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パン仲間に悪い人はいない説


「お前最近、やつれたか?」


「ほへ? そんなことないと思うけど……」


「花城とアイツのことだろ? 俺じゃダメであいつならいいとか、花城が何を考えているのかさっぱり分からねえよ。高久だから譲ったし、任せたってのに」


「譲るも何も、サトルはゆかりなさんに相手にされていなかっただろ? 中学の時の話を美談にしてもさー……」


 俺のダチにしてパン仲間幹部のサトルは、中学の時にゆかりなさんと付き合っただとかそうでないとか。ゆかりなさんと付き合うことに、随分とこだわっている奴だ。裏の顔も含めて、サトルの本性は未だに分からない。


「そんなんじゃねえよ。全く、意外過ぎる伏兵がいたもんだな。パン仲間の風上にもおけねえ……いや、もう仲間じゃなかったな。早くから受験戦争に参加して、パン仲間から脱退した奴だ」


「サトルはチヒロと仲良くなかったっけ?」


「そりゃあ仲間だった時はな。今はほとんど話をしてないから、関係無いな」


 パン仲間は少数精鋭で成り立っていて、かつてぼっちとしてパンをモソモソ食していた俺を、サトルを筆頭にチヒロや他の仲間によって、正式に仲間入りさせてくれた経緯がある。


「そ、そうなんだ。サトルならチヒロとゆかりなさんの関係を知っていると思ったけど、そっか……」


「そんなしょぼくれたツラすんなよ。週一恒例のパン巡りの日だぞ? 今日はあの子も来るし、俺とお前と女子たちでパン仲間をもっと増やして行こうぜ!」


「あの子って、まりかさんだろ? 会ったことがないどころか、目隠しをされた仲だったんだけど」


「お前もスミに置けねえよな。花城がいながら他の女子とも仲良くしてやがって! その子もそうだが、視線の先のあの子にも優しくしてやれよ? 新規パン仲間に悪い人はいないってことを気づかせてやれば、徐々に心を開いて、高久にも接近して来るだろ」


「視線の先の子?」


「何だ忘れたのか? そこにいるじゃないか!」


 コンビニに向かって歩いていた俺たちだったが、サトルが指した先を見ると、今まで気づきもしなかった電柱の陰に、誰かがすでにいたことに驚いた。見られていたことすら全然気づかなかった。


「じー……」


「まるでゆかりなさんみたいだ……」


「花城のソレとは違うと思うが……花城はひとまず置いといて、パンと仲間を大切にしろ! そんで、あの子を高久の魅力で非コミュから回復させてみろ。お前なら出来る! 俺は先にコンビニに行ってるから、頑張れ」


「え、ちょっと待って! 俺一人でどうしろと? だって、そもそも近づいて来ないよ?」


「お前なら出来る!」


 ゆかりなさんとの仲を回復させるわけではなく、何故か俺と他の女子とくっつけようとしているサトルは、何を考えているのかさっぱり分からない。自然消滅でも狙っているんじゃないのかと疑いそうになる。


「うーん……」


 熱烈な視線を確かに感じるものの、全く近づいて来ないのは何でなのか。本当に俺に好意を持っている子なのだろうか。


「あ、あのさ、キミもパンが好きならもっと仲良くなろうよ? 離れていたら寂しいってならないの?」


「佐那」


「あ、うん。サナさん」


「佐那に近づきたい……ですか?」


 どういう意味で聞いているのかが分からない。それでも物陰で黙って見られるよりは、近くで話が出来た方がいいわけで。ここは素直な気持ちを言葉に乗せて、伝えてみることにする。


「近くがいいかな」


「葛城高久さんがお望みなのであれば……離れることは……やめます」


「いや、フルネームじゃなくていいからね? 前も言ったけど」


 どう相手をすればいいのかさっぱり分からない女子だ。椎奈さんともまたちょっと異なる感じではあるし、天然なのか陰キャラなのか……それとも作られた性格なのかが分からない。


「いや、あの……極端だね」

「離れますか……?」

「ほ、ほんの少し離れてもらえると、誤解はされないかなぁと……」

「どのくらい離れますか?」

「か、体に触れない程度かな」


 物陰から見るだけで良かったらしいサナという女子は、近づくことを望んだだけなのに、強力接着剤なみに近づいて来た。これはさすがに恐怖を感じた。


「サナさん、だからといって離れすぎだと思うんだ……」


 少しだけと言っただけなのに、またしても陰で覗かれるくらいにまで距離を取られてしまった。悪い子じゃないというのは何となく分かる。だとしても、まるで掴みどころが分からないだけに、なかなか難しい相手としか見られない。


「んー……難しい」


「葛城さん……」


「はい?」


「付き合ってください……」


「ふぁっ? つ、付き合って? え、誰と?」


「葛城さんです」


 待て待て……何で突然告白されてますか? 数分の間に、好意を爆発的に上げた何かをしてしまった? いやいや、おかしい、おかしいぞ。


「返事は佐那に近づいてお願い……します」


「うーむむむ……近づくのはどれくらいの近さがいいのかな?」


「さっき……です」


「だ、だよねぇ……は、ははは……」


 断るのも断らないのも、近接が必要とか……引くに引けない恐ろしさがあるのは、気のせいだろうか。だ、誰か、ヘルプミー! 

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