第20話 お父さんの目的
『あのさぁ、涙の父娘再会はいーんだけど、この状況どーすんの? 聖王ネフェリティア。まだ、“反逆者”の手下は残ってるけど?』
『風の精霊の王シーラ、これ以上は関われない。』
いつの間にか小型……子供の姿に戻ってたシルフの王シーラさん。ミントブルーのボブヘアに、浅葱色のマントをヒラヒラ揺らしながら私達の頭の上で浮いてる。その周りには碧色の光を全身に纏いながらふわふわ浮いてる小人サイズの風の精霊たちが居る。彼の周りをぐるぐると周り透明のフェアリーウィング羽ばたかせながら、うふふ。と、笑ってる。緑色のロング髪がウェーブ状でふんわり浮いてる。
そんなシーラさんとブロンド頭の私の父親“桜木颯”はなんか険悪ムードだった。聖王ネフェリティアとか……このどっかの国の法王様みたいなキトン姿の父親の姿もちょっと未だに違和感でしかない。何しろ“東京”で暮らしていた頃の父親はスーツ姿で、ダークブラウンの髪、しかも偶に伊達メガネ掛けてたりしてたし。何故に掛けてたのかは未だに謎だけども。
けど、シーラさんがミントブルーの頭をわしゃわしゃと掻いた。ちょっと面白く無さそうな顔しながら。
「や?あのさ〜……“反逆者”ってアンタが思ってるティアじゃないんだよなぁ〜……違うか。解っててすっとぼけてんのか。」
シーラさんはゴツゴツした短めのロッド❨棍棒サイズ❩を右脇に挟み腕を組むと、空中で胡座掻いた。けど浮いてる……ふわふわと。そんな状態で彼は右眉少し上げてイラついた様な顔をした。
「あの“黒龍”はティア、シェイドの手下じゃない。アンタも知っての通り……“闇の皇帝ルシエド”。奴の差金だよな?このクソ鈍臭いお嬢様を橋の下に突き落とした黒龍……。アレもルシエドの所業、違う?」
シーラさんの言葉に私は驚いた。
「えっ!?ちょい待ち!子供オヤジ!なんソレ??」
「誰が子供オヤジだっ!吹き飛ばされんぞ??」
シーラさんに怒鳴られた………。
すると、ずっと気難しいと言うか……機嫌悪さ50%の顔をした飛翠が、ん?と、軽く首を傾げた。
「橋の下?」
すると、その場に居た当事者の我らがアイドル白い小型柴犬のシロくんが言った。
「飛翠さん!アレですっ、ファイヤードラゴンの居た鉱山ですよ!僕たちと蒼華姉様が逸れてしまったあの橋ですっ。」
ちょっと興奮気味な声が響いた。あ。と、飛翠は思い出した。みたいな顔をした。
「あー……親父❨カルデラ:元イレーネ国騎士❩とラウル❨放浪冒険者❩と渡ってたあの橋な。」
私もそれを聞いて思い出す。
「そうだ……、あの時、私は黒龍が襲って来て橋の下に落ちたんだ……。」
そう言うとシロくんが言った。
「ええ、そうです。それを追って飛翠さんが落ちて……蒼華姉様を助けに行ったんです。あの黒龍は蒼華姉様を落とした後、直ぐに飛び去ったんです、今思えば……まるで蒼華姉様を最初から狙ってたみたいですよね?」
あ。と、自然とだった……。私と飛翠は顔を見合わせてたんだ。
「確かにそうかも……。だって私の頭スレスレまで飛んで来たんだよ?あの不安定な吊り橋の上で。」
私が言うと飛翠はむっちゃ難しい顔をした。
「あー……だよな?だからお前は鈍臭せぇから足滑らせて落ちたんだったな。」
「鈍臭せぇはいらねー!」
イラっとした。
すると、シーラさんの声がした。
「だからソレ。その黒龍はお前達を狙って来たの。殺す意志があったかどうかは知らん、けど、“警告”だったのは間違いない。それと……ド素人バリのお前達を元王国騎士のカルデラ、ラウルから離したかったのかもな。」
え?と、私はシーラさんを見た。すると、彼は眉間にシワ寄せながら言った。
