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第1話 異形のドラゴン現る

初の連載作品です。更新頻度は低いと思います、なので気長に待って頂けると助かります。

本当はいつものように一話完結の短編にしようと思ったのですが思いの外、気に入ったので連載にしました。

モンスター好きには、堪らないような物語になるよう頑張って連載していこうと思ってます。

 以前はありふれたサラリーマンをしていたが、今の仕事は清掃業をしている。通路に落ちているもの全てを余すことなく掃除するのが、俺の仕事である。この仕事を始めてから既に数カ月が経過していた。始めた頃は、そりゃあ苦労の連続だった。

 なんたって、今の俺は――ゼラチナス・キューブなのだから。


 ――ことの始まりは、よく覚えていない。

 いつもと同じように普通に出勤した。そして、普通に電車に乗った……いや、乗ろうとしたところまでは覚えている。ドアが開き満員電車の車内に入ろうとした際に、当然全身に強烈な激痛が走ったと思ったら目の前が暗くなった。

 そして目を覚ましたら、ゼラチナス・キューブになっていたわけだ。


 最初は自分になにが起きたのか全く理解できなかった。それも当然だろう、なにせ身体の自由が利かないのだから。手足なんてないからな、ただ目や耳は無いはずなのにちゃんと認識しているのは未だに理解できないが。自分の身体だと言うのに確かめることも出来なかった。

 歩こうと思ったが、上手く歩けなかった。どうにも身体を動かそうとすると窮屈で圧迫感を覚えていたからだ。まったく動けないわけじゃないが、一応移動は出来たのでとにかく現状を確認する為に動き始める。

 まずは自分が今居る場所を知る為に、改めて周りを見てみる……と言っても後ろを振り向くことが、なぜかできない。前方のみだが注視してみると、どうやら通路に立っているようだった。石造りの通路で城か遺跡の通路を思い出した。言うなれば、RPGのダンジョンの様相をしていた。


 しばらく、移動し続けると前方に人影を発見する。複数人いるようだ、よかったここがどこなのか聞けると思った。しかし、だんだんと近づくとその人達が()()ではないことに気付いた。

 なんと牛頭人身のミノタウロスだった。マジかよ……どう見ても作り物じゃないよな、本物のミノタウロスだよな。驚き、そして恐る恐るミノタウロス達へと近づく。

 すると彼らが俺に気付き、なにやらぶつくさ言いながら去って行った。その際に彼らをこう言っていた――


『ゼラチナス・キューブだ』

『チッ、邪魔くせーな』

『仕方ねぇよ、他へ行こうぜ』


 そんな会話をしていた。しかし、彼らの言葉から俺はようやく自分がゼラチナス・キューブになっていることに気付いた。明らかに俺を見ながら彼らミノタウロスは『ゼラチナス・キューブだ』と言っていたから。

 よく分からないけど、あの電車に乗った瞬間に俺は死にゼラチナス・キューブに転生したみたいだ。

 ネット小説なんかで見かける異世界転生ってやつを知らず知らずのうちにしていたのだと、この時に気付いた。


 ――そして、現在に至る。

 しかし、まさかゼラチナス・キューブに転生するとは夢にも思わなかった。


 ゼラチナス・キューブ――地下ダンジョンや迷宮ダンジョンに特化し進化したスライムの亜種である。彼らはその通路をすっぽり塞ぐ四角い形状で内部を震えながら移動し、腐肉、ゴミ、草木、生きている者まで何でも取り込み吸収することのみに生きている。別名ダンジョンの掃除屋とも呼ばれている。


 前世ではRPGは好きだし、ハイファンタジー作品も好きだったので自分がどういったモンスターに転生したのか即座に理解した。

 そういえば、スライムに転生するアニメがあったような……けど、あちらさんはすぐさま人間になった。羨ましいかぎりだ、こちとら一生涯スライムの亜種ですよ。アニメはいいよなぁ、人間になれてさぁ……現実にはそんなことないからなぁ。


