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ゆりな母さん、バイトを命じる


「さて、高久さん。久しぶりですね」

「そ、そうでしたっけ? お母さんとは時々会っていた気がしますよ」

「こうして親子、息子と母と二人だけで会って話すのが久しぶりという意味なのだけれど、しばらく見ない間に勉強もしなくなったのかな? 少なくとも、ゆかりなと出会う前はあなたの方が賢かったはずですよ?」

「は、はは……本当にどうしたんでしょうね」


 どこの拷問部屋に連れて行かれるかと思いきや、ゆりな母さんの部屋……というよりは会長室のような、そんなご立派過ぎる作りの部屋に案内された。


 いつもゆかりなさんとのことで説教をされまくりのゆりなさんは、真正面からじっくり眺めたことが無い。こうしてじっくり見てみると、大人なゆかりなさんっぽく感じて照れてしまう。


「どうかしたの? 私の顔に何か……あぁ、そういうこと。ふふ、タカキさんに似て可愛い息子なのね」

「い、いえ……ゆかりなさんが成長すれば、お母さんのようになるのかなと」

「そうね、娘は私にとてもよく似ているわけだし、きっとそうなるに違いないわね」


 澄ました顔つきでメガネなんかかけられたら仕事の出来る女性にしか見えないし、ゆかりなさんもお母さんのようになったら、夢中になりすぎるじゃないか。


「で、でも、あの……」

「あぁ、あの子が高久さんから距離を取っていること?」

「は、はい。お母さんにもお約束した通り、俺はゆかりなと結婚したいんです。それなのに……」


 そんな約束までしたし、料理の修行までしているのにどうしてこんなにこじれているのか。


「それについてだけれど、私は聞いてもいないし、あの子に指示を出したとかそんなことは一切無いわ。あなたのことを認めたのは確かなの。だから後は、高久さんがそれまでに成長を遂げてくれることを期待するだけ。あの子はあの子なりに成長するつもりがあるんじゃないかしらね」


 これは意外な答えだ。てっきり凶悪な母さん指示の下で、あんな訳の分からない行動に出ているのかと思っていたのに、まさかの独断。しかしゆかりなさんといい、母さんといい……成長願いすぎだ。


「……そんなに恐ろしく思われていたなんて、心外ね。一緒に暮らしていた時はそんなことは一言も言わなかったのに、ゆかりなのことが好きすぎるから?」

「えっ!? こ、心の中がダダ洩れでした?」

「血の繋がりなんて関係なく、息子の顔をよく見ていれば分かるものなの。とにかく、ゆかりなのことは今は我慢しなさい。あの子にも何かの考えがあってのはずだから。何度も言ってますけれど、高久さんは成長することを最優先にすべきね!」

「で、でも、運動とか勉強とは違いますよね?」

「あの子は他に何て?」


 マリカさんのことは認めないとか言っていたけど、他の女子を知れとか言っていた気がする。


「ほ、他の女子と付き合えと……でも俺はゆかりなさんが」

「そういうことなのね。だからあの子は彼と……うん、分かったわ。高久さん、あなたも彼女を作りなさい!」

「ええええー!? で、ででも、俺はゆかりなさんと結婚を決め――」

「落ち着いて聞きなさい! それはまだ先のこと。高久さんは、ゆかりなと付き合う前に誰かを好きになったことはあるのよね?」

「はぁ、まぁ……失恋なら」

「一緒にどこかへ行ったり、楽しいと思えるような女の子を探して恋仲になりなさい! そして相手を傷つけずにお別れをしたら、その時は晴れてあなたを認めるわ」


 何という試練! 恋仲になっても別れること前提とか、何てヒドイ。しかも傷つけずにって……。


「友達の垣根さんとそうなるはずでした。でも、ゆかりなは認めてくれなかったんですよ? それ以外に誰がいると……」

「垣根さん? 学校のお友達では駄目に決まっているでしょう! 全く、その辺りも成長を希望したくなるわね」


 学校の、しかも同じクラスになってなおかつ、パン仲間の彼女では駄目なのか。厳しい条件すぎる。


「あなた、高久さんは受験もしないし進学もしない。あの人の所で働くのでしょう?」

「はぁ、まぁ……一応そういうことになっていますけど」

「ふふ……その手があったわね」


 ゆりな母さんは妖しげに頷きながら、何かを企んでいるようだ。料理人のパパさんとは連絡を取っているらしいし、何かの提案でもするのだろうか。


「高久さん。あなた、しばらく他の場所でアルバイトをしなさい! そこで働いている女の子と恋仲になって、ゆかりなを悔しがらせてごらんなさい。そうすれば一つ目の試練は合格にしてあげるわ」

「へっ? バイトですか? しかもすでに働いている女の子を口説けと……そもそも簡単に受かるわけが……それこそオープン予定のコンビニでもない限り、簡単じゃないですよ?」


 思い出すのはゆかりなさんと一緒にコンビニバイトをしたことだ。試食品食べ放題によって、俺はかなりの増量キャンペーンを実施してしまったわけだが。


「それは心配ないわ。ゆかりなが仕事をしたことがあるカフェでもあるの。今では、ゆかりなだけがやめてあの子たちだけがしぶとく働いているようだし、丁度いいわ。あの子たちなら身分にしても、何にしても問題はない……」

「カフェというとメイド喫茶……」

「何を想像したのかは知らないけれど、きちんとした古風なカフェです。今回は特別に私が口利きをしてあげるから、高久さんはゆかりなに教えることなくバイトに励みなさい。きっと彼女たちは歓迎するわ」

「え、でも、そこで働いているってことは女子だけしか採用していないんじゃ?」

「そうね、だけれどそのカフェで働くことが出来るのは、令嬢だけと決まっているわ。だから高久さんだけ男性……店長もそうだけれど、彼女たちと仲良くしなさい。話は以上です」


 もはや反論させないと言わんばかりに、母さんは本物の黒服お姉さまたちに命じて、俺を強制退室させた。

 何とも意外な結末だったけど、お母さんなりに応援してくれたのかもしれない。


 いやいや、だとしてもカフェで働いている令嬢限定で、しかも付き合えとか……鬼だ。鬼すぎる。

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