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ゆかりなさんと過去編 

 

 あまりサトルの言うことを真に受けても仕方が無いと思いつつも、ゆかりなさんのことを話しているサトルは何だか嬉しそうに、そして得意げになっているのでそのままにしとくことにした。


「チヒロ、花城ってのは彼氏はいないのか?」

「いたことはないかな。何で?」

「だったら俺がなろうかと思ってるわけよ! 花城のことを紹介しようとしたのも、俺が彼氏にふさわしいって思ってくれたからだろ?」

「ポジティブだね。そういう意味じゃなかったんだけどね。その意気込みは買うけど、現状を理解している? 自己紹介の第一印象が最悪すぎて、寄り付きもしてないでしょ」

「心配ねえよ! ああいう強そうな子には、ぐいぐいと行けばいいってのが相場なんだよ。恋愛マスターのサトル様に任せておけ!」

「マスター? あれでそうだと自負してんなら、俺からは何も言えないよ」


 花城に一蹴された俺は、押して押しまくることにした。チヒロは元の性格が控えめだったらしく、俺が行くことを止めようともしなかった。俺に全てを任せるという意味だったに違いない。


「花城!」

「……は?」

「俺を覚えているだろ? 最初の頃に強烈な紹介をしたサトルだぜ?」

「誰ですか?」

「ツンツンしている花城も好みだ! 俺、お前のこと好きなんだ。付き合わねえ?」

「誰が?」

「だから俺と花城が!」

「俺さんについてですけれど、わたしは知らないので付き合うことは出来ないです」

「名前忘れちまったのか? 俺はサトル! 橘サトルだ。花城が人の名前を覚えられないって言うんなら、何度でも自己紹介をしてやるぜ! そうすればいつか覚えてくれるだろうし、印象にも残るだろ?」

「……分かりました。それでは橘サトルさん、今後一切わたしに近づかないでくれますか? そうしたら名前を覚えるかもしれないです。わたし、あなたみたいな人は好きになることはあり得ないので。それにもう……とにかく、近づいたら卒業する前にあらゆる方法であなたをどうにかします」


 何やら不穏な空気を察した俺は、この会話を最後に花城に近づくことは無かった。しかし続きはまだある。


「男女ペアになって、問題の答え合わせをしてもらうぞ」


 担任に従って、俺は運よく花城とペアになれた。ここからが意外だったが、素直に答え合わせをしてくれた花城は、会話をしてくれた。それもとびきりの笑顔でだ。


「へぇ、賢いんですね」

「だろ? 俺は努力の塊みたいな男だからな! 見直しただろ? だから良かったら、放課後にでも勉強を教えられるぜ?」

「……そうですね、勉強も必要ですよね。えーと、名前何でしたっけ?」

「俺はサトル。橘サトルだ」


 花城と放課後はいつも一緒にいた。他の奴からは付き合っているのか? とさえ言われていた。当然だな。勉強会とはいえ、あれだけ距離が近い所にいて、会話も弾んでいたし、何より教わっている時の笑顔は今まで一度も見せたことが無かった。


「えーと、大体範囲は理解出来ました。今までありがとうございました。今後は自分一人だけでやれるので、これで会うことはないでしょう」

「いやっ、待った! せっかくここまで近付けたんだ。このまま俺と付きあわないか?」

「……誰とですか?」

「俺と!」

「お名前なんでしたっけ?」




「とまぁ、こんな感じだ。花城は最後まで俺を呼ぶことは無かったが、しばらく一緒の時間を過ごしたし、付き合っているようなものだったわけだ!」

「サトルさん、それは完全に妄想の世界ですよね?」

「付き合っているって、ウワサを立てられていただけじゃないかー! 何だよもう。俺以上に妄想を爆発させて自慢するのはやめてよー」


 そこそこ自慢たっぷりに話していたサトルの過去話は全て、妄想によるものだった。これにはさすがにホッとしたような、肩の力が抜けたような……そんな感じだった。


「チヒロとゆかりなさんの関係は何だったの?」

「それですよ、サトルさんはチヒロさんとお友達だったんですよね? それなら分かるはずです」

「んあ? チヒロ? いや、俺は確かに友達だったが、そもそも花城に夢中だったからな。チヒロと花城がどんな関係だったのかとか、興味無かった」


 なんて役立たず……いや、骨折り損なのだろうか。付き合っていた事実は一切無く、たかが一緒に過ごした時間が他の人に比べて、多かっただけのことだった。


「よし、俺トイレ行って来るわ。高久、トイレ借りるぞ!」

「あ、うん。玄関に戻ってすぐのとこだから」

「おう」


 ゆかりなさんの中学時代を少しでも垣間見れたのは良かったような、物足りないような……どっちにしても、サトルの思い込みで良かった。

 肝心なのは、チヒロとの関係だった。これはもう本人に聞くしかないのかもしれない。


「高久さん、お茶のお代わりをもらっていいですか?」

「あ、そうだね。じゃあ……」

「いいですいいです、私が淹れてきます。高久さんはそこで座って待っててください」

「うん、ありがとう。マリカさん」


 気が利くいい子だ。何はともあれ、サトルとゆかりなさんについては何も無かった。何度か話をして来ているのに、名前を覚えられていないとか同情するかも。


「高久くん、いたの?」


 リビングでくつろいでいた俺は、誰かが玄関から入って来たことに気づかずにいた。声の主が彼女だったことも驚いた。


「ゆ、ゆかりなさん!? え、何で?」

「わたしの家に帰って来るのがそんなに悪いこと?」

「そ、そんなわけないだろ」

「……? 誰かいるの?」

「え、えーと……」

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