元妹さんに惚れ直したのはナイショな日
傷心状態の俺を落ち着かせるために、三咲姉妹は俺を強引に引っ張って、彼女たちの本拠地でもあるカフェに連れて来た。大好きでたまらない彼女の堂々たる浮気宣言を目の当たりにした俺を、どうしてくれるというのか。
「まずは高久さん、気をしっかり持って聞いてください」
「モッテマス」
柴乃さんは糖入りのコーヒーを頼み、そのまま俺の所へ寄せて来た。思考力低下を糖分で補えということらしい。
「ふぅー……甘くて温かい」
「落ち着いた? 私はお店を手伝って来るから後は華乃と話をしてね」
そう言うと柴乃さんは席を立って、バタバタとお店の奥へと急いで行った。恐らくこの件に関しては、妹の華乃の方が詳しく話せると思ったのだろう。
「高久さん。単刀直入に聞きますけど、好きなままですか?」
「ん? 誰のことを?」
「もちろん、花城さんのことに決まってます! まさかわたしのことだと思いましたか?」
「ハハハ……ソンナコトナイヨー」
そう言いながらも華乃ちゃんの顔をまともに見られずに、思わず顔を背けていた。そもそも主語を抜かして、そんなことを単刀直入に聞いて来るのは狡いじゃないか。
「ぐあっ!? ちょっ、首を急に動かさないでー」
「どうして目を背けるんですか! わたしを見ながら話すのが怖いんですか?」
「怖いわけがないでしょ。何を言っているのかな、華乃ちゃんは」
顔を背けて首ごと左斜め下の床を眺めていただけなのに、華乃は俺の首をサラすべな両手を使って、無理やり正面に向けさせた。唐突にそんなことされると寝違え状態になるじゃないか。
「真面目に聞いてくれないと、解決方法見つかりませんよ! これでも元妹なんですから! 聞いてます? お兄さん!」
「は、はい。聞いていますとも!」
「あのですね、花城さんは高久さんのことが嫌いになったわけじゃないんです。今に至るまで何か高久さんに思い当たることがありますよね? それこそ去年の告白以降からのことになりますけど」
「えーと……あ、あります」
「それです! 自分で気づいているなら、それをしてはいかがですか? それをしたとしても、彼女は高久さんを嫌いにもならないし、むしろ成長の証として惚れ直すんじゃないでしょうか? わたしが言うのもおかしな話ですけど、高久さんはあまりに女子と接する経験が乏しいと思います」
グサッ――と、事実を元妹さんに言われると痛すぎて、無駄リアクションを取ってしまうじゃないか。
「あ、そういう演技は要らないです」
「デスヨネー」
相変わらず容赦なく厳しい子だ。
「つまり、親しい女子の友達を作ってもいいと?」
「そうですね。あ、でも、キスとかそういうのは駄目ですよ? 高久さん的に、花城さんが他の男子にされたら嫌だってことを、高久さんもしなければいいだけのことです。理解しました?」
「したよ。ありがとう、華乃」
「よ、呼び捨てって初めてじゃないですか? そういう不意打ちとか困ります……そういう無意識なことされると、好きになっちゃうじゃないですか」
「ほっほぅー!」
「奇声はやめてください」
「ハイ……」
華乃によると、ゆかりなさんに言われたことつまりは俺の成長要素を磨くことと、もっと女子のことを学べということらしく、それはずっと言われて来たことだったわけで。ゆかりなさん的に、何もしていない俺が腹立たしく思って、浮気のような行動を取っている……という推測らしい。
「あり得ないんですよ。花城さんが付き合っているって言っていた彼は、絶対そんなことしない人のはずなんです……そうじゃないと、踏ん切りがつけないし」
「ん? え?」
「と、とにかく、高久さんは花城さんから戻ってくる為に、努力を惜しまないで下さい。いいですね?」
「ハ、ハイッ!」
眼光の鋭さは、妹共通なのか。本気すぎて逆らうことすら出来ないぞ。逆らう気も無いけど。
「久しぶりに会えて嬉しかったです。以前よりも格好いい……と思ってしまいました。でも、泣き虫なのは直ってないんですね。まずはそれを直してください。そして花城さんを取り戻して、高久さんはもっと強くなってくださいね」
「分かったよ、ありがとう華乃」
「そ、そういう所、狡いです」
思えば去年の夏にこの子に別れのキスをされて、二度目の失恋も経験させてくれた。三咲姉妹は俺の成長を促す存在ということになるが、いつまでも彼女たちを頼っても仕方がない。
ゆかりなさんめ、今に見てろよ。俺のヨメ化計画を実現するためにやってやろうじゃないか。