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君と剣と魔法を紡ぐ物語〜私達がお尋ね者っ!?〜  作者: 高見 燈
第5章 秩序が崩れるとき
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第30話 アズール魔導館崩壊▷▷時は無情非情

 真っ黒なローブ……けれども裾はボロボロで、浮いているのにその両足は見えない。隠れてるのか、ローブが長いのかは私には解らない、でも恐い……、それは解る。

 

 見た事も無いし感じた事も無い……威圧感。姿は良く知る死神。漫画とかで良く見るこの、骸骨と黒いフード付きのローブ、それに大鎌。けど……リアルで銀色の刃が光るむっちゃ鋭い大鎌は、初見ですわ。

 

 (この骸骨の魔導士より大きいのよ、この大鎌っ!!)

 

 でも、私は はっ。とした。さっきまでネフェルさんの“神導術”、黄金の炎に焼かれてた白銀の長い髪した白のローブ姿。大魔導士ゼクセンさんが、ぱたり。と、地面に倒れたんだ。

 

 炎は消えていて……けれども、彼の姿は何ら傷ついてる様子も無いんだけど、でも倒れたんだ。しかも、ずっと離さなかった樫の木の杖が、彼の手を離れて地面に落ちてた。

 

 「ゼクセンさんっ!!」

 

 私は駆け出そうとしたけど、ネフェルさんが振り向いて叫んだ。

 

 「まだですっ!!」

 「えっ!?」

 

 私が聞き返すとネフェルさんは言った。

 

 「ココからが……“彼の正念場”です。僕達には何も出来ません。」

 

 ネフェルさんはとても悲しそうな顔をした。でも、私は見たんだ、ゼクセンさんの身体がまた黒い靄に包まれていくのを。

 

 「ゼクセン様っ!!」

 「お気を確かに!!」

 「打ち勝って下さい! 貴方様は偉大なる“秩序の大魔導士”!! お願いですっ!」

 「ゼクセン様っ!!」

 

 さっきまで傍に居た魔導士達だった。彼等が倒れてるゼクセンさんの周りに集い、しゃがみ込み必死で声を掛けていたんだ。でも、彼等は皆、ロッドを持ってる。魔法を使おうとはしない。私は何故か……とても恐くなった。何か解らないけど。

 

 だから、飛翠の腕を掴んだ。彼からの反応は無くて、でも私は彼を見てる余裕が無かった。

 

 ポウっ。と、倒れてるゼクセンさんの身体から、白い光が放たれたんだ。それは彼の全身を包むもので、彼の身体の上で蠢く? みたいな黒い靄が、大きくなってゆくのを防いでる感じがした。

 

 「まだ……抱えてるんですか? ネフェルさん。」

 

 そう言ったのはシロくんだった。

 

 「え?」

 

 私がシロくんを見ると、彼はとっても恐い顔をしてた。グルル……初めて私は彼が唸るのを聞いた。ネフェルさんは、咄嗟に神導書を開いてた。

 

 パラパラと金色の光に包まれた神導書が捲れてる、勝手に。

 

 「恐らく。彼は“絶対なる魔導士”。それは“アズール魔導館”の全ての知識、魔力を携える者だからです。秩序……即ち、この世界の“魔法、魔力”を司り護る存在だからです。魔法使いと言う存在を産み出した“創力”……、彼……いえ、“アズール魔導館”が無ければ魔力は産まれず、魔法使いはこの世界に存在しなかった。例えイフリート達“支配者”が居たとしても。」

 

 ネフェルさんは言った。

 

 「“秩序”とは産み出した“力”を護ること。わかり易く言うと“悪用”されない様にする為に、ルールを決め使用者を選別する。それが、魔法使いの条件。ゼクセン殿は選別し、この世界に“魔法使い”を産み出したんです。ざっくり言えば。だから、戦争の終結に加担し、これ以上魔法、魔力を乱用させない様にした。イシュタリアに“秩序”を叩き込む為に。“闇に染まらぬ様に”。」

 

 (その“闇”ってなんなのっ!?)

 

 私が聞こうとした時だった。ゼクセンさんの身体から放たれていた、白い光が強い光を放った。カッ! と、閃光が放たれたんだ。

 

 「きゃあっ!」

 

 それは少し離れてる私達にも届いて、眩しくて……突風とかはないけど、眩し過ぎて腕でその光を遮ったんだ。でも……聴こえた。

 

 『蒼華ちゃん……飛翠くん……。』

 

 (えっ!?)

