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ご令嬢はすぐそこにおられた


 ゆかりなさんとお母さんが自宅にいてあれやこれやと言い訳をしつつ、長いことゆかりなさんに近付けることが無かった俺だったのに、部屋に閉じ込めてダイブしたら、花城の本拠地であるホテルに連行されているとは想像も予想も出来なかった。


「ううーん……くらくらするであります」


「……」


 俺の抵抗という名のアピールも黒服お姉さまには、全くの無意味で解決の糸口にはならないでいる。今いる部屋の中は、湧き出ている天然温泉があって、それはさながらゴージャスな(語彙力皆無)様相を呈している。

 そんなゴージャスな湯船に浸かっている……それだけでも素晴らしいことなのかもしれないと感じつつも、のぼせまくりで別な夢世界へ旅立ちそうだ。


「――こらっ、高久くん! 起きなよ! ねえってば」


 何やらもの凄く近い所から彼女の声と吐息を感じる。もしやのぼせまくりで意識を失って、夢の中へ突入したとでもいうのか。椎奈さんはゆかりなさんを呼びに行ったまま戻って来ないし、現状がどうなっているのかさっぱりだ。


「ゆかりん、やっぱり荒療治をした方がいいと思うわ。黒服とサングラスだけで、案外気づかれないのは良かったけれど、なすがままにされている彼もどうかと思うの」

「うん、そうする! ママも手伝って」


 耳元で聞こえて来るのは、いつものゆかりなさんと恐れ多いお母さんの厳しそうな声だ。夢の中なのか現実なのか判定出来ずにいた俺だったが、下半身が何やら氷漬けにされている感覚に陥っているではありませんか。


「ひえええええ!?」


「あっ、気付いたね?」

「ふぅ、ようやく正気に戻った? 我が息子ながら、相変わらずなのね」


 長いこと湯船に浸かってのぼせたかと思えば、今度は体が凍りそうになっていて、さすがに現実に起こっていることとして認識。すぐに目を大きく見開いた。


「ふぉっ!? ゆかりなさん……とお母さんですよね? なにゆえにそんなコスプレをされておいでで?」

「違うし! ずっと君の隣にくっついていたんだよ? 全然気づかないとか、愛が足りないよ?」

「高久さん、あなた運動を怠っているのね。反射神経も悪くなっているし、判断力も鈍っているじゃないの。また鍛えなければお母さん、許しませんよ!」

「と、隣にずっと……そしてその黒服……えっ? 湯船で俺の腕を、きっちりがっちりと掴んでいたお姉さまだったと?」


 過去に俺を掴んでいたのは、ゆかりなさんの護衛的なお姉さんだったと記憶していただけに、まさか本人とお母さんだとは思うはずもなく、黒服サングラスなお姉さまとしか思えなかった。


「何で気づかないかなぁ。そんなに強く腕を掴んでないのにさ」

「ふふ、ゆかりんはそうだろうけど、お母さんは逃がさないように掴んでいたわね」


 俺だけが海水パンツ装着な裸な上、黒服で無言なお姉さまを探していたゆかりなさんだと気づくはずもなく、まして腕を半端ない力で掴まれていては、確かめようも無かったわけで。


「あれ? じゃあ椎奈さんは?」

「しいちゃんなら、ママの代わりに見回りしているよ。しいちゃん、花城の跡取りだし」

「あ、そういえばそうだった」


 花城の令嬢であるゆかりなさんは、正真正銘跡取りである。お母さんの一人娘であるゆかりなさんだったわけだが、俺が彼女を奪ってしまったために、今は養女の椎奈さんが後を継いだ。

 それでもゆりなお母さんが財閥のトップであることに変わりはない。お母さんとの約束は、ゆかりなさんを奪う代わりに、確実に決意を固めて進みなさいということだった。


「それで、高久さん。どうしてあなたはゆかりんに襲い掛かったの?」

「へ? お、襲い? え、いつ……ですか?」

「何も覚えていないみたいだけど、自宅でゆかりんに覆いかぶさったまでは記憶にあるでしょ?」

「それは土下座が勢い余って、彼女の両足の間に飛び込んでしまっただけで……その後は真っ暗な空間に突入しただけですよ? ほ、本当ですよ?」


 俺の記憶を思い起こすと、部屋に閉じ込めたゆかりなさんにキスをするかと言われ、そんな手に乗ってたまるかと、スーパー土下座を繰り広げた。それが勢い余り過ぎて、彼女の下部に飛び込んでしまったまでは覚えている。


「……あなたはゆかりんに触れたかったの?」

「ふ、フレフレ……」

「高久くん、そうなの? だからキスしてもいいよって言ったのに、キスじゃなくて体の方だなんてそれは飛びすぎだぞ! そういうの、嫌じゃないけど駄目」


 どうやら近づいてはいけない領域に飛び込んでしまったらしい。もちろん部屋に閉じ込めたのは、それがしたいからじゃなく、ずっと彼女と離れ離れになっていたことの不満と、チヒロとのことを問いただすために他ならなかったのに、どうしてこうなった。


「はぁ……、高久さん。何となく分かったわ、まずは着替えてそれから私の部屋に来なさい。これからのことをお話しましょうか。ゆかりんはお友達に事情を話して来なさい」

「はい、ママ」


 まさかお母さんと二人きりに!? 嘘だろ、俺は単にゆかりなさんと仲直りをしたいだけだったのにまさかの説教部屋へご招待とか、悲しすぎるじゃないか。


「高久くん、キスはしばらくお預けって言ったよ? でも、わたしだって我慢してるんだからね? そこを考えて動きなよ。それと、まりかじゃなくてわたしの知らない女子となら仲良くしていいよ。友達は駄目! 分かった?」

「イ、イエス」

「よし! じゃあね高久くん! 頑張りたまえ!」


 どこの可愛い女子ですか! 結局チヒロのことを話してくれなかったが、俺に頑張れとおっしゃる俺のヨメさん(仮)は、更に可愛さを磨いておられるようだった。しかしまずは戦慄な説教部屋に行くとしよう。

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