優しかった。
「……わかってますよ。」
素直に認めたくないので、不貞腐れます。私は。
食事も、中盤。
とても美味しく頂いた。
「カルデラさん。私達、文字が読めないんだけど」
と、そう言った。
「おお。そうじゃった。忘れておった。」
と、カルデラさんは言うと何やら腰元から巾着を取り出した。鎧の懐にしまっておいてあるらしい。
知らなかった。
茶色の巾着を出すと開けた。
少し……ボロボロっとしているのは、大切に懐にしまっているからだろう。
うん。きっとそうだ。
「これじゃ。」
と、カルデラさんが出したのは“チョーカー”みたいなブレスレットだった。
それを二つ。私と飛翠の方に差し出したのだ。
なんだか編み込みがあって、不思議な素材だ。木の藁を、私は想像してしまった。
太くて灰色っぽい色なんだけど、何やら文字みたいのが刻んである。
それに布地みたいに柔らかい。
でも→みたいな文字よりも、もっとわからない。
綴り文字みたいだ。
「それは“ゼクセン様”から渡す様にと言われたのだ。この先ーー、“言語と文字”が通用せんと話にならんからな。言語に関しては“多種族”の言葉を聞ける様になるそうだ。」
と、カルデラさんはそう言った。
「多種族?」
私はそう聞き返した。
「“妖精”の中にも、人語を話さん者もいる。“精霊”、“土小人”などの多種族とも、言葉を交わす事になるであろう。」
カルデラさんはそう言った。
私と飛翠は顔を見合わせた。
「その“ブレスレット”は、イシュタリアの言語と文字を理解するものだそうだ。それをつけておれば、この世界でありとあらゆる“言語と文字”を理解できる。ゼクセン様がそう言っていた。」
私と飛翠は腕に通した。
お互い左腕に。
「ピッタリだ。」
「私も。」
不思議だ。腕を通った。すんなりと。
少し緩めだが、ずり落ちる訳でもない。
丁度いい。
カルデラさんは、微笑む。
「ゼクセン様は、お主らをずっと見ていたそうだな。お気に入りらしいぞ。」
と、そう言った。
「は?」
「え?」
飛翠と私は同時だった。
聞き返した。
お気に入りって……。指名します。じゃないんだから。あーツッコミたい!
次に会ったら、夜通し文句を言ってやろう。
私は、とりあえずテーブルの脇に置いてある、さっきの“木の板”を手にした。
それは木の板に紙が貼ってあった。
「あ! 読める。ウソ! なんかすごい嬉しいんだけど! ほら! 飛翠!」
私は思ったより重かったので、両手で持った。本当にタブレットみたいだ。
ん〜……でも、値段書いてないな。
ただ横向き限定。
ミニ黒板みたいな木の板を、飛翠にも見せた。
「タイガーベア盛り合わせ、ココリのゼリーのせ。フンデのゴロゴロ盛り? 読めたところでワケわかんねー。」
飛翠はそう言った。
「でも、読める。これなら安心だね。買い物とかしてもボッタクられない!」
何よりもそれが一番。
何の店かもわかんないんじゃ、おっかなくて入れないし。
「お前って……頭の中……“節約”なのか?」
「うるさいなー。堅実なの! 現実主義なの!」
私は飛翠の呆れた声に、そう突き返した。
まったく! わかってないなー。これだから男は。
「さて。ハラも膨れたしな。そろそろ休むとするか。」
と、カルデラさんはジョッキを飲み干した。
「……カルデラさん。明日、買い物する時間ある? さすがに制服だと不便っぽしい。」
あんまり汚すと帰った時に困るしな。
高いんだよね。制服。
それにローファーも。穴とか開きそう。
「あるぞ。明日はこの街を案内してやろう。ここは、“自由の街”だ。会わせたい奴もおる。」
カルデラさんはなんだか楽しそうに笑ったのだ。
良かった。
ん? 会わせたい奴?? それはそれで気になるけど、まあいいか。
とりあえずお風呂とか気になるし。
シャワーとかあるのかな? 浴びたいなー。
私達は、カルデラさんに支払いをしてもらった。
「ごちそうさまでした!」
お店から出て、飛翠と頭を下げた。
「よいよい。これからは……“魔物狩り”をしつつお金を貯めるのだ。それでやりくりしていくぞ。」
えっ!?
なんですって?? あ。でもそうか。
魔物がお金を落として行くんだっけ。
そうだよね。私達って……“一万円”しか持ってないんだっけ?
え? ちょっと待った。貧乏ってこと??
物価がわからない。奢ってもらっていくらですか? って聞けないよね〜……。
さすがに。
明日……お店回るし、その時に考えればいいか。
そうしよう。
とにかくシャワー。そんでもってふかふかのベッドで横になりたーい!!
なんだか……やっと“見通し”がついてきたこと。
それに、この世界の少しがわかって、私は、心がワクワクしていた。