 

 私は懸命に目を開けた、眩しいけど何となく目の前で言われてる気がして。

 

 ぼうっ。と、私と飛翠の前に白い光に包まれた、“黒崎さん”が居たんだ。


 「黒崎さんっ!?」

 「……ジジィ……。」

 

 彼の姿が見えた時には、眩い光は薄らいでハッキリとその姿が見えたんだ。

 

 樫の木の杖を右手に持ってて、黒い羽織、ブラウンの作務衣を着た白髪の老人だ、白髪もゼクセンさんの時みたいに長くない。襟足で束ねてあって、頭の上で前髪束ねる程度の長さ。

 

 何よりも金色の瞳とかじゃなくて、優しい黒い瞳。それに……この素足に草履よ。しかも藁の草履。私はこの何とも言えん服装が大好きで、黒崎さんを一目で覚えて通ったんだ。

 

 そう、この笑顔。優しい笑顔が……大好きだった。

 

 「黒崎さんっ!」

 

 思わずだった、駆け寄ろうとしたら、彼は右手に持つ樫の木の杖を突き出した。

 

 「え??」

 

 私はロッドを向けられる≒攻撃される。と、認識してるので❨やっとですが。❩ぴたっと停まった。そしたら黒崎さんは笑ったんだ。

 

 『蒼華ちゃん、シロ。お主らがワシの最後の“弟子”じゃ。良いか? 鍛錬せいよ。そして、お主らの信づる道を進むが良い、ワシは違❨たが❩えたな。少々……。』

 

 黒崎さんは飛翠を見て笑った。

 

 『飛翠くんで言う所の……“頭、沸いたな”。』

 「ジジィ……。」

 

 飛翠からは何とも言えない声が聞こえて、私は彼を見れなかった。きっと………泣きそうな顔をしてる気がしたんだ。何となく。

 

 でも、黒崎さんは少し真面目な顔をして、私と隣に居るシロくんに樫の木の杖を向けた。その瞬間だった。

 

 カッ!! 私とシロくんの身体に白い光が放たれて、私達はその光に包まれたんだ。

 

 「きゃあっ!!」

 「うわぁっ!!」

 

 1言で言えば熱い!!

 それしかなくて、私はその燃える様な熱にジリジリと、焦がされていくのを感じていた。そう、真夏に窓ガラスの傍に立ってる様なもの。クーラーないとこで、日光浴してるみたいな。

 

 よーは、むっちゃ熱い。

 

 「シロくん! だ……大丈夫……っ!?」

 

 心配になった。私がこれを感じてるってことは、彼も! でも、彼は言った。

 

 「大丈夫です! 蒼華姉様っ! 耐えて下さい!!」

 

 彼は必死な声でそう言ったんだ。そして……

 

 「蒼華! シロっ! 」

 「くそジジィ! 何してくれてんだ!? あ"あっ!?」

 

飛翠の怒鳴る声が聴こえた。

 

 (待って! 耐えるって何?? この熱さに耐えたら、身体溶けますって!! ドロっドロよっ!? あの超有名アニメ映画の巨人○みたいにっ!!)

 

 私は蒼い服着て金色の光に包まれるミラクルガールではないっ!! 失礼っ!

 

 『蒼華ちゃん、シロ……そして、飛翠くん。お主らは“潜在能力”があった、それは血統、鍛錬、経験値で産まれるモノではない。お主らの“心、信念、意志”だ。』

 

 「……潜在能力??」

 

 (あ。声出た。喉焼かれたかと思った。)

 

 でも……、私の身体を焼くような感覚は、徐々に引いていって、光に包まれる感覚に変わったんだ。だから、シロくんに目線向けた。

 

 

 「シロくんっ!? まだ熱い??」

 「だ……大丈夫です。」

 

 シロくんも、やっぱり辛そうだった。ロッド握って少し前屈み、支えにして立ってた。

 

 『宜しい、蒼華ちゃん、シロ、やはりお前達は“素質”がある。賛否両論あるがな、ワシは“力”を求める者は、“相互扶助”つまり“共存”……種族を越えて、他者との垣根を越えて……“助けたい、救いたい”。その気持ちこそが“力”を産み出すと、考えておる。』

 

 黒崎さんは飛翠を見た。

 

 『そして……君に感じたのは“護りたい”だった。己も他者も。』

 「………ジジィ……。」

 

 飛翠の声が少し掠れてた。私はロッドを握ってた。

 

 『他者を護る為には己が強くなくてはならん、それは最早“理”じゃ。力ではなく、心が強くなくてはならん。揺るぎない意志、護ると言う意志。それを支えるのは“己の精神力”。』

 

 黒崎さんは言った。

 

 『飛翠くん、君はそれを既に知っていて、その人生の背景は想像を絶するよ、けれども君は腐らず曲がらず……傍に居る者を護る為に必死であったな。』

 「…………。」

 

 飛翠が何も言わない……、私はでも見れなかった。いや、見ちゃいけないと感じた。彼の……心情を汲むなら……“弱さ”は見せたくない。だからだ。

 

 彼は……孤高の戦士だから。

 

 私は彼を支え、傷を癒やす女神の様になりたいのだ。彼が何にも囚われず、自身の信念を貫ける様に。烏滸がましいけど。

 

 『蒼華ちゃん、お主は弱い部分ばかり目立つが心優しい美しい人じゃ。そして、お主の強い部分は他者の為に形振り構わぬ“暴走心”じゃ。』

 「えっ!? なんか飛翠と対応ちゃいませぬっ!?」

 

 私はビックリしちゃったよ。だって……ぶっ。って、吹き出したんだもん、ネフェルさんが。

 しかも、飛翠までぶっ。て、吹き出して隣で堪えつつくくっ。て、笑ってて、隣のシロくんまでも、ぷぷっ。て、吹き出します! 0.5秒前まで来てたんだ。 

 

 そして黒崎さんは、真顔で言った。

 

 『あ……“破天荒”か。言うところ……“暴走魔法使い”。』

 

 ぶわあっはっはっはっ!!

