第29話 秩序が壊れるとき
碧色のロングの髪が目の前で金色の光に包まれて、靡いてた。
そう、“神導者”ネフェル”さんだ。黒い神父服着たむっちゃ美形男子なのだけども、彼は今、“秩序の大魔導士ゼクセンさん”を目の前にその手元に、勝手に捲れる“神導書”を開いて何やら唱え始めた。そう、さっきと同じ様に。
「飛翠……。」
私は不安になって飛翠に顔を向けた。でも、彼は“黄金の大剣”を構えてネフェルさんの、その背中を見据えてたんだ。
「構えろ。つか、お前……さっき魔法使えなかったよな?」
私はそれを言われて、自分のロッドを眺めた。
「うん……、“水流の魔法”は、やっぱりリヴァイアサンの“継承石”が無いと、使えないのかな?」
私が言うと、飛翠はちらっ。と、シロくんを見たんだ。彼は言った。
「シロ。」
「は…はいっ!」
きっと、むっちゃ睨まれて怖かったのかな? とってもビクッ!って、身体跳ね上がってた。
「お前、水流の魔法を継承する“遺跡”に居ねぇよな? なんで使えんの? “水流の雫”。」
飛翠がシロくんを、睨んで言ったんだ。殺意に似た眼を向けて。そしたらシロくんは、蒼いロッドを握り締めて言った。
「ご……ごめんなさいっ! このロッド……“水魔法の加護”を受けてて、その……“水流の魔法”は使えるんです。だから、僕は選んでいて……“回復魔法”……使えるんです。」
シロくんはとても困った様な顔をしてそう言った。
「「は??」」
私と飛翠は同時だった。シロくんに聞き返していた。
「どーゆうことっ!? ロッド持ってっと魔法使えんのっ!?」
「つか、魔法の加護って何だ? あ"あっ!?」
「ごめんなさいぃぃっ!!」
シロくんはホールドアップしてた。最早……涙目で、彼を問い詰めた私はちょっと罪悪感……。
(ん? 待てよ?)
私は未だ怯えてるシロくんに聴いた。
「ねぇ? なんで私は水流の雫、使えんの? それは、やっぱりリヴァイアサンの継承石の所為?」
すると、シロくんはとても困惑した顔をしていた。
「本来、魔法使いは“精霊との契約”、その後、このアズール魔導館“で、承認されると”魔法使い“になれるんです。つまり、”大魔導士ゼクセン様“に、最終試練を与えられてそれに受かれば魔法使いなんです。ですが、蒼華姉様は“精霊との契約”をしてません、つまり……“継承石”が働かないと“魔法使い”ではないんです。
」
飛翠が あ。と、私を見た。
「“魔石”。」
「え?」
私が聞き返すと飛翠は言った。
「お前の持ってる継承石ってのは、“魔石”……それが、グレードアップした石。つまり、魔力が“濃縮”された石。イシュタリアの”原石“。支配者そのものなんじゃねーの?」
「え?」
私が聞き返すと、シロくんは言った。
「そうだと思います、”支配者の魂“。つまり、彼等の”生命体“。それが継承石なんです。」
「え? てことは?彼等はこの世界に1人しか居ないの?」
私が聞くとシロくんはとても驚いた顔をした。え? と、私が聞き返すと、彼は言った。
「僕も1人、蒼華姉様も1人、飛翠さんも1人、イフリートも、リヴァイアサンも1人だと……僕は思ってますが……。」
シロくんはそう言ったんだ。
(すみません……何か”魔物“みたいにアッチコッチに、同じ生命体が居るのかと……。)
私はとても気まずくなった。
「ごめん、シロくん。忘れて。」
「……はい……?」
何かとっても戸惑っていた。
「つまり、私は“継承石”が機能してないと、“魔法使い”ではないってことだよね?」
私は飛翠に聴いた。すると、飛翠は ふぅ。と、息を吐いた。
「気づく切欠は幾らでもあった。“シロ”みてーにな、俺らは 最初っから武器持ってて、この世界の“理”に振り回されて、根本的な事を考える余地が無かった。」
私はそれを聞いて頷いた。
「うん。」
私はロッドを握った。
「今更、悔やんだ所で戻れねぇ。蒼華……、のまれんな。こっからは、俺の言葉が効かねぇかもしれない、いいか。忘れんな、お前は1人じゃねぇ。」
飛翠の言葉に私はロッド握ってしっかりと、頷いた。
「うん。」
けど、彼は言った。
「俺も、お前いねぇとダメなんで。それも、忘れんな。バカ女。」
「えっ!?」
私は飛翠を見たけど、
「“解禁”!」
ネフェルさんの声が聞こえた。
黄金の光の槍が、ゼクセンさんに何本も向かっていって、彼の身体に突き刺さったんだ。
「えっ!?」
ゼクセンさんの身体は黄金の槍が、ドスッ! ドスッ!と、何本も、肩や腕、腹、額に突き刺さったんだ。
「ぐぬっうっ……!」
ゼクセンさんの苦しそうな声が聞こえた。
「ゼクセンさんっ!」
私は駆け出そうとしたけど、シロくん、飛翠に止められた。
え? シロくんは、私の前にロッドを突き出してた。制止する様に。飛翠は、私の肩を掴んでた。
私は彼等に止められてゼクセンさんを見たんだ。黄金の光を放つ槍が、身体のアチコチに突き刺さって苦しそうに呻き声を出してるけど、さっきも見た黒い靄みたいなのが、どんどん大きくなって、ゼクセンさんの身体よりも大きく膨らんでいった。
「なんなのっ!? アレ!!」
私が叫ぶとネフェルさんは言った。金色の光に包まれる神導書を前にして。
「アレがゼクセン殿を苦しめていた“呪術”です!!」
「えっ!?」
私が聞くとネフェルさんは言った。
「僕はそれを今、ゼクセン殿の身体から“実体化”させたんです、いいですか? これからこの力を解放します。つまり……出て来ます。」
(は??)