 それでも今はゼラチナス・キューブに転生して良かったと心底思っている。このダンジョン内を徘徊したが、ここには多種多様なモンスターが数多く生息していることがわかった。それは日々弱肉強食の生存競争が行われていることを指す。

 RPGだと次の町に移動したいけどすぐに敵モンスターとエンカウントしてしまう為、回復薬か回復魔法が必須というくらいに多い。

 しかし、俺ことゼラチナス・キューブはダンジョンの掃除屋として認識されているらしく、襲われることがない。最初に出会ったミノタウロス達がそうであったように。

 これが別のモンスターだった場合、俺もあの苛辣(からつ)極まる生存競争の渦中に放り込まれていたと考えただけで、“ゾッ” とする。


 そんなわけで、ダンジョンの掃除屋として勤しむことにした。

 スライムだけあって体内器官などを無いため空腹感などは感じないのだが、体内が空だとなにかを取り込みたい気持ちにさせられる。言うなれば、口元が寂しくてタバコや飴などを口にする感覚に近いかもしれない。

 それと、このダンジョンを知りたいというのもあった。この数カ月徘徊し続けたが、その全容がまったく掴めない。とにかく広い……自分の身体がどれほどの大きさかいまいち把握できてないが、体感としては東京23区ほどは移動してきたと思う。それでもこのダンジョンの()()に過ぎない。

 しかしながら、ただ徘徊するのはつまらなかった。その内、モンスターを観察するのが趣味となっていた。これが意外と面白かったりする。

 まずここはダンジョンである。それは言葉を解するモンスターの会話から間違いない。しかし、なぜか森林地帯、水辺地帯、岩石地帯……等々、多岐にわたって存在している。どうやら最初にいた石造りの通路は、まさに通路だったようだ。他のエリアとを繋ぐ為に作られた道として、それはつまりこの広大なダンジョンを誰かが人工的に作ったことになる。何のために作られたのか気になるところ、いずれその謎を解明したいとも思っている。その為にも、くまなく徘徊して掃除をしようと思っている。


 そんな場所なもんだから、様々な生物が生息していて見ていて飽きない。

 今居る場所はミノタウロスの縄張りらしい、徘徊しているとよく彼らを見かけるからだ。最初に出会ったのも彼らで、周りも石造りの通路だった為に名工ダイダロスが造り上げた迷宮かと思ったが、違うみたいだ。少しばかり残念と感じた。

 牛頭人身であるにも関わらずに彼らミノタウロスは肉食だ。これは前世に読んだ本に記載されていた内容と同じで嬉しかった。その食糧はこのダンジョン内の他のモンスターである。

 これがまた凄い、このダンジョンは日々弱肉強食が平然と行われている。彼らミノタウロスは強いうえに知恵もある、だから狩る側にいる。主食にしているのは、グリフォン、ヒポグリフ、キマイラのようだった。ミノタウロス達がそれらを狩猟している姿を何度か見かけたことがあるし、その食べ終わった骨などを俺の体内へと放り込まれたこともる。ここは混成生物が多く生息している地帯なのかな? なんてことを思った。

 しかしこの場において最強とも言えるミノタウロス達だけど、彼らが狩られる側になることが時たまあるようだった。一度だけ、その光景を目撃したことがある。


 おそらくミノタウロス達はいつもの変わらない狩りをしていいたのだろう、相手はキマイラだった。ライオンの胴体を持ち、その尾は蛇そのもの、そしてライオンの頭に山羊の頭が二つある。そんな姿をしたキマイラだった。ある程度の個体差があるようで、微妙に異なるキマイラもいるようだった。

 このような姿が標準とも言える、前世でのRPGでもこの姿で描かることが多い。しかし、キマイラを人工的に生み出された複合生物として扱われることが多い。実のところキマイラはそんな生易しい生物ではない。

