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初恋のお姉さんと ③


 何とも嬉しい再会なのだろうか。仮の妹として数日は一緒に暮らしていた華乃と、塾の前で会えるなんてここは素直に気持ちを表さないとダメだろう。


「華乃ちゃん! 高久お兄様ですよ~」


 ギュッ


「え、え? お、お兄さん? あの、恥ずかしいです。そ、それに高久さんはお兄さんじゃなくなったんですよ? みんな見てますし、あの……落ち着いて下さい」


 そう言われることくらいは覚悟と予想はしていた。だとしても、抑えられない興奮(変な意味じゃない)と、感動(個人の見解)をどうしてもかつての妹であった華乃に示したかった。その光景を道行く人と塾帰りの連中に見られるのはやるせないが、とにかく嬉しいという気持ちが上回っていた。


「しょ、しょうがないお兄さんですね。そういう感情が無いにしても何だか嬉しく思えます」


 やはり兄と妹の感動の抱きしめ合いは何ともいえない感触だ。久しくそうした気持ちを上昇させることが無かっただけに、いつまでもこの子を抱きしめていたかった。しかし現実は余りにも厳しすぎた。


「――そういうことか。へぇ? それはそれは、随分と喜びに満ちていることですね? ねえ、葛城くん」


「ゆっ、ゆかりなさん!? な、何でここにいるの?」


「いたら何か問題でもあるわけ? 彼氏を迎えに来たんだけど?」


「えっ? 俺がここに来るのを分かっていたの? ど、どうして……」


「違うし。葛城くんじゃなくて、カレシはチヒロくん。ねっ、そうだよね?」


 ゆかりなさんはチヒロに目配せをして笑顔を見せている。対するチヒロも特に動揺することなく、頷いて見せた。な、なんだこれは? カレシって友達という意味だっただろうか。彼氏は俺であり、友達などではないはず。


「高久、あのな……俺と花城は――」


「聞こえないぞ! 俺はゆかりなの彼氏だ。ソイツを渡した覚えはないぞ! もしかして俺が弱いからって、喧嘩でも売りに来たのか?」


「いや、そうじゃなくて……」


「こら、ゆかりな! 俺に何か言い訳があるだろ? 何とか言いなさい! 何もこんな場所で仕掛けなくてもいいじゃないか! 俺だって売るつもりも無いのにそれはあんまりだぞ」


「彼女を目の前にしときながら他の女に抱きついていたあなたに言われたくないんだけど?」


「うぐぐ……」

 

 何も言い返せない自分である。このままでは涙を流しまくりながら生きていく運命が、自分を待ち受けている気がしてならない。しかし華乃に抱きつきをしていたのは事実。どうすれば解決に迎えるというのか。


「お久しぶりです、花城さん。私のことは覚えてますか?」


「三咲さんだよね? もちろん覚えてますよ。一緒に食べたりしたし、忘れないです」


「それは良かったです。それはいいんですけど、高久さんとどうして喧嘩をしているんですか? 私に抱きついていたことに腹を立てたのなら、それは誤解されていると思うんですけど……」


 どうやら新旧、いや旧旧妹たちによる口論でも勃発してしまうかと、ドキドキしてしまったがそうもならないようだ。


「うん、そうじゃないのは知ってるよ。三咲さんとのこととは別なの。それと、ここにいる彼、チヒロくんと付き合うのは本当。高久とは別れていないけどね。何も分かっていないのは高久だけなんだ。だから、喧嘩じゃ無くて……ごめんね、上手く言えない」


「つ、付き合うって、チヒロさんとですか?」


「――こ、こら、ゆかり――ふがっ?」

「高久くん、大人しくしていてね。あの子、花城さんは何かを隠してるっぽいんだよね。だけど、そのことに対してあそこにいる彼が付き合っている感じがするの。華乃は多分、許さないはずだし」


 初恋のお姉さんに口を塞がれているこの状況を何と表現すればいいのでしょう。何ともいい香りがお姉さんの手の平から漂って……などと思ってはいけない。


「むごごごご……柴乃さん、く、苦しいっす」


「うん、しばらくキミは出て行かないでね。妹たちを信じて待ってて。初恋の姉の言うことを聞いて欲しいな? 出来る?」


「ふぁ、ふぁい……」


 初恋のお姉さんこと、三咲柴乃さんに制されながらかつての妹二人による、何かの対決を黙って見守るしかなさそうだった。ゆかりなさんと別れたくない、それなのにますます沼に足を浸けまくっている気がしてならない。

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