第20話 月読の塔▷▷生贄
「“救世主”、お前に“呼応”したのはゼクセン殿に頼まれたからではない。」
え? 大地の暴君が私を振り返って言った。虎柄の腰巻き巻いたどデカイ茶色の筋肉ムッキムキ鬼だ。彼は私を見つめて言った。
「ゼクセン殿は“呪術”を掛けられておる、それは“イレーネ王”が掛けたモノだ、あの者は“闇魔石”を取り込み真っ先にやったのが“闇魔術”の取得、闇魔術には他者を“傀儡、呪縛”するものがある、それは身体ではなく“精神”を囚えるものだ。」
タイラントの声に私の横でバッサバッサと、碧の大きな羽を羽ばたかせる碧風の女帝が言った。
「そう、“他人の魂”までも喰い殺す力だ、イレーネ王は“呪術”を放ちゼクセン殿をこの世界の“生贄”にした、でも彼は逃げたの。どうにか。持てる力全てを使って……。」
あ。と、私は思った。
「それが……私達の世界?」
それに答えたのは雪氷の身体をした大きな獅子……樹氷の獅子だった。
「何をどう聞いてるか解らぬが、我等が聴いたのは“この世界の救世主を連れて来る、優しくも厳しく指導せよ”の言葉。だから、お前を受入れた。」
ライムスは、雪氷の獅子の頭を向ける、鋭く強い眼差しで見つめた。
「聞いておるかも知れぬが、ゼクセン殿は知っておったのだ、お前らがこの地に来れば“自分の生命”は絶たれると。だが、それをしなければどうせ死ぬ、イレーネの放った“呪術”で。更に、イレーネは脅しを掛けていたからな、つまり、ゼクセン殿は”生命の選択肢“を剥奪された、この世界の“生贄”だった。だから、お前らをこの地に呼び“イレーネ王”を倒す存在にするしかなかったんだ。」
私はそれを聞いて
「ちょっと待って! 何か色んな情報いっぱいで何が真実なのか解らないっ!!」
そう叫んだ。けれども、彼らは私を真剣な眼差しで見つめた。そして、タイラントが言ったんだ。
「ゼクセン殿の”呪い“を抑えてたのは……お前らへの想い、今はそれどころじゃなくなった。だから、ゼクセン殿の力が効かなくなってんだ。」
はっ。と、なった。
「え? どーゆうこと??」
私が聞くと、隣にいるアトモーネスが少し悲しそうな顔をした。
「お前らの武器、そして“闇の力"を吸ってしまったイフリートとリヴァイアサンだ、ゼクセン殿は今……“苦境の地"なのだ。救世主。」
アトモーネスが私を強く見据えた。私は聴いた。
「闇の力?」
そう聞くとアトモーネスは私の頭にその長い嘴を乗せた。
「イフリート、リヴァイアサンは“死んだ”のではない、そなたが未熟故、ゼクセン殿が彼等を閉じ込めたのだ。」
私はそれを聞いて、真っ黒な身体をしてるイフリートとリヴァイアサンを見つめた。えっ!
「未熟っ!?」
アトモーネスは私を見つめる。
「本来、召喚士と言うのは“召喚”した者が死なぬ様に“再還”と言う術を使うのだ、それは殺されない為の奪還術。それをそなたは知らぬ、だからゼクセン殿が使った。」
「リプレイ? 奪還??」
私がきょとん。としてると、アトモーネスは更に言った。
「そうだよ、私達も生命在るのもだからな、だが、それも結局はゼクセン殿の力。つまり……今、彼の力は殆ど使えぬ状態、解るか? 救世主。」
アトモーネスは私を真っ直ぐと見ていた。
(し……知らなかったで済まされることなの!? コレ!? つか……)
私はアトモーネスに言った。
「な……なんでそーゆうの教えてくんないのかなっ!? 大事なことでしょーよ!」
いや、怒鳴ってた。けれども、アトモーネスもライムスも、タイラントもとても悲しそうな顔をしていた。そこに、シーラさんが言った。
「だから言ってんだろ? “呪い”。」
え!? 私はシーラさんを見た。けれど、彼は振り返ることなく言った。
「“闇魔術”ってのは“恐怖の支配術”って言われてる、ほぼ“支配”が名目の術ばかりだ、あのじーさんは、“闇魔石”宿した狂った人間に“支配”されてたんだよ、中立ってのはよーは“光と闇の間”、あのじーさんは闇に引き込まれた、“ティア”の所為で。」
シーラさんの言葉に私は飛翠の腕を掴んだ。
「え?」
聞き返すと、シーラさんは言った。
「弱さに負けたじーさんは、尽くイレーネに支配された、その次に待ってたのは“制御”、つまりじーさんの力そのものをイレーネが管理、監視すること。それは、“魔力”だけじゃねー、じーさんの“言動”そのもの。お前らに“曖昧な事”しか言えなかったのは、力を使ったり核心ついた事を言えば“監視者”達から殺されるから。」
「か……監視者っ!? 何それっ!?」
私が聞くと、ライムスが言った。
「ゼクセン殿の動向を監視する者だ、だから……あの方は我等に救いを求めた。」
そう言うとタイラントが言った。
「カーミラ。」
え? 私は聞き返した。タイラントが私を見る。
「あの者は“監視者”の1人……、ゼクセン殿とお前を見張る為に居た者。」
「え? それって……イレーネに頼まれて?」
私が言うとシーラさんが怒鳴った。
「違う! 確かにイレーネが“依頼”した、が、違う……、“監視者”を司るヤツは“闇皇帝ルシエド”。この世界を混沌と暗黒に包もうとしてる根源だ。」
シーラさんの言葉に私は……頭がまわらない。
「救世主、お前が思ってるよりもこの世界はもう動き出している、知らぬでは済まされぬ事態だ。」
アトモーネスは私にそう言った。
「え? や? 待って! 何? なんなの!?」
私が言うとライムスが言った。
「だから! お主はこの世界の“救世主”! “聖魔石の継承者”なのだっ!」
え!? 私は……目がテンだった。




