第5話 蒼華の神獣▷▷▷風の精霊の王シーラ
倒壊したアズール魔導館の前で、私達は対峙する。
煌めくブロンドのサラ艶髪は腰元まであって……風も無いのに靡いてる。なんで? と、思うけど雰囲気でしょ、きっと。
その細い身体は真っ白な……そう純白のキトンだ。確か……ギリシャ神話とかに出てくる女神様が着てるやつ。で、ココには居ないけど、“花嫁さんみたいにキラキラして見えるのも雰囲気でしょ。うん。
「あっはっはっ!!」
そしてとっても美しい顔……私とは、180度似てねぇんだわ、この“美人顔”は。黒崎さん……いや、ゼクセンさんの悪意を改めて感じた。
でも、その美人顔は狂った様に笑う。狂喜乱舞を独りでヤってしまってるんですわ。
「何が可怪しいのっ!? 可怪しいのはお前の脳内だ! この犯罪者っ!!」
私はその狂喜乱舞な王女様に怒鳴っていた。彼女の笑顔が ぴたっ。と、止んだ。途端に美しい済ました顔になった。私を見つめるのは、蒼く煌めく瞳だった。こんなにがっつり見た事無かったから、驚いた。
黄金のロッドを握って立つ美しい女神……、今ならそう思える。
でも、吐かれたのはそんな概念をブチ壊すクソ発言だった。
「可怪しいわよ、支配者よ? 阿保ヅラ並べて直立不動、“元支配者”を前にして“契約解除”棄てられた事がトラウマなのかしらね? 私を怯えて見てるじゃないの。」
あはははっ! ティア王女は彼等を見て笑ったんだ。
「は? え!?」
私はビックリしてしまった。だから近くに居るイフリートを見た。けれど、紅黒い大きな犬は目に見えて項垂れたんだ。
(はぁ?? 捨てられた子犬か!? お前わっ!!)
なんかその寂しげでブロークンハートな顔がむっちゃハラ立った。
それに、その周りに居る神獣達よ。4人、揃いも揃って傷ついた顔してんのよ。コレがまた。
女王様の雄鶏姿のアトモーネスすら、その厳ついご立派な碧のトサカ付いた頭を落としちゃってんのよ。大きな両翼までも閉じちゃって。豪華な羽付きトサカから、ひらひらと碧の羽が舞い散ってんだわ。
(いや………コレ……ムカつくわ。)
私は彼等に怒鳴っていた。
「はぁ?? ふっざけー! 何傷ついてんだ!? バカどもっ!!いいか! お前らは私の“神獣”なのっ! 悪飼い主なんか忘れろっ! 今は私がお前らの“支配者”だっ!!」
そう怒鳴ると……紅い眼をした悄気げたどデカい犬は、私を見たんだ。
「………お主………嫌いなのでは?」
とっても驚いた顔をしてイフリートは言ったんだ。私はその何とも言えない顔にもハラが立った。だから言った。
「嫌いだっ! でも、そーやってマイナスな顔してんのはもっと嫌いっ! アンタ達はくそムカつく顔して、堂々としてるぐらいが丁度いい! あんまりイラついたら、これからは私が“おしおき”してやんよっ!!」
私が怒鳴ると……5人は揃いも揃ってなんか晴れやかな顔になったので、それもそれでイラっとして言った。
「だから泣くなっ!」
と。そしたら勢揃いで言われましたわ。
「「「「「泣いてねーしっ!?」」」」」
ハイ。知ってますとも。
私は笑ってしまった。不貞腐れた顔をして、それぞれ肩回したり、羽広げたり、頭を振ったり……準備運動する神獣達を見て。でも、彼等は皆……元“飼い主”のティア王女を見ていた。それは、何処か吹っ切れた顔をして。
そして……忘れた頃に“来た”。
ふわり。ふわり。と、浮いて。碧の真っ裸の少女たち、その生命体を引き連れてこの御方は。
「へぇ? 戦うの? “救世主”。ティアと、シェイドと。」
私達の前にふわふわと浮く、ミントブルーのボブヘアに、浅葱色のマントを着た少年。さっきまでの“大人型”ではなく、私達と何ら変わらない少年が浮いていた。
(“風の精霊の王”……シーラさん……。)
私はぎゅっ。と、右手の黄金の光放つロッドを握り締めた。
碧の光放つ眼が私を見てから隣の飛翠を見た。私が慌てて視線向けると、彼は……どうにも飛翠の持つ“黄金の羽”それが生えた大剣が気になったのか、ふわふわと浮きながらその右手近くで降りたんだ。当然……碧色の発色生命体……、あー、真っ裸の少女達、精霊引き連れて。
「あ? 近寄んな。斬んぞ?」
飛翠は威嚇したが、彼はその黄金の大剣を眺めて ふんふん。と、頷いた。更に飛翠を見上げた。でも、馬鹿にした顔ではなくて、何処か無邪気に笑ってた。
「なるほどな。あ〜……そゆこと。」
言うと、シーラさんはふわり。と、私達から離れ空中に舞い戻った。碧色の精霊達を纏いながら彼は言う。浮きながら。
「その剣もロッドもアレだろ? “聖上界”の、“聖魔女”、“聖戦士”に授けられるモノだよな?」
シーラさんの言葉に私と飛翠は声を上げていた。
「「は??」」
聞き返した。シーラさんは、そんな私達を見て あ〜……と、相槌打ち
「そ〜ゆう感じ?」
と、聞くとイフリート達を見たんだ。更に、ティア王女を。
「何なのっ!?」
私が聞くと、シーラさんは私達を見て、右手を向けた。掌を向けてまるで制止するかの様に。彼の碧色の瞳が宝石みたいに煌めいた。発色したんだ。へらへらしてたその顔も真顔になった。
「話はあとで。取り敢えず……“神獣の奴ら”もヤる気になってんで、アイツら消してからでも遅くはない。“救世主”……。」
シーラさんはそこ迄言うと何故か止まり、私と飛翠を見て言った。
「あ〜……“蒼華と飛翠”だったな。まさか……お前らが“聖上界”に守護された者達とは思わねぇよな。どー考えても。」
シーラさんは、私達を見て少し微苦笑だった。