「出て来ます?? 何がっ!?」
「だから、呪術の実体化だって言ーてんだろが。バカ女。」
飛翠に溜息混じりでツッこまれた。でも、シロくんが私の隣で言った。
「ゼクセン様の心に閉じ込められていた“悪意”、“憎悪”、“殺意”、“邪心”、それらを謂わば……煽る者です。解りやすく言うと。呪術は恐ろしい術と聞いてます。生命体の“光”を奪い“闇”に変える……、ゼクセン様の力そのものを奪い抑えつけその代わりに“闇”に染めるんです。」
「は? え?」
私は疑問符しか脳内に並んでなかった。でも、シロくんは蒼いロッドを握ってゼクセンさんを睨みつけていた。
「ゼクセン様はあれだけ大きな“闇の力”を抑えて来たんです、自身で。でも……きっともう……ムリでしょう。アレは余りにも……。自身でも耐えきれず……何処かにその力を分散させて減らすしかなかった。」
「ちょ……ちょっと待って? 話がムズくなってきた! 何? 陰陽師の世界っ!?」
私がむっちゃ混乱してるとクールフェイスが喋った。
「シロ……イフリート、リヴァイアサンか?」
「はい、彼等の生命体に分散させたんだと思います、“支配者”はこの世界の源力ですが、ゼクセン様にとっては……いえ、“アズール魔導館”にとっては“共有する力”です。アズール魔導館は魔力の塊、支配者の力は魔力を産み出す“基盤”です。」
(だめだ……解かんなくなってきた……。何を言ってんの? シロくんと飛翠は。)
私はもう2人を眺めてるしかなかった。
「なる、どっちも居ねぇと困る存在。」
「なぁんでお前はいっつも理解出来んのっ!?」
飛翠がさらっと言ったので、ちょっとむっとした。や? とってもムッとした。けど、飛翠はさらりと言った。
「あ? 共存者だっつーハナシ。」
「??」
「何と誰が?」
私が聞くとブチィっと、彼の血管がブチ切れた様な音がした気がした。
「まじ……犯してーわ、お前。」
「はっ?? 貞操狙いやめぇいっ!!」
あ〜……と、シロくんから話を中断する様なサイレンみたいな声が聞こえた。
「蒼華姉様、あの黒い塊みたいのを倒さないと、イフリート、リヴァイアサンは助けられないって事です。」
「え!?」
私はさっきよりも大きくなってる黒い靄が、黒い塊になってるのを見た。もう、ゼクセンさんの身体なんか潰してしまいそうなぐらい大きい。
「よーは、お前が“紅炎の魔法”、“水流の魔法”を使える様になるには、アイツをブチ殺すしかねぇってハナシだ。」
飛翠がそう言った。
「あ。そゆこと。今のは解りやすかった。うん。」
「「阿保過ぎる。」」
「えっ!?」
飛翠だけじゃなく、シロくんにまでツっこまれた。溜息までつかれた。
黄金の光に包まれるネフェルさんは、ぱらぱら捲られる神導書を前に、叫んだ。
「“解放”!!」
ネフェルさんの声と、同時に金色の光が黒い塊、ゼクセンさんを包んだ。それは炎になったんだ。焼かれる様に2つの生命体は包まれた。
「うぎゃぁぁっ!!」
「ウォォォォッ!!」
悲鳴みたいなゼクセンさんの声と、化物の不気味な雄叫びが同時に聞こえた。苦しむゼクセンさんの声と、まるで生命の解放を喜んでる様な化物の雄叫び……、私はその声の前で何だか怖くなって、ロッドを強く握った。
「構えて! 蒼華ちゃん!」
ネフェルさんの声が聞こえた。私はその声にロッドを、ゼクセンさんと黒い塊に向けた。
増大した黒い塊は金色の炎が消えてゆくのと同時に姿を変えてゆく……。半壊してる月読の塔より背丈が大きな魔物みたいな奴……、浮いてるけど明らかに私達よりもデカい。
黒いロープは裾がボロボロで、大きな銀色の鎌を右手に持った白い骸骨。そう、コレは……“死神”に似てる。手は骸骨の骨だ。
「死神だよねっ!? アレは死神ですよねっ!?」
私が叫ぶとネフェルさんが答えた。
「呪術の実体……“闇の魔導士”です。」