 ()の有名な “テュポーン” と “エキドナ” の間に生まれたとされている。つまり、人工生物ではなく神聖生物だったりする。

 そして、それはミノタウロスも同じだったりする。海神ポセイドンの持つ “白い雄牛” と “パシパエー王妃” との間に生まれた不義の子だ。

 どちらも神聖にして複合生物……これほど、ハイファンタジー好きの俺にとって心躍る死闘は滅多に見れるもんじゃない。そう思って、俺はその戦いを食い入るように見ていた。


 正確な大きさは判らないけど、見た感じミノタウロスは2~3mくらいだと思う。対するキマイラの体長は4~6mくらいかな? ミノタウロス一人なら背中に乗れそうだしな。

 5体のミノタウロスと1匹のキマイラが戦っている。それを少し離れた場所から観戦している。

 やはり半人であるミノタウロスの方が知恵があり、複数人の連携で巧みな戦いをしている。キマイラは野生動物のように本能だけで戦っているようだ。それでも、あの凶暴で知られたミノタウロスを5体とまともに戦えるのは凄いな。

 ミノタウロスは各々武器を使って戦っている。両刃の剣……アレ人間じゃ、大剣サイズだよなぁ、それもRPGみたいな作品でキャラが持ってるイメージのやつだ。あれはメイスかな? お次も剣だけど、最初のと違う形の剣だ。見た感じはファルシオンに似ている。片刃で身幅が広く、刃の部分は緩やかな弧を描いている……もしかしたら、ミノタウロスとっては鉈みたいなもんかな。それが二人。

 そして、やっぱりミノタウロスと言えば戦斧だよねぇ。これ持ってないとミノタウロスとは言えないと思うんだよねぇ、俺個人としては。


 それにしても、キマイラもやりおる。5体に囲まれているにも関わらず、あまり攻撃を喰らっていない。やっぱり頭が3つもあると視野も多いし、脳も3つなのかな? だからかなり戦術的に不利にならずにいるのかもしれないな。キマイラって実は頭が良い? うお⁉ あのキマイラの山羊が火吹いたよ。

 その火の息吹によって、1体のミノタウロスが火だるまにされる。そのミノタウロスは地面を何度も “ゴロゴロ” と転げ回っている。悶絶してなのか、それとも火を消す為なのか……それよりも仲間たちよ、戦ってないで助けてやれよ。

 あっその火だるま君が高く跳び上がったキマイラに踏まれ、痙攣し始めた。あーあ、ありゃ内臓全部やられたな。火だるま君、死亡確定だな。


 ミノタウロス達とキマイラとの激しい一進一退の攻防がしばらく続いた。手に汗握るとはまさにこのことだと思った……手はないし、汗も出ないけど。一体、どちらが勝つかも判らない――いや、どちらが勝ってもおかしくない戦況だ。

 けれど、その戦いは唐突に終わりを迎えた。 “ソイツ” は突如として乱入し、ミノタウロスの1体を軽々と噛み砕いた。

 その姿は、ライオンの頭に、熊のような脚が6()()生えている。蛇のように長い尾、最も特徴的なのが、太い棘がいくつも生えた甲羅を背負っている。

 ソイツの名は――タラスクス。こいつもまたキマイラのように複合生物に見えるが、実はドラゴンだったりする。RPGでもほぼ登場することはないような異形のドラゴンである。まさか、そんなレアモンスターと会えるとは思ってなかった。このダンジョン侮れねーな、今後も期待しちまうぜ。


 タラスクス……デカイなぁ。あのミノタウロスを軽々と口に咥えられるんだもんなぁ、15~20mはあるんじゃないか。タラスクスが登場してからは、一方的な虐殺だった。残ったミノタウロスとキマイラが共闘する形でタラスクスに挑むが、ダメージを負う様子がない。

 そして全てのミノタウロスとキマイラを難なく殺し、タラスクスは悠々と食事にありついた。

今回はメジャーとマイナーなモンスターが登場しました。しかし共通点は、複合生物の姿をしたモンスターです。

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