第22話 シロの生命VS禁呪
「うぉいっ!どーなってんのっ!?飛翠っ!え?ちょっと待ってよ!なんかシロが死ぬ?みたいなの聞こえたんだけどっ!?」
私達はその怒鳴り声にハッ。とした。
振り返ると蒼い狼犬のグリードさんが、右肩に大きな両刃の斧を担ぎながら怒鳴っていた。
グリードさんは……シロくんと同じ“犬獣人族”❨コボルト❩だ。彼は2メートル近い大型狼犬で……や?ふっつーに2足歩行なので狼人間?シロくんもそう。顔とか姿は白柴犬だけど獣人、2足歩行だし人語も喋る。えっと……私達は日本語しか理解出来ないんだけど、イシュタリアの言語が理解出来てるのは“秩序の大魔導士ゼクセン”さんから貰った腕輪のお陰。でも、さっきの……シロくんの魔法の言葉は解らなかった……、だから私もとても戸惑っていてこの現状にどうしていいのか解らないところで……の、グリードさんの怒鳴り声。だから余計にハッ。としてどうにかこの現状を理解しようとしてた。でも、正直解らないが私の思考の答えだった。すると、ネフェルさんの声が聞こえた。
「こうしてる間にもシロくんの“生命カウントダウン”は続きます、さて……どうしますかね?」
彼は冷静な口調だったけど、その時、はぁぁ。と、溜息ついたのはハウザーさんだった。ガシャっ。と、彼は大きな刃の剣を地面に突き刺した。
“剣豪ハウザー”さんは飛翠の師匠だ。デカいのは言うまでもなく、筋肉質なのももう当たり前。浅黒い肌しててアメリカンな顔立ち、あーと?ハリウッドのアクション俳優並みの顔立ちと筋肉質な人、髪は暗めのブラウンなんだけれどもオールバックだからおでこ全開で、紅茶色の眼がくっきりハッキリ鋭くておっかないんだよね、うん。アウトローちっく、私らの世界で言えば。でも後髪は肩よりちょい長めで結んでる、でもね……左頬、そこに斜めの刀傷があるのよ。それがイケおじなのに人生物語ってて迫力あるアウトローちっくなおじさんです。
「禁呪ってのは聞いたことある、が。シロ、それお前の“欲望、願望”でカウントダウン停まるよな?」
ちょっと酒焼けな掠れた声でハウザーさんが言った。
えっ!?無知な私、飛翠、グリードさんが聞き返すとハウザーさんは筋肉ムキムキの腕を組んでシロくんを見た。睨むとかじゃなくて何か……ちょっと優しげ?な眼だった。
「……………。」
黙ってるシロくんを見てハウザーさんは、はぁ。と、溜息ついて言った。
「前回は奴隷にされてる仲間の解放……その為に使ったんだよな?で?お前が生きてるって事はそのリスクは回避された訳だ?で?今回は?何を望んで使った?」
彼が言うと飛翠が直ぐにシロくんを睨みつけた。
「お前まさか……“蒼華”か?」
え?と、私が飛翠を見るとここ迄傍観者みたいになってたお父さんが言った。
「シロくん……まさか……この地に居る“蒼華の敵の一掃”……、それを願って?だとしたら危険過ぎるだろ!」
お父さんが怒鳴った。
「え?待って?良く解らないっ!どーゆうことっ!?」
私がそう怒鳴るとネフェルさんがとても静かな口調で言った。
「ああ……なるほど。」
彼は言うと草原を眺めて言う。
「普通に考えて……この地に存在する“敵”の一掃……その為の禁呪解放はとても理に適っている、が。」
少し強い語尾。ネフェルさんは飛翠を見た。飛翠は何やら察してたのか既にネフェルさんを見ていた。
「“ガルパトス”………。」
ネフェルさんが言うと飛翠はぎゅっ。と、黄金の光を放つ刃……その大剣を握り締め眉間にシワ寄せてた。
「えっ?何??どーゆうことなのっ??勝手に話を進めないでっ!」
私が言うとグリードさんが見たんだ、私をとても強い眼で。
「なんで解かんねぇの?嬢ちゃん……。ガルパトスは敵じゃねーでしょ?」
ハッ。としたんだ、、、私は。
(待って!やだっ、待って!!飛翠の第2の師匠ガルパトスさんは残念ながらあの腐った王女コンビに闇堕ちさせられてる!そうだ……彼は敵じゃない!でも今は闇堕ちしてるから、私達に敵対心を持ってる……、つまり?彼は敵……。)
私はここでようやく何か……“天秤”に掛けなくてはならない状況に気がついた。
「でも待って!神獣たちだって元に戻ったじゃん!ねぇ?待って!答えを求めないで!やだっ!なんか嫌だっ!」
気付いた所でどうしようもなく……私は只……逃げたくなってた。最低なことに。
(なんでこうなるのよ……どうしてこんな何時も究極の選択ばっか!ムリだって!私……そんなメンタル強くないっ!!)