 

 男3人の笑い声が空高くにま響いたのは言うまでもない。

 

 「は?? つか、笑うなっ!!」

 「暴走…ははっ……魔法使いて……。ぶっ。はははっ。」

 ネフェルさんだ。腹抱えて笑ってる。 

 「やべ……ぶはっ。暴走魔法使い……くくっ、すげ。パワーワード、だっはっはっはっ!!」

 飛翠まで爆笑。

 「ぷぷっ。……ごめ……はははっ!! 暴走魔法使い……あははははっ!!」

 シロくんなんて白い光に包まれてるのに、涙目で笑ってる。

 

 「なんなのよっ!! 黙らんかっ!! 雷落とすぞ!!」

 「暴走……くはっ。雷魔女……だっはっはっ!!」

 

 飛翠がそう笑ったら、あっはっはっはっ!! 皆様、大いに爆笑してくれましたよ。ええ。もう、ムカつくぐらいに。

 

 (ウザっ!!)

 

✢✢

 

 ともあれ………“時は無情非情”と言う。私はこの爆笑の時間が、ずっと続くと思ってた。

 

 黒崎さんは、樫の木の杖を私とシロくんに再度向けた。

 

 『さて、そろそろお遊びも終いじゃな。』

 

 彼はそう言って微笑んだ。

 

 「えっ!?」

 

 私が聞き返すと黒崎さんは叫んだんだ。

 

 「魔力解放(アルセロフィ)!!」

 

 ブワッっ!! と、私達の身体が宙に浮いた。

 

 「蒼華姉様っ!!」

 「シロくんっ!!」

 

 私とシロくんは咄嗟にお互いに手を伸ばして、繋いだ。その手を。ぎゅっ。と、私は彼の手を握っていた。

 

 白い光に包まれて竜巻みたいなのが、私達の足元から巻き起こった。

 

 「きゃあぁっ!!」

 「蒼華姉様っ! 離さないでっ!!」

 

 シロくんの必死な声が聴こえた。そしてーー、

 

 「蒼華! シロっ!」

 

 飛翠の声も。

 

 でも、私達は竜巻みたいな突風の中に居た。けど、不思議と旋空回転はしなくて、只、身体が竜巻に巻き込まれてるみたいだった。

 

 でも、その竜巻の中から不思議な生命体達が、出て来て私の身体の周りを彷徨くんだ。

 

 「え? 何これ??」

 

 声は出た。竜巻の中なのに。

 そう、息苦しくもなく、風に煽られて吹き飛ばされるでもなく、只包まれている。そんな感覚だった。

 

 白い光の竜巻の中から、飛び出して来るのは、碧、蒼、紫、紅、白蒼の光をそれぞれ放つ生命体達だった。羽根が見えてドール……、そう、人形みたいな体長の8等身の真っ裸の生命体。

 

 それが、白い光の竜巻から飛びてきて、私の身体の周りをうろちょろするんだ。蚊みたいに。 

 

 うふふ。

 ははは。

 

 何故か彷徨きながら、笑う。皆、羽根生えてて眼の色は身体の色に比例してて、でも、紅は炎の髪、蒼は水みたいに固形ではなくて、ゆらゆら揺れてて液体みたいな髪で、紫はわかり易く稲光が煌めく髪で、白蒼は氷。完全に。長い髪が氷だった。

 

 碧の生命体はシーラさんの周りに居たドール達で、碧の長い髪をふわり。と、揺らす可愛い人だ。

 

 出て来たのは数体ずつ。それぞれ。只、私の頭の上や全身をぐるぐると旋回して、うふふ。はははっ。と、笑ってる。

 

 (え…と? 何が楽しいんスかね??)

 

 私は思うが、彼女達は私の身体をくるくる旋回して、満足したのか、また竜巻に戻り消えていったんだ。

 

 私はぎゅっ。と、シロくんの手を握った。

 

 「シロくんっ!?」

 「大丈夫です! 蒼華姉様っ!」

 

 竜巻で姿が見えなくて、だけどその声を聴いてほっ。とした。

でも、直ぐだった。私達を覆ってた白い光の竜巻は消えたんだ。

 

 「え??」

 

 消えた。と、思ったら私達は手を繋いだまま、地面に着地していた。


 でも、さっきまで居た黒崎さんの姿はなくて、代わりに目の前の……アズール魔導館が、音を立てて崩れ落ちていったんだ。 

  

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  


 

 

 



 

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