第31話 別離
「飛翠っ!!」
私は叫んでいた。目の前で大きな音を立てて、崩れてゆく“月読の塔”を見て。
「わぁぁ!」
「離れろっ!!」
「ゼクセンさまっ!!」
「ムリだ! 逃げるのが先だっ!!」
慌てる魔導士達の声も聞こえた。けれども、私は見た。白いローブを纏ったゼクセンさんが、地に伏していて、地面に投げ出してる右手が骸骨の様に骨なのを。
彼が握っていた樫の木の杖、それがその骸骨の様になってしまった右手の傍に落ちていて、それが……黒く靄を出して蒸発していくのを。
そして、それらを放置して……今迄、寄り添っていた魔導士達が去っていくのを。
けれども、その彼の背後で……塔は崩落していく。真っ赤な紅炎に包まれて……大きな音を立てて、ガラガラと崩れ落ちてゆく。
「黒崎さんっ!!」
私はその瓦礫の大きな破片に潰される彼を見て叫んだ。
「やだっ! 黒崎さんっ!!!」
叫んで走り出そうとした、降り注ぐ塔の外壁の塊に潰される彼の元に。
「蒼華っ!!」
「蒼華姉様っ!!」
「蒼華ちゃんっ!!」
色んな声が聴こえる。でも!!
私は、その腕を飛翠に掴まれた。
「蒼華っ!!」
私はその声に振り返り怒鳴っていたんだ。
「離してっ!! 死んじゃう!! 黒崎さんがお父さんみたいに死んじゃうっ!!」
でも、飛翠は私の倍以上の声で、怒鳴った。
「死んでんだよっ!! とっくに!!」
(え…………?)
私は飛翠の声に何も言えずにいた。けれど、彼は言った。
「“あの姿”で出て来た時点で、死に際。つか、お前とシロに魔法使いになる為の“儀式”、それを施した時点で死んだ。お前とシロに託した。けどな!」
飛翠は険しい表情で私を見た。その眼は……とても冷たかった。
「そんなんで許されることじゃねー、いいか? アイツは“逃げた”、美談で受け止めてっとガチで死ぬぞ? お前。」
「え………?」
私が驚いてると、ネフェルさんから激が飛んだんだ。
「来ます!! 構えて!!」
その声に飛翠は私から手を離して黄金の光に包まれた剣を握り、構えていた。
「蒼華姉様っ! “闇の魔導士”ブラックマジシャンは、その名の通り、“闇術の使い手”です! 」
(待って……シロくん……待って………。)
「つまり、イレーネ王と同じです!
“闇魔石”の使い手です、僕等の魔法は通用しません!」
(だから……待って……黒崎さんが……黒崎さんが………)
「だから、“魔法剣”です! 蒼華姉様は、今、ゼクセン様から“その資格”を継承しました! 僕もですが! でも、魔法剣は、戦士と魔法使いが……」
「待って!! やめて!! 黒崎さんが死んだのになに言ってんのっ!? は? 意味分かんない!!」
怒鳴っていた。
「蒼華ちゃん! 頼むから! しっかりしてくれ!」
ネフェルさんの言葉が聴こえる。
(しっかりしてるよ……でも……黒崎さんが……死んだ……、なのに何?? 魔法剣とか……魔法が何とかこーにかとか、そうじゃねぇだろ!!)
私は何か解らないけど、むっちゃハラたってて……、でも何なのか解らなくて……ぎゅっ。と、黄金の翼が羽ばたくロッドを見てた。
黄金の光を煌めかせるロッドを。
両手で握ってた。
(ああ……そうね……元々……“生命生命”に優しくない世界だった、何の罪も無い私と飛翠を使って……お国事情に巻き込んで、そのまま今度は私と一緒に居る人達を、犯罪者扱い。魔導士目指してるミリアの夢も……この塔ブっ壊して奪った。)
ぎゅっ。
私はロッドを握った。もう、これでもかと言うぐらいに。色んな感情、色んな想いが巡る。
でも、憤怒が湧いた。何故か。
睨むのは死神の姿をした“闇の魔導士”。
(お前達は何なんだ! 黒崎さんを殺した闇皇帝とやらの仲間なのか? だったら!! ココで………)
「ブチ殺してやるっ!!」
私は黄金のロッドをふわり、ふわりと浮く“死神”に似た闇の魔導士に突き出した。
「“聖なる制裁”!!」
私は叫んでいた。
カッ!! 黄金の砲丸みたいな円石がロッドの尖端で煌めいて、黄金の両翼が光と共に、バサッ!! と、その翼広げた。
その後は眩い黄金の光が浮いてる死神みたいな、闇魔導士に向かって行く。
それはネフェルさんが放った様な光の槍に似た現象で、でも私のは矢だった。鋭い刃先をした黄金の矢、それが飛んで行った。本数が半端なくて……死神の全身を突き刺した。そう、ダーツの矢を一気に的に当てたみたいに。
余す所なく死神の全身に黄金の矢が突き刺さり、死神の身体はまるで磔にされたみたいに、両腕広げて項垂れた。
ネフェルさんの声が聞こえた。
黄金の光放つその死神の前で。
「“聖光の檻”!!」
ネフェルさんの唱えと共に、私の放った金色の矢で身体を拘束されてる、闇の魔導士の頭上から黄金の光が降り注ぐ。
それが彼の身体をまるで凍結させたかの様に、動かなくした。
ネフェルさんは叫んだ。
「飛翠くんっ!!」
それを受けて彼は黄金の光に包まれた大剣を握り走った。
シロくんが叫んだ。
「“水流の守護”!!」
彼は走る飛翠にロッドを向けて叫んでいた。
カッ!! と、彼のロッドから水色の光が放たれて、飛翠の身体はその光に包まれた。
飛翠は全身硬直状態の闇の魔導士めがけて、突っ走り、飛び上がる。黄金の大剣を振り上げて。
「“聖なる悲鳴”!!」
彼は振り降ろした。
ズバアッ!!
風刃の如く剣を振り下ろす音が聞こえた。死神の身体は真っ二つに切り裂かれて、更に カッ!! と、黄金の光に包まれた。そう、バハムートを切り裂いた時と同じ……、 黄金の炎が死神を覆った。
飛翠が剣を持ち着地すると、爆破した。
ドォォン!!
物凄い音をたてて。
死神は……爆破したんだ。
私は……またもや茫然としていた。




