第16話 道標 ―墓地― Ⅱ
2つ目の道標であるスケルトンの大群が待つ墓地を目指す途中――不運にもフロータイボールと出会ってしまった。
致命傷を受け、しばらく傷を癒す為に比較的に安全区域であるマンドレイク群生地にて療養中。
――あれからどれくらいの日数が経過したのだろうか。
睡眠……というよりは気絶に近い。目を覚ましたかと思えばまた気絶を繰り返していた。それ故に時間経過の感覚がほとんどない状態である。正直よくそんな無防備でありながら他のモンスターから襲われなかったのは奇跡と言える……不運なのか幸運なのか判断しかねる。ともあれ、おかけでゆっくり休むことができたのは間違ない。
それにしても空腹感……いや胃が無いのだからそれはないはずなんだけども。なんと言おうか、腹が減ったと全身から感じる。さすがにこの身体においても傷を癒すとなると体力を消耗するのか。スライム体が栄養素を求めているが、この場所に食料となるモノはない。まぁマンドレイクがいるのだけれども、なんか食べたくない。選り好みをしている場合ではないと頭では理解っているのだが、食欲が湧かない。これは本能でマンドレイクは栄養素が足りないと判断しているのかもしれんなぁ。
確かにマンドレイクと言えば、様々な魔法を実行する触媒や魔法薬、錬金術の原材料とされ媚薬や不老不死の薬の元になるとも言われている。RPGで例えるならば体力回復ではなく魔力回復に用いるアイテムではなかろうか。そうなると今の俺には不要と言える、まぁこの場を借りたという恩義が少なからずあるのでここは食べないでおくのが人情ってもんだよね。
――というわけで他の食料を探すことに。
しかし意気揚々と探索に出かけたのは良いのだが、この迷宮区ってモンスターが極端に少ないのよね。G系モンスターすら見かけないような場所である。これまで出会った中で食料になりそうなのは……マンドレイクとフングスとフロータイボールだろうか。全部、却下である!
マンドレイクには恩義がある、フングスはきっと猛毒がある、フロータイボールは怨敵であるというよりは勝てる気がしない。以上のことからこれらのモンスターを食すのは却下であるのは明白。
と言うものの『背に腹は代えられない』という偉大な言葉がある。切羽詰まった状態である為、いざとなればフングスを食すことにしよう。仮に猛毒を有していようともこのゼラチナス・キューブの身体であれば耐えられる……はず。
しばらく探索をしていると “カシャカシャ” と前方から奇妙な音が聞こえてくる。金属が擦れ合う音のようでもあり、木みたいに軽い物同士がぶつかる音のようでもある。この音には聞き覚えがある、スケルトンのお出ましのようである。
音から察するにどうやら一体だけのようだ。ひとまず安心していいだろう。一体だけならば戦闘したとしてもなんとか勝てる。以前に出会った際には襲ってくることはなかったが、今回はどうだろうか。前回襲われなかったからといって今回も同じとは限らない。ここは生存競争が常に行われるオリティエ大墳墓なのだから。それに状況も異なっている。
以前はマンドレイク達が一緒にいたが今ここにはいない、この状況の変化がスケルトンにどの様な変化が生じるか予想ができない。そうあの時はマンドレイクの様子を確認しに来ただけなのかもしれない。スケルトンに思考能力は無いと言ってもいいだろう、その代わりに与えられた命令に従って動く。端的に言えば命令の範疇であれば攻撃を加えるかどうかの判断をすると言ったところだろうか。
前回の目的がマンドレイクの行動の確認であったとしたならば、ゼラチナス・キューブは範疇外と言えるからこそ戦闘には発展しなかったのでないか。
となるとこの邂逅は果たして――
――相手の音が段々と近づいてくる。暗闇から徐々にその姿が露になる……スケルトンである、がしかし以前のとは異なっていた。人骨から成るモンスターが有名であろう。しかしながら骨と一言で言っても多種多様なものが存在している。そう眼前に現れたスケルトンは四足獣なのである。
動物学者ではないうえにこの世界のモンスターに詳しいわけではないから、一体なんの獣なのかは判別がつかない。とは言え、これはこれで珍しい部類のモンスターであるのは違いない。
獣骨魔。
獣骨から成るモンスターである。人骨のスケルトンと大差はないと言っても過言ではないが、元が獣である為に爪や牙を有しているので殺傷力が高いことが唯一の違いと言える。
スケルトンと言えば人骨のモンスターと言える。それ故に獣骨のスケルトンは珍しい、ここで出会えるとはラッキーだと言える……と、そんな悠長にしている場合ではないかもしれん。