誰かを選んで誰かを削除するなんてそんな選択……出来る訳ない。私は普通の女子高生、幼馴染の飛翠の事で毎日のよーに女子達にダル絡みされて大好きな古書店に帰りに立ち寄って……、ちょい偏屈な爺様“黒崎さん”とお煎餅食べてお茶ご馳走になってる人だった。んで、お父さんが亡くなってからは1人暮らしだったから、家で夕飯作って……、好きな動画、サブスク観て過ごす一般人だった。なのに………。
「蒼華っ!!」
その声に私はハッ。とした。見ると、お父さんだった。しかも、お父さんがとても恐い顔で私に黄金に光輝くロッドを向けていた。それは尖端が金色の槍になっていた。
「え………?」
私が驚いてお父さんを見ると、ほっ。とした顔をしてロッドを下げた。地面に突き立てながらお父さんは言った。
「蒼華……、大丈夫だ。今はシロくんの事を考えよう。そして、この地を解放しよう。」
「え?解放?」
私が聞くとお父さんは後ろに立ってるフェリシアさんを見た。
「フェリシア頼む。」
彼女は、はい。と、言うと右手を翳した。空に向けて。ポゥ。と、彼女の右手が金色に光る。
そして、彼女の白いキトンに包まれた全身が同様の光に包まれる。
「シロ……貴方の勇気、優しさ……それはきっと“種”を越え絆に繋がる、忘れないで欲しい。私達“聖上界”❨アサイラム❩は貴方を守護します。」
パァァァッ。と、フェリシアさんの身体は黄金の光に包まれ右手の光はより強くなった。と言うよりも何処からともなく彼女の右手に光が集まって凝縮されていた。
「え?なんなの??」
私が聞くとお父さんが言う。
「我等“アサイラム”は“聖”なんだよ、蒼華。このイシュタリアの“聖”……。」
え?と、私が聞き返すとフェリシアさんが叫んだ。
「“聖上の浄化”❨イレミア❩っ!!」
カッ!!
と、、、黄金の光が彼女の右手が上空に放たれてそれが、シロくんが唱えて降臨させた女神アディーテの蒼い雲はいつの間にか消えてて、そこにまた黒雲纏ってた所に飛んで行った。波動の様に。
一瞬にして上空は黄金の光に包まれて黒雲は、消え去り何より驚いたのはその光は地上に降り注ぎまるで本当に浄化する様だった。ジュッ。と、上空旋回し飛び回っていた黒龍達はその光に当たると燃えたんだ。
「えっ!?何あれ!」
私は驚いてしまった。
多くの黒龍達が空から降り注ぐ黄金の光に当たると直ぐに燃えた。着火する瞬間が解らないぐらい早くて兎に角……、黄金の光で彼等は続々と燃えて空中落下の嵐だった。
その中で上空からは黄金の光が地上に降り注いだ、他の召喚獣達はティア王女が消えた時に一緒に居なくなったけど闇堕ちしたガルパトスさんだけはずっと此処に居た。その彼に聖上の光は注いだ。
ぐぁあぁっ!!
