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MはMに惹かれる?


 陰キャなサナさんの近くに行けば付き合うことが確定してしまう。しかし断る為には近づかないと声が届かない……どうすればいいんだ。こんな時、誰かがいればと思っていてもサトルは役に立たず、まさに危機的状況であったりして。


「え、えーと、サナさんそこで待っててね」


「……返事を」


「デスヨネー」


 これはゆかりなさんのようにとりあえず、他の女の子と付き合って仲良くなって成長しろとの暗示なのか? しかしそんな簡単な返事をするわけには……あぁぁ、どうすれば。


「だーれだっ?」


 おっふ……なんてベタ、かつそんなことをする人がまだいたのか? なんて思っている余裕もなく、両目は誰かの手によって完全に塞がれている。大抵この手のことをするのは知り合いとか、女子がしてくると何かの本で読んだことがある。


「そんなことをしてくるのは前科がある君しかいないかな? まりかさんでしょ?」


「高久さんにはすぐ分かられちゃってるんだねー。相性がいいからなのかな? それだと嬉しいな」


 嬉しいとな? まりかさんもMなのですかい? 名前のイニシャルは確かにMだろうけど、わたくしめはゆかりなさん公認のMなんですよ? M同士の相性がいいなんてそれはアレだ。ディープインパクト!


「まりかさんがどうしてここに?」


「えぇ? 言ってませんでしたっけ? 私もパン仲間なんですよー」


 知ってた。そうだとしても、サトルと一緒にコンビニにいたんじゃなかったのか? それとも奴を放置して、俺の危機を察して来てくれたとでもいうのか? そんなうまい話があるわけが……。


「あの子のことで困っている……違います?」


「イ、イエス! え、何でそれを?」


「サトル君に聞きました。きっと困っているだろうから行ってやってくれって。棚の新作はこっちで何とか引き受けるからって」


「サトルが? 本当に俺のことを気にかけてた?」


 俺なら何とかなるなんて言いながらとっとと去ったアイツが俺を? いくら何でも嘘だろって思ってたのが通じたのか、まりかさんは口角を上げて笑い出した。


「ぷっ……ふふふっ、嘘です。高久さんは放っておいて、話をしようぜ! なんてことを言うものですから、彼に任せてここに来ました。これは本当ですよ?」


「オー! なんてエンジェル! ま、まりかさん、好きだー!」


「――えっ? ほ、本当ですか?」


「あ、いや、深い意味では無くて……」


「とりあえず、那月さんに声をかけてきますね。私も睨まれっぱなしでキツいので」


 まりかさんとのやり取りで気づかずにいたが、サナさんはずっと強い視線を浴びせて来ていた。その対象は俺にではなく、乱入した挙句に俺に触れて来たまりかさんにである。


 目隠しプレイは直に触れるだけに、サナさんには気が気じゃなかったということかもしれない。ただならぬ気配と関係だと感じているのか?


「高久さん、連れてきましたよ。しっかり話し合ってくださいね」


「へ? ちょっと、まりかさん? 連れてきたらダメだって! だって、サナさんは……」


「いえいえ、素直でしたよ。私、少し離れた所で見てますから、きちんと返事をして下さい」


「ハ、ハイ……」


 さすがゆかりなさんの友達だ。押しの強さは彼女と同等である。逆らってはいけない迫力がまりかさんには備わっている。つまりMは俺だけで、まりかさんは単にイニシャルMなだけだった。


「あ、あのー……サナさん、俺は君とは付き合えなくてですね……」


「葛城高久さんは、あの人と付き合っているから……ですか?」


 あの人? それはもちろん、ゆかりなさんのことだろう。今はその関係に自信が無いけど。


「そ、そうだね。それとフルネームはマジで勘弁を」


「葛城さん。彼女とはパンを知るうちに……?」


 パンを知るうちにって何だ? パン仲間では無いけど、コンビニバイトもそうだしイースト菌からだとすれば、ゆかりなさんとのパン歴はそれなりかも。


「そ、そうだね。だから、何て言うか……」


「本気でパンと向き合えば認めてくれますか?」


「本気で? い、いや、俺もそこまで本気かどうかは分からないんだけどね……サトルにどこまで認められているのか分からないし……で、でも、俺程度でよければ認めるよ」


「じゃあ、そうします。葛城さん、今後も傍にいていいですか?」


「いいよ――って、言ってる傍から陰に隠れようとするのはやめないの?」


 どうやらサナさんはたとえ恋人関係になったとしても、陰から見守りたいタイプなご様子。しかもその姿は徐々に離れていっている。もしや怒らせたのか?


「あぁー帰っちゃった。高久さん、あの子に何て返事を?」


「きちんと付き合っているって伝えたよ。だけど、今後も傍にいていいか聞かれて……いいよって答えましたよ?」


「ゆかりなと付き合っているって言いました?」


「ううん、あの人と付き合っている? って聞かれたから、そうだよって」


「はぁぁぁ……高久さん、あの人ってどの人のことか聞かずに答えたんですか?」


 おや? 何故に深すぎるため息をついているのだろうか。サナさんは俺がゆかりなと付き合っているのを、ずっとどこかで見続けていたんじゃないのかな。


「ゆかりなさんのことだと思ったよ? な、何かまずいかな?」


「あの子、きっと勘違いしています。高久さんと私が付き合っているのかを聞いてきましたから」


「ふぉっ!? な、何故にまりかさん? 一言も言ってないよ?」


「さっき去り際に私を見て頷いていましたから、きっとそうだと思います。それと、あの子はゆかりなと高久さんが付き合っていることを知りませんよ?」


 ナンダッテ? ずっと陰から見ていて分かっていたんじゃないのか? てっきりあの人=ゆかりなだとばかり思っていたのに。


「ど、どどど、どうすれば?」


「――高久さん」

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