「お前ら……この世界に辿り着いた時から“監視”されてる、1つは“ティア、シェイド”、2つは“イレーネ王”……んで、3つ。イシュタリアの“闇の皇帝ルシエド”だ。あー……それとこれは言わずもがなだけど……“ゼクセン”な?お前達はこの4つの組織から監視され常に動向探られてたって訳だ。」
「か……監視??」
ちょっとビビった……。監視ってなん??と。や、それは言葉の意味は解ります、はい。解りますとも。けど、私、只の女子高生っ!と、叫びたくなった。
「まー……だよな。」
でも、お隣の飛翠はとっても涼し気な顔だった、しかもむっちゃ冷静沈着っ。なんかハラたった。
「なぁんでそーやって直ぐに受入OK♪なの??ちょっとは動揺してくんね??私がむっちゃ情緒不安定みたいじゃんっ!」
と、クレームつけたのだが、は?と、それはそれは呆れた顔をされた。
「情緒不安定じゃねーか、お前。つか、情緒安定してることあんの?知らねーけど。」
むっかぁぁ。と、キた。久々に。このクールフェイスの顔面をキシャァっ!と、猫娘の如く長い鋭い爪で引っ掻き回したいっ!
(けど、そんな爪はねぇ!私にわっ。)
「お前に優しさはねーのかっ!?あ"?」
「は?優しさの塊の男に何言うよ?」
むっきぃぃっ!と、更にイライラは募る。しれっとさらっと言い放つこのクールフェイスに。
「何処にその優しさあんのっ?ねぇ?未だかつて拝んだことねぇんだけどもっ?私っ。」
「あ?お前の目が腐ってっからじゃね?脳ミソもだけど。」
(ファイヤーっ!!!)
私がファイヤードラゴンなら間違いなく口から紅炎放射放ってる!えぇもうこのムダに顔面偏差値クソ高けぇだけの男の全身を焼き尽くしてやったるわっ!
「あ〜……はいはい。」
シーラさんの声が聞こえた。聞こえたと思ったら私の身体は浮いた。
「えっ!?」
ふわっと浮いた事に驚いた。しかも、地から足が離れ完全に宙に浮いてた。
「えっ!?な……なにコレっ!」
驚いて足元見れば少し離れた土の地面が見える。でも、私は浮いていてむっちゃ怖くなった。ふと隣を見れば同じ様にふわん。と、浮いてる飛翠が居た。なので、咄嗟に私は飛翠の腕を掴んだ。
「飛翠っ!なにコレ!?」
良く良く見れば地上から30㌢程度しか離れてないのだけど、何しろ私は一般人!身体が空中に浮くなんてアトラクション乗らないと経験出来ない。しかも私は今Noアトラクションっ!つまり、身体1つで浮いてるのだ。
すると、シーラさんの声がした。
「お?頭冷えた?話に戻りたいんだけど?大丈夫そ?」
彼の飄々もした声が聞こえて私は少し上で浮いてるシーラさんを見上げた。
「あ……すみません……はい。お願いします……。」
私は空中に身体を浮かされた事でビビってた。完全に。コイツらにとって私の生命なんか自由自在なんだな、と。何か思ってしまった。
❋❋❋❋❋❋
きちんと地面に足を着けた状態で私達は、いや……シーラさんと私の父親……“桜木颯”……そして今は“聖王ネフェルティア”が向き合っていた。
と、言ってもシーラさんは相変わらず浮遊状態で空中からお父さんを見下ろしてる。お父さんはずっと黙ってて何かすっごい考え事をしてるみたいな顔をしてた、私達がわちゃわちゃしてても。何かいつものお父さんじゃないみたいだった………。
だからやっぱりなんか怖くなって不安になって私は聞いた。
「お父さん?えと……そのシーラさんの言う黒龍の話ってお父さんはやっぱりなんか知ってるの?」
すると、お父さんは、はっ。とした顔をしたんだ。
(あ。察し。)
