空気だから気にしないでと言われても
元妹さんであり、現彼女であるゆかりなさんはとてもちっさい女子だ。デートの時に、何度か高い高い~……ではなく、抱っこをしたことがあるくらい軽くて柔らかくてとても可愛い。
そんな彼女がまさに俺と椎奈さんの近くに潜んでいるようだけど、場所の特定が出来ない。でも明らかにこの視線は彼女からのものだ。ゆかりなさんを探すことが出来ないのがもどかしい。そう思っていたのに、さすが姉? なのか、彼女はあっさりと見つけられていた。
「ゆかりん、かくれんぼ?」
「ち、違うし」
「高久お兄さん、ゆかりんはここ。こっち来て」
「う、うん」
バーゲンセールに夢中だった椎奈さんなのに、ゆかりなさんの気配はすぐに察知出来るのかすぐに妹の傍に近づいていた。言われたところに近づくと、確かにゆかりなさんの小さな体がそこにあった。
「ゆかりなさん、なに……してるの?」
「高久くんこそ何をしているのかな? わたしよりもしいちゃんを優先とか、偉くなったよね」
「え、えと……いや、ほら! しいちゃんは俺の妹さんだから。妹さんの頼みは聞く必要がありまして……」
「わたしも妹だし。それとも彼女兼将来の嫁に格上げしたから、わたしは妹ではないとでも言うのかな? 一言言ってくれればいいのに、どうして隠れてコソコソしているのか聞かせてもらおうかな」
まさにパパさんの言った通りの恐れていた展開突入なんですが、妹さんとデートだなんて言ったら、ますますゆかりなさんは俺に厳しくなるんじゃ?
「……ゆかりん、お兄さんとわたしはデート。ゆかりんも合流?」
「わーわーわー!」
「へぇー? しいちゃんとデートなんだー? それはそれは、お兄さん冥利に尽きるよね。やっぱりキミは彼女よりも妹さんの方が大好きなのかな。そういうことならわたしも彼女じゃなくて、妹に戻ろっかな? それも本当の兄妹にさ~」
「いやいやいやー! それは許しませんよ? ゆかりなさんは俺の嫁……になるって決めてるんだからね? だからあの、何と言いますか、妹ではあかんのです。それに、彼女さんなのにどうして気安く声をかけて来ないで隠れていたの?」
「わたし、空気だから」
「へっ?」
「あるのが当たり前だし、いるのも当たり前なの。分かる?」
「ゆかりんは空気? うん、必要。お兄さんにも必要?」
いつかどこかで聞いたようなことがあるけど、空気って……いや、言いたいことは何となく分かるけど。
「そ、それならなおさら必要だよ。ゆかりなさんは俺にとって空気以上の存在なんだよ? だからですね、その……ご、ごめんなさぁい! 決してこれは浮気とかではなくてですね、妹さんとデートをするのも兄としての務めと言いますか、パパさんの差し金と言いますか……そういうわけでして、ゆかりなさんに隠すつもりは無かったんです。どうかどうか~」
「あはっ、何を謝っているのかな? 怒ってもいないのにさ。いいじゃん? しいちゃんとデート楽しみなよ? わたし、全然気にしてないし。何度もゆってるけど、高久くんはもっと成長すべきなんだ。その為にはわたしが近くにいたとしても、さり気なく気付く程度でスルーしてくれればいいんだよ。それじゃあ尾行する意味なんてなくなくない?」
尾行する意味こそどこにあるのやら。成長を望むなら何も近くにいなくても……なんて思ってはいけない。
「とにかく、しいちゃんとデートを続けな! 分かった?」
「はいっ! 続けさせていただきます」
「ゆかりんは合流しない?」
「ん、ごめんねー? しいちゃんは、ヘタレなお兄さんと続けること! オーケー?」
「ん、ラジャー」
「――高久くん」
「はい!」
「せいぜい楽しんでね? 次は無いよ?」
「も、もちろんでございます」
「じゃあね」
「お、お気を付けて」
「ふん」
間違いなくふてくされておられる。やはり義理とはいえ、椎奈さんには敵対心むき出しすぎるだろ。ゆかりなさんを振り向かせる、いや、前よりも俺を気にさせるためにはやはり、成長を遂げて行かなければ駄目なのかもしれない。怒っていても可愛いのはどうすればいいんですかね。
「えっ? しいちゃん? あの、手……手を掴んでどうされる?」
「ゆかりんに見せつける?」
「いえいえいえ、触れなくてもいいからね?」
「そうなの?」
天然なのか? それとも天然小悪魔パート2ですか? どっちにしろ、妹さんとデートは戦々恐々すぎるんですが、俺はどうすれば正解するのでしょうか。