まずは観察し相手を知る必要がある、知らないことには対処のしようがない。四足獣なのは一目瞭然、しかし骨格だけを見て相手を知るのは限界があるなぁ。
例えば、トラとヒョウの骨格標本を並べてどちらか判別ができるだろうか。もちろん専門知識があれば話しは別なんだろうけども、俺には無理だ。それでも素人知識でわかる範囲はある。
犬科や猫科のようなありふれた四足獣ではないと判る、その理由は骨格が明らかにそれらとは異なるからだ。そもそもだ、この獣骨魔は熊などの大型動物ではない……と思う。
あれ? こいつの大きさってどの程度なんだ? そこがわからないことには獣骨魔の正体を探るのは無理なんじゃ。
俺自身の大きさは、かなり巨躯である。一番はじめに居た場所。あそこに居たミノタウロスは2~3mほどだった。そのミノタウロスが悠々と闊歩した通路、その通路を塞ぐほどの大きさが俺だ。そこから鑑みるに体長5m以上になるのか、思いのほか己が怪物であることを知ってしまった。
いや本当にそんな大きさもあるか? これまで窮屈な場所も通ってきたよな……俺もしかして縮んでる⁉
もし俺が5m以上だとしたら目の前の獣骨魔はミノタウロスと同等の大きさになるが、さすがにそこまでの体長だとは思えない。
――などと思考をめぐらせていたら、いつの間にか獣骨魔は姿を消していた。
助かったのだが……己の体長が変化していたことに驚愕である。
先程の獣骨魔が熊くらいだとしたら同じくらいかな? それか少し小さいくらいか、おおよそ1~2mと仮定しておこう。
そういえばよくよく思い出してみれば、人骨のスケルトンを見て小さいと感じなかったなぁ。まぁアレが巨人族などの骨格から成るスケルトンであったなら話しは別なんだが、そんなことはないとひしひしと感じる。この迷宮から考えると大型魔物は生息していないと思える。だからさほど大きくはないと判断できる。
うう~ん、やっぱり俺ってば縮んでいるよなぁ。何気にここまで過酷な道程だだし、身体を切り裂かれたりもしたしなぁ……今に至っては栄養不足でもある。
まっいいか! このくらいのサイズのが何かと利便性がありそうだしな‼
それにしてもあの獣骨はなんだったんだろうか。
いやまぁモンスターだとしたら判別は不可能かもしれんが、なんか地球の生物に感じる。というよりは見えるというのが正確かもしれん。
長い爪を持つ独特な前肢はアリクイやセンザンコウを彷彿とさせる。しかし頭部に関しては、肉食獣のようである。犬……というよりは猫に近いように見えた。その骨格に肉付けした姿を想像するとカワウソが一番似ているように思える。
うろ覚えだけども確か未確認生物にそんなのがいた気がする。
名前は――
ドアル・クー。
半犬半魚であるとされウナギのような生物という報告やイタチやカワウソに似ているという報告がある全長2mほどの未確認生物を指す。
――忘れてしまった。
地球では幻想生物だったがこの異世界では確かにそのモンスターが存在している、ならば未確認生物が生息していてもなんら不思議はないのだろう。
そのせいか既視感や親近感を覚えるのは、未確認とはいえ同じ地球の生物同士なのだから。
さて、本来の目的に戻らなければ。とにかく栄養補給するためのモンスターを見つけねばならんな。かと言って、あまり安全区域から離れると後々厄介になってしまうだろうしなぁ。
ただあの獣骨魔がいるということは、生きている個体がいる可能性があるってことだよな。あくまでもスケルトンは骸骨に魔法や悪霊の憑依によって擬似生命を与えられたモンスターなのだからその元となる生物がいるのは必然。
そいつを探してみるか、正体も気になるしね。
――――結果、2匹ほど例の未確認生物を捕食することに成功した。
その際に助かったのは2匹同時に戦闘にならなかったことだ。やはりこの場所は生物が少ない、1匹づつ出会ったのがその証明と言える。
そしてやはり予想通りにイタチやカワウソを大きくしたような獣だった。その実G系モンスターだったのかもしれない。ゲームのRPGには出てこないモンスター、それが生息していたとしてもなんら不思議ではないはずだ。
戦闘に発展したが難なく倒すことはできた、しかし意外と獰猛で驚いた。
ひとまず栄養を得ることができた。ここは一旦あの安全区域であるマンドレイク畑に戻るとしよう。
さて、今回のことでスケルトンがわりと安全かもしれない可能性が出てきた。二回とも戦闘にはならなかった、これはミノタウロス同様に敵対判定からゼラチナス・キューブは外れていると思える。
ならば目的地の墓地は安全に通り過ぎることができるかもしれない…………。