幾ら着てるモノが変わってもダークブラウンの髪色がキン髪になっても……、表情、リアクションは変わらなかったんだ。だから私は解ってしまった。お父さんは……知ってる。いや、知ってた……と。何か私のとっても鈍臭い脳がこの時ばかりはフル回転した。自分でもビックリするぐらいに脳内クリア100%で、今迄聞いて来たこと、経験したことが一気に脳内を駆け巡った。そして……私は1つの結論をお父さんに突きつけていた。
「もしかして……お父さん、その“闇の皇帝ルシエド”と何か関係してる?あと……私達をずっと“監視”してた?」
そう聞いたら父はーー、はっ。とした顔をして直ぐに俯いたんだ。私はその辛そうな顔を見てもう………察するしかなかった。
(やっぱりそうなんだ……、だからフェリシアさんは“闇堕ち”とか言ったんだ……、私がお父さんを裏切らないかどうか知る為に。)
「……………。」
私はちょっとオチてた。うん、だいぶ。けど、項垂れる父親を見つめた。
(こんな悲しそうで苦しそうで辛そうなお父さんの顔は……お母さんの“葬式“以来だな…。でも、この人は何かを隠してる。それは解る、だって父娘だから。)
私は父親の表情を見て確信していた。だから、言った。
「お父さん、答えて。いや?教えて。闇の皇帝ルシエドってなんなの?お父さんにも影響ある奴なの?それなら私は倒したいんだけど。」
そう言うとお父さんは……はっ。とした顔をして上げた。その重苦しい表情した顔を。そして私を見て言った。
「本当にそう思うか?蒼華。」
問われてる……、そして私は試されてる。自分の意志、言葉、思い。全てを。そう思ったからお父さんを真っ直ぐ見て言った。
「思うよ?だってお父さんは私にとって大切な家族だから。もう2度と逢えないと思ってたのにまた逢えた。それに困ってて私に出来ることなら助けたい、私はお父さんが居たから生きて来れたんだから。」
父は……、父の瞳は少し揺らぎ、フッ。と、軽く柔らかく笑った。だけれども、直ぐに真剣な顔になった。そして、私含め此処に居る“仲間たち”を見据えた。
「話そう、もし君たちがウチの娘、蒼華の意志を尊重するなら。」
神獣たち、ネフェルさん達、そしてシーラさん、飛翠は聖王ネフェルティアを強く見据えていた。
ああ。うん。と、誰もが言葉を発しないがジェスチャーで首を縦に振っていた。
ふぅ。と、お父さんは軽く息を吐き言った。
「“闇の皇帝ルシエド”の棲う世界はこのイシュタリアの“地底奥底”………”仄暗い匣“と言われる“闇部”。その世界には何も無い。光も届かぬ只の闇の世界。だが、漆黒の世界に生きる者達が居る、彼等が何を追い求め生きてるのかは解らぬ。だが、我ら“聖上界アサイラム”に牙を向き出した。イシュタリアでは対局の世界だが、この世界に関与しない。その点では全く同じだった、だが彼等は今、我らに“戦争”を求めている。」
え?と、私が聞き返すとお父さんはしんどそうな顔をした。
「すまない……蒼華。」
お父さんが頭を下げるのを見て、私はファーストインプレッションを思った。そして………私の脇に居るシロくんを見た。彼は……酷く驚いた顔をしていた。
(ああ……また君は正しかった……、私達に何か“悪意”が向けられる時……貴方はそれを真っ先に感じ取って警戒し、敵意を向き出しに表現してくれる。貴方はやはり……凄いよ。シロくん。)
そう……シロくんが予感してくれていたお陰で、今の私はああ、やっぱりな。程度で済みそこ迄オチなかった。立ってられたし、父親の顔も見れた。“利用”と言う言葉が脳内に巡ったけどそれは敢えて消去した。
「オケい、お父さん、なら聞くわ。そのルシエドとやらは何処に行けば会えんの?よーはソイツを殺せばいい、そーゆうことでオケぇい??」
私は………ヤケくそでそう聞いていたのだった。