と、、、呻く様な声を発して黄金の光に彼は包まれた。
「ガルパトスさんっ!!」
私と飛翠は同時にだった。彼の元に駆け出していた。黄金の炎の様な光に全身包まれて焼かれる彼は、頭を抱え身悶えながら最終的に光に包まれながら草原に両膝着いた。
私はしゃがみ込み黒い身体から黄金の光に包まれ、まるで映像加工の様に2重の彼の姿を前に手が出せず言葉も発せられなかった。でも、隣の飛翠が直ぐにその厳つい右肩掴んでいた。
「オイ!ガルパトス!しっかりしろよテメー!」
と、彼は怒鳴っていたのだ。
それに応えたのかは解らないけど……ガルパトスさんは黄金の光の中で、フッ。と、軽く笑いつつもドサリ。と、草原に倒れた。でも、もうその身体は真っ黒ではなく普通の肌色だった。更に彼の両手に握られていた2つの剣ーー。それも草原に落ちたんだ。
「…………だ……大丈夫なの??」
私は言った。
「光も消えたし大丈夫なんじゃねーの?」
飛翠はガルパトスさんから手を離しながらそう言った。ガルパトスさんの身体からはもう黄金の光は消えていた。
(どーゆうこと??フェリシアさんは闇堕ちした人間を元に戻せるってこと??え?それはどーゆう魔法なの?)
私がそう思ってると、怒鳴り声が聞こえた。
「は??なんで解除しねぇんだよっ!?シロっ!お前、死にてーのっ!?俺は許さねぇけどっ!?」
それはグリードさんの怒鳴り声だった。ハッ。として、私はその声の方を見た。
「違いますっ!僕は誰が蒼華姉様の敵かを見極めたいっ!その為にはまだ解除は早いんですっ!」
シロくんが……蒼いロッドをお父さんとフェリシアさんに向けていた。
彼は言う。
「ネフェルティア……正解です。僕はこの禁呪を“蒼華姉さまの敵を一掃する”、その為に遣いました。その為にガルパトスさんは確かにネックではありました、それを貴方は直ぐに理解し今、救った。それは僕が“生命”を賭けたから。」
シロくんの眼、声はもう本気モードで口を挟めない。
それはお父さんもなのか……困惑した顔で黙っていた。
「貴方も可怪しい。そして……そこに居るフェリシアさんも。いえ……何もかもが。僕は何も知らぬままに虐げられいつしかそれが正しいと虚無の世界に落とされて行く……、それが許せないっ。知らぬは無知と言うが、知る術も無い者が弱者なら僕は強者になり弱者を救う、光は違う!光の中で生きて来た者達と闇の中で生きた者達が見る光は違う!僕は……貴方達とは違う。」
シロくんの言葉に私は何も言えなかった。と言うより……抱えてるモノの大きさを知った。
(こりゃ……一介の女子高生じゃ解る筈もねーわな。うん。私は………………ナメてたわ、イシュタリア。)
そう思っていたんだけど……ハウザーさんが怒鳴った。
「ふざけんなっ!シロっ!お前が見てる光と俺らが見てる光は同じだっ!解ったらさっさと解除しやがれっ!ガルパトスは救われた!お前の言う敵じゃねぇっ!」
いつも優しく私達をある意味、兄貴の様に見守ってくれてたハウザーさんの怒鳴り声に私は驚いていたんだけど……、シロくんも同じだったみたいで……、彼は蒼いロッドを握りながら俯いてた。そしたら……グリードさんが彼に言ったんだ。
「なぁ?シロ。お前の中で嬢様が大切なのは解るよ?でもさ、俺は?コボルトの仲間は?お前が此処で死んで哀しむ奴って嬢様だけじゃなくね?シロ……頼むよ、お前の“生命”をどう賭けるかはお前の自由だ。でもさ…………、哀しむ奴が居るって知ってくんね?そろそろ。」
シロくんはそれを聞いてなのか………俯いたままで、蒼いロッドを握る手が震えていた。
私は何も言えなかった………。
“シロの生命……8分”




